SilverSoul
- ヒーローが必殺技を出すには時間と場所が重要
- 「あ、僕そろそろ行きますね。」
「あ?」
のんきにお茶を飲んでいた志村新八が立ち上がったのは、日付の変わる直前だった。
今日はこのまま万事屋に泊り込みだなぁ、と勝手に思っていた坂田銀時は、そんな少年の台詞に持っていたジャンプから目を逸らした。
「何?帰んのか?」
寝そべったままの態勢で訊けば、「はい。」と新八が頷き肩を竦めて見せた。
「最近、姉上、ストーカー被害に悩んでまして。」
「ストーカー?」
「ゴリラアルか!?ゴリラが姉御にまた何かしでかしてるのか!?新八ぃ!」
「違うよ、神楽ちゃん。」
銀時の向かいにあるソファーで、お煎餅片手に深夜番組視聴態勢に入っていた神楽が、目の色を変えて立ち上がる。
それをいなして、新八が困ったように溜息を付いた。
「誰がやってるのかわからないけど、毎晩、姉上のロッカーに一行手紙が入ってるんだって。それから、一言メールとか、玄関先の階段に泥だらけの靴跡があったり。」
でも姿は見せないから、気味が悪いでしょう?
ぐ、と持っていた木刀を握り締める新八の姿に、銀時が「まあでも」と欠伸交じりにまぜっかえす。
「あいつならどんな野郎が待ち伏せしてても半殺しにして終わりじゃねぇの?」
「まあそうなんですけどね・・・・。」
遠い目をする新八を他所に、ぴょいっとソファーから飛び降りた神楽が拳を握り締める。
「銀ちゃん甘いヨ!姉御だって女の子!得体の知れない奴が怖いに決まってるネ!」
「まあそうだけどさぁ・・・・・ゴリラ相手に毎回ストーカー対策練ってて、で、下着泥棒が来た日にゃ血祭りにあげようとしてた女だぜ?今更ストーカーごときでびくびくするかっつーの。」
点で気にしない銀時の台詞に、しかし神楽は反論する。
「確かに姉御は強いネ!でも何かあってからじゃ遅い!新八ぃ!私も姉御迎えに行くアル!」
ありがとう、神楽ちゃん、とそう告げる新八を横目に、「最強タッグ結成かよ・・・。」と銀時は遠い目をした。
神楽とお妙が組んだ時点で新八いらなくね?
「いえいえ銀さん・・・・だからこそ僕が必要なんですよ。」
「あん?」
お前ら程々にな、と小雨の降る秋の夜に子供二人を送り出そうとして、振り返った新八の意味深な発言に、銀時は怪訝な顔をした。
「二人そろって見えないストーカー、ぶっ殺しちゃったらマヅイでしょ。」
この世界における突込みの役目は、ただボケを処理するだけじゃなくて色んなもののブレーキ役でもあるんですよ?
「・・・・・・・・・・・。」
確かに。
「僕でも・・・・二人を止められるかどうか・・・・。」
ぐ、と別の意味で再び木刀を握り締める新八に「お前はやれば出来る子だから。身内から殺人者ださないように頑張って止めろよ。」と銀時は意味不明な応援をしてやった。
「銀ちゃんは行かないアルか?」
ばん、と傘を開いて、階段を下りようとする神楽が、暗い闇の中、黄色い光を背に立つ銀髪の男を振り仰ぐ。
「ヤダよ、雨降ってるし。天然パーマにはキツイの、雨は。それにめんどくせぇ。大体、俺は殺人罪でぶち込まれたくないしぃ。」
「確実に姉上と神楽ちゃんがストーカー殺すと思ってますよね!?」
びしっと指摘する新八に、銀時は真剣な表情を作った。
「馬鹿野郎!俺はただ、お前らの帰りを暖かい飯でも作って迎えてやろうってそういう腹積もりで、まさかそんな出所するまで、道場は護ってやるから心配するな的な感じでお前らを見送るわけじゃないぞ?決して。」
「何具体的な心配してんの!?殺さないよ!?人殺しにはならないよ!?」
「わかんねぇぞ・・・・なんせ・・・・・わかんねぇぞ。」
「なんせなんだよ!つか、アンタも来いよ!」
「いたっ・・・・いたたたたた、腹が・・・・げほっげほげほ・・・あ、血だ。」
「白々しい!白々しいからっ!」
あーもー、銀ちゃんは役に立たないネ!
神楽が一刀両断し、二人はぶつくさいいながら雨の中お妙を迎えに歩いていく。その後姿に「知らない人には気をつけるんだぞ〜?」と神経逆撫でしそうな台詞を吐いて、銀時は中へと戻った。
暫く、時計だけが時を刻み、つけっぱなしのテレビから、神楽が見ようとしていた、お互いの旦那を交換する番組が流れ出す。
先ほどと同じく、寝そべったままジャンプを読んでいた銀時は、不意に引き戸を叩く音に身体を半分起こした。
「あんだ?」
新八か神楽だろうか。
「どうかしたのか?」
ふあああ、と欠伸をかみ殺し、ダルそうな足取りで玄関まで行けば、狂ったようにガラス戸を叩かれ、一瞬ひるむ。
「!?」
ただならぬ雰囲気を感じて、銀時は勢い良く引き戸を開けた。
湿った空気が流れ込み、転がるように一つの影が部屋に雪崩れ込んできた。
「うわっ!?」
思わず半身を引けば、見知った黒髪と細い身体が己に抱きついているのを知る。
志村妙、その人である。
「お妙!?」
「・・・・・・・ちゃんは?」
「は?」
「新ちゃんは!?」
「え?」
「新ちゃんは!?迎えに来るって言ってたのに!?あんのガキゃどこ行きやがったああああ!?」
「おおお、落ち着けってお前!」
ばたばたと暴れるお妙を抱えたまま、銀時は彼女を中へと引きずり込む。
「お前、傘は?」
「投げた。」
「・・・・・・・・はい?」
玄関から上に上げようとして、彼女がびしょ濡れなのに気付き、そう訊ねたのだが、予想をはるかに上回る台詞を返されて、銀時の目が点になった。
「あの・・・・お姐さん?今なんて」
「だから投げたって言ったろ!?」
ぎん、と血走った目で睨まれて、「傘は投げるもんじゃなくて差すもんでしょ。」とどうでもいい突込みを返す。
「そうだった・・・・・傘は刺すもんだった・・・・。」
「姐さーん。漢字違うからー。それじゃあ殺人になっちゃうからー。」
「ストーカーは殺しても罪にはならないわよね?ちょっと正当防衛が行きすぎたってだけで。」
「行き過ぎた正当防衛ってなんだよ、おい。」
投げたって、あれか。
しつこいストーカー相手に傘を投げつけたってわけか。
「とにかくお前、奥入れ。そんなに濡れてちゃ風邪引くだろ?」
先に立って銀時は居間へと進む。廊下を数歩歩いてから、ふと彼は後ろを振り返った。
「お妙!?」
玄関先にへたり込む彼女が視界に飛び込んできたのだ。
良く見ると体が小刻みに震えている。
「・・・・・・・・・大丈夫か?」
いつもと180度違う姿を見せられ、何となく不安になりながら、銀時がしゃがみ込んで手を差し出した。
がし、と掴むお妙の掌は、氷のようにつめたい。
頬が青白く透けていた。
「なんなのよ・・・・ほんと・・・・新ちゃん・・・なんで居てくれなかったのかしら・・・・あんな・・・・・。」
かたかたと震えて、瞳孔が開き気味のお妙に、銀時は舌打ちをすると「立てるか?」と出来るだけ優しく訊ねた。
「たて・・・・・ます。」
「膝、笑ってるぜ?」
「大分走ったから・・・・・。」
「・・・・・・・・何があった。」
立とうとして、腰砕けになるお妙を溜息混じりに抱え上げ、銀時は低い声で訊く。
「新八も神楽も、お前を心配して迎えに行ったぞ?」
ソファーに降ろしてやるも、お妙はしっかりと銀時の襟元を掴んで放さない。まだ、体は震えていた。
「お妙?」
最強最悪の強さを誇る、一度は魔王とまで呼ばれた志村妙。
その彼女がここまで憔悴しきっているのだ。
きっととんでもない理由があるに決まっている。
それこそ、江戸を滅ぼしかねないような。
「・・・・・・たのよ、確かに。」
何も言わないのだろうか、と根気良く彼女の発言を待っていた銀時は、漏れたか細い声に聞き耳を立てた。
「居なかったのよ、確かに。誰も。雨の中・・・店の裏口・・・・。」
新ちゃん、遅いわね。
そんな事を考えながら、お妙は裏口からちょこちょこ裏通りを眺めて、弟が来るのを待っていたのだ。
雨だけがしとしとと降る、人通りの耐えた裏通り。
街頭の明かりもない、ゴミ捨て場だけがある、狭い路地。
何度目だっただろうか。
「もうそろそろ新ちゃんが来るかしらって・・・・私、また路地を覗いたの。そうしたら・・・・奥から提灯が近づいてくるのが見えて・・・・。」
お妙はなんの疑問も抱かず、それが新八だと思った。だから、迎えが来たから、と同僚に声をかけて、彼女は傘を手に路地に出たのだ。
新ちゃん。
声をかけて、提灯の方に歩いていく。
彼女の下駄の音だけが、雨音に混じって響く。
新ちゃん、ありがとう。迎えに来てくれて・・・・・・。
そこで、お妙の台詞はぷつりと途切れた。
確かに目の前で提灯がゆれている。
だが。
「提灯はあるの・・・・そこにあるの・・・・でも・・・・・でも・・・・・・。」
わ、とお妙はその場で顔を覆って身体をちぢ込ませる。ぎょっとする銀時の前で、お妙は悲鳴のような声で叫んだ。
「そこには誰も居なかったの!!!!」
恐怖に身が竦むも、これでも一応道場主の姉である。持っていた傘をその「浮かぶ提灯」に向かって投げつけた。
とたん。
なにをするんだ。
「!!!!!!」
「低い・・・・声が・・・・声がっ!」
確かに誰も居なかったのに!!!!!
身体を震わせるお妙の悲鳴のような台詞に、銀時はびしいっとその場に固まった。
「お・・・・・おいおいおいおい、銀さんをからかうもんじゃないですよ。そんなお前・・・・ちょっと無いわ、それは無いわ。」
「本当なんです!」
耳を塞ぐように両手で頭を抱えたお妙が、悲鳴のような声で訴えた。
「だから・・・・私・・・・必死で・・・・逃げて・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
いやいやいやいや。
ありえない。
ありえないよね、提灯が宙に浮いてるとかさ。
そもそも提灯は宙に浮くものじゃなくて、誰かが手に持つものでしょ。
足元が危ないからとかさ。
ほら、大体、足元も何も「ない」人間が提灯なんか持つわけないしぃ。
必要なくね?
提灯必要なくね?
青ざめる銀時を前に、震えるお妙。
「お前・・・・あれだ。そのストーカーさんは黒づくめの男だったんじゃねえの?」
だから闇にまぎれて見えなかったとかぁ。
「そんなわけありません!大体・・・提灯を持ってたんですよ?灯りがあるんだから、黒づくめだろうがなんだろうが、見えるはずでしょ!?」
私が提灯の灯り越しに見たのは、通りの向こうでしたっ!
「傘は!?傘はどうした!?ぶつかったんじゃねぇの?」
「・・・・・・・・多分・・・・すり抜けたような・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
不意に落ちた沈黙が、お妙の思考を、銀時が一番導きたくない結果にいざなう。
「ストーカーって・・・まさか幽れ」
「絶対無いぞ!そんな非科学的な現象あるわけないじゃんん!!!天人がうろうろする時代に!科学の時代にあるわけないじゃんんんっ!!!」
「じゃあ、なんだっていうんですか!?」
涙目で睨まれて、銀時は返答に窮した。
「あー・・・そのあれだ・・・・それは多分・・・・・。」
その瞬間、がらがらがら、と玄関の引き戸が開く音がして、はっと二人はそちらを見た。
新八と神楽が帰って来たのだろうか。
「新八か!?お妙ならここに」
「神楽ちゃん?!神楽ちゃんなの!?」
だが。
「・・・・・・・・・・をい。」
「・・・・・・・・・・・・。」
返事が無い。
凄い音をたてて、引き戸が開いたきり、何の音もしない。
不気味な沈黙が居間に落ちる。
転瞬、脱兎の如く逃げようとする銀時の着物の裾を、お妙が思いっきり掴んだ。どたあ、と床に二人で倒れこむ。
「放せっ!放せ、お妙!!後生だからっ!!!」
「どこの世界にヒロインほっぽって逃げるヒーローが居ますかっ!!!」
「お前ヒロインじゃないじゃん!お前確実に俺より強いじゃん!!最強じゃん!!!」
むしろお前がヒーロー!
「天下のジャンプで主人公張ってるくせに、女に何もかも投げつけるんですか!?」
「馬鹿!ちげぇよ!あれだよ!俺が必殺技を放つにはあれだ。十メートルは離れないと。敵から。」
「必殺技なんかもってないでしょ、あなたっ!!!」
「あるの!あるのよ銀さんにも!世界中の気を集めてさ!どかーんみたいなのが!ちょっと時間掛かるけどね!つか、大丈夫だから。お前なら勝てるから。」
「お前が戦わんかいっ!!!!」
ぎし。
ぎゃーぎゃー騒いでいるはずの二人の耳に、廊下の軋む音がするりと飛び込んでくる。
びきん、と二人はその場に硬直した。
ぎし。
ぎし。
ぎし。
一歩一歩、確実に近づいてくる音に、さあああああ、と二人の頭から血が引いていく。
「銀さん・・・・・。」
思わずお妙がぎゅっと銀時の襟元を握り締め、顔を埋めた。
「マジかよ・・・・・洒落になんねぇって・・・・・。」
なにやら、雨にぬれたような、ぺたり、ぺたり言う足音が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「お妙。」
しがみつくお妙を片手で庇い、銀時はゆっくりと身を起こす。抱きかかえたまま床に座り込み、男はちらと、木刀が置かれている、背後の机を見た。
「奴が来るのと同時に打ち込む。」
ゆっくりと立ち上がり、銀時はじりじりとふすまから距離をとって木刀のあるほうに歩み寄った。
「お前はそのまま、後ろに居ろ。」
「でも、銀さん・・・・・・。」
「心配すんなって。提灯ごときに俺がやられるかよ。」
すっとお妙を放して後ろ手に庇い、洞爺湖を掴む。
ぺたり、と引きずるようだった足音が止まり、緊張が最高に張り詰めた。
しばしの沈黙の後。
勢い良く。
襖がぱあん、と開かれた。
それと同時に。
「うおりゃあああああああ!!!!!!」
一気に相手との間合いを詰めるべく、銀時が床を蹴り、襖に向かって洞爺湖を振りかざした。
「死ねええええええええ!!!!!」
ばす、という何かを切り裂くような音がし、お妙と銀時は次の瞬間、真っ二つに切り裂かれる「提灯」を見た。
「あ」
お妙が、それに息を呑んだ・・・・・次の間に。
「ぎぃぃぇええええええええええ!?」
二つに切り裂かれた提灯が、ぼ、と燃え上がったかと思うと、融合し、なんとあっというまに、巨大な提灯を形成するではないか。
おーまーえーらー よーくーもー
提灯から恐ろしい声が響き、二人はその場に硬直した。
現れたのは。
一つ目の提灯の化け物であった。
「姉上!?」
お妙から悲鳴が上がり、でかさに目を疑っていた銀時は、飛び込んできた新八の声にはっと我に返る。
木刀を引っさげた新八がつれてきたのは。
「あんたああああああああ!!!まああああたよそ様にご迷惑かけてええええええ!!!!」
巨大化した一つ目提灯に、突進する一つの影。
「母ちゃん!?」
「必殺!スペシャル・アルマジロ・アタークっ!!!!」
吹っ飛ばされた一つ目提灯が悲鳴を上げ、銀時は見た。
目の前に居る、一つ目の提灯お化けと瓜二つで・・・・だが、目のところの睫が綺麗に、こう「くるっ」となっている一つ目提灯が、仁王立ちする姿を・・・・・。
「天人ぉ?」
平謝りする提灯親子を前に、銀時は疲れたような声で応じた。
「そうなんです。なんでも最近『すまいる』によく出入りするお客さんだそうで。」
迎えに行ったはいいが、お妙を見つけることが出来なかった新八と神楽は、そこで、店長にお妙の身辺に起きたストーカー被害を話し、心当たりはないか聞いてみたのだ。
そうしたら、唯一怪しい人物として店長から名が挙がったのが。
「この田中さんです。」
「・・・・・・・・・・。」
「田中ぁ!お前、姉御に恋するのは自由だけど、襲っちゃいけないネ!犯罪だぞ、田中ぁ!」
神楽に蹴りを入れられながら、しかし田中は涙ながらに銀時を見上げた。
「だって・・・・俺・・・・こんななりだし・・・・お妙さん・・・・・綺麗だし・・・・・。」
暗く濁った世界を照らす、お妙さんの美しさと、夜道を照らす田中一族とはどこか似てるところがあって・・・それで親近感が沸いて・・・・。
「なんだよ、田中一族って・・・・。」
「だから田中一族ですよ。」
「・・・・・・・・。」
言い切る新八と、唖然とする銀時を他所に、田中の告白は更に続く。
「お妙さんこそ・・・・俺達の灯を護ってくれるに足る人だと思ったばってん、こげなこつしちょったよ。」
「何語?なんか色々混ざってるけど?」
「そうして・・・・おら、おかんを安心させたかったんでげす!」
「だから何語!?統一してくんない!?」
さめざめと泣き出す田中に、田中母は、「このばかちんがあああああ!!!」と田中を殴る。
殴るといっても手が無いので、頭突きのようなものだが、感覚的には殴ったといっていいだろう。
「お母さん、そんなことされても嬉しくない!お母さん、龍之介が犯罪者になってまでお嫁さん貰って欲しいなんて思ってません!」
「・・・・・・・龍之介っていうのか、田中。」
「田中ぁ、お前、龍之介って面じゃねえぞ、田中ぁ!」
「いいから、神楽ちゃん。そこ突っ込まなくていいから。」
「お母さんが・・・・・お母さんが一番安心するのは、龍之介=フォン=アリシニータちゃんが」
「名前増えてるよ!アリシニータになってるよ!!」
「田中ぁ、お前、いっぱしの外国人気取りか、田中ぁ!」
「もういいから!ほっといてやれよ!突っ込むなよ!!いちいち!」
「田中(息子)が頑張ってる姿なのよ!」
「カッコ息子ってどんだけ!?」
「略しすぎネ」
「もうなんかどうでもいいんですけど・・・・・。」
「か、母さん・・・・!!!!」
「田中・・・・!!!」
ひしいっと抱き合う親子を前に、「最終的には田中かよ。」と全員が突っ込み、なんかぐだぐだなまま、この場の親子劇は幕を閉じたのであった。
「姉御、まだ起きないネ」
「おー。」
ぱたん、と和室の襖を閉じて、神楽が疲れたような声で言う。
「よっぽど怖かったアルな。」
「そーだなー。」
「銀ちゃん、怖くなかったか?」
ジャンプを読みながらソファーに寝そべっていた銀時は、やる気の無い声で「俺には愛と勇気と正義があるからな。」と投げやりに答えた。
「ジャンプヒーローは最終的にはやるときはやるようにできてんの。」
「だったら、ヒロイン護るのも役目ネ。」
不満げに頬を膨らませる神楽に、銀時はひらひらと手を振る。
「ありゃヒロインじゃねぇよ。魔王だよ、魔王。」
「魔王でも女護るの当たり前ネ。」
「んだよ!護っただろうが!最終的には!!!」
「姉御まだ寝てるネ!ショック大きかったアル!誰の所為!?銀ちゃんの所為!」
「ちがいますー。田中の所為ですー。」
「はいはい、やめやめ。」
姉御の敵ーっ!!!!
と、殴りかかる神楽を交わしたところで、新八が割って入った。
「もういいから、神楽ちゃん。・・・・銀さんも。」
にらみ合う二人の間に入り、疲れた様子で新八が場を取り仕切る。
「姉上も一応無事だったし。僕達が間に合わなかったから、こんなことになったわけだし。銀さんにも迷惑かけたし、お相子ってことで。」
「お前が言うな駄メガネ!」
「――――神楽ちゃん、ぶっとばしていい?」
「あーもーうっせえなぁ、わかったよ。俺も今後はもうちょっとやる気を出して、必殺技くらい持つから。ったく、もう夜中の三時だぞ、お前ら!とっとと寝ろ!」
俺ももう寝る!
がしがしと頭をかきながら言われて、二人はぶーぶー文句を言いながらそれぞれの場所へと引き下がった。
神楽が隣の部屋の押入れで、新八はお妙と一緒に和室。
銀時は居間のソファーにごろっとひっくり返ると、散々な目にあった、と溜息を零した。
あーもー・・・・・くっそ・・・明日は・・・てか今日は昼まで寝てやる。
暫くうとうとした後、不意に、人の気配を感じて、銀時ははっと飛び起きた。
「きゃあ」
「!?」
見れば、ソファーを覗き込むようにしてお妙が立っているではないか。
「お前・・・・・脅かすなよ。」
はうー、と肩で息をし、銀時はソファーに疲れた様子で座りなおした。
「銀さん・・・・・・。」
対して、おびえたようにお妙があたりを伺いつつ銀時を見やった。
「あの・・・・・提灯お化けは?」
なんか、気付いたら隣に新ちゃんが寝てるし・・・・あの・・・・・。
「あん?」
「まさか・・・・夢落ちとか言わないわよね?」
妙に不安げにそう告げるお妙をしばし見詰めた後、銀時はやる気なさそうに口を開いた。
「・・・・・・ああ、あれ。」
もう帰ったぞ、とか、あれ天人だったぜ?とか、色々結果を告げようかと思ったが、真実を語るより先に、銀時の口から別の言葉が零れ落ちていた。
「お前の後ろにいるけど?」
声にならない悲鳴が上がり、勢い良くお妙がすがりつく。
押し倒され、しがみつかれた銀時は目を瞬いた後、こみ上げてくる笑いをかみ殺すのに必死になった。
目を瞑り、銀時に抱き付いていたお妙がようやくそんな彼の様子に気付き、真っ赤になって男を睨み上げる。
「ぎーんーさーんーっ!!!!」
「悪かった!落ちうけ!ていうか、俺、一応お前護ったんだぜ!?」
「・・・・・・・・・・。」
拳を固めるお妙に、銀時はふっと笑って見せた。
「つかさ。お前でも怖いものあんだな。」
いまだに冷たくなったままの手をふわりと握られ、見透かすように言われた台詞に、お妙はひるんだ後、頬を膨らませてそっぽを向く。
「そりゃ、女ですから。」
その仕草に多少どきっとしながら、銀時は肩を竦める。
「マジでか。」
次の瞬間、ぶっ飛ばされたのは言わなくてもいい事実だろう。
(2008/02/23)
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