缶詰のシロップは
ジュースだと思う
自他共に認めるほどの糖分王だというのに。
(甘くねぇ・・・・・)
銀時は半眼で目の前に居る女に、ぼんやりとそんな感想を抱いた。
とにかく甘くない。甘さの欠片も無い、女だ。
たまには何か「甘い」と感じる事をしてくれと願うのだが、悲しいかな、身体の半分が「暴力」で出来ている女には到底無理な話だった。
ああ、足りない。
甘みが足りない。
そのほか・・・・・例えば料理の腕が錬金術師だとか、真選組の隊士達を土下座させるような力の持ち主だとか、銀魂における最強のジョーカーキャラだとか、そういった事には目を瞑るから、せめて。
せめて、糖分王の自分の前では、多少なりとも「甘み」を持たせて欲しい。
でなければ、自問自答してしまう。
(なんでこんな甘くねぇ、可愛くねぇ女と・・・・・)
一緒に居るのだろうか、と。
「・・・・・なあ、お妙」
もしかしたら、気付いていないのかもしれない。
目の前で取りだしたケーキやムース、プリンを次から次へとテーブルの上に並べる女に、銀時は勇気を出して切り出してみた。
「あのな、お前、もうちょっと」
「さ、銀さん。どれでも好きなものを食べて構いませんよ」
どれがいいです?
「いや、どれが良いとか・・・・・まあ、どれも美味そうだし、それはそうなんだけど・・・・・いやそうじゃなくて、お前さぁ・・・・・このキャラメルプリン、あれじゃね?限定品じゃね?やっべ、ちょ、これ貰うけど・・・・・ってそれ以前にだな、お姉さん」
「さ、どんどん食べてください。まだまだ一杯有りますから」
「いや・・・・・うん、これ美味いね。このまったりとしたクリームが・・・・・って、そうじゃなくてだな、お姉さん?聞いてる?だから」
「ほらほら早く食べてください。これ、全部銀さんの為に買って来たんですから」
「いやうん、嬉しいよ?嬉しいけどね、銀さん、これ全部食べたら幸せだけど多分、糖分過多で死ぬんじゃないかな?うん・・・・・だからね、そういう甘さじゃなくてさー、もっと、こう」
「まだまだまだまだ有りますからね」
一杯食べて、立派なお侍さんになるんですよ〜?
「ていうか、おいー!?一体どんだけ食わせる気なんですかコノヤロウ!!」
万事屋銀時の居間に、普段なら絶対にあり得ない、甘い匂いが充満している。匂いだけで胸やけを起こしそうなそれは、銀時にとっては歓迎するべき香りなのだが、この状況は頂けない。
応接セットのソファに腰を下ろしたお妙が、持っていた袋から、次から次へと甘味を取り出してくる。
羊羹からティラミスまで。洋菓子和菓子なんでもありだ。餡子の缶詰まで出され、銀時は眩暈がした。
確かに嬉しいが・・・・・嬉しいが、不満だ。
「ちょ・・・・・おま、いくら銀さんでも桃の缶詰のシロップとか全部飲まないし!」
「まあ、そうなんですか?糖分王なんて言われてるんですし、美味しいから飲んでください」
「確かに美味いケド・・・・・てか、聞いてる!?お姉さん、もしかして俺殺す気!?」
かぱん、と軽い音を立てて餡子の缶詰の蓋が開かれる様を眺めていた銀時は、瞬時に青ざめた。
「いくら俺でも、餡子そのままとか喰わないから!ていうか、食うならご飯を」
「はいはい、宇治銀時丼ですね」
判ってますよ。
はい、とレンジでチンするタイプのご飯を出されて、「そうそうこれに餡子を乗せて」といそいそソファから立ち上がった所で、彼は気付いた。
「って、そうじゃねぇんだよ、お姉さぁあああん!!!」
くわっと目を見開き、銀時がくるりと彼女に向き直る。そのままずかずかと近寄ると、大量の甘味の載ったテーブルを指差しながら、彼はお妙の隣に腰を下ろした。
「甘いものは嬉しいけど、量が多すぎんですけど!」
こんなにいっぺんに食えるわけ無いよね!?糖尿病一歩手前の俺を殺す気ですか!物には限度ってものが有る事を知ってるんでしょうか、おねーさーんっ
喚く銀時の主張を、にこにこ笑いながら聞いていたお妙が、次の瞬間彼の襟首をつかみあげて締め上げる。
「こ ん な に か弱く可愛らしい女が、ボンクラでどうしようもなくてマダオ代表みたいな男の為にこれだけ好物を用意してやったってのに、文句があんのか、オラ?」
喧嘩売ってんなら買うぞ?
ぎりぎりぎりぎりと締めあげられ、ギブギブギブギブ、と銀時がお妙の腕をたたく。
「だったら、全部食えや」
底冷えしそうな眼差しで見下ろされ、解放された銀時がげほげほとむせながら、膝を抱えたくなる。
ナニコレ。
何なの、これ。
確かに俺は甘いものが大好きよ?大好きだけど・・・・・え?何?餌付け?餌付けなの、これ。
「あ、甘いものは一日一回ってお母さんが・・・・・」
目の前にあるケーキ。それをフォークで突き刺して(一個まるまるを、だ)あーん、なんて超笑顔で差し出すお妙に、銀時は青ざめて切り返す。
甘いものは好きだ。
好きだが、これは行き過ぎだ。
「銀さんってマザコンなんですか?嫌だわ、どうしよう。私マザコンの男にアレルギー反応が出るから、殲滅しなくちゃ」
大人しく成敗されてくれます?
「いやいやいやいや、そじゃなくて、一般論を・・・・・てか、お前、これ好意と言う名の押し売」
「ぐだぐだ言ってねぇで食えや」
もふ、と口の中にケーキを押し込められ、バターとクリームと砂糖の香りが口一杯に広がる。
確かに美味い。
美味いけど・・・・・
(あ・・・・・甘くね・・・・・)
普通もっと甘いんじゃねぇの?これ、一応「あ〜ん」とかってシチュエーションだよね?もっともっと、甘いよね、普通!足りてないんですけど!甘さ足りないんですけどぉっ!!
「おふぁへ」
もっふもっふと口を動かしながら、銀時は更に「これも美味しそうですよね?」とでろんとした羊羹一本を切らずにチョイスするお妙のその手を必死で掴んで止めた。
「オマエ・・・・・絶対判っててやってるだろ!?」
青筋を立てて言われ、きょとんと銀時を見上げたお妙が「何がですか?」と小首を傾げて壮絶に可愛らしく笑って見せた。
壮絶に可愛らしいが・・・・・壮絶に苛立たしい。
「確かに俺は甘いものが好きですけどっ!そうじゃない事くらい判るよね!?」
いい歳した男女が、こうやって並んでソファに座って、男の好きなもんフォークに刺して差しだしてるっつーのに、なにこの色気の無さ!!ないわ!お前、マジ無いわ!!!
「お前の貧乳位無いわ!!!」
くわっと目をひんむいて言われ、その銀時を見上げていたお妙が笑みを深めた。
ごす、と凄い音がして、銀時の顔面に鉄拳がクリーンヒットする。
「誰が貧乳ですか、誰がっ!!」
声にならない声で悶え、ソファの上でのたうちまわる銀時に、お妙は目を三角に吊り上げる。
「目がっ・・・・・目があっ!!」
「多少なりとも、瞳に生気が宿ればいいですね」
「オマエな・・・・・」
ひりひりする鼻っ柱を抑えながら、銀時はきっとお妙を睨みつける。
「貧乳言われんのが嫌ならもっと別の面でその乳をカバーしてくださいぃー!」
彼の視線の先に目をやり、ぴき、と笑顔のお妙のこめかみが引き攣った。
「失礼にも程が有りますね、銀さん。侍の風上にも置けませんので今すぐ死んでくださいっ!」
「ホントの事言って何が悪いんですか!?大体お前には色気が足りないんだよ!!」
きっぱりと言い切ると、真黒なお妙の眼差しが、絶対零度の冷たさを含んで銀時を映した。
「女性をそんな瞳で見るなんて、最低ですね」
セ ク ハ ラ で す
低ぅい声で切り出され、銀時はうっと言葉に詰まる。確かに、セクハラ発言かもしれないが。かもしれないが。
「こう見えても俺、男なんですぅ」
挑発するように、馬鹿にしたような表情で告げる銀時は、「最低ですね」と傍に置いてあったフォークを握りしめ、突き出そうとするお妙の、その細い手首を掴んだ。
「っ!?」
「色気ねぇし、暴力的だし、ほんっと手間がかかんのな、お前」
怒りにまかせ、不貞腐れたように言って、銀時は立ち上がる。お妙の手を掴んだまま、そのまま強引に引き寄せた。
「ちょ」
たたらを踏んだ彼女が、まっすぐに銀時の腕の中に倒れ込む。かあ、とお妙の頬が赤くなった。
「俺は最低の男だしぃ、マダオですからぁ、こんな風にむかっ腹立つような事されると、仕返ししたくなるんですぅ」
ついでに欲望には正直なんですぅ。
ぐ、と腰にまわした腕に力を込められて、お妙は反射的に逃げようと上体を起こす。男の胸板に手を付いて、ぐいっと身体を逸らすが、逆に圧し掛かられて、逃げ場が無くなる。
彼の瞳に、自分が映っているのに気付いて、お妙はぎりっと奥歯を噛みしめた。
「最低ですね」
再び同じ台詞を繰り返すが、彼女をようやく捕えた男は放すつもりはさらさらないようだ。
「その最低男に、こんなに沢山甘味を買ってきたのは、どこの誰だ?」
にっこり笑うこの男を殴りたい。
ああそうだ。
近くに居て、こんな風に触れあう度に殴りたくなるから、甘いものを大量に用意したと言うのに。
「・・・・・・・・・・卑怯だわ」
視線を逸らしてそう言えば、「どっちがだよ」と切り返される。そっと見上げれば、ぶっきらぼうな男も視線を逸らしているのが見えた。
「こんだけ甘いもの用意して・・・・・それで時間つぶしてはい終わり、とか言わないでしょうね、お姉さん」
つ、と腰から登る手が、背中を撫でる。ぎくん、と身体を強張らせて、お妙は彼の胸板に置いていた手をぎゅっと握りしめた。
銀時の羽織を握る手は、拒絶のようにも縋っているようにも見えた。
「それで、時間つぶして終わり、でも構わないんじゃないのかしら?」
貴方、甘いものに目が無いじゃない。
挑戦的に見上げるお妙に、微かに目を見張った銀時が「あー・・・・・」と困ったようにあさっての方向を向いた。僅かに目許が赤くなっている。
「まあ、そうだけど・・・・・」
「でしょう?」
甘いものが有れば、何だって構わない感じじゃないですか。
問い詰めるお妙に、銀時は「まあそうだけどさ」と歯切れ悪く答えた
「確かにそうだけどな・・・・・あ〜その〜・・・・・甘くないって言うか・・・・・」
「何がですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・お前がいんなら、別の甘さが良い」
「?」
別の甘さ?
ちらっと落とされる視線に、お妙は首を傾げた。
「果物とか?」
「ちげーよ!」
声を荒げ、銀時は真正面からお妙を見据えて、その鼻先に指を押しつけた。
「お前だよ」
「?」
「だからっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああもうっ!!!」
メンドクセェエ!!!
「!!!」
ぱっと手を離し、がしがしと頭を掻く男に、お妙が眉を吊り上げる。
「面倒くさいってどういう意味ですか!!」
「そのまんまの意味だよ!お前、マジそれ天然!?何なの!?ホント、嫌になるわ!!」
「ああ!?女の所為にする気かコラァッ!」
「世の女はもうちょっと察しが良いわ、ボケェッ!」
「だから何が」
「お前は俺のカノジョじゃないんですか、コノヤロウ!!!」
「だから、こうして貴方の好物大量に発注して仕入れてきたじゃないですかっ!」
「お前は問屋か!!!!」
そうじゃねーっての!!!
肩を怒らせて怒鳴り、銀時はいきなりお妙を抱き上げる。
「!?」
ぎょっとする彼女を抱えたまま、自室の襖を開けて放りだした。
「いっ・・・・・ちょ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
圧し掛かられて、はっとお妙が目を見張った。吐息が触れる位置に、銀時の胡乱気な眼差しが有る。だが、その瞳にはいくらか、ほんのりと、いつもにはない色が滲んでいるようで、お妙はごくん、と喉を鳴らした。
「何のつもりですか?」
「それはこっちの台詞だっての」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あんなに大量の甘いもの発注して、それで満足か?俺ってその程度?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「答えろよ」
じっと覗きこんでくる瞳が嫌だ。お妙の手首を押さえ込んでいる、自分の掌よりも一回りも大きな掌が嫌だ。
どっからどうみても、マダオなのに。
いいところなんかひとっつも思いつかないと言うのに。
「・・・・・・・・・・・・・・・普通に傍に居ても、何をしていいか分からないんだから、仕方ないじゃない」
この男の美点が見つからない。だから、傍に居ると殴りたくなる。
それならばと、甘いものを食べて、幸せそうにしているのを、眺めて居たかったのに。
「・・・・・それ、俺の扱い、最低じゃね?」
思わず半眼で、脱力しそうな雰囲気で言われて「だってそうでしょう?」とお妙は圧し掛かる男を見上げた。
「他に、貴方と居て、何をするって言うんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ナニ?」
殴ろうと振りあげる手を慌てて押さえ込み、銀時はそっと彼女の首筋に伏せる。
「ちょ」
「別に何もしなくていいんじゃねぇの」
吐息が、首筋を撫でて、かあっとお妙の頬に熱が集まる。
「イラっとしたんなら、殴ればいいし。口喧嘩だろうがなんだろうがすればいい。説教だって聞いてやるし・・・・・マダオだって、詰るんならそれでもいい」
するっと、銀時の手が腰を撫でて、お妙は「銀さんっ」と切羽詰まったような声で名を呼んだ。
「どこ触ってっ」
「んで、ほんの少し」
髪を引っ張るお妙の手を、再び押さえ込み、銀時はそっと彼女の細く白い首に唇を寄せた。
「甘えてくれればいい」
「っ」
身じろぐ彼女に、気を良くする。
「こんなに大量に甘いもの摂取したら、銀さん、多分本当に死んじゃうからさ」
これくらいでいいよ。
「・・・・・・・・・・・・・・・甘さ控えめですか」
「辛みの方が強い気がすんですけど」
眉間にしわを寄せて、銀時を睨むお妙。その彼女を、ちゅっと音を立てて首筋から唇を離した男が、覗きこむ。
「・・・・・・・・・・なあ」
「なんですか」
「・・・・・・・・・・今更なんですケド」
「はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・嫌、とか?」
うろ〜っと視線を泳がせて尋ねられた台詞に、お妙は一瞬あっけにとられると、にっこりと笑みを見せた。こめかみに青筋が浮いている。
「このまんま、布団も無しにするつもりなら、ぶっ殺しますよ?」
指先で、額に掛る黒髪を払ってやる。ほどけて、白いシーツに散るそれを撫でながら、銀時は大人しく押し倒されている「彼女」に多少なりとも動揺していた。
(いいんだよな・・・・・いいんだよな!?・・・・・合意ってことなんだよな!?)
彼女は恥ずかしそうに顔を枕に押し付け、着物の袷を握りしめている。髪を撫でていた指先をゆっくりと移動させ、赤く染まった頬を撫でる。びくん、と肩が震え、銀時は眩暈がした。
なんだこの、生き物。大人しいとやり難いんですけど、コノヤロウ。
「あ〜・・・・・その、だな、お妙さん」
「なんですか」
極力感情のこもらないような声で答えるお妙に、銀時はごくん、と喉を鳴らす。
「こっち向いてくれないと、キス出来ないんですけど・・・・・」
「しなきゃいいじゃないですか」
「いやいやいやいや・・・・・ここはさぁ、ほら、お前の緊張を和らげるためにもさぁ、一発ちゅーっとしておいた方がいいでしょ」
「結構です。勝手に一人でしてください」
「この状況でそんな生殺し要求!?」
ちょ、マジで拒絶してんの、お姉さん!?
慌てたように肩を掴む銀時を、お妙が殺気に満ちた眼差しを送りつける。目尻に涙が浮いているのに、銀時はぎくりとした。
え?なに・・・・・合意だよね?これ、合意だよね!?俺、犯罪者じゃないよね!?!?
後で訴えられるとか、など一瞬でぐるぐる色々考えた銀時を余所に、涙目のお妙は「男なら一々確認とんじゃねぇ!」と低い声で告げる。
「いやでもほら、お姉さん・・・・・俺、多分お姉さんに訴えられたら、有罪確定だから。一応合意ってことで、念書にでも判を押しておいてもらわないと気が気じゃないと言うか」
「・・・・・どうしようもない××××野郎ですね」
にっこり。
拳を固めるお妙に心持ち青ざめながらも、ごほん、と銀時は咳払いする。
「・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、本当に良いんだな?」
「女子に二言は有りません」
「じゃあその手に持ってるスタンガンを捨ててもらえないでしょうか、お姉さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「んなもん持ってる女、抱けるわけないだろがっ!」
思わず両手で持って構えるお妙から、それを取り上げようと手を伸ばす。抵抗されるかと思ったが、あっさり手の中に落ちたそれを放り投げ、銀時は、目許を染めて唇を噛むお妙の、その帯に手を伸ばした。
しゅるっと乾いた衣擦れの音がして、彼女の腰を彩っていた美しい帯がほどける。
その瞬間、あり得ない高音が万事屋一杯に響き渡った。
「!?!?!?!?」
ぎょっと身を起こす銀時に、「ああ」とお妙が目を見張った。
「すいません、防犯ブザー仕込んでおいたんです」
「はあ!?なに!?」
「いえ、ですから、防犯ブザーを」
「なんだって!?何言ってんのか聞こえないんですけど!?」
「ですから、防犯ブザーを帯に」
口を手で囲って叫ぶお妙の声は、物凄い音にかき消されて届かない。銀時は大急ぎで帯を解き切ると、そこに仕込まれていた防犯ブザーをようやく止める事に成功する。
「何考えてんですかー!おねええさあああんっ!!!!」
絶叫する銀時の顔面に拳を突きさし「煩い!」とお妙は一喝する。
「だって・・・・・銀さんの家にいくんだから、それなりの準備です」
「どんだけ警戒してんだよお前・・・・・」
半ばあきれる銀時は、「ああもう、やってらんねぇ」と彼女の上から身体を起こす。そのまま不貞腐れたように畳に座りこむ男の背中に、お妙は「だって」とぽつりと漏らした。
「さっちゃんさんが、こうした方が良いって」
「何牽制を間に受けてんだよ!?」
「ケンセイ?・・・・・ああ、剣の達人の」
「そりゃ剣聖だろ!つか、そじゃなくて・・・・・防犯ブザー仕込んどくとかわっけわかんねえっての!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だってだって、とお妙が繰り返す。ほどけた帯を見詰めて、それから腰ひもだけで身にまとわりついている衣を見下ろした。
その紐に、ゆっくりと手を掛ける。
「女性の着物って」
「・・・・・・・・・・」
「案外着るの、面倒なんですよ?」
「・・・・・・・・・・」
「着るの・・・・・面倒だなぁ?」
しゅるっと再びの衣擦れの音に、ゆっくりと銀時が振り返る。布団の上に座した女が、腰ひもを解いて行く。
「おまっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふっと視線を逸らすお妙をしばらく眺めた後、ふっと溜息のように息を吐くと、ゆっくりと男は手を伸ばした。
「お妙」
肩から首へと腕が滑り、抱きこまれる。口付けを受けながら、とさっと布団に再び押し倒されて、お妙は深く深く口付けを切り替えていく銀時に、目を瞑った。
「もう変なとこに変なもん、仕込んで無ぇだろうな?」
口付の合間に尋ねられ、「んぅ」と甘い声を上げるお妙が、ゆるゆると目蓋を持ち上げ、甘く潤んだ眼差しを銀時に向けた。
「・・・・・・・・・・多分」
「・・・・・怖いんですけど」
くっと笑って見下ろす男の、そのはだけた羽織りに指を這わせて、お妙はぐっと引っ張った。
再び唇が重なる。
「・・・・・くのいちって女性器に毒薬とか仕込んでたって聞いたような気が・・・・・」
「恐ろしい事言わないでくれます?」
「いいじゃないですか、使い物にならなくても」
浮気防止ってことで。
「お前さ・・・・・本気で言ってんですか?」
青ざめる銀時に、お妙は「さあ」と可愛らしく笑った。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
余裕なのか違うのか。だが、彼女に振り回されているのも確実で。ち、と舌打ちして、銀時はふわりと笑うと「ほんと可愛くねぇの」とだけ呟いた。
ゆっくりと、彼女の着ている着物も単衣も脱がせていく。
散々貧乳言われた、柔らかな膨らみが現れ、お妙は大急ぎで銀時の目を覆った。
「お姉さん・・・・・」
「見なくても良いでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ヤダ」
ちょっと!?
細い、お妙の手首を掴んで、銀時はあっさりシーツに縫いとめる。両手を開かされ、空気に触れる二つの柔らかな双丘。まじまじと見詰められるのが嫌で、お妙はふいっと男から視線を逸らした。
鼓動に震えるやわ肌と、ゆっくりと自己主張を始める先端に、銀時は小さく笑う。
「まな板は撤回だな」
「殴りますよ」
きっと羞恥に染まった眼差しで睨まれる。押さえ込んだ両手に籠る力で、それが虚勢ではないと知ると、銀時は「触りたいんですけど・・・・・」と文句を言いながら、彼女の柔らかな胸に顔を埋めた。
「ちょっ!!」
濡れた舌が、双丘を伝って行く。熱を奪い取り、空気に触れてひやりとする。
鼓動が煩い。
きゅっと目を瞑るお妙を余所に、銀時は立ち上がる先端を口に含んで舌先で弄り始めた。
「んっ」
鼻にかかるような甘い声が漏れ、丁寧な触れかたに時々ひくん、と身体が跳ねる。徐々に、彼女の手から力が抜け、銀時の手に感じる反発が減って行く。ゆっくりと、手首や手の内側を撫でるように指が辿って行き、男の指先が、彼女の胸を撫でていく。
「あ」
長い指と広い掌。
彼女の柔らかな胸の弾力を確かめるように、ふにゅふにゅと動かされて、声に甘みが混じって行く。
「あっああっ・・・・・あぅっ」
尖って色づき、震える先端に舌を絡め、指先で弄ぶ。単衣の中で、彼女が身じろぐのが判った。
くっと小さく笑い、銀時はゆっくり己の羽織を脱ぐ。着ている物を脱ぐ彼をぼうと見上げていると、ゆっくりと背中に手を回されて、抱き上げられる。最後の一枚を取り払われて、一糸まとわぬ身体を曝す。窓の障子がオレンジ色で、日が沈もうとしているのが判った。
「・・・・・・・・・・銀さん」
「ん?」
か細い声で名を呼ばれ、彼女の肩口に顔を埋め、口付けを繰り返していた男が、甘ったるい声で応じる、
胸を弄る掌と、濡れた唇に呼吸の上がるお妙は、きゅっとシーツを握りしめた。
「痕付けたら、殺しますから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
実行されそうで怖いんですけど。
「見えなきゃいいだろ?」
逡巡の末、そう答え、緩やかに彼の手が肌を這いだす。身体の輪郭を確かめるように撫でていく掌。その掌を追いかけるように、唇がそこここを攫って行き、その度に、お妙の身体が反応する。
「っあ・・・・・あんぅ」
緩く持ち上げられた脚の、その膝に歯を立てられる。びくん、と震えるお妙を確かめるように、楽しむ様に、銀時の手と唇が、太腿の内側を滑って行った。
「ちょ・・・・・あんっ」
くすぐったいです。
きっと睨みつけるが、瞳の奥にゆらゆら揺れる、色めいた焔が有る限り、効力は薄い。
逆に、銀時を煽るだけだ。
「くすぐったいってのは、性感帯が未発達だから、らしいぜ?」
触ると、気持ちよくなるらしい、な?
「やめっ」
持ち上げた脚の、その太腿の内側を、唇が滑って行く。際どい位置に口付の痕を残しながら、銀時はゆっくりと彼女の脚を押し開いた。
「んっ」
赤い光の中にさらされるそこは、濡れている。秘裂に指を這わせれば、「ひゃあん」と甘い声が彼女の喉から漏れた。
閉じた花を開かされ、花芽に指先を押し当てる。ぐりぐりと弄りながら、濡れてくちゅくちゅと音を立てる、彼女の入口を浅く指先で撫でた。
「ひゃんっ」
びくん、と腰が浮き、抑える脚に力が籠る。
「痛くしねぇから、力抜け」
緊張で震える太腿を撫で、そこここに口付けを散らし、くちゅんくちゅんと愛液の溢れるそこに、舌を這わせた。
「ああっ」
ふるっと首を振り、お妙は枕に頬を押しつける。痛くないように、受け入れやすいように、醒めないように。
銀時は慎重に彼女の身体に、溶けていく箇所に指と舌を這わせた。溢れる蜜をあちこちに塗り、花芽を刺激し続ける。唇を噛みしめるだけだったお妙から、か細く甘い声が漏れだし、かくん、と腰が揺らめく。求めるように揺れ始める腰に、銀時はゆっくりと彼女の中心に指を押し込んだ。
「あああっ・・・・・あんっう」
あっさりと、男の長い指を呑みこむが、入口はきつい。探るようにあちこちを擦り、時折身体を震わせるお妙の、「イイトコロ」を探していく。やがて、探り当てた一か所に、お妙の甘い声が耐えられずに零れた。
「ここ?」
ぐりぐりとこすれば、「ひゃああんっ」と彼女が首を振った。
「ああ・・・・・ここ、ね?」
後はどこかな?おねーさん?
嬉しそうな笑みを唇に引いて、銀時は彼女を翻弄する。
「も・・・・・やっ」
蜜を吐き出し続け、小さく震え続けるお妙の身体。涙目で見上げられ、銀時は赤くほてった身体を惜しげもなくさらすお妙に、ずくんと痛みにも似た衝撃を覚えた。
「お妙・・・・・」
「んぅ」
唇を塞ぎ、侵入させた指をゆっくりと増やして柔らかく絡みつく膣内を擦りあげる。
「ふっ・・・・・ん・・・・・ふあっ」
口付の合間に漏れる吐息が、切羽詰まり、甘くなる。ひゅっと息を吸いこむお妙の声がオクターブ跳ね上がった。
「銀さ・・・・・っ」
ふるっと首を振り、突き上げられ上り詰めるような感触に、細切れの声が漏れた。
「あっあ・・・・・ああっ」
求めるような彼女の声に誘われて、追い上げる銀時の指先が、ぎゅっと締め付けるように蠢く中を感じとる。かくかくと震える太腿にキスをして、達した彼女から指を引き抜いた。
「気持ち良かった?」
詰めていた吐息を吐きだし、ほうっと身体を弛緩させるお妙の、上気した頬に口付ける。
「っ!?」
イラっとしたのか、手を上げたお妙が彼の耳を引っ張る。口をへの字にする彼女は、怒っているのだろうか。
銀時からすれば、壮絶に可愛いだけだが。
「んじゃ、今度は俺も気持ち良くなろうかな?」
「え?」
力が抜け、くったりと布団に沈みこんでいた脚を、再び持ち上げられる。とろっと入口から蜜が零れるのを感じて、お妙が羞恥に顔を染める。きっと音がしそうな勢いで睨みつけると、ゆっくりと銀時が笑った。
「このままにしとけって言うのか?」
痛く、敏感になっている場所に熱く滾った物を当てられて、ますますお妙の頬が熱くなる。
「銀さんも気持ち良くなりたいんですけどぉ?」
硬く、質量を増しているそれで、濡れた蜜壺の入口を擦られ、意図せずお妙の喉から甘ったるい声が漏れた。
「やっ・・・・・ああっ」
ぎゅっとシーツを握りしめる手を解き、己の指を絡めて、銀時は耳朶に唇を寄せた。
彼女の脚を抱え込む。
「痛かったら直ぐ言えよ?」
「っ・・・・・ぅ」
強張る目尻にキスを落とし、なんども太腿やら膝を撫でて、銀時はゆっくりゆっくり己を沈めて行った。
「―――っぅ」
身体が拓かされる。目一杯脚を広げ、潤んで蜜を吐き出すそこは、やはり狭くて、推し進めるたびに反発する。
「きつい・・・・・か」
痛みをこらえるお妙の手が、銀時の手を握りしめる。指先が白い。
「息、止めんな」
声、上げろ。
唇を噛みしめる彼女に柔らかく囁いて、促すように何度もそこに舌を這わせる。
「大丈夫だから、な?」
「あっ・・・・・はあああんっ」
震えるようなか細い声が、銀時の鼓膜を揺さぶり、締め付けの弱まったそこに、ゆるゆると侵入して行く。つ、と濡れた蜜が楔を伝い落ち、ぱたぱたとシーツに染みをつくる。滅茶苦茶に穿ちたくなるのを我慢して、銀時は奥まで己を沈めると、ひくんひくんと収縮するそこに、歯を食いしばった。
「お妙・・・・・」
「銀さん」
痛みと涙と恐怖と・・・・・それから甘やかな欲望。
揺れる色んな色に支配された彼女の瞳を覗きこみ、きつく抱いて口付ける。恐る恐る応える舌に、己の舌を絡めながら、ゆっくり男は腰を引いた。
「んんんっ」
「動くぞ?」
駄目、ともいい、とも言わない。見上げる瞳に混じっている欲望だけを頼りに、銀時はゆっくりと抽送を開始する。
彼女の声に、甘みが混じるまで、ただ揺さぶり続け、やがて彼女の柔らかな下肢を堪能するように、穿ちだす。
「はあっ・・・・・あっあっあっあっ」
ふるっと首を振り、更にきつく手を握りしめるお妙。その彼女の、濡れた胸に舌を這わせ、尖った花芽に手を伸ばして弄る。
身体がどろどろに溶けていく。
「あっ・・・・・銀さんっ・・・・・銀・・・・・さっ」
彼の動きに合わせるように、緩やかに彼女が腰を振り、包み込む内部が銀時を感じで動き始める。ひっきりなしに可愛い声で啼く彼女を、追い上げながら、銀時は堪らなくなる。
ただただ突き動かして、攻め立てて、追い上げて泣かせたい。
だが、それよりももっと、可愛がって善がらせたい。
「お妙・・・・・」
ぐっちゅんぐっちゅんと音を立てる結合部。溶けて行きそうな感触に目を細め、銀時は身悶える彼女に笑みを敷いた。
「甘い、な」
「・・・・・ひゃっあ・・・・・あっ・・・・・な・・・・・」
にが?
はふ、と切れ切れの吐息を洩らし、切ない眼差しで見上げるお妙が、必死に聞く。それに、銀時は笑みを深めた。
「甘すぎて・・・・・溶けそうだ」
「っぅ・・・・・んっあ・・・・・あああっ」
「お妙・・・・・」
「ああんっ」
先刻、指先で探り当てられた箇所を、それよりももっと固く、熱く、質量の有るもので突かれ、彼女の背が弓なりに撓る。逸らされた喉に噛みつきながら、銀時は彼女が溶けて、自分の一部になってしまえばいいのに、と物騒な事を頭の片隅で考えた。
それと同時に、消えて欲しくないとも思う。
「お妙っ」
「あっ」
切羽詰まった声が、耳を嬲る。やらしいの、と低い声で詰られて、ちがう、とすすり泣くような声で応じる。
「普段もっ・・・・・それくらい可愛けりゃ・・・・・」
ああでも、こんなお前、他の連中に見せたくないから、いいのか。
「失礼な・・・・・私は・・・・・いつでも・・・・・」
「そりゃ困ったな」
こんな姿、他の奴も見てるって?
ずくん、と深く穿たれ、悲鳴が上がる。
「やっ・・・・・銀さ・・・・・落ちる」
「捕まってろ」
落とさないから。
く、と楽しそうに笑い、先ほどの緩やかな抽送からやがて激しく突き動かす。本当はもっともっと深く貫きたいが、彼女に嫌われたくないので、コントロールする自分がおかしかった。
「お妙」
「やあっ・・・・・あっあっ・・・・・あああああっ」
しがみ付け、と言われ、掴んだ肩に、力一杯爪を立てる。悲鳴にも似た嬌声がこだまし、上り詰めた絶頂で、お妙は身体が溶けてしまう様な快楽に身を濡らした。
自他共に認める糖分王は、空気も甘いのだと初めて知った。
吸いこむ空気が甘い。
(今なら俺、やれる気がする!)
吸い込んだ空気を糖分に変えて、飴玉を作れる気がする!!!
思いっきり深呼吸を繰り返し、はて、どこから飴玉を出そう、と思い至り、視線は己の下肢に注がれていく。
その顎に、お妙の鉄拳がクリーンヒットした。
がふぅ
「何考えてんですか、コノヤロウ」
笑顔と台詞がマッチしていない。そして、彼女の態度と現状もマッチしていない。
大人しく銀時の腕の中におさまっているような女ではないのに、彼女は毛布にくるまって銀時の腕の中におさまっている。
その彼女の髪に顔を埋めて、深呼吸をして、銀時は「飴玉製法」を思いついたのだ。
「ふいまふぇん・・・・・」
顎を抑え、涙目で謝る銀時の胸に、お妙はそっと凭れかかった。
本当は早く抜け出さなければならないのに、だ。
かちこちと彼の部屋に有る時計が時間を刻む。襖の向こうはすっかり暮れて、藍色が広がり、かぶき町の夜が始まっている。
スナックお登勢ももう開店しているだろう。
「そろそろ新ちゃん達が戻ってくるわ・・・・・」
「あー・・・・・だろうな」
彼らは長谷川の新居探しを手伝いに行ってるのだ。暗くなったら新居は探せないだろう。
それでも、ここから抜けだせない。
居れば居るほど、抜けだし、着替えをする時間が無くなると言うのに。
「・・・・・・・・・・おねーさーん」
「なんです?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そろそろ支度したほうがよくね?
そうっと囁かれたそれに、その通りだと思いながら、お妙は目を閉じた。
「そんなに私と一緒に居るのは嫌ですか?」
「!?」
明らかな動揺が伝わってくる。お妙の髪を梳いていた指先が優しくて、それが強張るのに安心する。
そんな事、望んでなんかないと、伝わる。
「冗談です」
ふふ、と漏れた笑い声に、銀時ががっかりしたような、なんだか複雑な感情を抱く。
腕をすり抜ける。
彼女の体温が遠くなる。
未練がましく、髪に指を絡めて口付けをおとすと、着物を抱きしめて立ち上がったお妙が振り返った。
薄暗い部屋に、色が残る彼女の肩の丸みだけがぼんやりと鮮やかだった。
「お風呂、かりますね」
「ん・・・・・」
ひたひたと、ひそやかな足音がして、彼女が襖の向こうに消える。甘ったるい空気を吸い込み、銀時は身を起こして溜息を吐いた。
もともとくしゃくしゃだった髪に、更に指を突っ込んでかき混ぜ、ぱしん、と両頬に掌を押しあてた。
甘くない女。
それだけでは、絶対に甘くない。むしろ苦いかもしれない女。
それが、なんとも甘ったるくなるものだ。
そして、糖分王の自分は、その甘味に頬が緩みそうになる。
(甘い女・・・・・)
俺が惚れるのも・・・・・しょうがねぇよなぁ。
「だって糖分王だしぃ・・・・・甘いものに目がないしぃ」
くすっと笑みが漏れ、銀時はゆっくりと立ち上がった。
「よし」
俺も風呂に入ろう!
シャワーコックを捻って、熱いお湯を浴びている最中に、唐突に乱入したきた男を、手にした桶で滅多打ちにするまで、残り三十秒である。
GW&30万打リクエスト企画より!
kaoriさまから
「銀妙で「恋人同士になった二人の初めての夜」(裏になってもならなくてもどちらでもOKです)でどうでしょうか…!」
とリクエストを頂きましたのでこのような内容となったのですが・・・・・あ、「夜」じゃねぇ orz
この二人のなんていうか、大人な内容のしっとりしたR18を・・・・・とか思ったのですが、最後の最後まで喧嘩ップルでした(笑)
つか、甘い!?これ、甘い!?ていうね・・・・・
久々の銀妙で、そして裏という事で!大変楽しく書きましたvv
少しでも楽しんでいただけましたら幸いですvvv
kaoriさま、ありがとうございました><
(2010/11/22)