長嶋激怒、フロント不信で勇退秒読み


 巨人・長嶋茂雄監督(65)の来季続投問題が、これからクライマックスを迎える。

 読売グループのスポーツ紙が、来季続投報道。通信社も追いかけ、一件落着の様相を呈してきたが、実はそうはいかない。

 続投報道の根拠としている、巨人軍最高経営会議の一員の日本テレビ・氏家斉一郎会長の言葉といえば−。

 「今回、改めて最高経営会議で決定したわけではないが、おととし、去年から『続投』という暗黙の了解がある。今、それを崩す必要はないだろう」

 「(V逸でも)かわらない。当人がやれるうちは、やってもらおうということだね」

 「たまたま別の用事があって、新聞社のワタツネ(渡辺オーナー)と電話した。その話(続投)もした」

 続投は渡辺オーナーも了解済みというわけだが、なぜ日本テレビ・氏家会長がスポークスマンなっているのか。渡辺オーナー自身は、徹底マークする報道陣に「追いかけてきてもしゃべらん」と怒りを爆発させている。

 両極端なツートップの言動。氏家会長と渡辺オーナーのタッグマッチがいよいよ始まったのだ。ここ数年、長嶋監督の続投問題が話題になる時期が来ると、両首脳は絶妙なタイミングで交互に発言。世論の動向、長嶋監督の胸中を探り、去就問題を決着させるのだ。

 今年もそうだ。巨人の自力Vが消滅した時点で、長嶋監督の続投問題に関して、「知らん」と渡辺オーナーが吐き捨てたことから、長嶋監督の去就問題に火が付いた。

 そして、今度は氏家会長が長嶋監督の続投を明言。タッグマッチでマッチポンプをする。いつものパターンだ。

 世論がどう反応するか。長嶋監督自身がどんな出方をするか。見極めた上で、渡辺オーナーが最高経営会議の総意という形で長嶋監督に続投を要請する。

 3年前の「長嶋監督勇退、森新監督誕生」という空前絶後の大騒動に懲りた渡辺オーナーとすれば、こういう形でしか一件落着させられないのだろう。

 というのも、こういう形式で最高経営会議が続投要請しておけば、万が一、長嶋監督が勇退を申し出ても、「本人の意思でわれわれの責任ではない」と釈明できる。

 そうでなければ、長嶋監督が勇退したら、渡辺オーナーは返り血をモロに浴びて、世間から大バッシングされてしまう。

 読売グループ首脳のシナリオでは、今回の氏家会長の続投発言を受け、タイミングを見計らい、渡辺オーナーが直々に長嶋監督に要請することになるが、今年は簡単にはいかない。

 「時期がきたらお話しします」としか、続投問題に関して答えなかったように、長嶋監督は即断即決できる状況にないからだ。

 6年ぶりの日本一を達成した瞬間から「リーグ連覇のキーマンはメジャーの大物ストッパー獲得」と、最重要ポイント補強を要求したのに、フロントが動かず。シーズン途中に、しかも名もない新外国人投手獲得というおざなり補強が、リーグ連覇は奇跡頼みしかない現状をもたらしている。

 長嶋監督の要求通りにフロントが手を打っていたら、今ごろ独走していただろう。新外国人問題だけではない。何かにつけて非協力的なフロント首脳に長嶋監督の怒りは頂点に達している。

 今秋のドラフトに関して、“新世紀の怪腕”といわれる日南学園の寺原隼人を絶賛しているのも、フロント首脳への不信感の表れだ。

 自由枠で確実に取れる選手最優先。指名が競合してクジ引きになるのを恐れ、寺原獲りへ腰を引いているフロントの補強姿勢への痛烈な批判なのだ。

 渡辺オーナーがフロント刷新という条件を出さない限り、長嶋監督の勇退の可能性は消えない。続投問題は、いよいよこれからがクライマックスだ。

[夕刊フジ2001年08月15日]