SilverSoul
- 意地の見せ処は人それぞれ
その夏の最高気温は38.7度だった。
酷暑や猛暑を通り越して、激暑である。
「もうね・・・・・38.7度とかね・・・・・無くね?風邪ひいてるよね。軽く風邪引いてるよね。だるくて動けなくて、頭の中ぐるぐるするよね・・・・・ていうかもう、なんなんだよテメェェェェラァァァァァ!!!!」
「・・・・・銀ちゃん煩いネ・・・・・」
すぱあん、と勢いよく窓を開けて、息を吸うのも厳しい夏の外に向かって銀時が盛大に叫んだ。
抜けるような青空は、熱気で揺らめき、雲ひとつない。お陰で太陽の横暴を止めるものはなく、昼下がりの江戸の街はお天気お姉さんも真っ青な勢いで気温を上げて行っている。
かぶき町の通りを歩く人はほぼ居ない。
全員が家に引きこもり、この熱波をやり過ごそうとクーラーの利いた涼しい部屋から一歩も出ようとしない。
今時クーラーの無い家など皆無と言える普及率だが、その恐ろしい普及率から外れてしまっている者も居る。
ここ、万事屋である。
「暑い・・・・・だるい・・・・・死ぬ・・・・・」
少しでも涼しい場所を求めて、熱風吹き荒れる、不快指数100%の万事屋の廊下に新八が倒れていた。
窓が無く、玄関に近いそこは、暴力的な太陽の光が差し込まない暗黒地域で、廊下が微妙ながらひんやりしていた。
「暑い・・・・・だるい・・・・・死ぬ・・・・・」
砂漠で氷山の幻を追い求めるように、神楽はここ、万事屋で唯一の冷房装置である冷蔵庫に顔を突っ込んでいた。
そして、この家の主たる銀時は、クーラーをがんがんに掛けるせいで、室外機の熱風が都市の温度を更に上げている事実に狂気し、窓に向かって理不尽を叫んだ後、ばったりとその場に倒れている。
ちりん、と涼しげな風鈴の音が響くが、全員の苛立ちを煽るだけだった。
「暑いネ!!!今時、この東京シティに有りながらクーラーないとか信じらんないネ!!!!」
くわっと目を見開いて、神楽が冷蔵庫の中で叫ぶ。
「冷蔵庫に頭突っ込んでる奴に言われたくねぇぞ、コノヤロウ!!!テメェがそこで冷房機を使用するから、気温が上がってんだぞ!!!」
環境問題考えろや!!!
「冷房機じゃないから!冷蔵庫だから!!!つか、何が環境問題ですか・・・・・あんたの稼ぎが悪いからクーラーが買えないんでしょ!?クーラー無いから僕たち死にそうになってんでしょ!?」
「全員今すぐクーラー止めろ!!!地球温暖化反対!!!しろくまも泣いてんだぞ!!!」
「しろくまっていったらクーラーね!!!しろくま、大喜びで民家の温度さげてるネ!!しろくまなんざくそくらアル!!!」
「しろくまだろうがペンギンだろうがなんでもいいから、クーラー買えばいいんですよ!!買えるでしょう、クーラー!!」
「うるせぇ!この暑さで誰も万事屋に依頼持ってこねぇんだよ!!金なんか有るか!!!!」
「だったら稼いでくるアル、駄目亭主!!!」
「だっ・・・・・お前らみたいなガキは夏は大喜びで庭駆けまわるんだろ!?テメェらが居るから室内温度あがんだろうが!!外で遊んで来い!そして二度と帰ってくるな!!!」
「だったらお前が出ていけ!!!」
給料泥棒!!
「仕事見つけて来いアル!!!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ますますヒートアップし、そのせいで室温が上がっているとも知らない三人は、ついに水分不足でぱったりと倒れ再び万事屋に静寂が落ちる。
ちり〜ん、と空しく響いた風鈴の音。
「駄目だ・・・・・こんな言い合いをしてる場合じゃねぇ・・・・・マジで死ぬ・・・・・暑くて死ぬ・・・・・俺、今なら暑くて死ねる気がする・・・・・」
ぜぇぜぇと酸欠気味な呼吸を繰り返す。神楽も新八も返事をしない。二人ともすっかりダウンして生きる屍になり掛っていた。
このままじゃ、俺たちTOKYOに負けちまう!!!
「立て・・・・・新八、神楽・・・・・」
ゆらり、と銀時が立ちあがり、すでに叫ぶ元気もない二人を揺り動かし最終手段に出る事にした。
「クーラー?」
「スイマセン、姉上・・・・・仕事前に・・・・・」
場所は「すまいる」店内で、出勤前のお妙が、悄然とソファに座る新八にこてん、と首を傾げて見せた。
「何でも良いから仕事くれ・・・・・このまんまじゃ俺たち、干からびて死ねる自信がある」
真顔で切り出す銀時に、お妙が「そうねぇ」と頬に手を当てたまま視線を上向けた。
「駄目がデフォルトの銀さんに出来る仕事・・・・・用心棒は私の仕事だし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前の仕事ってそれなの?」
ひきっと顔を引きつらせる銀時を綺麗に無視して、「神楽ちゃんは私の仕事のヘルプについてもらえれば問題ないけど」と身を乗り出す神楽に笑顔で答える。
「新ちゃんは裏方の仕事を任せられそうね」
お皿洗いとか。
「何でもやります。クーラーが買えるなら!」
「あ〜そう、じゃあ、俺はここで酒飲んでるからしっかり稼いでこいよ、青少年!」
「銀さんには裏の仕事をお願いしようかしら」
ソファにふんぞり返る銀時に、お妙が笑顔で切り出した。
「なんだ?皿洗いなら新八が」
「違いますよ、銀さん。『裏方』の仕事じゃなくて『裏』の仕事です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
笑顔が黒い。
怖い。
なんだか知らんが、怖い。
俺のDNAが全力で断れと言っているーっ!
「い、いや、お、俺も皿洗い」
「そろそろ嬢王グランプリが近いのよねぇ」
「そのネタまだ引きずってんの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・やって欲しい人が一人いるのよね」
「すいませーん、チェンジで!この子、チェンジで!!!目が怖いんですけど!マジなんですけど店長ー!!!!」
「良いじゃないですか。どうせ碌な人生じゃないんですから。銀さん一人消えても誰も悲しまないし、むしろ地球温暖化防止に繋がります」
「なんで!?」
殺人依頼は受けられネェから、マジで!
血走った眼で告げる銀時に「いやだ。違うわよ銀さん。ただちょ〜っと気に食わない奴の頭をぱーんってしてくれればいいだけですから、死なない程度に」と笑顔で答えるお妙に、男は喚く。
「つか!そういうんじゃなくて、もっと他にあんだろが!?仕事!!!」
「・・・・・役に立たない銀さんの仕事・・・・・」
無いです。
「・・・・・泣くぞ、俺もいい加減」
「・・・・・じゃあ、銀さんには金になりそうもないしつこい男を追っ払う役目をお願いします。時給100円で」
「安っ!!!!」
ちょ、お前、時給100円って、俺の価値低すぎじゃね!?
尚も食い下がる男に「本来ならびた一文払いたくねぇんだよ。テメェの都合で押しかけてんだから、雇い主さまに文句いうんじゃねぇ」とお妙は真っ黒な瞳を見開いてきっぱりと言い切り、銀時の時給問題についてはそれ以上の言及を許されなかったのである。
そうしてスマイルが開店する。
店内は涼しく、銀時はお妙の動向を見守るように二階のスタッフルームからホールを見下ろしていた。
新八は料理の手伝いや、グラス磨きに余念がないし、神楽はお妙と二人で客から金を絞り取っている。
「将来が心配だ・・・・・」
やべ、俺海坊主に殺されるかも・・・・・。
お妙と二人で絶対に断れない、「暴力的な笑顔」で男に迫る図に、銀時は微かに青ざめた。そうやってしばらくだらだらしていると、不意にお妙がこちらを見上げた。
どうやら「金にならない客」の相手に飽きたようだ。
やれやれ、やっと出番か。あ、でも出番なくても良かったな、うん。
面倒だ、と身体全体で表現して、銀時は二階から降りると、「お妙さーん、そんな客より俺と遊ばね?」と感情のまるで籠っていない、棒読みの台詞で二人が居るソファに近寄った。
「あら、いらっしゃい銀さん」
「銀さん?」
振り返ったのは、サングラスが特徴的な葉っぱ一枚股間に付けた長谷川さんだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いやぁ、奇遇だな、銀さん!最近暑くってさぁ。俺の家、クーラーねえだろ?」
だから、最新の南アフリカファッションを取り入れて見たんだよね。サッカー有ったし。
「クーラーって言うか、家が無いだろ、マダオが」
ぽつり、と突っ込む神楽に「いやだなぁ、神楽ちゃん」と長谷川は笑顔を見せる。
「俺だって家くらいあるさ。俺ん家凄いんだぞ?今度招待してやるな!」
なんせ、水上にあるんだから!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「凄いアル!水の上の家なんて何かの漫画みたいアル!」
食いつく神楽に、長谷川は得意そうに語った。
「そうだろ?その上、水の上を移動するから、毎朝どこで目が覚めるのかわくわくするんだよなぁ」
「おいー!?それ池の上に浮かんでいるアヒルの足こぎボートだから!!!違うから!!家違うから!!!」
「何言ってんだよ、銀さん。前衛的な飾りの付いた、アーティスティックな家だろ?それに、驚いた事に、毎朝食卓にはパンが自動的に置かれるシステムになってるんだよ」
「パンが自動的に置かれてるんじゃなくて、池の鯉にどっかのおっさんがパン屑捲いてるだけだろ!?何餌付けされてんだよ!!!!人間としての尊厳を持て!!!」
突っ込む銀時の肘を、お妙が掴む。
世の中金だ。
そう語るお妙さまの眼差しに、さーっと銀時の顔から血の気が引いた。
「い、いや・・・・・いくらなんでも、可哀そうだろ?ここまで人って落ちるんだ、ていう見本みたいな、なんか、そう世の中の温かみを多少なりとも」
世 の 中 金 だ !
訴えるお妙の眼差しに、銀時は「長谷川さん、ごめん」と引きつった顔で木刀を手にした。
その時である。
「そんな下品な男の相手などしないで、麻呂の相手をしておくれ?」
「ま〜、金有さんじゃないですか〜」
お妙の声色が変わる。銀時が視線を上げればそこには、「金持ってます」というのが一目でわかる様な、このくそ暑い日にふわっふわのファーを巻いて、金の指輪を目一杯付けた、真ん丸な体格の男が立っていた。
趣味の悪さは一級品だろうが、お妙は笑顔を振りまいている。
(この女・・・・・)
照れたように己の家を語る長谷川を置いて、彼女はさっさと席を立つと隣のソファに移動する。溜息を付き、このマダオをどうしようかと考えていると、不意にお妙が銀時の羽織の裾を掴んだ。
「あ?」
振り返ると、彼女の瞳に微妙な色合いが滲んでいる。そのままにっこり笑って「一緒に来て」と小声で言われ銀時は首を傾げた。
つられて彼女の隣に座ると、むっとその男が眉間に皺を寄せた。
「お妙、その男は何者か?」
男のおかっぱって、やっぱり描く人間によって変わってくるよなぁ・・・・・ヒカルの碁みたいなテイストじゃないと単なるバケモノだよなぁ・・・・・空知の限界か、とぼんやり考えていた銀時は、しなだれかかるお妙にぎょっとした。
「金有さんにはまだ紹介してませんでしたけど、彼は私の恋人です」
「な」
「えええええええええええええ!?」
驚き、目を見張る金有よりも、銀時が大声で叫んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
お妙の底冷えした眼差しが銀時を睨みつけている。
生きてここから帰りたかったら合わせろや、このボンクラ侍。
殺気の滲んだ雰囲気で訴えられて、すうっと銀時の体温が下がった。クーラー要らずだ。
「え、ええっとぉ〜やーだーお妙ったらぁ・・・・・何も今言わなくてもぉー、銀さん照れちゃうじゃない」
適当な棒読みで続ける銀時に、金有のあんまり受けたくない類の、負の視線が向けられる。
「お妙、本当なのか?」
「ええ、そうなんですー。もうすぐ結婚するのよね?」
にっこり。
反論許すべからず。
「えーそーなんですー、だからーもうー俺たちいまー幸せ絶頂でー」
「だから、非常に魅力的なんですが、金有さんのお妾さんになる事は無理です」
きっぱりと告げるお妙に、「あ」と銀時は思い当たった。最初に彼女が言っていた「金にならない男を追っ払う」という仕事内容。
それはもしかして、この男の事をさしていたのではないだろうかと。
ちらとお妙に視線を向けるが、彼女は付け入る隙を見せない類の笑みを振りまいている。
そんな彼女と銀時を一べつした後、金有は煙草を取り出すと、分厚い唇に咥えて火を付けた。
ふーっとお妙に向かって吐き出される煙。銀時の胸中に微かに黒い染みが一点、滲んだ。
「そういうがなぁ、お妙・・・・・麻呂はお前を気に入っておる」
「ありがとうございます」
「お前のその、貧乳が」
ぴしぃいいっ
空気に亀裂が入り、止める間もなくお妙の鉄拳がおかっぱに突き刺さった。
「お、お前のそういう暴力的な所も、好ましいっ」
「え?何この人。変の態なの?そっちの趣味の人なの?貧乳で暴力的な女が好みとか・・・・・良かったなぁ、お前、これで嫁に行けるぉおっぼろっしゃあああああ」
力一杯殴り飛ばされて、銀時が吹っ飛んだ。
「やだ、銀さんしっかりして!」
「その男も麻呂と同じ趣向かっ・・・・・」
殴られて顔が変形しかかっている銀時は、テメェと一緒にするな、という台詞をすんでのところで飲み込んだ。お妙の自分の腕を掴む手が、尋常じゃないほど痛かったからだ。
みし、と骨が軋む気がしたが、多分気の所為じゃない。
「とにかく、この天然パーマでどこがいいんだかさっぱり判らない、マダオ代表のようなどうしようもないダメンズと結婚しますので、もう諦めてください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「しかしなぁ、お妙」
ふう、と残念そうに溜息を付く金有が、ぱちり、と指を鳴らす。それと同時に、金にものを言わせて雇った数人の男たちが、銀時とお妙のソファを取り囲んだ。
「麻呂は欲しいものはなんでも手に入れてきた性質なのだ」
だから、どうしてもお前のその貧相な身体がほし
顔面に、灰皿がめり込んだ。
金有さまああああ、と絶叫する取り巻きを目にも留めず、お妙は頬に手を当てたまま可愛らしく首を傾げて銀時を見た。
「そうは言っても、私が好きなのは銀さんですし・・・・・」
「え?い、いや、いんじゃね?もうさ・・・・・いんじゃね?このまま嫁に行けば丸く」
「私 が 好 き な の は 銀 さ ん で す し ぃ ? 」
瞳が怖い。
お妙が怖い。
死ぬ。
お妙に殺される。
「そうですねー、俺もー、お妙がー好キダカラー」
んだとコラァ!!
取り巻きが銀時に凄む。激しく逃げ出したいが、背中に押し当てられているお妙の「拳」が怖い。心臓の真裏っていうのも、怖すぎる。
悟空に貫かれたピッコロ大魔王みたいなっちゃう!!!
だらだらと冷や汗を掻きながら、銀時はざっと取り巻きを見わたした。単なる雑魚ばかりで、恐らく勝負にもならないだろう。
「なあ・・・・・店で暴れて良いのか?」
銀時が一番心配しているのは、この損害賠償を負わされる事だ。
「暴れるのは困ります」
「お妙は麻呂のものじゃ!」
鼻にティッシュを詰めた金有が鼻声で言うのに、お妙は綺麗に笑って見せた。
「ですから、暴力で解決するのじゃなくて、ゲームをしましょう」
用意されたのは、鍋焼きうどんだった。
銀時と金有の前に置かれたそれは、煮えたぎっている。クーラーの利いた店内でも、汗が滲みそうなほどであり、更に汁が真っ赤だった。
唐辛子満載だと、汗だくでそれを持ってきた新八が遠い眼差しで答えた。
この「激暑」の厨房にありながら、こんなものを作らされた新八の心中推して知るべし。
「勝負はこの激辛鍋焼きうどんを同時に食べて、先に食べ終わった方の勝ち。ただし、途中で『熱い』という単語を言った方が、量の少なさに関わらず負けとします」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
湯気で前が見えない。
鍋を目の前にする銀時が、ちらとお妙を見れば彼女はトロピカルジュースを神楽と二人で飲んでいる。隣の新八はかき氷をかっくらっていた。
お前ら絶対、後で覚えておけよ。
引きつった顔のまま睨んでいると、向かいに座る金有がぎろっと血走った眼差しで銀時を睨んだ。
「麻呂はこの勝負に買って、お妙の貧乳を手に入れる!お前は潔く引け!!」
「じゃあ、俺が勝ったらクーラー買ってくれ。しろくまの」
「麻呂のお妙への愛をしっかりとみせつけてやるわああああああ」
「んな暑苦しいものみれるかぁああ!てか、聞けよ!絶対クーラー買えよ!?しろくまだぞ!?」
「始め!!!」
かーん、と神楽が持っていたフライパンに御玉をぶつけるのと同時に、勢いよく金有が鍋焼きうどんをすすりだす。
その瞬間、金有が火を噴いた。
出遅れた銀時は、喉が焼け、真っ赤になって悶絶する金有の姿に、箸をそっと置いた。
無理。
眼差しで訴えれば、トロピカルジュースのストローを咥えたお妙がにっこり笑う。
やれ。
いやいやいやいや、無理だから。ナニアレ?何の拷問?何してんの?ないよね、鍋焼きうどんで人が火を噴くとか・・・・・無いよね!?
いいからやれ。
無理無理無理無理!銀さん、舌馬鹿になるから!使い物にならなくなるから!!
銀さん自体に使い道がありませんから、問題ないです。
あるから問題!!!!!
金有さまあああ、と叫ぶ取り巻きを制し、金有は男を見せた。確実に鍋焼きうどんの量が減っていく。それを、銀時は感心したように見詰めていた。
こんなに頑張る男を、女は放っておくべきではない。
その愛に応えてやるべきだ。
そう思い、いささか感銘を打たれてお妙を見れば、彼女の能面のような表情にぶち当たった。
あ、あれ?
感銘どころか、汗と鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった巨体の男を、彼女はしらっと見下ろしている。
「あ、あの、お姉さーん・・・・・?」
「この激暑に・・・・・」
「ちょ、ま」
「暑苦しいんだよ、テメェはよーっ!!!!」
転瞬、お妙は金有の後頭部に手を添えると、勢いよく鍋に向かって押しつけた。
あっちゃあああああああああああああ!!!!!!!!
大絶叫が響き渡り、もうもうと立ちこめる湯気の向こうに、銀時は微笑む絶対零度の悪魔を見た。
「はい。これで銀さんの勝ち」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんなお妙が好きだああああああ。と顔面に包帯を巻いた男は尚も叫んでいた。
どんだけドMなんだよ、と銀時は遠い目で考える。
日の沈んだ深夜2時。熱帯夜は終わりを告げず、外に出るだけでむっとした空気が世界を覆っている。
バイト代はちゃんと出た。銀時はともかく、神楽と新八の働きが認められて。もう一回やればクーラーが買えるだろう。
ほくほくする新八と神楽がスキップをして前を行く。その後ろからげっそりと疲れた銀時と、涼しい顔のお妙が続く。
「お前さ・・・・・」
歩いて行く二人を見遣り、銀時がちらとお妙を見た。
「良心とか咎めないわけ?」
一応、聞いてみる。すると、銀時を見上げたお妙が笑みを漏らした。
「最後はそれでも、喜んでたじゃないですか。それに、諦めてくれませんでしたし」
貴方が不甲斐ないからですよ。
きっぱりと言われて「なんでだよ!?」と銀時が反論する。
「鍋焼きうどん、ちっとも食べてくれかなったじゃないですか」
「いや、無理だろ。あれ、人の食い物じゃないからね?有り得ないからね?」
引きつった顔で答える銀時に、お妙は前を向いたまま「金有さんは食べてくれました」と妙に拗ねたように告げる。
「いやだから・・・・・それだけお前に本気だったって事だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
からん、ころん、と下駄の音がしばし続き、銀時はお妙から視線を逸らす。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
不貞腐れたように、微かに膨らむお妙の頬。銀時は溜息を付いた。
「お前が・・・・・もっとこう、危機的な状況だったら、銀さんだって・・・・・」
「銀さんだって?」
半眼で睨み上げられ、ちらと視線を落とした銀時は、前を歩く新八と神楽を確認してから、観念したように長い溜息を零した。
そのまま、すっと屈んで、彼女の唇にちゅっとキスをする。
「!?」
「こういう隙があるから、付け入られるんだろが」
お妙から視線を逸らしたまま、銀時は歩き続ける。一瞬の事に、立ち止まってしまったお妙は持っていたバッグを銀時の頭めがけて放り投げた。
「いっ!?」
「隙が有りすぎですよ、銀さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どんな状況でも、気を張ってください」
きっぱりと言い切り、ずかずかと歩いて行くお妙に、銀時はがりがりと頭を掻いた。
「いや・・・・・それでもさ、激辛鍋焼きうどんは、なくね?」
「四の五の言わずに食えや」
底冷えしそうな視線で言われて、銀時は引きつった笑みしか返せない。
もっともっと危機的状況だったなら。
(その前に・・・・・)
鍋焼きうどんを食う前に。持てる力の限り、全力であの男を排除してただろうなぁ、と男はぼんやりと考えて、それから苦笑するしかなかった。
「ていうか、お妙さーん、俺の給料は?」
「私は自分で自分の身を守ったんですから、有るわけないでしょ」
ですよね。
GW&30万打リクエスト企画より!
ナツさまから『GW企画のリクエストで、銀妙をお願いします!』ということだったので!!!
久々の銀妙と相成りましたが・・・・・これ、銀妙?(爆笑)
なんとなく、友達以上恋人未満な感じが好きなので、こんな感じとなりましたが、相変わらず銀さんの扱いが酷くて申し訳ないです・・・・・
カッコいい、艶っぽい、素敵な銀妙は素敵サイト様で補給をお願いしますスイマセンスイマセン(汗)
原作で良くやる、長谷川さんのライフスタイルへの突っ込みをどうしようか結構悩みました(笑)映像ありきだからね、長谷川さんの妄想って(笑)
アヒルさんボートはもちろん、無断借用です(大笑)
ナツさま〜、こんな銀妙になってしまいましたが・・・・・た、楽しんで頂けましたら幸いですvv
ありがとうございましたvvv
(2010/08/02)
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