SilverSoul

 最終的には梅干しとメザシで締め
「ありがとう・・・・・あんたのおかげでワシは十分、幸せに過ごせる」
「・・・・・・・・・・いいってことよ」
「そうアル。早く元気になって、そしてまた応募すればいいネ」
「今度は、きっと、もっといいものが見つかるはずです。」

 この首飾りは、じいさんがずっと大事にもってればいいさ。


 そう言って、俺は金輪が切れた所為でばらばらになった、緑の珠を差し出した。全部で15。
 目の前の布団で横になっているこのジジィの孫の数と同じだ。

「すまないな、銀さん・・・・・」
 ジジィはしわくちゃな手を差し出し、震えながらその珠を握りしめる。15人の孫が、一人一人、質屋やら怪しげな組やら駆けずりまわって、取り戻してきた大事な品だ。
 枯れ果てて、土色だったジジィの顔に血の気がさし、ようやく見えたこの老翁の威厳のある表情に俺は笑う。
「だからいいんだって。大体、それは俺がやったことじゃねぇしな」
「銀さん・・・・・あんたに報酬を払わなきゃならんな」

 当方、飢えに苦しまない日はない。

 目の前のジジィから漏れた言葉に、神楽も新八も身を乗り出した。かくいう俺も、膝を押し進める。


「あんたへの報酬は・・・・・そうだな、この・・・・」
 そう言って、ジジィは懐からくしゃくしゃになった紙を一枚取り出した。
「わしはあんたの幸せを願いたい。それにはこれが一番じゃて・・・・・」
「じいさん・・・・・」
 受け取り、俺はそのくしゃくしゃの紙を広げた見た。








「畜生、くそジジィ!!!とんでもないもの寄こしやがってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「どうすんですか、銀さん!?どうすんですか!?」
「知るかっ!!!とりあえず地の果てまで走れええええええええ!!!!」

 俺と新八は江戸の街を駆けていた。

 こうやって言うと、ものすごく聞こえはいいし、ちょっとシティーハンターみたいで「あれ?銀さん、なんか漫画の内容変えた?」みたいな風に思われるかもしれないが、まったくもってそんなことはない。

 江戸の街を駆けていた、という響きがそんなお洒落な雰囲気を醸し出しているのかもしれないから、言い方を変えてみよう。


 俺と新八は江戸の街を、女に追われて逃げていた。


 え?ナニ?TO LOVEる?これ、いつのまにTO LOVEる??とか思われるかもしれないが、そうでもない。
 全然ない。
 まったくといっていいほど、とLOVEってない。いや、トラぶってるといえば、トラぶってるが、ていうか、俺を追いかけてるのは女じゃねぇからね。
 女っていうほどいいもんじゃねぇからね。

 あれは確実に。

「金に飢えた亡者がこんなに江戸の街に居たなんて・・・・・っ!!!」

 振り返った新八が、絶望のにじんだ声で嘆いた。 

 そう、俺たちを追いかけているのは、性別は女だが、金に飢えた亡者なのだ。ゾンビだ。リビングデッドだ。もうね、あれだね。勇者、逃げるしかないからね。レベルとか上げる気にもならないからね。
 あいつらにつかまったら最後、血の一滴まですすられて終わりだからね。

「新八くーんっ!!!よければメガンテとか唱えてくれないかなぁ!?唱えてくれたら勇者きんときは救われるんだけどなぁあ!?」
 ほら、あそこに教会見えるでしょ?あそこいってさ、ちょっとセーブしてくればいいからさ。
 セーブという名の結婚をしてくればいいから。
 そしてメガンテを唱えてくれればいいから。

「なに人を囮にしようとしてるわけ!?行かないよ!?僕はお通ちゃんとしか結婚しないからね!?」
「いいじゃん。全員お通じゃんもう。お前くらいになると女は全部お通ちゃんに見えんだろ?」
 そういうもんだろ、オタクって。
「まったくもって違いますから!!ていうか、この書類の」
 そう言って、新八は無理やり俺に「持たされた」ジジィからの報酬の「書類」を突き付けた。
「ここにしっかりと明記されてるじゃないですかっ!?坂田銀時ってっ!!!」
 悲鳴のような声で叫ぶ新八に、俺は遠い目をする。
「そーだっけ?あれ?なんか・・・・・や、違うわ。だって俺勇者きんときだもん」
「四文字しか入んないファミコン世代は黙ってろ!!!!」
「復活の呪文とか超面倒だからね。メモリーカードとかなにそれだからね。ていうか、FF7がPSで発売になったとき、PSは買えたけど、メモリーカード買えなかったからセーブ出来なかったしね」
「そりゃ確実にあんたのミスだろうがあああ!?ていうか、僕だってセーブしたかないですよ!銀さんのほうこそ、セーブしてメガンテ唱えてくればいいじゃないですか!?」

 ぶーたれる眼鏡オタクを一瞥し、俺はため息をついた。
 そして後ろを振り返る。

「や、普通に無理」
「僕だって無理だっつーんだあああああ!!!!」


 俺たちを追いかけてくるのは、金に飢えた女たち。
 どっちかっていうと・・・・・その・・・・・残念な容姿の猛者たちが俺たちを追いかけている。

 原因は新八に持たせた一枚の書類。

 大富豪の依頼を受けて、そいつを解決したさいにもらった莫大な報酬。
 だが、その報酬はただで受け取れるものではなかった。
 新八が持っているのは、それを受け取るための条件が書かれた書面なんだが、その条件というのが。


「やっぱり孫が15人もいる人は考えることが違いますね・・・・・」
 走りながら、新八はげっそりした様子で書面を見た。

「坂田銀時、右のものが結婚したあかつきに、報酬を受け渡す、だなんて・・・・・」
「ちゅーしろとか書いてるからね。ありえなくね?マジ人を何だとおもってんだあのエロジジィ!!!」
「言ってる場合じゃないですよ、銀さん!!!」
「ああ?!」

 走りながら、路地に入りこみ、板塀が続く細い道を駆けていると、上空、太陽をさえぎって一つの影が落ちてきた。

「銀時さま、お登勢さまがお待ちです。速やかにお戻りください」
 モップ型火炎放射機を手にしたタマが、狭い通路の、行く手に立ちふさがった。
「じょーだんじゃねぇえええ!!ババァまで結婚狙いか!?」
「結婚して財産を搾り取る、という名の家賃の取り立てです」
「結局取り立て!!!」
 金の力はこうまですさまじいものなのか、と俺はタマとやりあうのを避けて、板塀を登る。
「ぎ、銀さん!?」
「飛べ!新八!!」
「無理だから!!この板塀2メートルはあるでしょ!?」
「そうだよな、お前は新八だもんな」
「だからもっと新八に期待しろってんだよ!?」
「銀時さま、お待ちください。お待ちくださらないのでしたら、眼鏡を破壊します」
 新八さまの成分の100パーセントが眼鏡だとデータにあります。眼鏡を破壊したら、死にますよ、新八さま。
「何情報!?ていうか、誰だよ、そんなデータ吹き込んだの!?」
「すまない、新八!お前の犠牲は無駄にしない!!」
「勝手に決めないでくれる!?ていうか、ちょ、銀さん!?」

 俺は尊い眼鏡の犠牲に心を痛めながら、板塀の上を走りだした。

「眼鏡の犠牲ってちょ・・・・・え?なに、タマさん?何する気?」
「眼鏡を破壊します」
「ちょ・・・・・ええ!?ていうか、それ僕関係な」


 遠く新八の悲鳴を耳にしながら、俺は十字路に差し掛かると、板塀を飛び降りて路地を左に曲がった。
 そのままひた走る。

 江戸中の女が敵なんじゃないかと思われるほど、どこの路地にも猛者たちがいて、俺はうかつに逃げられない。走ったり、休んだり、物陰に隠れてやり過ごしたり、とひたすら江戸中を駆け回る。

「これもう、逃走中じゃね!?ていうか、一体銀さん何人のハンターと戦ってるわけ!?もう、自首したいんですけど!!電話ボックス飛び込みたいんですけど!?」
 それでもだいぶ金額いってるよね!?

 泣き言を言いながら、次のT字路を右に折れると、そこには。

「む、銀時」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにやってんだよ、ヅラ・・・・・」
 女装をしたヅラが立っていた。
「そこの往来で小耳に挟んだのだが、なんでも白髪頭の男が偽装結婚相手を探していて、結婚してくれれば、莫大な遺産を相手に渡すと新聞に出ていると大騒ぎになっていてな。我々の活動資金のために是非にと思って来た次第だ」

 何から突っ込んだらいいのかわからない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああそう、頑張れば」
 じゃあな。俺、忙しいから。
「待て銀時。お前はこの街で顔が広い。白髪頭のご老人の行方を知らないか?」
「何勝手に年齢設定してんだよ!?つーか白髪のジジィなら山ほどいるから、偽装結婚でもなんでもしてこい!!!」
「ふ・・・・・知らないのか、銀時。どうやら、そのご老人は日本の国籍が欲しい、仕送り先の故郷に乳飲み子が居る男だというではないか」
 こんな世の中に、なんと悲しい話か。
「ナニ泣いてンの?ていうか、それなら莫大な遺産でなんとか出来るだろうがっ!?なにこの馬鹿!頭使え馬鹿!!」
「そうか!やはり、世の中を腐らせたのは真選組か!」
 デマを流して世の中を混乱に
「おまわりさーん!この馬鹿逮捕して!!ここにいるから、早く逮捕して!!ていうか」

 ヅラにかかずらわっている所為で、俺はその路地でもたもたしてしまった。ということはそれだけ己を捕まえようとする包囲網が狭まるわけで。

「頭!!!居ました!!!!!」
「すまぬな、銀時」
 吉原のために死んでくれ!!!
「げ!?」

 路地に潜むは吉原自警団、百華。前方から飛んでくるくないに俺はめまいがした。

「死んでくれってなんだよをい!?銀さんを何だと思ってるわけ!?」
「わっちの金づるだ」
「それが命の恩人にいう台詞!?」
「許せ、銀時。師匠は喰うものだ」
「うるさいわあああああああ!!!!」

 飛んでくるくないを交わし、俺は必死に振り返ると目の前に立っているアホヅラの男を踏み越えた。
 文字通り、顔面を、踏み、越えた、のだ。

「おっふわあっ!?」

 路地に倒れるヅラの上に、雨のように降り注ぐくない。

「ヅラ子がやられたわよ!?」
 途端、響いてきたのは西郷率いるかまっ娘倶楽部の連中の、甲高い・・・・・もとい、野太い声だった。
「ちょっとパー子!責任とってアタイらと結婚しなさい!!!」
 T字路の、百華とは反対から、土ぼこりをあげて、巨体の連中が激走してくる。
 たとえて言うなら、ヌーの大群だ、ヌーの。
「うちの店の建て替えにこんくらいは必要なのよ!」
「んなこと知るか、アゴ美!!!」
「明美だっつってんだろうがああああああ!!!!」

 三方を塞がれ乱闘をするには分が悪い。必死に路地を駆けもどり、次にやってくる十字路を死に物狂いで曲がった。

「!?」

 走る走る走る走る。
 気が遠くなるほど走りまくって、俺は前に立つ少女に目を見張った。傘をさして、酢昆布くってんのは。

「神楽!助かった・・・・・お前、後ろのオカマと覆面とバカと・・・・・えー、ちょっともうなんでもいいから任せた!」
「銀ちゃん。」

 次の瞬間、俺は見た。
 少女の目に映った、明かなる蔑みの表情を。

 それは人間を見る目ではなく、そこらへんに落ちている石を見るのと同じくらい、温度の低い眼差しで・・・・・

「え?か、神楽ちゃん?」
「死ねヨ」
「かーぐらちゃあああああああん!?」

 構えた傘から、乱射される弾を、俺は必死でよける。本当に必死で。

「見損なったネ、銀ちゃん。金のために女と結婚しようとか、まじキモイから死ねばいいじゃん。」
「標準語!!標準語だから余計にこわいから、神楽ちゃん!?」
「社会の屑だよ、あんた」
「だからアサシンみたいだから標準語やめてーっ!!」

 立ち止まれば、後ろからの軍団に血祭りに。
 進めば最強の夜兎の餌食に。

 手持ちのカードは全部「死」しかないような気がして、俺は腰の木刀を引き抜くと、隣の板塀を思いっきり切りつけた。






「た・・・・・助かった・・・・・のか?」
 全身汗だく。乱れに乱れた呼吸のまま、俺は飛び込んだ民家の、生い茂る草の中を這っていた。
 あの後、板塀を突き破り、がむしゃらに長屋の壁を突き抜け、路地から板塀、民家、と不法侵入を繰り返した揚句、どこぞの家の庭に迷い込んだらしい。
 とにかく恐ろしいのは金とメディアの力だと、いまさらながらに思い知る。

「あのジジィ・・・・・新聞にまで出しやがって・・・・・」
 何が俺の幸せだってんだよをい!そもそも報酬の受け取り条件とかどうゆうこと!?俺の実働は一体なんだったんだよ、チクショー。
「そりゃ俺だっていつかは?結婚?してもいいかなぁ、とか思ってますよ。松ちゃんだって結婚したんだし。銀さんひとりだけ、アウトロー気取りとかじゃなくてもいいっていうか、ジャンプの掲載順位が何となく落ちてる気がするし、もうそろそろ落ち着くころかなぁとか、先週の戦闘の傷が一週じゃ癒えなくなってきたっていうか、ぶりーちみたいにやられて強くなって倒してやられてとか正直しんどいし、ぶっちゃけ、もう俺だってそろそろ」

「なにやってるんですか?」
「ぎゃあああああああああ」

 がさ、と茂みから出た瞬間、俺は罠にかかり、木の上につるしあげられた。見れば同じように罠にかかった近藤という名のゴリラが白目をむいて失神している。

「あら、銀さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 どうやら俺は、逃げに逃げるうちに、志村家に迷い込み、そしてストーカーゴリラ専用の罠に引っ掛かったらしい。
 ぶらぶらとつるされた木の下で揺れる俺に、お妙はちょっと目をみはるとにっこり笑った。

「銀さんを教会に突き出せば、賞金がもらえるって聞いたんですけど、本当ですか?」
 生死は問わないって。

 そのお妙の、笑顔の台詞に、俺はただ、片頬をひきつらせて絶句するしかなかった。





「なるほど・・・・・じゃあ、こうすれば完璧ね?」
 なんとか罠からおろしてもらい、通された居間で、俺の説明を聞いたお妙が笑顔でテーブル横のボタンを押した。
 途端、吊るされていた近藤が、すごい勢いで俺とお妙のいる居間に「放り投げられ」てきた。

 ずしゃあああああ、とすさまじい音がして、畳に頬を擦りつけた近藤が、摩擦熱の所為で煙をあげながらなだれ込んできた。。
 余りにも哀れすぎる男の姿に、俺は涙が出た。

「ゴリさんっ・・・・・しっかりしろ、ゴリさんっ!!」
「ううっ・・・・・」
 うっすらと、近藤の目が開いた。
「な・・・・・万事屋・・・・・なぜ、ここにっ・・・・・」
「丁度いいわ。」

 投網(!!)の中でよろよろと身を起こす近藤の頬には、焼け跡が。網に入ったゴリラと俺を交互に見比べて、お妙はさわやかな笑顔を見せた。

「お前ら、結婚すれや。」
 ここでしろ。今すぐ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 絶句する俺の横で「え!?え!?ええ!?」と近藤がうろたえる。
「お・・・・・おねーさーん?言ってる意味わかってますかー?」
 恐る恐る俺が切り出せば、お妙はまるで菩薩のような笑みを浮かべた。
「ええもちろん。」
 銀さんとゴリラが結婚すれば、必然的に報酬は私のものになりますから、めでたいじゃありませんか。
「なにそのジャイアニズム!?お前はたけしさんですか、コノヤロー!」
「黙れ、のび太」
「のび太扱い!!」
 青筋を立てる俺を一瞥し、お妙はため息をついた。
「いいじゃないですか、それですべてが丸く収まるんだから。」
 この二人が結婚すれば、私のストーカー被害もなくなるし、道場再建のお金は手に入るし、諸悪の権化が消えて銀魂も心置きなく最終回を迎えられます。
「諸悪の権化って何!?春雨じゃねぇのかよ、それはっ!?」
「正直、銀さんの回想話とか、うざいだけなんですよね。私、銀さんの過去に一切興味無いですから」
 だから銀さんの未来にも私は興味ありませんし。
「少しは興味を持て!人一人の人生の岐路なんですけど、連載中もっともデリケートな話に差し掛かってるんですけどおねーさあああん!?」
 大体男同士で結婚とか、どんだけ!?

 吠える俺の横で、近藤が「そうですよ、お妙さんっ!!!!」と血のような叫びを漏らした。

「俺はお妙さんただ一人を愛してます!!!結婚するならお妙さんです!!!!これはもう運命ですから!!!デステニーですから!!!!デステニーチャイルドってそういえば居たよね?って話ですから!!!!!」
「近藤さん。」

 俺と結婚してください、お妙さああああん、と叫ぶ近藤に、お妙は美しい笑みを見せた。

「私のことを愛しているのなら、銀さんと結婚して見せてください」




 その瞬間、俺たちは見た。
 目の前に立ちふさがるこの、涼やかな笑みを浮かべた女に、悪魔の顔を。


 間違いない。
 この女・・・・・


(悪魔の化身だ)

「そ、そんなお妙さ」
「愛してないんですか?」
「い、いや、そ、それとこれとは別で」
「愛 し て な い ん で す か ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 顔面蒼白になる俺の横で、同じように蒼白になっていた近藤が、ぎぎぃ、ときしむ音が聞こえるほどのぎこちない様子で此方を見た。

「え?」
「ヨロヅヤ」
 その目がやばい。
 なんか、初期化されてるように見えるし。
 ていうか、片言!?
「ちょっとまて、おい・・・・・しっかりしろ!?」
 思わず身を引けば、完全に脳内を破壊されたゴリラが、かくかくと口を動かした。

「オレトケッコンシテクダサイ」


 ゴリさんがやられたああああああああああああ!!!!


 なにこれなにこれ新型ウイルスの影響!?正常な判断じゃないよね!?おかしいよね!?どうかしてるよね、をいー!!

「ちょっとまて!正気に戻れ!!!!お前、言ってる意味わかってんの!?結婚とか・・・・・わかってんの!?」
「オレハオタエサンノタメニスベテヲステマス」
「読み辛っ!!!!!ていうか、男だろ!?男だったら、力づくでも愛してる女を奪い取ろうとか、そういう気にはならないわけ!?」
「ブキヨウデスカラ」
「高倉健かよ!!!健さんのつらじゃねえだろ!?ていうか、正気に戻りやがれ!!!!」
「ケッコン・・・・・ケッコン・・・・・ケッコン!」

 そのまま迫ってくるゴリラの向こうに、一切崩れることのない笑顔を浮かべたお妙がいる。
 これで世界が平和になるわ、とかほざいてやがる。
 畜生!絶対泣かせてやる!!!

「いい加減にっ」

 のしかかってくる、袋のゴリラをどうにかしようと、自分の拳を固めた瞬間、銃声がした。はっと顔をあげると、縁側に、ライフルを構えたドM女が立っていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また厄介なのが」

 ドドォと倒れこむゴリラを、冷たい眼差しで見ていた猿飛あやめが、ちらと俺のほうを見た。

「今の女に追われる銀さんに魅力は感じないけど・・・・・かつて愛した男を男にとられるなんて・・・・・私のプライドが許さないわ」

 もうね、なにがどう魅力なのかなんのプライドなのかわかんないから。

「あっそう。へぇ、じゃ、帰れば」
「銀さん!巨額のお金を持ったアナタなんか私の愛した銀さんじゃないわ!!!消えて!!今すぐ!!!!私の思い出とともに!!!」
 キャラ立ちのために納豆持たされたけど、最近なんか影うすくない!?

 納豆と手裏剣で攻撃をしてくるドM女を、ハンマー投げの要領で振り回した袋入りゴリラで打ち返し、ついでに、ゴリラを塀の向こうまで飛ばして、俺は「まあ、新記録ですね」と飛んで行った二人を眺めていたお妙に向き直った。

「どうだ・・・・・これでまだ俺の過去編は続行だ。」
 それに、お妙は頬に手をあてて眉を下げた。
「まあ、もっと順位が下がりますね」
「お前はもっと銀さんに興味を持て!!そして読者は銀さんの過去話に狂喜乱舞してるからね!!不吉なこと言わないでくれる!?」
「それはさておき」

 どうしましょう?巨額の報酬。

「別にお前のもんじゃねぇだろ」
 ここに居たらろくなことにならない、と俺は立ち上がった。家に帰ればババァがいて、搾りかすになるまで金をむしられるだろうが、さりとてここに居ても結果は同じだ。

「しょうがありませんね」
 とりあえず、ここから立ち去ろうとした俺は、お妙のため息交じりの声に振り返った。
「あ」
 と、俺は見た。新八に預けたはずの、報酬をもらうための権利書をお妙が持っているのを。
「眼鏡の損害賠償を起こすって、新ちゃんが一回戻ってきたときに、預かったんです。」

 損害賠償って・・・・・あれ?訴えられるのタマだよね?俺じゃないよね?違うよね!?

 一瞬違うことを考えた俺の目の前で、お妙は「残念ですけど」と心底悲しそうにため息をついて。

「あああああああああああ!?」

 手にしていた権利書を粉々にちぎり捨てた。

「ちょ・・・・・えええええええ!?お、お姉さん!?な、な、な」
「銀さんとゴリラが結婚しないんじゃ、こんなもの持ってても意味ないですからね」
「何さわやかな笑顔で言ってるの!?意味分かんないから!!!おま・・・・・ちょ、いくら棒に振ったと思ってんだよ、チクショー!!!」
「結婚する気もない人間が、こんなもの持っていたって意味ないでしょう?」
「ばっか・・・・・お前、俺だっていつかは」
「いつかって?」

 首をかしげて問われ、俺は返答に詰まった。

「相手は?」
 さらに詰め寄られて、俺は返す言葉がなかった。

「そ・・・・・そのうち?」
「じゃあ、いらないってことと一緒でしょう?」
 にっこり笑うお妙に、俺は「でも大事に取っておけば」と言いかけて、お妙の眼差しの前に口を閉ざすしかかなった。
「銀さんは、お金目当てで結婚したいんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そういうことです」

 にっこり笑うお妙の、余りにも正論すぎる台詞に、俺は言葉が出なかった。

 まあ・・・・・そう・・・・・かもしれない。

 あの、権利書を持っている限り、金目当てじゃないと、完全に言い切れる結婚とか・・・・・出来ないかもしれない。

 ああでも、当面の生活費が・・・・・

 そこで、ふと俺は「お茶でもいれましょうか?」と立ち上がりかけるお妙を見やった。

「つーか、お前は他の連中みたいに、俺と結婚の事実だけ手にして、亡き者にしようとか考えないわけ?」
 一番考えそうなんですけど?

 半眼で尋ねると、ちょっと目を見張ったお妙が、害のない笑みを返してきた。

「お金目当てで、銀さんと結婚しても意味ないでしょう?」

 そのまま、すたすたと台所のほうに歩いていくお妙に、俺はしばらく言われた言葉を考えた。

「じゃあ、何目当てなんだ?」
 不意に漏れたそんな台詞に、振り返ったお妙は真顔で答えた。

「イケメンに飽きたときの気分転換?」
 ほら、毎日フランス料理だと飽きるでしょう?

「俺は梅干しかっ!!!!」

 心外な、と突っ込めば、振り返りもせずに、「メザシでもあります」とお妙が答える。
 メザシ・・・・・言うに事欠いてメザシって・・・・・

「あーあ・・・・・」

 そんなロクでもない例えにがっかりしながら、俺はちぎらればらばらになった権利書をしげしげと眺めた。
 一瞬セロテープでくっつけようかと思うが、それもなんだか空しい気がしてやめにする。
 そもそも、お妙のいうことに納得してしまった自分の負けだ。

「・・・・・まあ、結局どんな宴会も、最終的には梅干しとメザシで締めだから、いいか。」
 ぽつりと漏らして、俺は急須と湯呑を持ってやってくるお妙を見た。

 そして、もしかしたら、飾らないこの女が。

「・・・・・・・・・・凶暴なメザシだなぁ、おい」
「何 か い い ま し た か ?」
「いってまふぇんっ!!いってまふぇんから、手、はなふぃてっ!!!!」

 ぎりぎりぎりぎりと頬を引っ張り上げられ、涙目になっていると、不意に玄関が騒がしくなり、「あねうえええええええ」と新八が駆けこんできた。

「わかりましたよ、姉上!!!僕が銀さんの偽装結婚すれば、道場再建のお金が」

 すぱーん、と襖を開いて入ってきた新八は。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 セーラー服におさげ姿のパチ恵で。

「って、銀さん?」
 なんでここに?

 尋ねる渾身の女装をした新八に、俺はびりびりに破けた権利書を指差した。

「悪い新八・・・・・その・・・・・女装、無駄だった・・・・・」


 悲しき少年の絶叫が響き渡り、結局、くされジジィからの報酬はぱあ。
 家賃と食費と困窮する生活がまた再びめぐってくるだけで、今回の仕事は幕を下ろしたのであった。














 09年GW企画リクエスト作品として、やってみました(笑)

 ちーさんからのリクエストで、

 いろんな女性キャラに惚れられて(?)いても結局はお妙さん所に戻っちゃうんだよ的なお話が読みたいんです…!!フラグたてすぎな銀さんだからこそ、やっぱり最後はお妙さん的な!(笑)銀さん目線的な!(すみません…汗…注文多くて…)



 ということだったのですが、銀さん目線って超難しかった orz

 玉砕しててすいませんTT

 こ、こんな出来で・・・・・いいですか?ていゆか時事ネタ多すぎですよね、スイマセン(平謝り)


 というわけで、リクエスト、ありがとうございましたv



(2009/05/21)

designed by SPICA