ダイエー・王監督がリーグ3連覇を花道に勇退という、重大決意を胸に秘めている。
「今年も優勝して3連覇となれば、一区切りしたという達成感はあるだろうね」と、胸中を告白。リーグ3連覇が一区切りなるという考えを初めて明かしたのだ。
「今年が一番、大事なんだよ。今年も優勝できれば、4連覇、5連覇できる。本当の常勝チームができるんだ」
こうも語っており、3連覇の重要性を強調する。常勝チームの土台作りを完成すれば、勇退を視野に入れているからだ。
万年Bクラス球団を常勝軍団に作り替えたというだけでなく、地元から圧倒的に支持される人気チームにしたという自負もある。
ついに巨人戦のテレビ視聴率が10%台まで下がり、危機的状況にあるが、福岡ではプロ野球人気低迷など、どこにも見当たらない。それどころか、別世界のように、異様に盛り上がっている。
連日、4万人を超えるファンが福岡ドームに押し寄せ、ダイエー人気は爆発的だ。リーグ連覇した昨年、278万6000人という、球団の観客動員新記録を達成したばかりだが、今季はそれを上回るのは確実視されている。
200万人到達が昨年より5試合も早いペースで、球団史上初の300万人突破が夢でなく、現実味を帯びてきているのだ。
「巨人を追い抜いて、ダイエーが観客動員ナンバーワン球団になる日も近いのでは−」という声が、球界幹部から出ているほどだ。
「ウチの営業は努力している」と、王監督はフロントを立てるが、リーグ3連覇を目指している、勝てるチームを作った王監督の功績だ。
フロントの営業努力だけでファンが球場に来るなら、広島など連日、満員にならなければおかしい。広島近県のファンを動員しようと、JRと一体になってパック観戦サービスを展開するなど、血眼の企業努力をしている。それでも、観客動員は低迷したままで、四苦八苦の現実だ。
「ウチはこんなすごい企業努力をして観客動員を飛躍的に伸ばした」と、ノー天気なフロント首脳が得意げにノウ・ハウを吹聴して歩いているが、冗談ではない。
すべてが王監督のおかげだ。地元ファン開拓までやっている。福岡へ単身赴任して7年目。気取らない人柄の王監督らしく、高級料亭やかっぽうなどでなく、地元の人が気軽に行く、居酒屋を行きつけの店にしている。そこで、サインを頼まれれば、嫌な顔一つせずに、笑顔で応じる。
サインをもらった人が、「これからも王さんを応援しますから、頑張ってください」と、熱烈な王監督ファンになるのは人情だろう。
大阪の球団、南海ホークスが神戸を本社の拠点とするダイエーに買われ、福岡移転したために、地元から強烈な拒否反応があった。それを解消したのも、世界の王なのだ。
王人気をねたむアンチ王のフロント首脳に足を引っ張られながら、7年かけて実力、人気両面でダイエーホークスを全国区で一流にした功績を残し、堂々と勇退をする。王監督の胸のうちにそんな思いがあっても当然だろう。
ただ1つ、3連覇して勇退となれば、王監督が無念なのは、巨人・長嶋監督に雪辱できないことだろう。
いくら長嶋監督が、「ミラクル・アゲイン」と叫んでも、巨人の優勝は絶望的だ。
「日本シリーズで、どうしても長嶋さんにはお返ししたい」という王監督の思いは半端ではない。世界の王でありながら、現役時代に常にナンバーツーの座に甘んじさせられた王監督とすれば、シリーズで敗れたままでは納得できないだろう。
それだけに、長嶋監督が来季も続投となれば、シリーズ雪辱の一念で、王監督も勇退を思いとどまる可能性はある。長嶋監督が王監督の去就のキーマンになる。
[夕刊フジ2001年08月08日]