SilverSoul

変化球が上手い投手ほど性格はストレートかもしれない
「あら、銀さん?」
 門の前の掃除をしていたお妙は、スクーターを目の前に止めた銀時に首をかしげた。
 彼はなにやら四角い箱のようなものを荷台にくくりつけて、うろ〜っと視線を泳がせていた。
「珍しいですね、家に用ですか?」
 にっこり笑うお妙に、「いや〜」と彼は曖昧な返事をした。
「なんかさ・・・・・この辺で・・・・・誕生日パーチーがあると聞いてきたんだけど・・・・・しらね?」
 周囲をきょろきょろと見渡す銀時に、「誕生パーティー?」とお妙は反対方向に首をひねった。
「そうそう。なんかさ、あれなわけよ。ケーキ?見たいな?有名パティシエの作った純白の生クリームが眩しい、その上に、更に、チョコレートの彫刻が乗ったそれはそれは神々しいケーキを買ってるのを見たっていうか・・・・・あ、いや、見たっていうか、なんていうかぁ〜この辺りで目撃したっていうか〜」
「?」
 考え込むように、竹ぼうきを持って眉間にしわを寄せたお妙は、「それって今日ですか?」と頬に手を当てたまま尋ねた。
「そうそう。今日今日」
 スクーターにまたがったまま、銀時は裏返りそうな声で言う。
「ちょっと心当たり、無いわ。そんな豪華なパーティーを開くっていうなら、なにかしらの噂が立ったはずですけど・・・・・この辺りじゃないんじゃないですか?」
 にっこりと笑って言われて、「え?そう?」と銀時が視線を泳がせる。
「銀さん、何か、変な汗掻いてません?」
「え?いやいやいやいや、銀さんはいつもと同じだよ?どっこも悪くないよ?ただちょっと糖分が不足してるというか・・・・・」
 変な言い分、とお妙は溜息をついて箒を再び動かしだす。その様子に銀時は「あーのさ」」と妙に間延びした声を掛ける。
「・・・・・・・・・・何か、聞いてない?」
「何をですか?」
「いやだから、ほら・・・・・誕生パーチーがあるよ、とかそういう」
「ですから、無いです」
「いやいやいや・・・・・本当に?本当にそう言ってる?」
「しつこい男は嫌われま・・・・・」
 そこまで言って、お妙はぽん、と手を打ち合わせた。
「そうだわ、銀さん!私、聞きました!」
「え!?そ、それ!それだよそれ〜!早く思いだしてくれって言うの、そういうのはっ!」

 身を乗り出す銀時にお妙は綺麗な笑みを見せた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お誕生日おめでとうございます」
 やっと「目的の誕生日会」に参加出来ると思っていた銀時は、目の前に繰り広げられているパーティーに遠い目をした。
「ほら、銀さんも!」
「え?あ、ああ・・・・・おめでと・・・・・」
 テンションが上がらない。

 自分はこんな事をするためにお妙を訪ねたんだっけか?と遠い所で考える。


 現在銀時は、お妙の住まう周辺の町内会長さんの家に来ていた。
 その町内会長さんの家のペットのイグアナが今日誕生日だと言う事で、ささやかながらも、心温まるパーティーが開かれている。

「はい、銀さん、神戸牛ですよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 生肉を口元に差し出されても嬉しくない。引きつった笑みを浮かべている銀時に「食べないんですか・高級ですよ?」とお妙が残念そうな顔をした。
「いや、あの・・・・・お妙さん?俺が言ってるのは人間の誕生日で・・・・・」
「ああ、それなら心配いりませんよ」
 町内会長さんは誕生日のエキスパートですから、江戸中の今日が誕生日の人を知ってる筈です。
 にこにこにこにこ。

「い・・・・・いや、俺・・・・・別に誕生日マニアってわけじゃ・・・・・」
「で、どこの誕生日パーチーに殴りこみます?」
「殴りこみ!?いやいやいやいやおねーさーん、なんかちがうから、それ違うからっ!」
「略奪パーチーをしようとしてるんじゃないんですか?」
 強糖犯見たいな感じで。
「うまいこといってるけどね!ちっともうまくないからね!!ていうか、そこまで俺だって落ちちゃいないってのっ!!」
「え?違うんですか?ケーキ目当て見たいに聴こえましたけど・・・・・でしたら、このスザンヌちゃんも祝ってあげないと・・・・・」
 はい、スザンヌちゃん、ちゅーですよ、ちゅー。
「誰が爬虫類とちゅーなんか・・・・・ていうか、お妙さん?目がマジなんですけど!?やめてくんない!?面白くない冗談だからやめっ・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」




 半泣きで町内会長さんの家を出ると、日はすっかり暮れて空には銀色の星が瞬いていた。
 溜息をつき、スクーターを押して、お妙の隣を歩きながら、銀時はげんなりした。

 変化球過ぎたが。
 ていうか、新八は何をやってたんだ。
 ケーキはどうした、ケーキは。

「ま、いっか」
「はい?」
 冷たい夜風が一陣吹いて、お妙が肩を震わせる。それに、銀時はスクーターの荷台に積んであった四角い箱の包装をといた。
 ふわり、と中から温かなショールが出てきて、それを彼女の肩にかけてやる。
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 からん、と下駄の音が、秋の夜に溶けてお妙が立ち止まる。見上げる彼女に、銀時は視線を逸らした。
「い、いや・・・・・目当ての誕生パーティーも無かったし・・・・・せっかく買ったけど、プレゼントも意味ないしさ・・・・・しゃーねーからお妙にやるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 温かなそれを羽織、お妙は柄に視線をやってくすりと笑った。

 紺地に、水色の二重丸が散っている。どこか、銀時の着ている羽織と似ていた。

「ありがとうございます」
「別に良いよ。無駄にならなくてよかったしな」
 再びスクーターを押して歩きだす銀時の背中に、お妙はふふ、と笑いを洩らすと、「銀さん」と声を掛けた。

「今日、新ちゃんがどこかの有名パティシエのケーキを買ってきてくれるんですって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・へー」
「家に寄って行きません?」
 ご馳走しますよ?

 くすくす笑うお妙を、銀時は振り返ると「なんかさ」とぶっきらぼうに尋ねた。

「誕生日みたいじゃね?」
「ええ、そうですね」

 二人並んで歩きだし、お妙は銀時の着物の裾をちょっと握ってみた。

「銀さん」
「んー?」
「・・・・・・・・・・ありがとうございます」

 ふふふ、と笑う彼女に、銀時はがりがりと頭を掻くと振り向きざまにちうっと頬に口づけを落とした。

「おめでとー」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ああ、なんという遠回りをしたのだろうか。

 ストレートに最初っから言えば良かったかな、と東の空に掛る大きな月を見て、銀時はぼんやりとした疲労の中思うのだった。












 というわけで、素直じゃない変則的な誕生日話でした><

(2009/10/31)

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