SilverSoul

 04.新八&神楽視点
「そう落ち込むなよ、新八。」
「別に・・・・・落ち込んでるわけじゃないし・・・・・。」
「男らしくないネ」
「や・・・・・だから落ち込んでるわけじゃないからね。」
「もうなんか、あれアル。恋人の浮気現場目撃して、でも怒鳴り込む勇気もなくて帰ってきちゃったスパイになれないマッキーネ。」
「古い歌たとえに出すのやめてくれない!?ていうか、別に違うからね!落ち込んでなんかいないからね!!」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」

 そのまま、万事屋の応接セットのソファーに向かい合って座った二人は、しばしの沈黙の後、どちらともなく溜息をついた。

「別に気にするような事じゃないアル。よくある事アル。しっぽりいっちゃってたってだけネ」
「いや、でもそんな感じに見えなかったし・・・・・ていうか、普通そういうのって僕たちが一番に気がつくことだとおもうんだよね、うん。」
 それに気付かなかったってことは、あれだ。
「僕たちが見たのは、全然別の意味で、全然別の・・・・・そう、完全に意味を履き違えてるみたいな、そんな感じのあれだと思うんだよね。」
「あれってなによ。」
「だから、あれだよ。」
「あれじゃわからないアル。あれってなんだ?」
「だから、ほら、あれをこれしたら、ああなった感じだよ。きっと。」
「だから、あれをこれしたらって、具体的に何をどうしたか教えろよ、コラァ!」
「だから、あれをこれしたんだよ!他に何をどうするっていうんだよ!!」
「何をどうするって、ナニをどうするってことじゃないのかよ!」
「ナニって何!?わかんないんだけど!?ていうか、神楽ちゃん、意味分かって言ってる!?」
「おまえがそう言うってことは、意味を知ってるっていうことネ!おまえこそ何考えてるあるか!?」
「ナニも考えてないよ!別に僕は・・・・・何も考えてないってばよ!!」
「ナニ考えてるんだか・・・・・きもいアル」
「神楽ちゃんのほうが、可笑しいだろうが!?ていうか、ほんと何もないよ!姉上はいつでも姉上だよ!!」
 清らかな体だよ!!
「それがおかしいネ!」

 きっぱりと言い切る新八に、神楽がばん、とテーブルをたたいた。うだうだと理屈を並べる新八を睨む眼差しは、異様に鋭い。

「姉御だって、女ネ。さびしい夜もあるアル。その時に」
「神楽ちゃんが言うことじゃないから!!!ていうか、やめて!?別に・・・・・そんなない事実発掘してどうするの!?」
 あわあわと手を振り、「とにかく!!!」と新八は無理やり話題をぶった切ろうと声を張り上げた。

「僕たちが見たのは、何かの見間違いで」
「何をどう見間違えたって言うんだ、この駄眼鏡。」
「それだよ!!!!」

 頬を膨らませ、酢昆布を咥える神楽に、テーブルにだんっ、と片足を乗せた新八が、びしぃっと指を突きつける。

「僕は目が悪い!!!だから、見間違えたんだよ!!!!」
「だから、何を見間違えたっていうんだ、コラァ!!」
「それは・・・・・。」

 そこで新八は先ほど見た展開を、新八なりの視点で解説し始めた。




「せっかく傘を持ってきたのに・・・・・新ちゃん、出かけてるんですか?」
 ごめんください、と引き戸を開けて入ってきたのは、新八の姉の志村妙だった。泥棒に入られてもとられるものもなし、刺客に襲われるような覚えもない、敵ならそこらへんに居るが、どうせ用事があるのは自分だから、なにもしなくてもあちらから来るだろう。
 そんな理由で、来客をで迎えるでもなく、しかもやってきたのがお妙と知って、ますます起きる気もなく、ごろんとソファーにひっくり返っていた銀時は、足音軽くやってきたお妙を一瞥した。
「ああ。神楽と買い物に行ってるよ。」
「今日もお仕事、無いようですね。」
 溜息をつくお妙に、「馬鹿言うなよ。」と銀時はジャンプを顔に乗っけたままあくびをかみ殺した。
「山のように来るけど、選んでんだよ、俺くらいの万事屋になると。」
「そうですか。」
 呆れたように返し、ちらと片付かない応接室を見回して、お妙は机の前に、新八の傘を立て掛けると、「とにかく、新ちゃんに渡してくださいね。」とだけ言って、部屋から出ようとした。
 その時である。
「あら?」
 くらり、と体が揺れて、お妙はバランスを崩した。
 そのまま足元がおぼつかないまま、いきなり銀時の寝ているソファーの上にたおれこ


「ちょっと待つネ新八!なんで姉御は急にバランスを崩したアルか!」
 調子よく、「自分が見た状況の説明」を続けていた新八は、神楽の突っ込みに、ぐっと言葉に詰まった。
「きっとあれだよ・・・・・銀さんの使っていたローションが」
「ローションあるか・・・・・」
「そう、それで姉上は足を取られて」
「いまいちリアリティーにかけるネ。大体ローションこぼれてたなら、普通に滑って転ぶだけアル。」
 姉御はソファーまで行ってるんじゃなかったのか。
 半眼で睨まれて、ぐっと新八は詰まった。
「じゃあ、その時、地震が起きたんだよ。この江戸に。」
「地震アルか。」
「そう。それで」


「あら?」
 唐突に足元が揺れて、お妙は思わずバランスを崩す。
「なんだ、地震か?」
 天井の電灯のひもが揺れているのを見て、あわてて銀時が体を起こした。
「きゃ」

 その時、お妙は足もとにこぼれていたローションに


「ローションはやっぱりこぼれてたアルか。」
「や、まあ・・・・・ていうか、別にもうローションはいいよ。つか神楽ちゃんが勝手に言うから、ローション話題になっちゃってるけど、地震だけでいいから。」
「ローションは要らないアルか?」
「だから、神楽ちゃんはそういうこと言ったら駄目だって」


「きゃ」
 思った以上に大きく揺れて、お妙はバランスを崩す。
「おい?」
 倒れそうになる彼女を慌てて支えようと、銀時は手を伸ばした。だが、ひときわ強く揺れて、重心を失った二人は、体制を立て直すことかなわず、ソファーの上に倒れ込んだ。


「なるほど。それなら、あの状況の説明はつくね。」
 でも、今日地震なんてあったアルか?
 酢昆布をくわえたまま尋ねられて、新八は眼鏡を光らせたまま、「そして!」と強引に話を続けた。



「ちょっと銀さん・・・・・重いっ!」
「おま・・・・・殴るなっての!?おれだって好きでお前の上に乗っかってるわけじゃねえって!!」
 悪態をつきながらどこうとして、不意に着物を掴まれる。思わず腕のしたの人間を見れば、座ったまなざしが己をとらえていた。
「天井落ちてきたらどうすんだ、コラ」
「・・・・・・・・・・。」
 盾にする気か、コノヤロー
「ちょ・・・・・放せこの馬鹿!?逃げるからね、俺。お前なんか見捨てて逃げるから、ほんと!」
「こんなところで私は死ぬわけにはいかないの。というわけで、銀さん、代わりに儚くなってくださいな。」
「おまえ、その本気モードやめてくんない!?」
 そのまま押し問答を繰り返したのち、二人は地震の揺れが収まるのを待った。



「そして、そこに僕と神楽ちゃんが帰って来て、二人が『お帰り』って言って」
「ちょっと待つアル!!」
 話を締めくくろうとする新八に、神楽が待ったをかけた。
「それだと一番肝心な部分の説明がついてないネ」
 びし、と指をさされて、新八は返答に詰まった。たしかに、その通りなのだ。だが、認めたくなくて、新八は「いや、他に僕は何も観てないよ」と相変わらず何も写さない眼鏡のまま答えた。
「それはな、新八。事実から目をそらしてるだけアル」
 私はみたネ!!

 銀ちゃんが姉御の

「それ以上言わなくていいからああああああ!!!!」

 ぐっとこぶしを握り締める神楽のセリフに、あわてた新八が割って入る。

「なんでアル。そこがはっきりしないと、すべてがはっきりしないアル」
 お前が見たのは、地震の所為じゃないのか、コノヤロー。
 睨まれて、新八はうろ〜っと視線を泳がせた。
 すべてを地震が起きた所為でのアクシデントということにするなら、あれは。

「つ・・・・・つまり・・・・・地震に驚いた姉上が・・・・・急に息が苦しくなって・・・・・。」
 そう、人命救助!
「人命救助で服脱がすのか?」
「言ったでしょ!?息が苦しくなったの!パニックの発作が起きたの!!!それで、銀さんが」



「おい!?」
「すいませ・・・・・なんか・・・・・具合が悪く・・・・・なっちゃって・・・・・。」
 不意に、自分の下にいた女の呼吸が乱れ、あわてた銀時は、青ざめ、脂汗をかくお妙にぎょっと目を見張った。
「おいおいおいおい、大丈夫かよ」
「すいませ・・・・・くるし・・・・・。」
「しっかりしろって!?」

 あわてた銀時は、彼女の細い腰から胸にかけてがっちりと固めて圧迫している、きれいな帯の端に手をかけた。

「これ、緩めたら少しは楽になるか?」
「ありがと・・・・・ございます・・・・・。」


「そこに僕たちが帰ってきたってわけだよ。」
「割にはそのあと、姉御、右ストレートで銀ちゃんふっ飛ばしてたネ」
 元気に見えたぞ、新八
「お、帯が緩くなって呼吸が楽になったからだよ!そして・・・・・僕たちに心配かけじと、元気なところをアピールしてくれたんだよ!」
 流石姉上!!!
「声、震えてるぞ、新八ぃ」
「じゃあ、神楽ちゃんはいったい何があったと思ってるんだよ!?ええ!?」
 血走った眼で睨まれて、神楽はふっと意地悪く笑った。
「そりゃ勿論。」


「お妙・・・・・。」
「銀さん・・・・・駄目です、そんな・・・・・。」
「いいだろ?今は誰も居ないし・・・・・それに」
「それ・・・・・に?」
「今日は危険




「それ以上は駄目だから、神楽ちゃああああんんっっっっ!!!」

 がばあっと神楽の口元をふさぎ、新八は青ざめた顔でぶんぶんと首を振る。
「あ、姉上以前の問題に、神楽ちゃんがそう言うこと言っちゃ駄目だからね!女の子なんだからね!!」
「きょうびの女子高生はこれくらいへっちゃらアル」
「それでも駄目だから!神楽ちゃんのキャラじゃないからネ!?」
「いつまでもお子様ポジションだから、バカにされるアル。いい加減童貞捨てて来い、新八ぃ。」
「腹立つ!なんか腹立つ!!神楽ちゃんに言われる筋合いないんですけど!?」

 ていうか、そんなことなかったからね!地震だからね!!地震と発作がたまたま重なっただけだからね!?

 がくがくと神楽を揺さぶって、そう主張する新八に、神楽は「やれやれ」と酢昆布をくわえたまま溜息をついた。

 実際、地震は間違いなく起きてないし、ていうか、今日は快晴で傘なんて夜兎以外必要ない天気だし、そして、お妙は奇妙な笑顔を張りつかせたまま万事屋を出て行って、銀時があとを追っかけているのだ。


 何があったのか。
 それは新八にも神楽にも知ることはできないが。


「新八、諦めるアル。姉御なら、自分で決めて、ちゃんと幸せになれるアル」
「だから、認めねぇっていってんだろがっ!!!!」


 すくなくとも、偶然の積み重ねが原因の出来事を目撃したのではないだろう。


「だから信じねぇって言ってんだろがっ!!!!!!」


 真相は藪の中。


(2009/01/22)

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