ダイエー・王監督が長嶋巨人の誇る200発打線に挑戦状。「ウチも東京ドームが本拠地なら、松中、小久保も40本は打っている」と、言い切ったのだ。ONシリーズに向け、仕掛ける王監督。おん念が秘められている。
「ここと比べると、本当に東京ドームは狭く感じるね」と、声を大にしたのは、ダイエー・黒江助監督だ。
福岡ドーム、東京ドームとも公称は、両翼100メートル、中堅122メートルになっている。ところが、現実は全く違う。東京ドームの方は左中間、右中間のふくらみがないし、福岡ドームのフェンスの高さ(5・84メートル)は日本一だ。
だれもが認める狭い東京ドームに広い福岡ドーム。その差がON対決の行方を決める。王監督はこう言い切った。
「ウチが東京ドームを本拠地にしたら、松中、小久保は40本打つよ」
黒江助監督もこうフォローする。
「東京ドームだと、ウチの打者は打撃練習でバックスクリーンへポンポン打ち込むからね」
王流でいえば、33ホーマーの松中、30本の小久保は、東京ドームでなら40本をクリアする打者、今季、42ホーマー放った松井クラスの大砲になる。
福岡ドームと東京ドームでは年間10本の差があるという、王監督の計算。長嶋巨人が誇る超重量、200発打線を全く恐れることはないとの結論になる。
狭い東京ドームでの第1、2、6、7戦は、松中、小久保の2枚看板が、松井に対抗できる長距離砲に変ぼう。
広い第3〜5戦の福岡ドームでは、32ホーマーの江藤、28本の高橋由がそれぞれ10本減の打者にスケールダウンすることになる。20本塁打も打った核弾頭の仁志も10本と平凡な数字になる。
王監督がいわんとするのは、ただ一つ。東京ドームでも福岡ドームでも200発打線には負けないという、強烈なアピールだ。
「巨人とは本当はやりたくないよ。小錦とやるようなもの。対戦した千代の富士がイヤなものだと言っていたよ」と王監督が、長嶋監督ご自慢の200発打線を小錦に例えたのも、素直には受け取れない。むしろ強烈な皮肉だろう。
勝つときはプッシュ、プッシュで圧勝。負けるときはコロリとモロかった小錦。空中戦には強いが、クロスゲームには弱い長嶋巨人。2つをオーバーラップさせたのだ。
それに引き換え、どんな形でも横綱相撲を見せた千代の富士を王ダイエーにダブらせた、王監督のブラックジョークだ。
「中継ぎ陣は、巨人よりウチの方が上」と挑発したのに続く、「東京ドームが本拠地ならウチの松中、小久保は40本打つ」という挑戦状。王監督らしからぬ言動だ。
「ウチは日本一にならなければ、ダメなんだ」と、長嶋監督は6年ぶりの日本一奪回に全力を傾けるが、王監督にも負けられない事情があるから、次々と仕掛けるのだ。
「何で続投要請でなく、解任なんだ」と、怒り狂った昭和63年オフの解任劇。昭和59年に巨人監督に就任してから、3、3、2位、優勝、2位でBクラスなし。それなのに、突然、解任された悔しさが、ダイエー監督就任の引き金になっているのだ。
「巨人と決別して、巨人を見返してやる」という、強い決意が王監督には秘められている。ダイエー監督就任5年目の昨年の日本一で王株が高騰。ポスト長嶋の切り札として名前があがるようになった。
が、直接対決のチャンスを初めてつかんだONシリーズで、負ければ、また何を言われるかわからない。長嶋巨人を倒してこそ、本当に読売首脳を見返すことになる。世間が待望するONシリーズは、王監督にとってきれいごとだけではすまされない。
[夕刊フジ2000年10月04日]