沈黙の王、「主役は選手」



 ON決戦といっても、試合をやるのは当然選手。ダイエー・王監督は本番前日を迎えて、自ら主役の座を降りた。19日には“ON舌戦”の場となる監督会議が開かれたが、王監督は一言も発しなかった。

 これは王監督が、発言を派手に取り上げられるのを防ぐため、意識的に行ったことだった。「あんなところで何か言い合うなんて、ピラニアの群れにエサを投げ込んでやるようなもの。これで監督ものの1面はパーだな」と王監督は、遺恨ムードをつくりたかったマスコミに肩すかしを食らわせニンマリ。

 長嶋監督も同調し、2人の連係ぶりを自画自賛していた。

 そして、いよいよ第1戦を迎える。戦力で圧倒する巨人の強さばかりが評価される中、王監督はひそかに勝算を得ている。それは選手一人ひとりが持っている自信。「みんな全然緊張していないんだよな。去年もそうだったけど、普通に日頃の力を出してくれそうなんだ」。だからこそリップサービスをやめ、選手を前面に出すことにしたのだ。

 「打つ方でスーパーヒーローが出てくれないかな。このシリーズで4本ホームラン打つのが3人出ればな。いや、4本、3本、2本を1人ずつでいい」と王監督。一見冗談のようだが、小久保、松中、城島、秋山、吉永、井口、ニエベスなど長打系の素材はそろっており、実は無理な話ではない。

 昨年も王監督は、中日有利の声に「なあに、ウチの選手がフツーにやれば勝てるよ」と根拠のない自信を見せ、事実4勝1敗で圧勝した。今回も「すべての準備、体制は整った。あとは選手が普通に伸び伸びとやってくれればいい」と同様の手ごたえを感じている。王監督が望んでいる通り、自分の存在感を吹き飛ばすようなシリーズ男が現れれば、勝利は王ダイエーのものになるはず。

[夕刊フジ2000年10月21日]