王監督ゲキ「松井よオレを超えろ!」


 巨人・松井秀喜の王超え56ホーマー宣言に世界の王が、熱烈エール。「高い目標を設定するのはいいことだ」と、全面支援。「ホームランを打つことに貪欲になれ」と、ゲキを飛ばす。

 福岡ドームで春のON対決2試合を終えたダイエー・王監督は、松井のバッティングをしっかりチェックしていた。「球をしっかり見極めて打っていた。いいバッティングをしていたよ」と、ほめる。

 長嶋監督と歓談しながら、視線は打撃練習中の松井にクギ付けのシーンまであった。それだけ注目していたのはワケありだ。

 3冠王狙いから一転して世界の王の持つシーズン55ホーマーの日本記録更新に、松井が意欲を燃やしていることを伝え聞いたからだ。

 「いいことだよ。高い目標を設定して、それをクリアしようとすることが一番大事なんだ。やってやろうという気持ちを持たなければ、何事も始まらない」

 4番・松井が王超え宣言した裏には一騒動あった。昨年、ホームラン王と打点王の2冠王に輝き、6年ぶりの日本一に貢献。シーズン、シリーズのダブルMVPも獲得。巨人の不動の4番としての地位を築いた松井に対し、長嶋監督は清原との4番戦争を口にしたからだ。

 今年は新戦力に乏しく、話題性がないので、松井vs清原の4番戦争というリップサービスでマスコミジャックの狙いもあった。

 それだけでなく、「清原に比べると、松井にはもう一つ、華がない」という、長嶋監督の不満もある。だから松井をより飛躍させる刺激剤として、清原との4番戦争を仕掛けた側面がある。

 ところが、やりすぎのきらいがあり、一時、松井が不満をあらわにし、背筋痛の危機にまで直撃された。

 「いまさら清原の4番はないだろう。松井との格差は歴然としてしまっているよ」と、巨人の4番後継問題は他人事ではない王監督は反論。巨人の不動の4番は松井しかいないと断言までした。

 こんな王監督の暖かい声援もあってか、プライドを傷つけられた松井も立ち直り、それなら世界の王の持つ、シーズン55ホーマーの記録に挑み、清原との格の差を見せつけてやれ−こうなったのは、自然のなり行きだろう。

 清原が逆立ちしても50ホーマー台など打てるわけがない。松井にすれば、圧倒的な力量の差を印象づけ、2度と4番戦争などという言葉が出てこないようにするには、ホームラン記録しかない。これまで2度ホームラン王になっているが、34、42本とレベルが低い。

 王監督が松井の王超え宣言に熱烈エールを送るのも、そんな心情がわかるからだろう。

 「松井は固め打ちが少なすぎる。1本打ったからと言って安心しないで、貪欲に打つことを心掛けないとダメだ。ホームラン打者の調子の波が大きいのは宿命でしようがない。だからこそ調子のいいときにまとめてホームランを打つことが大事なんだよ。オレが55本打ったときに、1試合2本以上の試合が10試合あった。それくらいでないと、50本以上は打てない」

 松井に対して、貪欲な姿勢で固め打ちすることを要求する。そして、こう激励する。

 「幸いなことに今年は5試合増えて、140試合になる。松井にとってはチャンスだよ」

 熱烈な“王援”にあとは松井がどうこたえるかだ。


[夕刊フジ2001年03月06日]