肝心な高校生の逆指名問題を棚上げした、大学生、社会人の自由競争枠2というドラフト改革案。実現するのか、廃案になるのか。その命運は、名を取るか実を取るか、巨人・渡辺恒雄オーナーの胸三寸だ。
2月19日に12球団代表が招集される開発協議会で、ドラフト改革案が煮詰められる。
すでにたたき台はできている。18日に行われた開発協議会でドラフト制度検討委員会・湊谷委員長(横浜球団常務)が試案を出しているからだ。
現在、逆指名こと指定枠2人制度を『自由競争枠』という名称に変え、ドラフトと切り離す。契約金1億円、でき高5000万円、年俸1300万円という上限も撤廃。1球団2人まで完全なフリーマーケットにする。
「各球団2人ずつ指定枠があってもそれにふさわしい選手が24人もいない。それなのに、無理して取るから、お金がかかる」と、不満をもらす球団が多い。逆指名を取り付けるためには2位でも1位と同様な待遇が必要になるからだ。
その一方で、巨人・高橋由伸には10億円以上の大金が動いたといわれ、昨年のダイエー2位の山田秋親(立命大)にも総額6億円が支払われたという情報が飛び交った。
実情に合わない逆指名制度をフリーマーケットにすることで、現実に即応させる。無理な逆指名はせず、同時に欲しい選手には金に糸目はつけない。裏金などというダーティーなイメージのお金でなく、堂々と投資する。メジャーからの青田買い攻勢の防止策になる。
さまざまなメリットを強調する試案だが、実は「高校生にも逆指名を導入しろ」という、巨人・渡辺オーナーに対する妥協案でもあるのだ。
「自由競争枠で2人取ったら、ドラフト一巡目の指名は放棄する。1人だったら、OKにする。高校生の有望選手を指名できるように」という、条件付きだからだ。
この規定があれば、「巨人に来たいというのに、かわいそうじゃないか」と、渡辺オーナーが高校生の逆指名導入を口にするきっかけになった、高校生ナンバーワン左腕の敦賀気比・内海哲也(現・東京ガス)の悲劇も回避できたかもしれない。
補強の最大のポイントだった捕手・阿部慎之助(中大)だけ自由競争枠で獲得。人選に悩んだ2人目の上野裕平(立大)をパス。そして、ドラフト一巡目で内海を指名する。その場合でも他球団は指名できるが、クジ勝負になる。
「巨人以外ならプロ拒否する。社会人に行って、3年後に逆指名して巨人に入る」という、強硬姿勢だった内海を強行指名できるかどうか。
オリックスが内海を指名したのは、巨人の1位が阿部に決まっていたからだ。無抽選の単独指名。「3年後の巨人入りだって100%の保証はない。あきらめて入るのでは」と、読んだからだ。
今回の湊谷試案は巨人にとってそれなりのメリットはある。ただし最後は渡辺オーナーの腹一つだ。
「アテネ五輪には全面協力する。高校生の逆指名導入を実現するなら」と、高校生の逆指名導入と五輪全面協力をバーターにした渡辺オーナーだけに、果たして満足するかどうか。
「3月までにはドラフト改革を決めたい」というコミッショナーに対し、3月6日のセ・リーグオーナー懇談会で何らかの回答を出すだろう。
[夕刊フジ2001年01月22日]