渡辺正はリストラ中年の星だ!



 2勝2敗のタイに戻されたダイエー・王監督に追いつかれた焦りはなかった。それというのも、中継ぎ左腕の渡辺正と吉田修の存在があるからだ。その中でも渡辺正のがんばりは、尾花コーチが「野手の前にフライが上がるのは、手元でボールが伸びている証拠」というほどの出来。

 入団した当時から故障のデパートといわれた渡辺正は、筑波大当時、巨人が盛んに声をかけてくれた。だが、東京ガスに入社してヒジを痛めると、見向きもしなくなった。その間、治療法を含めていろいろと面倒を見てくれたのがダイエーだった。「あのヒジではプロでは無理だろう」という中、平成4年にダイエーがドラフト5位で指名。

 あれから8年。当時の恩人、根本球団社長は今はいない。同じ佐賀出身の愚痴の聞き役だった藤井将雄さんの姿もない。1人、2人と仲間や恩人がいなくなる中で「野球ができる喜び」を肌で知った。「ボクが投げて、ゲームを壊したくない」と言った渡辺正は3試合に登板。5回を投げ打者17人で安打はわずかに1本。無失点でキチンと仕事をやり遂げている。

 「ボクを見向きもしなかった巨人には特別な思いがある」とは言うものの、渡辺正には力みはない。ナインからから「ナベジイ」といわれる男は力を抜いて投げるコツを覚えた」ことで、一皮むけたというのだ。毎年オフになると、トレード要員に名前が挙がることへの不安があった。だが、今年はそれがないだけでも、余裕につながっているという。

 「リストラの危機に常にある中年サラリーマンだって何かキッカケをつかめば、十分に戦力になるんだ」ということを渡辺正は自分のピッチングで示したい、と言っていた。

 「疲れなんて巨人を相手に投げられる喜びを考えたら目じゃない。だって、ボクは昨年の日本シリーズはスタンドにいたのですから」と残る試合での連投を誓っていた。こういう滅私奉公ができる“がけっぷちの星”がいるからこそ、王監督の言う「先発が崩れてもゲームを壊さないでいける」という自信にもつながっていく。年俸750万円の男は今夜も40億円軍団に挑む。

[夕刊フジ2000年10月27日]