巨人・上原浩治投手(25)が、23日の日本シリーズ第3戦(福岡ドーム)に先発し、チームの連敗をとめる殊勲の白星をあげた。今季は、相次ぐ故障、スッチーとの交際発覚、人身事故と踏んだりけったりで、成績も不振だった上原の復活劇。その裏には、夕刊フジだけが知る、ある秘密があった。
8回3失点の好投で、日本シリーズ初登板初勝利を飾った上原は試合後、「もう1回(登板の)チャンスが欲しい。まだ借りは返してませんから」と口元を引き締めた。久々に見せた上原の強気コメント。
それも無理はない。今季、上原が受けた屈辱は並大抵のものでなかったからだ。
スッチーとの交際発覚に伴う人身事故。謹慎期間中には巨人寮周辺で、けつまづいて転倒、この時に足の小指をねんざして復帰が遅れるというみっともなさ。成績も、昨年の20勝4敗から、今季は9勝7敗と、2年目のジンクスにどっぷり漬かった。当然、表情は曇りがちで、口の重いシーズンを過ごした。
ところが、日本シリーズを直前にして、上原は日に日に明るく、おしゃべりになって周囲を驚かせた。いったい何があったのか。
実は、日本シリーズ開幕直前の18日、東京ドームでの練習中に、ドームを訪れた知人から「お守りに」と手渡されたモノがあった。
それは、大リーグ入り志望を公言してはばからない上原が尊敬する、現役最多勝利の本格派投手、ロジャー・クレメンス(ヤンキース)の直筆サインボールだった。「いい物をもらいました」と、この時から上原の目が輝きだした。
くしくも、上原が登板したこの日、日本時間の午前9時から米ニューヨークで行われたワールドシリーズ第2戦に、クレメンスが先発。8回2安打無失点の力投を演じ、勝利投手になった。
上原はクレメンスのサインボールを握りしめて、この試合をテレビ観戦していた。そして、あるシーンを見て、大きな刺激を受けた。
クレメンスは、メッツのピアザ捕手の折れたバットの破片が足元に転がってきたとき、なんと破片をつかんでピアザの方へ投げ返し、両軍選手が一触即発の雰囲気でにらみ合ったシーンだ。まさにケンカ投法だ。上原に強気の気持ちが宿った、まさに瞬間だった。
序盤こそ、初の日本シリーズの先発、久々のビッグゲームで弱気のムシが顔をのぞかせたが、そのたびにクレメンスの魂を呼び起こし、強気のピッチングをすることを自分に科した。その結果、三回から八回までゼロ封。長嶋監督にシリーズ初白星を贈ることができた。
また、上原復活には西武の松坂も一役買っていた。
人身事故を起こしたことで「チヤホヤされて自分を見失っている」などと批判を一身に浴びた。「あっちはエリート、僕は雑草」と、プロ1年目から強烈なライバル意識を燃やしてきた5歳年下の松坂(西武)との差が広がってしまった、とも感じたことだろう。
そんな中、松坂が女性スキャンダル、無免許運転発覚、身代わり出頭要請疑惑に見舞われ、世間の逆風がそちらに向いたことには、思わずほっとさせられた。
実際、上原は松坂事件について「松坂君は、最多勝を取ったし、今年も野球で結果を残してます。そこが、“普通のヤツ”と違うところですよ。免停中に運転してしまうあたり、やはり怪物じゃないですか」と、強烈な皮肉を交えて論評している。
もつれれば、最終第7戦(29日=東京ドーム)に先発する。チームが絶体絶命の状況となれば、抑えとして緊急登板も十分ありうる。上原は日本シリーズで一気に名誉ばん回する。
[夕刊フジ2000年10月24日]