「プレーをするのはオレたちだ」。巨人の松井と江藤が、監督主導の日本シリーズから、主役の座奪還を宣言した。
目標にしていた3冠王こそ実現しなかったが、42本塁打、108打点で、セ界の2冠に輝いた松井。シリーズでも松井らしい豪快なアーチが期待される。
「ホームランが打てればそれに越したことはないけどチームが勝てればいい。負ければ不完全燃焼になる」と、松井は優等生発言で、平静を強調する。
だが、シリーズが「ON対決」と、監督ばかりがクローズアップされていることに触れるや、笑顔が消え、表情が一変した。
「2人ともそれはもう、野球界のスーパースターだから当然だけど、監督同士の対決のことは、選手にとっては関係ない」と、不快感をあらわにしたのだ。
松井だけではない。松井とともにクリーンアップの一角を任され、リーグ優勝に貢献した江藤が続く。
「グラウンドの上でプレーするのは僕らなんだから。まあ、注目されない分、集中できるけど…」ブツブツ。
江藤は、長嶋監督を優勝させるために広島からFAで入団し、一応目的は果たしたものの、日本シリーズでONばかりが強調されることには納得できない。
しかし、20世紀の球界を代表するスーパースターのON相手では、いかに松井と江藤がタッグを組んでも力不足だ。
そこで、松井と江藤は第1戦でデッカイ本塁打を打ち、「スポーツ新聞の見出しになる」と“ON駆逐”の青写真を描いてみせた。
「シリーズに向けて、気持ちが盛り上がってくるのは宮崎から東京に戻って、ドームで合宿を開始してからになる。第1戦の21日に最高の調子に持っていけばいいんですから」(江藤)。
意外にもファン待望のON対決が、選手のジェラシーを招き、闘争心に火を付けることになっている。長嶋監督にすれば、EM砲のそろい踏みは願ったりかなったり。恐らく同様の思いがダイエーの選手にもあるはずだ。監督ばかりがクローズアップされているON対決の陰で、選手たちの闘争心はメラメラと音をたてて燃え盛っている。
ウン、どう転んでもON対決は盛り上がるようで。
[夕刊フジ2000年10月12日]