ダイエー、ぜ〜んぜん痛くない敗戦



 「3点を追いついた後で、4点だからネ。あれで攻撃の気力がなえてしまったのではないかな。まあ、2勝1敗をよしとするか」

 ダイエーの王監督は、またも三回までもたなかった先発投手陣の出来を悔いた。「3敗までできると言って臨んだ試合前だったが、負け試合の中で、いかに次の試合の材料を見つけ出せるのかが日本シリーズの戦い方だ」と言っていたのは、シリーズで勝率9割以上を誇る横浜の監督に就任した森祇晶氏だった。

 「三回に2点だったらまだしも、4点になったからネ。次のことも考えた」

 昨年の日本一の経験により、王監督はジタバタあわてなかった。連戦で疲労のたまっていた小久保、秋山を外したのもそんな理由からだった。

 勝ちパターンの中継ぎ投手を休ませるためにも、星野、篠原、斉藤和を慣らし運転させている。尾花投手コーチは「それぞれにテーマを持たせて投げさせた」と、次に役立つための起用であることを説明している。

 星野には追い込んでからの変化球でいかにかわせるか、篠原は内角のストレートでいかに抑えられるか、斉藤和はストレートで空振りをいかにとれるかというテーマを持ってのマウンドを指示したのだ。その中で「あのストレートは十分に通用する」と王監督が評価したのが、斉藤和。

 「ひとまわりを完ぺきに抑えられたのは立派なもの。4イニング目になったので、データを試すためにも、全部ストレート勝負をさせて松井さんに本塁打を打たれちゃって、星野さんに悪いことをしてしまった」と、城島は負け試合での、巨人攻めについてこう言っていた。「星野さんに悪いことをした」と口では言っていたが、顔は少しも悪いと思う表情をしていなかったのだ。

 昨年、中日との日本シリーズ前に、工藤(現巨人)はバッテリーミーティングで「日本シリーズはいかにして4つ勝つかの戦い。4つ勝つために、だれかが犠牲になることも必要」と言ったことを、この夜の城島は思いだしたというのだ。だからノルマを達成した後でのストレート配球は、データを試すためのものであった。

 「城島はこちらの意図を理解してくれたネ」と黒江助監督が言えば、「今日の敗戦を生かすも殺すも、第4戦の結果次第なんだ」と王監督は言う。「負け試合をいかに上手に生かすか」を考えてのダイエーの敗戦。この1敗は痛くも、かゆくもないもののようだ。

[夕刊フジ2000年10月24日]