【巨人6―0ダイエー】胸に秘めていた気迫、気合、そして闘争心がスパークした。右中間席中段への巨大なアーチ。高橋由が、日本一へと伸びる夢の橋をかけた。
「完ぺきでした。どうしても打ちたかった。これまで打てなくて、チームに迷惑をかけてきたから」
甘いマスクに、笑みはない。“天才”のプライドと意地をかけた一打は、先頭打者として打席に入った二回、若田部のカウント1―2からの4球目。フォークだ! 狙っていた獲物が、わなに飛び込んできた。
敵のウイニングショットを待っていた。シリーズ第1戦の一回に回ってきた第1打席。マウンド上には、若田部がいた。カウント2―1からのフォークを空振り三振。屈辱の“開幕”が初の日本シリーズの出鼻をくじく。1、2戦では9打数無安打とバットは湿り、チームの連敗スタートの元凶となった。
あの時の投球の軌道は、忘れはしない。真ん中に入るフォークを今度はドンピシャのフルスイング。第3戦に続くシリーズ第2号のソロホーマーだ。八回二死二、三塁では、日本一へ王手をかける右前2点適時打と、波に乗るチームを一段と加速させた。
第3戦こそ9点を奪ったが、この試合まで17打数4安打の高橋をはじめ、ダイエー投手陣を打ちあぐんだ自慢のミレニアム打線。第4戦終了後の前夜(26日)、チーム宿舎で行われた首脳陣のミーティングの席上だった。「打撃陣が不甲斐なくて申し訳ない。あした(第5戦)は、必ず打って投手陣を楽にするから」。攻撃面を統括する原ヘッドコーチが、鹿取、水野両投手コーチに頭を下げた。
そんな熱い思いが、選手らにも伝わる。プレーボール直前、高橋は第4戦まで13打数5安打とノッている清原に、「気合やで!」と激しく檄(げき)を飛ばされた。燃え上がるベンチのムードに後押しされての、2安打3打点。高橋の一発が起爆剤となり、五回には江藤、七回には村田真と合計3発。眠っていた200発打線に火が点けば、もう怖いものなしだ。
「気合です。気合で打ちました。とにかく、勝ちたいんです」
高橋が吠える。チーム3勝のうち2勝につながる2ホーマーは、一躍MVP候補へ。日本一へ、MVPへ、一気に突っ走る。
[サンケイスポーツ2000年10月28日]