SilverSoul

SとかMとかって話題を振られて「服のサイズ?」とかいう女は天然演出を計算してる
 万事屋の旦那は間違いなくSだろう。
 真選組の沖田総aと、ごくたまにドSコンビと称されることもある。

 だから、坂田銀時本人も、己はドSだと思っている。
 いや、ドはつかないかもしれないが、どちらかといえばSだろう。
 攻めるの好きだし。

(・・・・・・・・・・・・・・・)

 そして、Sっ気のある人間には、Mっ気のある人間がぴったりなんじゃないだろうかとも思っている。
 磁石の?ほら、SとMみたいな?感じで?

 なのに、今、階段の上から己を見下ろす絶対零度の瞳は、間違いなく、Sのものだ。

「あー・・・・・お妙さーん・・・・・あのう・・・・・怖いんですけど・・・・・そこで睨まれても・・・・・怖いんですけど」

 なんでこんな女に惚れ掛ってるんだろうか、と己の内に問いかけて首をかしげる銀時は、自分の家の階段に立ちふさがるお妙を、睨みかえした。

「ていうか、なにしてんの?」
 夜這い?

 時刻は深夜。飲んで帰ってきた銀時の、良い感じに酔っ払っていた脳内は徐々に醒めようとしている。からかうように言ったその台詞に、お妙の眉がぴくりと動いた。
 そのまま、とんとん、と数段階段を下り、一段だけ高い場所に彼女はたった。

「銀さん」
 すうっと笑みが引かれる口元。月光の下で見る彼女は、妖艶なまで綺麗だが・・・・・どうじに壮絶に怖い。
「それは、こっちの、台詞ですよ?」

 にこにこにこにこ。

「っ!?」

 完璧な笑顔を見せたまま、お妙の鉄拳が銀時の腹部にクリーンヒットした。

 夜のしじまを破って、ものすごい落下音が響く。
 踊り場まで吹っ飛ばされた銀時が、「何しやがる!?」と泣きそうな顔でお妙を見上げた。

「てめぇこそ何してんだ、ああん?」
 こめかみに浮かび上がる血管。握り締めた手は白く震えている。噛みしめた彼女の唇に気付いて、銀時は視線を逸らした。

 冷や汗が背中を伝う。

 ああそうか。
 自分は配慮が足りなかった、と今になって気付いた。


 お妙は心配したのだろう。
 何も言わずに家を空けて、新八と神楽が血相を変えて自分を探しに来たのは、つい先ほどだった。
 なんということはない。
 ただ・・・・・ただ、最近あったことを、なんとなく忘れたくて、誰にも何も言わず、普段遊んでいる場所とは違う場所で一人で飲んだ。

 銀さんにだってそういう・・・・・感傷に浸りたい時だってあるのだ。

 そう言えば新八と神楽が胡散臭げに銀時を見上げ、「そんな情緒のある性格ですか、あんたは!」と怒鳴られた。
 でも、そういう情緒のある性格だと思われたから、探しに来たのだとそう思って一人満足していたのだが、目の前にいる女が怒っているのは、そういう事ではないらしい。

「何って、俺だって立派な大人なんだよ!一人で飲みたい夜もあるんだよ!大体俺の周りは騒がしすぎて、じっくり女口説いたりできな」

 かっこーん、と下駄が飛んできて、銀時の額にクリティカルヒットする。

「金もない男に口説ける女はいません」
「酷いっ!」
「なにしてたんですか」
 畳みかけるように言われて、銀時は言葉に詰まる。

 なにしてた?

「一人で飲んでたよ?」
 視線を逸らして告げる銀時の傍に、お妙はおりていく。そのまま、彼の腕を掴むと着物の裾をまくりあげた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 月光の下に現れた腕には、白く包帯が巻かれ、微かに血がにじんでいる。

 ほらみたことか、とお妙が溜息をつくのと同時に、「俺はMなんだよ!」と銀時が焦った声を上げた。

「・・・・・・・・・・・・・・・SMプレイですか」
「そう。割と格安」
 女王様は・・・・・あんま、好みじゃなかったかな?

 はは、と乾いた笑みを浮かべる銀時を見上げて、お妙は目を眇めた。

「たいそうなご趣味ですこと」
 新ちゃんに悪影響ですから、そういう所に行く時は、一言断ってくださいね。
「は?誰に?」
「私にです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「黙って出かけて、今日みたいに新ちゃんと神楽ちゃんがあなたを追いかけたら、見てはいけないただれたものを見そうですから」
「うおい」

 半眼でお妙を見つめる銀時に、彼女は「だから、私に言ってください」と静かに告げた。

「・・・・・・・・・・・・・・・今度からそうするよ」
 溜息交じりに答え、くしゃくしゃな銀髪をかきむしる。
「約束です」

 小指を出され、銀時は眉間にしわを寄せてお妙を見上げた。

 柔らかな紺色の闇の中で、彼女は酷く悲しそうな顔をしていた。

 眉間にしわを寄せて、怒っているような顔で、唇を噛んで。

 でも、泣き出しそうで。

「あー・・・・・」
 視線を逸らし、銀時は彼女の小指に、自分の小指を絡めた。そのまま、彼女を引き寄せると、ちうっと唇に口付けた。
「悪かったよ」
 彼女の頭を胸に抱き寄せて、銀時は空を見上げた。ぽんぽん、と彼女の頭を撫でる。

「今度からは、お妙に頼むよ」
 な、女王様?


 彼女の前ではMになってやろうか。


 笑う銀時に、心優しい女王様は小さく笑うと、抱きしめる男の背中に手をまわしてつねってやった。

「お断りします」











 えと・・・・・微妙な小話(脱兎!)

(2009/10/05)

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