SilverSoul

08. わかってるくせに
 振り下ろされた刃を、がきりと受け止め、渾身の力をこめて吹っ飛ばす。

 己の手から外れ、弧を描いて落ちる銀色の刃に、女は魅了されたように立ち尽くす。
 刀を吹き飛ばした方の女は、肩で息をしながら、体制を整えた。

 抜き身を手に下げ、すっと、大地に立つ。

「これで、わかったでしょう?」
 はーはー、と深く息をつきながら、お妙は額に張り付いた前髪を払った。汗の球が、泥に汚れた頬を伝い落ちていく。
「どんなに切れる刃があっても。それを振るう腕があっても。戦う才能があっても。」

 貴女は私には勝てないのよ。

 大地に突き刺さる銀色のそれ。曇天の空に、鈍く光る太陽の、白く淀んだ光にもきらきらと光っている。

「なぜ・・・・・」
 がっくりを膝を折り、呆然とそれを眺める女に、お妙は唇を引き締めたまま「それはね。」と低い声で告げた。

「私は貴女が嫌いだからよ。」
「・・・・・・・・・・。」
 女が顔をあげた。お妙に負けず劣らず、頬を泥で汚した女が、じっとお妙を見ている。それを見返しながら、彼女は言い聞かせるように言った。

「大っ嫌いだからよ。」
 だから、私は貴女に負けない。貴女なんかに、負けたくないのよ。
「だから、貴女も私を嫌いになればいいわ。」
「ええ・・・・・。」

 それに、女は初めて笑った。ぱたぱたと乾いた地面に染みができ、うつむいたまま、でも女は笑って告げた。

「私も・・・・・あんたが大っ嫌いよ。」

 それを聞いて、お妙は心から嬉しそうに笑うのだった。




「で、盛大な切り合いの果てに、得たものが・・・・・・・・・・」

 何があったんですか、姉上!?今お風呂沸かします!ていうか、着物、着物ーっ!!!!
 怪我とかしてませんよね!?ああ!?血がっ!血がにじんでるー!!!

 どたばたどたばたと新八が部屋から部屋へと叫びながら渡り歩く。その様子をお茶をすすりながら眺める女は、両頬は泥だらけ、手の甲には血が滲み、足には青あざができていた。
 受け皿からせんべいを取ってばりばり噛んでいた銀時は、そんなお妙の様子にだるそうな眼差しを向けていた。

「ハーゲンダッツです。」
 にこにこ笑うお妙の手元には、ダッツの商品券が置かれていた。

 このかぶき町で行われた、福女を決める大会での商品である。
 レースは白熱した展開になり、お妙ととあるスナックのホステスが同時にゴールテープを切る羽目になった。
 そこから、どちらが「福女」にふさわしいか、死闘を演じ、冒頭の切り合いに発展。
 その末に手に入れた商品である。

「おーげさなんだよ、お前らはよー」
 もう一枚、とせんべいに手を伸ばし、「あーねーうーええええええ」ともはや半狂乱で泣きわめく新八に、嫌そうな視線を送った後、銀時は「大体な。」と胡乱気にため息をついた。

「んなもんの為に、そこまでボロボロになる、お前の気がしれねぇ。」
 新八、発狂するぞ?
 耳をふさぎながら言われて、それでもお妙は平然と笑って見せた。
「あら、もしこれが雪の下印のパーラーでパフェ食べ放題券だったら死んでもとろうとするくせに。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
 否定できない己が恨めしい。
「それに、命を賭けてほしいものを手に入れる、なんて素敵じゃないですか。」
 うふふ、と本当にうれしそうにダッツの商品券を見つめるお妙に、彼女の傷だらけの手や足、頬を見た後、「他人の気持ちも考えろっていうんだよ、まったく。」とぶつくさ銀時が文句を言う。
「なんです?それ。」
 それに、お妙が首をかしげた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「他人、って誰ですか?」
 重ねて尋ねるお妙に、銀時は「あれだあれ!」とがりがり頭をかいた後、なぜか爆発音がこだまする、志村家の台所を指差した。
「お前の弟だよっ!!」

 どーすんだよ、あの取り乱しよう!!

 どなられて「ああ、そうね。新ちゃんには心配かけちゃったわね。」なんてお妙はのほほんと答えている。

 新ちゃん・・・・・『には]?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そーだよ。どうすんだよ。」
 かすかに揺れた銀時の声のトーン。それに気付かず、お妙は再びお茶をすする。
「どうしましょう?」
 それからしげしげと、打撲の後も痛々しい己の腕の、うっすら血のにじんでいる包帯を眺めるお妙が、ちらと銀時を見た。
 お妙が銀時にだけ分かるように、嬉しそうに笑って見せた。

 わかってるくせに。

 にこにこするお妙に、銀時は間の悪そうな顔をした後。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず、だな。」
 ひとつ咳ばらいをし、言い繕うように告げる。
「ええ。」
「そんな巻き方じゃあれだからな、うん。ちょっと・・・・・かしてみろ。」
「はい。」

 彼女の腕を取ると、近くにあった救急箱を取り出した。

「ったく・・・・・こんな刀傷作って、嫁に行けなくてもしらねぇぞ?」
「そっくりそのまま、返しますわよ、コノヤロー」

 一人で大騒ぎし、とりあえず、替えの着物を持って戻ってきた新八は、大人しく手当を受けているお妙と、それを請け負っている銀時に様子にどことなく・・・・・というか、どうしようもない不安を覚えるのだったとさ。




(2009/02/08)

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