それでも「ONシリーズ・アゲイン」へネバーギブアップ宣言。絶体絶命の窮地に立たされている巨人・長嶋監督が、ダイエー・王監督に熱烈エールを送った。
ともに開幕前は全くノーマークだった、ヤクルト、近鉄という、万馬券のダークホースの快進撃の前に、絶命寸前の巨人と、青息吐息のダイエー。
ところが、長嶋監督、王監督の反応となると、まさに両極端だ。リーグ3連覇に自信満々だった王監督は、ここへきて危機感をみなぎらせている。親しい関係者にもこう本音をもらす。
「優勝? 正直言ってわからないよ。9月まで今のように近鉄、西武と三つ巴の戦いでいければ、何とかなるだろうが−」
これまでの「最後に笑うのはウチ」という自信はどこにも見当たらない。
「近鉄は主砲のローズと中村が競い合ってホームランを打っているから、チームの勢いが止まらない。西武も投手力がいいからね」
ライバル2チームに置いていかれずに9月まで何とかしのげれば、3連覇が見えて来るという慎重論だ。
「今年もONシリーズをぜひやりたい。そして、長嶋監督にお返ししたい」と言っていた王監督だが、一気にトーンダウン。まさか長嶋巨人のリーグ連覇が絶望的になったためではあるまいが−。
そんな慎重な王監督の言葉を伝え聞いた長嶋監督は、大声でゲキを飛ばした。
「何を言っているの、ワンちゃんは! そんな弱気でどうするの」と、強烈なシリ叩きだ。
王ダイエーの心配をするような立場にないはずの長嶋監督だが、こう力説する。
「オレなんか、テレビカメラの前で、『まだひと山どころか、三山ある』と、言っているんだから。ウソじゃないですよ。見ててください、8月末から9月初めには大逆転していますから」
弱気な? 王監督に激烈なハッパをかけると同時に、「8月大攻勢」「9月ヤクルト転落」という長嶋予言を改めて強烈アピールするのだ。
「ミラクル・アゲイン」は、長嶋監督にとって、イコール「ONシリーズアゲイン」となるわけだ。
「ミスターの立場からすれば、『もうダメだ』とは絶対に言えないからな。でも、巨人の連中を見ていると、あきらめているようだな」と、V9巨人時代の同僚だった横浜・黒江ヘッドコーチは冷静に分析する。
と言いながらも、自らのチームのことになると、ゲンかつぎするのが、勝負の世界の面白さ。
「実はこれをしてから、7勝1敗なんだよ」と、5日の巨人戦(横浜スタジアム)の試合前に見せたのが、約20万円するという指輪だ。
「去年、ダイエーがリーグ連覇した記念の指輪なんだ。オールスターのころに出来上がってきて、これをしたら、勝ち続けてね。外せなくなったよ」
突然の快進撃で、長嶋巨人に「振り向けば横浜」とあわてさせているが、実は、ダイエーV2記念指輪の御利益だというのだ。ダイエー助監督時代の勲章ともいえる。
「その指輪で、黒江さんが王さんのツキまで奪ってしまったのでは−」という球界関係者の言葉を黒江ヘッドコーチは笑顔で受け流したが、まんざらでもなさそう。
信じる者は救われる。今年もONシリーズ実現を熱望している、長嶋巨人、王ダイエーファンは、最後の最後まで奇跡を、長嶋監督の言葉を信じるしかない。
[夕刊フジ2001年08月06日]