シリーズの裏で早くも長嶋vs森が火花



 話題独占中のONシリーズの番外戦ともいうべきか。来季のセ・リーグの看板カードになる新遺恨戦、長嶋巨人vs森横浜の前哨戦が早くも始まっている。すさまじい暗闘ぶりを暴く。

 ONシリーズを舞台とした長嶋巨人vs森横浜の火花はあちこちで飛び散っている。シリーズ第3戦(福岡ドーム)、来季の横浜・森内閣入りが決定している高木豊氏が解説者として、巨人ベンチを訪れ、工藤と顔を合わせた。

 同行した、放送関係者が「森さんのことは工藤さんが一番よく知っているから、いろいろ教えてもらえば」と言うと、工藤が間髪入れずに応じた。

 「任せておいてね。森さんのことなら、何でも教えてあげるから」と、胸を張ったのだ。

 王ダイエーをだれよりも知る男として、ONシリーズのキーマンといわれながら開幕戦は勝てず、2度目の登板に雪辱を期す工藤。常勝・森西武時代のエースだっただけに、来季の森横浜との戦いの切り札にもなると、自ら宣言したも同然だ。

 工藤の迫力に高木氏の方は「よろしく」と、短く答えただけだった。

 興味津々の駆け引きは、長嶋監督vsダイエー・黒江助監督の間でも行われている。「ONシリーズといわれているが、本当はオレも入れてONKシリーズだ」と、報道陣にPRして回っている黒江助監督は、積極的に長嶋監督にアプローチ。ツーショットを撮られたがっている。

 本家本元のKこと400勝投手の金田正一氏が現れたときにも、「こちらは昔のK、今のKはオレの方」とうそぶくほど。

 ところが、この黒江助監督の売り込み作戦は、全く違った意味合いもある。ONシリーズ終了後、黒江助監督は、森横浜からヘッドコーチとして招請されることになっているからだ。

 来季、横浜・森監督の参謀として声を掛けられる黒江助監督という立場を考えれば、長嶋監督とのツーショットは全く違った意味を持ってくる。

 「球界全体に情報網はある」と豪語、NCIAを自慢する長嶋監督だけに、横浜の動きはすべて把握済みだ。

 お互い笑顔で歓談しながら、その実、腹の探り合い。大人の世界の戦いだ。

 長嶋巨人vs森横浜のもう一人の主役・森氏は完全に来季の激突モードに入っている。

 NHKの解説者、スポーツ紙の評論家として、ONシリーズに密着しているが、長嶋巨人への意識はすさまじい。放送関係者がこう証言する。

 「NHKでは平成6年の長嶋巨人対森西武の日本シリーズの話はタブーになっています。この話題になると、森さんが話をしなくなってしまうからです」

 巨人監督に復帰して2年目の長嶋監督が、森監督率いる西武を4勝2敗で下し、初めて日本一になったシリーズだ。

 長嶋監督に敗れたという屈辱だけではない。このシリーズでは、東京ドームの電光掲示板に「西武・森監督、シリーズ後に辞任」というニュースが流れる、ショッキングな事件が起きたのだ。そして、シリーズ後に森監督は退団している。

 森監督にすれば、忌まわしい悪夢でしかないだろう。だからこそ平成6年のシリーズの話題はタブーなのだ。来季は、そのとき以来の長嶋監督との戦いになる。雪辱に執念を燃やすのは当然だろう。ONシリーズでの長嶋巨人vs森横浜の前哨戦が燃え上がるのも、これまた不思議ではない。

[夕刊フジ2000年10月25日]