変わり玉は溶けるのが遅い

「子供は元気だなぁ、おい」
「銀さんがオッサンなだけなんですよ」
「おま・・・・・ちょ、ないわー。こんな良い男捕まえてオッサンはないわー」
「姉御の言う通りネ。銀ちゃんの枕からオッサン臭がするね」
 近寄りたくないアル。
「あらあら、もう全身ファブリーズの年齢ですか。新ちゃん、ちょっと銀さんファブっといてくれない?」
「レノアでも良いネ。全身優しい森の香りに包まれて生まれ変わればいいアル」

 世の中の全ての人間の為に、と笑い合うお妙と神楽に、銀時は額に青筋を浮かべた。

「お前らな・・・・・黙って聞いてればさっきから・・・・・いいか、よく聞け!俺はオッサン臭くないしぃ!?オッサンでもなぁい!お兄さんだお兄さん!森の香りがするお兄さんだっ!!!」
「森の香りってウインナーか。このウインナー野郎!!」
「なんか卑猥!卑猥な上に侮辱されてる気がするんですけど!?!?」
「あー、もう神楽ちゃん、そんな駄目人間放っておいて、こっち手伝ってよ・・・・・」

 知らない間に罵詈雑言と共に、雪玉の応酬が始まり、庭先にカマクラを作っていた新八が、げんなりした雰囲気で止めに入った。

 江戸の町は現在、異常気象の影響か、シベリア寒気団の所為か、押し寄せてきた寒気の所為で街全体が真っ白な雪に包まれていた。
 ここ、かぶき町も例外ではなく、志村家の庭先に、うずたかく積もった雪を前にして新八と神楽がカマクラを作っているのだ。

 二人の上司で駄目人間の銀時はというと、どてらを羽織ってお茶を抱え込み、火鉢の据えられた縁側で背中を丸めて座っている。
 横にいるお妙が呆れるほどの防寒っぷりだ。

 それでも、神楽とのやりとりで、庭先に降り立って雪玉を投げていた男は、「銀ちゃんみたいなオッサンと雪合戦しても面白くもないネ」と捨て台詞を吐かれて、面白くもない表情で再び縁側に戻ってきた。

「う〜〜〜、寒・・・・・ったく、これだからガキは・・・・・お子ちゃまは体温高くて羨ましいですねぇ」
 ぶつぶつ文句を言い、火鉢を前に背中を丸める男に、お妙は呆れかえった。
「どこのご隠居ですか、貴方は」
「うるさい。寒いのは嫌いなんだよ」
「ああ、雪が降るとその白髪が雪に同化して禿げにみえるんですものね」
「誰が禿げだ誰がっ!ていうか、どういう器用なモノの見方なんだよ、ヲイ!」
「楽しそうねぇ、新ちゃんと神楽ちゃん」
 唾を飛ばして喚く銀時を、さらっと無視して、お妙は庭先ではしゃいだように雪山を作る二人に目を細めた。
「私も子供の時は、雪が降るとハッスルしたものだわ」
「・・・・・・・・・・一応聞くケド、どんなふうに?」
 恐る恐る尋ねる銀時に、お妙はうふふ、と可愛らしい笑みを見せた。
「そりゃあ、雪だるまとか、新ちゃんたちみたいにカマクラとか・・・・・雪だるまは直ぐに倒れちゃうから、中に人を」
「ううううううわああああああ!!!!」
 やめやめやめやめ、と手を振ってお妙の発言を阻止し、青ざめた銀時が、掌でお妙の口を塞いだ。
「バッカ、お前!そういう殺人発言は目出度く時効を迎えてから」
「失礼な。ちゃんと犯罪者を選びましたよ?」
「何計画!?」
「人類更生計画?」
「更生する前に、別の世界の扉を開いちゃうから!戻ってこれないから!!」
 怒鳴る銀時に、お妙は「もう、冗談ですよ」とひらひら手を振った。だが、お妙の場合、冗談に聞こえないし思えないから性質が悪い。
 半眼でお妙を睨みつけ、銀時は、飲み頃を通り越して冷めてしまった湯呑に手を伸ばした。
「銀さんには無いんですか?」
 雪の日の思い出とか。
 目を細めて、どこか懐かしいものでも見るように、神楽と新八を見詰めていたお妙に、何気なく尋ねられる。
「ん〜・・・・・まあ、ガキの頃は雪が降ったりしたら楽しいもんだからな」
 今は、何が楽しいのかさっぱりだがな。
 火鉢の中の炭の、紅いちらちらした光を見詰めながら、銀時は小さく笑う。
 その姿に、ちらと視線を投げて、お妙は溜息をついた。
「まあ、銀さんの事だから、どうせイチゴシロップでも口に含んで空見上げて雪を食べたりしたんでしょうけど」
 かき氷、とか言って。

「おま・・・・・まあ、否定はしないけどな」
 よくやったよなぁ、そういうの。
「やらないですよ、普通」
 ていうか、寒いですし。何を真冬にかき氷なんて酔狂なまねをしなくちゃならないんですか。
「全否定!?」
「なら、食べたいです?かき氷」

 にっこりと笑顔で見られて、銀時は身の危険を感じた。

 いかん。このままでは喰わされる。

「け、結構です」
 火鉢にかじりつく銀時に、お妙は雪玉をお椀に盛って渡してやろうかと思うが、「あったけ〜」と情けない声で告げる男を前に、そんな感情もすっかり萎えてしまうのだった。






「おねーさーん。何よからぬ事たくらんでんですかー?」
 後ろから抱きつかれて、お妙はそのまま男を背負い投げた。

 雪の積もった夜は明るい。煌々と輝く月の、仄白い光を受けて、世界が青みが掛っている。
 神楽が作った雪だるまに背中から直撃した銀時は、「痛ってぇえええ!?」と悲鳴を上げた。
 無理もない。
 神楽が「雪だるまは最強じゃないと意味がないアル」、なんていう良く判らん理屈を元にかっちんこっちんに凍りつかせた雪だるまを作り上げたのだ。
 銀時の背骨が砕けるか、雪だるまが砕けるか、というくらいの強度を誇っている。

「あにすんだ、コノヤロウ!」
 銀さんが使い物にならなくなったらどうするんですかー!?責任取ってくれるんですか―!?
 目を剥いて抗議をする銀時に、「女の背後を取ろうとする男は死んでもかまいません」とお妙は力一杯切り捨てた。
「酷っ!・・・・・つか、寒っ・・・・・!!」

 日の照っている時間帯ですら、どてらに火鉢という完全防備だった男が、今は静寂が支配する雪の夜に、普段の格好だ。慌てて縁側によじ登る男は「寒い!」と情けなく叫んで、今度は正面からお妙に抱きついた。

「・・・・・・・・・・・・・・・オッサン臭いです」
「他に言う事無いんですか」
 あったけー、と心の裡で涙を流していた銀時は、夜気より冷たいお妙の言葉に片頬を引きつらせた。
「おまけに酒臭い」
「冬の夜は熱燗だろ?」
「ああ、それで」
 溜息交じりに答え、お妙は男を引きはがした。互いの指先が触れあい、熱さに納得する。
「まあまあ体温、高いみたいですね」
「昼間ほどは寒くねぇな」
 きゅ、と彼女の手を握りしめて、銀時はにたりと笑った。
「で、おねーさんは?何やってたんだ?」
 最初の質問を持ち出され、お妙は冷たく広がる自分の家の庭を見詰めて小さく笑った。
「別に。明日の朝ご飯に銀さんのお椀に雪玉を持ってやったら楽しいかと思っただけです」
「どこの鬼嫁!?」
 思わず突っ込む彼に、「冗談です」ところころ笑いお妙は、銀時の手を離した。

 春をイメージするかのような色合いの、桜色の彼女の着物。それが、青白い光の中で、ぼんやりとくすんで見えた。
 さながら、夜桜のような色味だ。

 つっかけだけを履いて、お妙がさくっと雪を踏みしめて庭に下りる。そのまま数歩進むと、立ち枯れた生垣に、降り積もったばかりの雪を掬いあげた。

「おい?」
 いぶかしんだような銀時の声がして、振り返ったお妙はそっとその欠片を口にした。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・冷たい」
「そりゃそうだろ」
 つられて庭に下り、身を震わせた銀時が、彼女の持っている雪の塊にかじりついた。

「・・・・・・・・・・歯にしみる」
「知覚過敏ですか」
 ますますオッサンですね。

 呆れたように笑うお妙に、銀時は少し考えた後、もう一口雪にかじりついた。そのまま、お妙に口付ける。

「!?」
 一瞬のすきを突かれ、反応出来なかったお妙は、手を上げるより先に、ふわりと口の中に広がった味に目を見張った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・甘い」
「俺くらいの糖分王になると、体内で砂糖を精製する事が可能に」
「飴ですか、イチゴの」
 いつの間に食べたんですか?見えませんでしたよ?
「聞けよ!俺の偉大なる伝説の一つを」
「ああ、飴の紙はその辺に捨てないでくださいね。ちゃんと分別して捨てるんですよ」
「無視!?」

 ち、と舌打ちする銀時は、ベロを出して見せた。溶けかかった紅い飴が、白い光の中に浮かんでいた。

「大阪のおばちゃんですか、貴方は」
「糖分王は定期的に甘いものを取らないと苛々するんですー」
「糖尿で死にますよ」
「いいんだよ」

 寒、と身体を震わせ、銀時は再び雪を掬いあげると口に含む。今度こそ、口付けられてなるものか、とお妙は慌てて背を向けた。そのまま雪を踏んで縁側に上がろうとする、その後ろから引き寄せられた。

「きゃっ」
 バランスを崩した彼女が倒れ込む。
 腕を取って抱き寄せ、男は冷たい口づけを繰り返した。

 押し込まれた飴が、甘ったるい。触れた冷たさと氷の感触が夏のかき氷を思い出させて、お妙は身体が震えるのを感じた。

「・・・・・・・・・・・・・・・今は冬ですけど」
 肌が粟立つ。
 それは、身体の芯から冷えたからなのか、それとも、口付けの甘さに震えたからなのか。

 後者を否定し、睨みあげるお妙に、銀時はイタズラっぽく笑った。

「じゃあ俺と」
「熱くなるような事をしようか、とかセクハラ発言をしたら、ぶっとばしますから」
 にっこりと笑顔で言われて、銀時は閉口する。
「お、お前ね・・・・・い、いい、いくら俺でも、そそそ、そんなべったべたな発言するわけないだろ?」
 銀さんなめんなよ、コノヤロウ!

 動揺を隠しきれない銀時の台詞に、お妙は溜息を突いた。そのまま、自分を抱えている男の胸に手を突いた。
 身体を引き離す。

「さ、もうこれ以上ここに居ると寒いですし、銀さんも寒いですし」
「俺関係なくね!?」
「とっとと布団でも被って寝てください」
 今度こそ縁側に上がり、お妙は足袋についていた雪を払うと、さっさと寝間に歩いてく。「ちぇー」となんだか訳のわからない呟きをしていた銀時は、そんなお妙の肩が震えるのに目を細めた。

「んで、おねーさん」
「はい?」
「一杯付き合ってくんねーの?」
 両手を袖の中に入れて、身体を斜めにしたまま尋ねると、振り返ったお妙が自分の両腕を抱いて溜息をもらした。
「私はもう寝るんです」
「身体あっためてからの方がいいんじゃねぇのか?」
「要りません。」
「・・・・・・・・・・っそ」

 がりがり、と頭を掻いて銀時は一様にやる気のない足取りで彼女に近寄ると、その肩を抱いた。

「ちょっと!?」
「じゃあ、添い寝」
「はあ!?」
「震えてる」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 指摘されて、お妙は言葉を飲んだ。確かに身体が冷えている。冷えているが、別に添い寝してもらうほどのものでもない。
 そう言おうとしたお妙の唇に、銀時は人差し指を押しつけると、にやりと笑った。

「つか、別にお妙の為じゃないからね。俺が寒いからだからね」
 あんたの為の添い寝かっ!

 思わず叫びそうになるお妙を抱えて、銀時は愉しそうに彼女を寝間へと引っ張って行った。





「寒いんですけどっ!!!」
 帯を解かれて、着物の袷がはだけて行く。肩が覗き、冷気に触れるとお妙は怒ったように目を三角にして銀時を睨みあげた。
「そうか?」
「無駄に体温が低いんですよ、銀さんはっ!!」
 だるそうにしてるから、冷え症になるんですよ!動かないから・・・・・。

 ぶつぶつと文句を言うお妙の肌は暖かい。ひやりとした銀時の掌が触れるたびに、彼女は「触るんじゃねぇっ!」と座った眼差しで銀時を睨む。
「せめてもっとあったかくなってから・・・・・」
「バッカ、お前。寒いから抱きたくなるんだよ」
「女はゆたんぽじゃないんですよ?!」
「まあ待てって・・・・・直ぐあっためてやるから。銀さんに任せなさい」
「何をどう任せるんですか!?」

 冷たい指先。冷たい掌。冷たい唇。熱いのは舌先だけで、でも舐められた場所から熱が奪われていく。ふる、と身体を震わせる彼女の身体を半分あらわにし、銀時は自分の肌を重ねた。

「・・・・・・・・・・固くて最悪です」
「・・・・・・・・・・・・・・・じゃああれですか。お妙さんは、ぶよっぶよのお腹の方がお好みでしたか。デブせんでしたか!!」
「何を好き好んで寒い日に冷たくって固い身体に押しつぶされなくちゃならないんですか!!」
 あったかくて、まっふりしてください!!まっふりした犬になってください!
「何がまっふりだ!俺は人間ですー ゴリラが良かったらゴリラストーカーに抱かれてください―」
「お前が押し倒してんだろうがあああああああ!!!」
 もうどいてください、邪魔です!重い!!!

 押しやろうとして肩をつかむが、修行?なにそれ、おいしいの?な剣客はしかし、きちんとそれなりの体躯を持っている。
 なかなか離れない、ただ重いだけの銀時に、お妙はイラっとして鋭い視線を投げかけた。

「全然あったかくないです」
「ほんっっと可愛くねえな」
「!?」

 冷たい指が、はだけたお妙の胸元に滑りこみ、柔らかな塊に絡みつく。びくり、と背をのけぞらせ、彼女はかあっと身体が熱くなるのを感じた。

「ちょ・・・・・銀さんっ」
「俺は冷え症みたいですから〜運動しないと〜」
「どんな運動方ほ」
 ひゃんっ

 思わず声が漏れ、お妙は慌てて自分の口を押さえた。小さく笑った銀時が、彼女の首筋に顔を埋めた。

「お妙・・・・・ほら、縮こまってたら暖かくならねぇだろ?」
「んっ」

 冷たい冷たい。触れるあっちこちが冷たい。ただ、その冷たさを補って余りある熱が、身体の中心からこみ上げてきて、お妙は微かに潤んだ眼差しで銀時を睨みあげた。

「貴方は全然暖かくならないんですね」
 何となく口惜しくてそう言えば、「そうでもない」と妙にきっぱりと言い切られた。
「現に銀さんの大事な部分が」
「それ以上言わなくていい!このセクハラおやじ!!!」
 思わず悲鳴のような声で言えば、「誰がセクハラだ!」と言い返される。
「セクハラってのは生理的に受け付けない事とか、そういうことだろ!?」
 生理的に嫌なんですか?銀さんの事が受け入れられないんですかっ!?

「受け入れられませんっ!」
「酷っ!!!!!」

 あったまきた。
 絶対善がらせてやる!!!

「へ、変な対抗意識を燃やさないで下さ」
 ひゃあああんっ

 その場の勢いとでもいうのか、ノリと言うか、色々適当に口走ったお妙を、銀時は追い詰める。微かに温かくなった男の指先が、脚を滑り、そこここに落とされる口付けに頬が上気する。

「ぎ、んさっ」
 切れ切れの声が、嬌声の合間に名前を呼べば、男はつ、と彼女の脚の付け根に指を滑らせた。

「つめたっ」
「あっつ」

 くちゅくちゅと水音がして、彼女の中心部分を撫でていた男は、そのまま濡れて熱くなった部分に口付ける。

「ひゃっ・・・・・あっ」
 びくん、と身体が震え、逃れようと腰がうごめく。構わず脚を持ち上げると、身体から上掛けが滑って、真白い太ももが薄闇の中に浮かび上がった。
 白いそれが、外気に触れて震える。
「あっ」
 お妙の身体を溶かすように、指と唇が触れて行く。ず、とシーツを蹴る脚に、銀時が気付いた。
「ふうん?」
 感じるんでしょうかー?おねーさん?
 くすくす笑いながら告げ、「ま、じゃなきゃ、こんなんならないしな」と一人で納得する。
 冷たく、差し込まれた指先が熱く溶けた内部に包み込まれる。
「はあんっ」
 喉を逸らす彼女の口から、甘ったるい声が漏れて、中を掻きまわしながら銀時は、白い身体に舌を這わせた。

「んんっ」
 こすられる場所に、声が止まらない。震える身体を弄ばれ、徐々に体温があがっていく。
「銀さんっ・・・・・やめっ」
 落ちそうになる感覚に、思わずお妙の口から否定の言葉が漏れた。だが、銀時は構わずに、「だって寒いし」と訳のわからない言い訳をして、更にお妙を追い詰めていく。
「俺だって・・・・・あっつくなりたいし・・・・・」
 痛いのヤだろ?
 ここ?と笑いながら耳元で囁かれて、お妙の腰が跳ねた。
「あんっ―――」
 身体が震える。背筋を駆け上がる快楽に、閉じた瞼がちかちかする。明滅するそれを眺めていると、脚の付け根からじわりじわりと熱が零れて、お妙は熱に浮いた吐息を漏らした。
「は・・・・・」
 心臓が、早鐘のように鳴っている。耳元に感じるそれに、きゅっと目を閉じて涙を滲ませていると、微かに熱くなった銀時の手が、するっとお妙の細い腰を撫でた。
「っ」
 びくん、と背中が跳ねる。
「寒いか?」
 笑みを含んだ口調で言われて、お妙はそっと目を開けると唇を噛んだ。
「・・・・・・・・・・熱い・・・・・です」
「だろうなぁ〜。だって、ここ、こんなんなってるし」
「言わなくていいです」
 かあっと頬を染めて言えば、「だって、これで熱くないなんて言われたら男として終わってね?」と銀時が苦虫を噛みつぶしたような顔で答えた。
「そんなこと」
「でも、俺も限界」
 押し当てられた感触。先ほどのそれとは違う熱さに、お妙の口から悲鳴が漏れた。
「ああんっ」
 ふる、と首を振る。
「駄目っ・・・・・銀さん、まだ」
「まだ何?俺も限界なんですけどー」
 恨み事なら後で聞くから。
「我慢して」
「ちょ・・・・・それが男の言う事で・・・・・ああんっ」
 ず、と身体の中心を目指して、熱い塊が押し込められる。内部を拓かされて、暴かれるような感触に、彼女の腰が震えた。
「あああっ・・・・・んぅ」
 ぎゅっとシーツを握りしめた手が白くなる。のけぞった喉の艶めかしさに、銀時はちょっと目を見張るとふっと目元を和ませた。
 そのまま、肌理の細かいそこに口付ける。
「ひゃ」
「お妙・・・・・」
 流石糖分王だ、とお妙はどこか遠いところで思った。
 囁く声が胡散臭い筈なのに、溶けそうなくらい甘い。

 さっきのイチゴ飴の味を思い出す。

「もう、冷たくないだろ?」
 膝の後ろ触られて、くっと脚が持ち上がる。押さえつけられ、繋がったまま、お妙は口惜しそうに銀時を睨んだ。

「でも固いです」
「馬鹿だな。固くなきゃお前、愉しくないだろ?」
「何の話をしてるんですかっ!?」
「カタくてアツい、お妙さんをツナいでいるモノの話」
 にやにや笑う男を一発殴りたい。暴れる脚に口付けられて、お妙は眩暈がした。

 触れる空気は冷たい筈なのに、今はそれが心地よい。
 いくらか汗ばんだ額に、乱れた前髪を払われて、間近に銀時の眼差しがあった。

 とくん、と心臓が一つ脈打つ。

「逆に、お妙は柔らかいな」
「・・・・・・・・・・」
「日だまりみたいで・・・・・溶けそうだ・・・・・」
「銀さんの成分の90%は糖分ですもんね」
 陽の光で溶けますよね。スライムみたいに。
「・・・・・・・・・・お前さ、変なプレイを妄想させるようなこと、さらっというなよ?」
 銀さん、本気にしちゃうから。それいいかも、とか思っちゃうから。
「やったら殺しますから」
「やらねぇよ」

 あ、でもジャムとか

 凄い音がして、銀時は己の後頭部をはたかれたのを感じる。

「痛っ!?」
「最中に痛いのは女だけじゃないってこと覚えておいてください」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 この女・・・・・!

 不用意に近づくと何をされるか分かったものじゃない。
 けど、そっぽを向く彼女の頬が赤く、白い肌が上気しているのに気を良くして、銀時はそっと彼女を抱きしめた。

「脚、絡めて」
「・・・・・っ」
 ずく、とお妙の身体を浸食しているものが動き、熱がこもる。
「そー。良い感じ」
「馬鹿っ」

 腕を伸ばして、お妙は銀時の首筋に抱きついた。そのまま、肩に歯を立てる。背中もひっかいてやろう。

「んっあっあっあ」
 揺さぶられて、身体から力が抜けて行く。再び落ちそうな気がして、お妙は銀時にしっかり掴まった。
「ふあ・・・・・あっあっんっ・・・・・んっぅ」
 じわり、と熱が身体を溶かしていく。お妙がしがみついて離れなくするように、甘い声が耳元で途切れないように、男はあの手この手で彼女を追い詰めていく。
「ああっ」
「あ〜らら・・・・・駄目だって、お妙。んなことしたら、イっちゃうぞ?」
 まだヤだろ?
「ひゃあん」
 焦らすように、唐突に動きを緩められて、お妙の喉から可愛らしい声が漏れる。それを浚うように口付けて、ついでに耳を噛む。
「んっ」
「お妙・・・・・」

 熱い。
 熱くて熱くて、身体がどうにかなってしまいそうだ。

 あふ、と甘い息を吐き、お妙はうっすらと目を開けて、自分を見つめる男を見やった。くすりと笑った銀時の手が、お妙の頬に触れた。

「あ・・・・・」
「なんか・・・・・」
「・・・・・え?」

 いや、あんでもない。

「っ」

 甘やかな口付けが落ちてきて、お妙の声を奪う。ぎゅうっと抱きしめられて、眩暈がする。

 あんなに冷たかった身体が、二人とも熱くて。

「んっふっ・・・・・んあっ・・・・・あっあ」
 引きずられ、引き上げられる意識。腰からじわりじわりと浸食して行く熱。それに身をゆだねて、お妙は銀時の背中に爪を立てた。
 する、と腰をなでられ、身をよじった彼女が達するのと、柔らかな身体が、堪らなく愛しくて銀時の何かがはじけるのと、ほぼ同時だった。







 柔らかな手が、両頬を包み込む。
 綺麗に笑う己の師匠に、銀時は目を細めた。

 まだ小さかった頃。
 刀を抱いて、手放せなかった頃。

 寒い冬の日。大量に降った雪。雪だるまと、カマクラと・・・・・雪うさぎとか色々色々。

 遊びに来た者達と作ったそれらを、銀時は誰も居なくなった夜に、縁側からこっそりと覗いていた。

 楽しかった、という感情と、そして今は誰も居ない、という感情がひしめいて、銀時の胸を締めあげる。

「寒い・・・・・」
 ぶるっと身体を震わせて、銀時はぎこちない手つきで雨戸を閉める。厠に向かっていて、ふと思い立ったように開けて眺めて見たのだ。
 師匠は、明日、太陽が出れば消えてしまうかもしれない、と言っていたが、銀時にはそれが信じられない気がした。

 今、それはここにある。
 白くてひっそりと、だけど。

「・・・・・・・・・・」
 冷たくかじかんだ指先。
 それを握りこんで、銀時はぺたぺたと廊下を歩く。

 足元が冷たい。
 何もかも冷たい。

 寒い。

 ぶるっと身を震わせて、それから暖かくなっても、消えないものがあればいいのに、となんだか切ないような気持ちで考えた。




 ―――――考えて、目が覚めた。




「・・・・・・・・・・・・・・・寒っ!!!!!」
 畳の上だ。上掛けも敷布もない。がばあっと起き上がれば、お妙が幸せそうな顔をして布団を独占していた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
 辺りはまだ薄暗く、すやすや眠る顔は幸せそうだ。思わずがりがりと頭を掻いて、銀時は這いつくばってお妙の元に行く。
「おねーさーん・・・・・男追い出すなんて、あんまりじゃないっすかねー」
 ひそやかに耳元で囁けば、寝返りを打った彼女の裏拳が、ごすっ、と銀時の頬にクリーンヒットした。

「痛ってっ!!!ちょ・・・・・お姉さん!?嫌がらせ!?マジで嫌がらせ!?」
 頬を抑えて覗きこめば、やっぱり安らかな寝顔で、男はがっくりと肩を落とした。

 そのまま、そーっと布団にお邪魔させてもらう。
 背中に寄り添うように身を寄せて、気付かれないように腕を回すと、心持ち、お妙の身体がこちらに傾いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・寝ててもいいからさ・・・・・ちょっと聞いてくんね?」
 さら、と彼女の髪に指をくぐらせて、銀時はちょっと笑うとお妙のうなじに頬を寄せた。
「お前さ・・・・・目が覚めたら消えたりしないよな?」
 暖かくなると溶けて行く。
 跡形もなく消えてしまう。

 そんな風に、今ここに居るお妙は、雪で出来た儚い幻じゃないよな?

 酷く自信のない台詞に、堪らずお妙は目を開けると深い溜息を零した。

「暖かくなると消えるのは、砂糖で出来てる貴方じゃないんですか?」
 かるく腕をつねられて、銀時は苦笑した。

「糖分王だから?」
「糖分王だから」
「・・・・・・・・・・・・・・・そっか」
「そうです」
「・・・・・・・・・・お前さ」
「はい」

 する、と男の手が腰に回り、抱き寄せられる。身を預けると銀時が、酷く甘い声で囁いた。

「雪みたいに真っ白だから・・・・・消えそうに見えるんですけど」
「残念でした」

 それに、お妙はふわりと笑うと心地よさそうに目を閉じた。


「白は白でも、私の場合、塩で出来てますから、解けませんよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 雨でも降らない限り。

 くすりと笑って言われた台詞に、銀時は唖然とすると、次の間には破顔していた。

「のわりには、お前、随分あまったるいのな」
 笑いながら言われた台詞に、お妙はまどろみながら返事をした。

「だって・・・・・貴方、甘くなくちゃ食べたくない人でしょう?」
























 1万打記念リクエスト企画第二弾!
 というわけで、

 「しっとり甘々な銀妙をリクエストしてもよろしいでしょうか…!(う、裏だとなお嬉しい←オイ)」

 とのリクエストを頂いたので!このような銀妙と相成りました!!!

 ・・・・・・・・・・・・・・・しっとり・・・・・して・・・・・なくね?(爆)

 どうしてもふつーになんかこー向き合ってる二人を連想出来なかったので(爆)悪態ツキまくってるうえに、雰囲気モノになってしまいました、スイマセンスイマセンTT
 しかも温いー!!!

 そ、それでも多少なりとも楽しんでいただけましたら幸いですv

 イメージとしては「雪のツバサ」の銀さんだったりしたんですが・・・・・なんか・・・・・微妙ですよね(あははははは)
 あ、ちなみに雪+飴玉=かき氷は「ちびまるこちゃん」元ネタですv(をい!)


20100114