ヒネった左足首の状態が不安視されている巨人・松井に対し、足元から追い打ち? の3冠王絶望宣告。何と長嶋監督が4年目の高橋由伸の首位打者に太鼓判を押したのだ。
「今年の高橋はいいですよ。ヒットを打つことなら、松井よりも上だ。3割4、5分は打つでしょう。当然、首位打者をとるでしょう」
長嶋監督はこう断言する。
日頃から「高橋は天才です。4番を打たせても平然とこなすし、バッティングに関しては言うことがない」と絶賛しているが、これまでの高橋はタイトルとは無縁だ。
1年目に3割ジャスト。2年目には3割1分5厘打ったが、終盤の中日戦で右鎖骨を骨折。その後遺症があり、3年目の昨年は2割8分9厘に終わっている。
ルーキーイヤーから3年間、守備の方でゴールデングラブ賞を獲得。2年目にベストナインに選出されているが、打者としての勲章はない。
ところが、4年目の今年、長嶋監督が「3割4、5分で首位打者」というお墨付きを与えたのだ。
となると、昭和60、61年の阪神・バース、ロッテ・落合以来、巨人史上では48、49年の世界の王以来という、松井の3冠王に対しては絶望宣告となる。8日の広島戦(広島球場)で左足首を痛め、不安発生の松井にとって追い打ちともいえる長嶋発言だが、真意は−。
「松井の3冠? 松井と高橋の2人、つまりチームで3冠王を取ればいいんです」と、長嶋監督は言い切る。
ONコンビが3冠を独占した巨人黄金時代の再現を夢見ているのだ。昭和38年、長嶋監督が3割4分1厘で首位打者、112打点で打点王の2冠、世界の王が40本でホームラン王になったのがONタイトル独占の始まりだ。
41年にはNが首位打者、Oはホームラン、打点の2冠王。昭和43年から45年の3年間も、Oが首位打者、ホームラン王の2冠、Nは打点王を守り続けている。
昭和46年はNが首位打者、Oはホームラン、打点王の2冠王になり、最終的に6回もONがタイトルを独占、ON時代という歴史を作り上げたのだ。
「新世紀に第4期黄金時代を築く」使命を背負わされている長嶋監督とすれば、松井、高橋由のコンビを史上最強といわれるONコンビの再来にしたい強い願望があるのだろう。
松井は3年前の平成11年と昨年、ホームラン王、打点王の2冠を2度獲得している。今季は、「3冠王よりも王さんのホームラン記録(55本)を破りたい」と宣言している。
昭和39年に世界の王が作ったシーズン最高の55本塁打を超えることを最大の目標にしているのだ。
それだけに、長嶋監督の「3割4分で首位打者は高橋」というお墨付きは、実際のところ、さほどショッキングではないだろう。
高橋由が初めてタイトルを獲得すれば、ライバル意識が高まり、ハイレベルの争いになる。
「ワンちゃんあってのオレ。オレあってのワンちゃん。ONコンビだから、身内で競い合って2人はあそこまでやれた」と公言する長嶋監督。
キャンプで『内なる戦い』、オープン戦では『さらなる戦い』、そして、公式戦でも『限りなき戦い』を打ち出しているが、松井と高橋由の『限りなき戦い』が最大の眼目だろう。
高橋への「首位打者獲得」太鼓判発言も2人のライバル意識をさらにあおる狙いが見え隠れする。
[夕刊フジ2001年04月10日]