世紀のONシリーズで、大方の評論家の予想を覆し、2勝1敗と優位に立つダイエー・王監督。ところが、それでもくすぶり続ける水面下での勇退情報。その根拠とは−。
ダイエー関係者が衝撃的な情報を口にする。
「黒江助監督の横浜入りだけでなく、まさかの尾花投手コーチの阪神入りがささやかれているんですよ」
何と王監督にとって腹心二人のコーチのダブル退団説が、チーム内でも話題になっているというのだ。
黒江助監督の横浜入りはすでに既定の事実扱いになっている。西武時代にヘッドコーチとして支えた、親交のある森新監督からの誘いであり、黒江助監督のダイエー内での立場もあるからだ。事情に詳しい巨人OBが内幕を明かす。
「去年も日本一になりながら、黒江助監督は球団側から解任されそうになった。王監督が猛烈に反対してようやく留任になったいきさつがある。今年、連続日本一になったところで、球団側の黒江助監督に対する評価が変わるわけではない。本社が大赤字だから、年俸も上がらないだろう。そこへ横浜が森新監督と同じ3年契約を提示すれば、王監督としても引き留められないだろう」
確かにそんな事情があれば、王監督としても慰留できないだろう。いくら王監督が参謀として黒江助監督を評価しても、球団側の態度が変わらなければ、話にならない。
一般企業でいえば、ヘッドハンティング。しかも倒産の危機の会社から健全経営の社へ移るようなもの。いわば、栄転なのだから、引き留めようがない。しかも、「ワンちゃんを優勝させるために来た」という黒江助監督にすれば、務めは果たしている。
リーグ連覇のときに王監督に次いで胴上げされたのも、「めいどの土産に胴上げしてくれ」という、黒江助監督のナインへの強い要望によるものだ。
すでにケジメをつけた格好だ。王監督とすれば、気持ちよく送り出してやるしかないだろう。だが、尾花投手コーチの場合はいささか事情が違う。いくらヤクルト時代の野村ID野球の門下生とはいえ、阪神に行ったところで、野村監督は来年で契約切れ。1年で進退を共にしなければいけなくなる。
それなら、何もわざわざダイエーを出る必要がない。王監督としても、尾花コーチまで手放すことはできないだろう。
ONシリーズでも見せつけている、渡辺正、吉田の強力中継ぎ左腕コンビから抑えのペトラザへの勝利の方程式。これも尾花コーチがいなければ、成り立たない。
昨年は武田、今年も工藤とエースがFA移籍しながら、2年連続リーグ優勝。悲願のONシリーズを実現させたのも、尾花コーチ抜きでは語れないだろう。
当初は「ナンチャッテID」と冷笑していた現場、フロント関係者も、その手腕を今は認めざるを得ない。
そんな尾花コーチの阪神入りは本当にあるのか。一度あったウワサは立ち消えになったはずなのだ。シリーズ休みの24日、阪神は来季のスタッフを発表したが、投手コーチは八木沢コーチの留任になっている。
が、シリーズ後に大逆転人事のある可能性は否定できない。「万が一、尾花コーチが阪神入りするようなら、王監督もウチを退団するのでは」という、ダイエー関係者の観測は説得力がある。
ONシリーズの行方と同様に、尾花コーチの去就からも目を離せない。
[夕刊フジ2000年10月26日]