SilverSoul

 朝ごはんにパンにミロを塗ってた奴は手を挙げろ
「あら、銀さん。」
 やっぱ、温暖化でも寒いね、二月は、なんて梅が咲きそうな枝を見上げながらぶらぶら街を歩いていた、万年金欠男は、声をかけられて振り返った。
 買い物袋を持ったお妙が、こちらをみて笑っている。
「よう。買い物か?」
「ええ。」
 紙袋の中身は、きれいな包装紙やリボン、箱やなんかが見えた。
「今日、バレンタインでしょう?お店のみんなで、チョコレート作りましょうって。」
 にこにこ笑うお妙に、銀時は「へえ」と驚いたように声をあげた。
「なんだよ、お前。キャバ嬢が手作りチョコなんか客に贈ったら勘違いされんじゃねえの?」
 馬鹿にしたように言われて「あら、違いますよ。」とお妙は笑みを崩すことなく言う。
「これは、お店のみんなで交換し合うんです。ほら、友達チョコで、友チョコ。」

 あー、なるほどね。

「菓子メーカーの陰謀に踊らされてるねぇ、お姉さん。」
 皮肉っぽく言えば、「楽しいからいいじゃありませんか。」とお妙は取り合わない。
「で、客には?」
「今年はポッキーですね。一本サービス。」

 不況の波がこんなところにも。

「ああ、お得意様には違いますよ?チロルチョコです。」
「ああそう。」

 いやだいやだ、せちがらくて。

 遠い眼をする銀時はふと、これなら糖分補給が簡単にできるかもしれない、とお妙に切り出した。

「で、俺にはないわけ?」
 去年、バレンタイン戦争(スペースウーマン戦)で結局一個も貰えなかった銀時は、多少の期待を込めて聞いてみる。
「なんで銀さんに渡さなくちゃならないんですか?」
 それに対して、お妙は真顔でこう切り出した。
「いや・・・・・だってほら・・・・・一応、お前の弟の雇い主?ていうか、上司?なわけだし。」
「雇い主?銀さんが?まあそれは知らなかったわ。お給料をくれない雇い主なんてこの世に存在しないですから。じゃあ、お給料、貰えるのかしら?」
「スイマセン、僕、新八クンの舎弟です。どうかおごってください、お姉さま。」

 プライドもなにもあったもんじゃない。

 そう言われて、お妙は深いため息を漏らした。

「そんな人に、義理も人情もないですからね。私に対して利益にならない存在にチョコなんて上げる必要はどこにもないですから、よって銀さんに上げることは一切ありません。」
「俺って何!?お妙にとってなんなわけ!?」
 雇い主でも弟の舎弟でもなければ、いったい何なんだ!?

 思わずそう言えば、「雑菌?」とお妙が笑顔で切り出した。

「せめて脊椎動物にしてもらえませんかね?」
 引きつった笑みを浮かべる銀時に、「仕方ないですね。」とお妙は再び溜息を洩らした。
「じゃ、銀さんには義理も人情も愛情も人としての尊敬の念もないですが」
「なんか俺すげーボロカスじゃね!?人間の屑みたいに言われてるんですけど!?」
「これをやるからとっとと失せろ。」

 ぽん、と手渡されたのは、小分けにされたミロの袋だった。

「おねーさーん!これチョコじゃないよね!?明らかに粉だよね!?お湯を注いで飲むものだよね!?!?」
 しかも一杯分!?
「どんだけ俺、眼中にないわけ!?」
「銀さんがいなくなっても支障はないですから。」
「ひどい!酷過ぎるだろ、それっ!!!」

 こぶしを握り締めて訴える銀時にお妙は、いい加減イライラしてきたのか、「黙りやがれ、この腐れ天パ」と座った目で切り出した。

「こちとら不況のなか、利益を得るためだけに、安モンのチョコばらまいてんだよ。利益にならない銀さんなんて、栄養のないミロとおんなじなんだよ。」
 無意味なんだよ。

 存在全否定!?

 がっくりと頭を垂れて、ミロを握り締める銀時に「お店に来てくださったら、ポッキー差し上げますわよ?」とお妙はころころ笑って遠ざかって行った。

 なんなんだ。
 バレンタインは戦争だって言うけどね。

 ここまで完膚なきまでにたたきつぶされるのってありなの?
 貰えない人は、人権否定されるわけ?

「って、えらそうな口きくんじゃねぇぞ、コノヤロー!!」
 血の涙を流しながら銀時は冬の空に叫んだ。
「バレンタインがなんぼのもんじゃい!!!!」


 甘い匂いが冬の空気に漂うその日なのに、銀時は糖分を摂取できずにいらいらしながら自分の家へと戻ってくる。
 しんと静かなそこは、神楽と新八の不在を告げていて、さらにイライラする。

 乱暴に廊下を歩き、ばん、と居間のドアを開けて、銀時は目を見張った。
 テーブルの上に、空色に染め上げられ、銀色渦巻きラインが引かれたマグカップが置かれている。

「?」

 こんなカップ、持ってたっけ?

 ふと、机を見て銀時はぎょっとする。小さな手紙がついていた。


 どうせチョコレートなんてもらえないんでしょ?


 そう書かれた手紙を眺め、手の中にある一杯分のミロの袋に視線を落とす。


 あの女・・・・・!


「ほんっと、可愛くねぇ。」
 舌うちし、銀時はマグカップを持ち上げた。


 今年、銀時は当分補給はできなかった。
 代わりにあんまり甘くない飲み物で、いろいろな栄養分を摂取したのだが。




(2009/02/20)

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