SilverSoul

昔の彼女からもらったものは大抵押し入れにしまわれていたりする
「今日も雨ですね」
「そーだな・・・・・」
「鬱陶しいですよね」
「そーだな・・・・・」
「追っ払ってもいいですか?」
「あー、出来るなら、ってうおっ!?」

 ごすん、と飛んできたのは、ぴかぴかに磨き上げられた包丁で。

「ちょ・・・・・何しやがる!?」
「ほんと鬱陶しいですね、雨の日の天パ」
「追っ払うって俺のほう!?」

 ひゅん、と音がして、続いて「ゴシカアアアアン」と音がする。壁にぶつかり粉みじんに砕けた「炊飯器」を目前にして、銀時はひきつった笑みを浮かべた。

「追っ払うっていうか、むしろ逝けや」
「漢字!漢字怖いから!!!」

 あわわわ、と四つん這いになって逃げようとする銀時に向けて、やたらめったらに、お妙が物を投げてくる。
 志村家から、家電と言わず、家具類がすべて砕けるかと思われた矢先、銀時を屠ろうとライフル(どうしてそれが?)に手を伸ばしたお妙の眼前に、男が傘をつきだした。


 いつぞやの傘、だ。


「・・・・・・・・・・・・・・・」
「これ、受け取ったら帰るから」


 ライフルと同じように傘を突きつける銀時。
 傘を、ライフルと同じように突きつけられたお妙。


 しばらく無言で睨みあったのち、深い深い溜息をついて、お妙がライフルを下ろした。

「受け取りません。要らないから捨ててください」
「おいー!?お前これ、お気に入りって言ってなかったか!?」
「一っ言も言ってません」
「うそつけ!ここに証拠のジャンプがだな」
「何年前のジャンプ持ち歩いてるんですか!?」
「ホレ見ろ!ここにちゃんと」

「言ってません。」
「馬鹿か。よくみ」
「だから言ってねぇえってんだろうだ、ああん!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 ごす、と顎の下に冷たい銃口を感じて、銀時が素早くホールドアップする。手から落ちたジャンプには確かに、傘を貸し出すシーンが載っているのだが、言われてみればその通り。

 お気に入りの傘、と一言も言ってない。
 ただ、「書いてあるだけ」だ。

「テメェ・・・・・」
「それに、新しくブランド物の傘を買いましたから、そんなのは捨てちゃって結構です」
「じょーだん。お前に借りたまんまってのは色々あとが怖いからいやだ。過去を清算させてくれ、マジ頼むから」
「そうですか?じゃ、この引き金を引けばすべてが清算されます」
「傘と命とどっちが大事?!」


 青ざめる銀時に、お妙はふっと真面目な顔をする。黒い、底の見えない、広すぎて怖いくらいの漆黒の瞳に、己が映り、銀時は失敗したと気付く。


「どっちが大事って・・・・・」
「ストーップ!!!言うな!!!!俺は何も言ってないから何も言うなああああ!!!」
「テメェっ」
 殺気のこもったお妙の眼差しを前に、「知らん知らん俺は何も知らん」と銀時が背を向けて耳をふさいだ。おまけに、「あー」なんて声を出して、手で耳をふさいだり開いたりしている。

「・・・・・・・・・・根性無し」
 一刀両断し、お妙は此方に見えている銀時の背中に、おもっくそ飛び蹴りを喰らわせた。
「どうわあ!?」

 頭から転倒し、視界が180度ひっくり返り、天井を下に観ながら、銀時は此方に背中を向けるお妙をみた。

 その背中と肩が細くて、銀時は知らずに、身体が痛むのを感じた。


「命より、傘」
 のが大事ぃ・・・・・なぁ〜んて


 その彼女から視線を逸らし、銀時はへらっとした口調で告げた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました」
 振り返ったお妙がほほ笑む。
 これ以上ないほどの殺気を身にまとって。
 多分、放出されている気に触れただけで、ザコは魂削るだろう。

「なら、今、ここで、全身の皮剥いで傘にしてやるから、ありがたくおもいな」
「ぎゃー、何そのグロテスク発言―!!!!!」
 年頃の乙女が言う台詞じゃないから!間違ってるからっ!!!!
「あら、銀さん、最近の乙女ゲーではこれくらい普通よ?」
「何がどう!?!?!?!?!?!」
「付き合った男の数だけ増える傘v」
「全然可愛く聞こえない!!!!!!」

 ぎゃー、マジやめてほんと!むけちゃう!!!色々剥けちゃうから!!!!銀さん剥いたって砂糖しか出ないから!!!!ていうか、ちょ・・・・・え?マジ?そこはちょ・・・・・







 がったん、とお妙を押し倒した所で、「カワハギ」は終局をみた。
 ぜーぜーと肩で息をし、それから起き直る。

 はだけた彼女の着物の胸元は・・・・・みなかったことにする。


「みざるきかざるいわざる、ですか」
 静かな怒りを含んだお妙の声に、銀時は力なく笑うと、天井を見上げた。

「しかたねーだろ・・・・・俺、万事屋だし」
「答えになってないです」
「お妙」
 不意にトーンダウンした銀時の声が、転がったまま、天井を見上げるお妙の耳に届く。
「・・・・・はい?」
「傘一本じゃ、どうにもならないことってあるんじゃねぇの?」


 うさぎ柄の黄色い傘。

 この傘一本で、何が出来る?


「少なくとも」
「?」

 ばきい、と黄色い傘が銀時の脳天を直撃した。


「馬鹿をぶちのめすことは出来ます」


 うさぎ柄の黄色い傘は、腐れ侍を打ち砕く。


「同じものを買ってきてくださいね、銀さん」
 ぽい、と曲がった傘を放り投げられ、そのまま「どっせええええええ!!!!」と玄関を突き破って路上に放り投げられて、銀時は顔からアスファルトとお友達になり、曇天を見上げた。

 白くけぶった、空から、冷たい雨が落ちてくる。

「なあ、お妙」


 その曇天を見上げて、銀時は目を閉じた。


「お前は俺を殺したいのか生かしたいのかわからないんですケド」


 そうつぶやく口元には、笑みか刻まれていた。





 第二回戦、敗北

(2009/07/16)

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