FA川崎憲次郎投手の星野中日入りに巨人首脳陣が泣き笑い。17日、川崎は神宮球場に隣接するヤクルトのクラブハウスで記者会見。中日入りを表明したが、巨人の長嶋茂雄監督、渡辺恒雄オーナーという現場、背広組最高首脳の心境は好対照? というのも、厄介な損得勘定が−。
川崎の星野中日入りのニュースに、ハワイV旅行中の長嶋監督は、平然としたポーズを装った。
「セ・リーグが盛り上がっていいんじゃないですか。新たな戦いが始まる。ヤクルトは一人投手がいなくなったということです」
こう口にしたが、川崎の星野中日入りは長嶋監督にとって大誤算だ。
「川崎はヤクルト残留ですよ」と、対巨人戦現役最多勝利の川崎は、ヤクルト残留と決め込んでいたからだ。
今季も5勝を許すなど川崎にやられ放題。ヤクルトに唯一負け越したのも当然だろう。そんな天敵がFA宣言したら、真っ先に手を上げるのがこれまでの長嶋巨人のパターンだったが、昨年の工藤公康&江藤智のFAコンビダブル獲得が悪評ふんぷん。
「優勝を金で買った」と世間からたたかれ、巨人ファンからさえも、「もうFA選手はいらない」という拒否反応が出ている。これで巨人キラーの川崎でも獲ろうものなら、アンチ巨人ファンが暴動でも起こしかねない。
それでもヤクルト残留なら、今季同様にペナント争いの行方を左右するほどのことはないと読んでいたのだ。
ところが、よりによって最大のライバルの星野中日入りだ。戦力的にはもちろんだが、士気を高めてしまったのが大きい。
「やっとという感じ。長かった。昨年の失敗(工藤と江藤を巨人に奪われた)があったから、最後まで不安があった」と、佐藤毅球団社長が認めるように昨年の二の舞いに戦々恐々としていたのが一転してお祭り騒ぎ。星野仙一監督など舞い上がっている。
「久しぶりに補強ができた。川崎とは、異様なまでの打倒巨人という共通点がある。巨人を一緒に倒したいといわれ、グッときた。他の投手への相乗効果もあるだろう」
すでに打倒・巨人を果たしたようなハシャぎぶり。ここまでなら、長嶋巨人真っ青で終わりなのだが、川崎がヤクルトからいなくなるメリットもある。
長嶋監督は「ヤクルトから投手が一人いなくなったということ」で済ませたが、渡辺オーナーにすれば、喝采を叫びたい一面もあるからだ。
「ブルジョアがストなんてしたら、冗談ではない。古田君はファンに殺されるよ」とドッキリ発言したように、労組・選手会の会長の古田敦也捕手(ヤクルト)を目の敵にしている。渡辺オーナーvs古田の遺恨戦ぼっ発だ。
そんな状況下で、巨人キラーの川崎がいなくなれば、いくら巨人戦で存在価値を強烈アピールする古田でも腕のふるいようがなくなるから、万々歳となる。
結果は見てのお楽しみだが、さて、中日・川崎が巨人にいったい、どんな損得勘定をもたらすのか。直接対決の中日vs巨人だけでなく、ヤクルトvs巨人も見逃せない。
[夕刊フジ2000年12月18日]