SAMURAI DEEPER KYO
- 複雑なるオトメ
ぽすん、ともたれかかる温かい感触に、灯はぎょっとして隣を見た。
狂の隣に陣取って、お酒の相手を勤めていた灯。その彼女のもう一つの隣にゆやが座っているのだが、彼女は空の湯呑を持ったまま灯の肩にもたれかかって、すうすうと寝息を立てていた。
「あー・・・・・ゆやはん、相当疲れとるんやな・・・・・」
仮眠をとる暇もなく、こんなところまで駆けてきた。命の危機に終始直面しっぱなしだったゆやにしてみれば、辰伶の水龍が外れて、リミットがなくなってようやく、余裕が出てきた所なのだろう。
触れている、人の温もり。
ゆやの寝顔を覗き込む紅虎に「乙女の寝顔を覗き込むなんて悪趣味だよ」と睨みを利かせ、灯はそっと彼女を引き寄せた。
「ゆやちゃん・・・・・」
「んう・・・・・」
「ゆやちゃん、寝るんならちゃんと寝た方がいいよ?」
「んー・・・・・」
彼女の額に掛っている前髪を払おうと手を伸ばし、その手袋をゆやが掴む。
どくん、と不安に胸が鳴るが、ゆやはそれを離さずに、ぎゅーっと握りしめて目を開けようとしなかった。
嫌われる・・・・・そんな不安に騒いだ鼓動が、徐々にゆっくりと、じわりじわりと幸せになる様な鼓動に切り替わって行く。
「ったく・・・・・この灯様を枕にするなんて、高いよ?」
ゆやの顔を覗き込んで微笑む灯に、隣に座っていた狂が「灯」と声を掛けた。
「なあに?」
振り返る灯は、普段と変わらない、好意全開の潤んだ瞳をしている。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、ごめんなさい、狂。いま、お酒持ってくるから」
オラ、梵!テメェ働いてもいねぇのに高い酒飲んでんじゃないよ!狂に譲りなさい!!
正面に座っている梵天丸に、錫仗を付きつける。ゆやが倒れないように、灯は彼女の身体を更に隣りの壁へと持たせかけた。
立ち上がり、梵天丸に歩み寄る灯を眺め、それから狂は、すうすうと寝息を立てるゆやに視線を落とした。
「・・・・・・・・・・・・・・・警戒心のねぇ女」
「・・・・・・・・・・・・・・・そうだね。灯ちゃんになつくのは良いけど、灯ちゃんって一撃必殺の技持ってるもんね」
呟かれた狂の台詞を、ほたるが拾い上げる。
「でも、灯ちゃんもまんざらじゃなさそうだね」
むしろ嬉しそう。
梵天丸から酒を取り上げる灯を眺めるほたるが唐突に、「灯ちゃんって、女?」と狂に振る。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?」
「灯は鬼眼の狂が好きなんだろ?」
なら女なんじゃねぇのかよ?
サスケがお椀の中身を口にしながら意見する。それに、「あれ?そうだっけ?」とほたるがまぜっかえす。
「そうか。・・・・・まあ男でも灯ちゃんにとって、狂しか居ないんなら問題ないね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・問題無いわけねぇだろ」
黙り込む狂に酒を強制的に盗られた梵天丸が、にやにや笑いながらサスケとほたるを見る。それからちらりと狂に視線を落とした。
「なぁ、狂ぉ」
「・・・・・・・・・・おい、もっと酒寄こせ」
はぐらかしたのか、答える気が無いのか、両方なのか。
「うかうかしてらんねぇなぁ」
ゆやちゃん、あれで結構モテるもんなぁ。
「おい、お前ら。このまんまだったら、狂がふられるのがみれるかもしれねぇぞ?」
にやにや笑って、狂に酒瓶を差し出す梵天丸に、ぴし、と狂のこめかみに血管が浮き上がた。
「テメェ・・・・・よっぽど斬られてぇみてぇだな?」
「ああ?やろうってのか?」
「梵がやるんなら、俺も」
「をい」
「あんたたち!何やってんのよ!!!今は狂の身体を休めることのほうが最優先でしょうがっ!」
灯が梵天丸の胸倉を掴んだその瞬間、ずるっとゆやの身体が傾いて、倒れ掛った。
「あ」
一同の前で、その肩を掴んだのは狂だった。
ことん、と重みが狂の腕に掛る。
「・・・・・・・・・・・・・・・アホヅラ」
引き寄せて、肩を貸してやりながら、狂は小さく笑うと煙草を取り出してふかしはじめた。
ゆやの手は、今度は狂の着物の裾を握りしめていて、離れそうもない。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
なんとなく、大事な物を取られたような気がして、一瞬灯は目を奪われる。それからはっと我に返ると、「いいからその酒寄こしなさい!」と思い出したように梵天丸に突っかかって行った。
「・・・・・・・・・・で、問題あるの?ないの?」
「・・・・・・・・・・灯は鬼眼が好きなんだろ?」
なら問題ないんじゃないのか?
鍋を前にして、ほたるとサスケはしばしば、灯が男なのか女なのか問題あるのかないのか、果たして何が問題なのかを永遠と話し合うのだった。
「つか、あいつらなにやっとんのや?」
「貴方には一生判らない、高度な議論ですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ほんのり灯→ゆや(笑)
(2010/06/20)
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