早くも盛り上がりを見せるONシリーズは短期決着。異例の宮崎シリーズキャンプを張る巨人・長嶋監督が、「第7戦まではいきませんよ」と断言。第6戦までの決着を宣言したのだ。その裏にはさまざまな思惑が見え隠れする。
異例の宮崎シリーズキャンプ2日目は祝日、30度に迫る暑さで夏に逆戻りのような快晴。何と2万5000人のファンが球場に詰め掛けた。
ブルペンでは注目の上原と桑田の投球を長嶋監督が厳しくチェック。「上原はボールが高すぎる。コントロールが今一つだな」と、辛口のコメントだ。
それもそのはず。長嶋監督は、日に日に盛り上がるONシリーズを、「7戦まではいきませんよ」と断言。6戦までの決着を予告する。
「一応、4枚用意はしているが、先発は3人で十分でしょう」と言い切る。
それだけに、工藤、メイに次ぐ第3の男・上原には厳しい目を向けるのだ。
シーズン中は故障リタイア、自動車事故など、お騒がせばかりで、2年目のジンクスにはまった上原の特権はく奪。シーズン中は遠投ばかりで、ブルペンに入らなかった自己流の調整を返上させたのだ。第6戦までで決着というシナリオを実現するためには、強権発動を辞さない。
それにしても、「どっちが勝ってもいいから、熱戦で第7戦までやってほしい」という、世論に水をかけるような長嶋発言には何があるのか。
「20世紀の最後を飾るON決戦を最高に盛り上げよう」と、事あるごとに強調してきた長嶋監督がなぜひょう変したのか。
ここへきて高まり出した王ダイエーの評価に対する反発と恐れ、さらにはプライドがある。
「当初の断然巨人有利から、ここへきてダイエー優位の予想になってきましたね。かえってやりやすくなりましたね」と言う日本テレビ関係者に対して、長嶋監督は反論。
「予想なんてはなから全く当てになりませんよ。いいかげんなもんなんだから」と語気を強めている。
「リーグ優勝なんかで選手に満足されてはたまらない。日本一にならなければ、話にならない」と、世紀のONシリーズを制しての6年ぶりの日本一奪回に血眼の長嶋監督。しぶとさが根拠の王ダイエー優位説が面白いはずがない。
そんな感情的な反発と、実際に第7戦までもつれ込んだら、ダイエーペースだという危機意識がある。
「本当にダイエーはしぶとい野球をやるよね。多彩な中継ぎと抑えのペトラザにつなぐ、粘りの野球だからね」と、リーグ連覇をした王ダイエーの粘着力に脅威を抱いている。
さらには王監督に対するプライドがある。ONコンビと呼ばれながらも、実際には対等でなく、常にナンバーワンの存在だった長嶋監督。このONシリーズの結果次第ではそれが逆転しかねない。
もし敗れれば、王監督に水原、三原、川上、上田、古葉、広岡、森に次いで「史上8人目の2年連続日本一監督」という称号を与えることになる。巨人の4年ぶりのリーグ優勝など吹き飛んでしまう。
例え勝っても、第7戦までもつれ込んだら、巨大な戦力を持つ長嶋巨人相手に王ダイエーは健闘したという世論になるのは目に見えている。長嶋監督とすれば、圧倒的な強さで王ダイエーを一蹴するしかないのだ。
[夕刊フジ2000年10月10日]