【巨人2―1ダイエー】高笑いが、敵地・福岡ドームに響き渡った。猛威をふるってきたダイエー打線を、ベテランの右腕が斬り捨てる。35歳、斎藤雅、ここにありだ。
「接戦になって緊張感が途切れなかった。これ以上ないピッチングです」
自画自賛の快投だった。一回、ニエベスに一発を浴びた。その後は寄せ付けない。MAXは139キロ。往年のスピードはないものの、カーブ、シュートが冴え渡る。七回二死まで4安打1失点に抑えての勝ち投手。平成元年、近鉄相手の日本シリーズ第5戦以来、実に12年ぶりのシリーズ2勝目を勝ち取った。
「今季の最後のマウンド」と意を決して臨んだ第4戦先発だったが、マウンドに向かう足が震えた。ここ福岡ドームには、悪夢が付きまとう。平成5年の横浜戦では右肩を痛め、今年3月のオープン戦では、左ふくらはぎを肉離れし、今季前半戦を棒に振った。
そんな斎藤の気持ちを奮い立たせたのが、この日のために作ったスパイクシューズだった。
運動具メーカー、アシックス社製。実はシドニー五輪女子マラソンで優勝した高橋尚子のシューズを作った同社シューズ事業部特注課の三村仁司さんに、製作を依頼したもの。投球後、左方向に重心が傾きがちになるクセを矯正するなど、すべて斎藤に合わせて手作りされた。まさに“金メダルモデル”スパイクで大一番を制した。
「これで、御役御免でしょう、ハハハ」
今季最後の登板で、大仕事を成し遂げた斎藤が安堵の笑みを浮かべる。あとはチームの日本一を見届けるだけだ。
○…巨人・斎藤雅が、平成元年の近鉄第5戦に完投勝利を飾って以来、11年ぶりのシリーズ勝利投手。
公式戦通算178勝している斎藤雅も、シリーズでは2勝目。昨年まで1勝3敗、防御率5・94と悪かった。
[サンケイスポーツ2000年10月27日]