EvilDetective

 12時の鐘が鳴る
 あんたにはわかんないよ


 そう言って、泣いた私に、ネウロは驚くほどあっさり「・・・・・そうか。」と答えた。
 続けて、「ならいい。」と告げる。

 その瞬間、私の涙はほんの少し暖かさを取り戻した。

「日付も変わった。帰るぞ。」

 柔らかい声が降って来て、私はげんこつに握り締めた手の甲で涙を拭うと顔を上げる。
 人ではない、魔人の背中が目の前にある。

 アヤさんの言葉が、不意に私の中を駆け抜けた。

 いつか、助手さんは探偵さんの力を必要とする。

 私は、「笑え」といったネウロの手を振り払った。その報復を、ネウロはしてこない。
 自分の意図したことに、私は逆らったのに、ネウロは「ならいい。」と受け止めた。

 ひょっとしたら、それが私の「価値」なのかもしれない。

「ねえ、ネウロ・・・・・。」
「なんだ?」

 電子ドラッグに侵されネウロの攻撃を受けて、半死半生の兵士達は、しかしうめき声すら上げない。
 不気味な沈黙が落ちるなら、魔人は悠々と船の上部へ歩いていく。

「アンタは、泣くこととかないの?」
 ぐす、と鼻をすすって訊ねれば、「泣く?」と振り返った男が不思議そうな顔をした。
「我が輩がか?」
「そうよ。」

 ・・・・・・・物凄く不快な顔をされ、私は「ごめんなさい。」と小さく謝る。

「まったくだ。何故我が輩が泣かなくてはならない。泣くようなことなど何一つない。」
「・・・・・・・・・そう。」

 威張るように胸を張られても、ちっとも尊敬できない。そういうところがずれているのだ。魔界の住人と人間とでは。

「だから、ヤコ。貴様が泣けば良い。」
「・・・・・・・・・・え?」

 ばん、と甲板にでるドアをあけ、満天の星空が拝める外に出る。潮風が私とネウロの頬や髪や服の裾をはためかせて流れていく。

「それは我が輩には出来ないことで、貴様に出来ることだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「貴様はそうやって進化していけばいい。我が輩も、それを見て、理解することは出来なくても知ることは出来る。」

 ヤコという人間が、何に涙し、何に共感し、何を学んでいくのか。

「・・・・・・・・・・。」
「というわけで、ヤコ。我が輩の探究心の為に」
「って、ちょっと!?なんで抱えあげるの!?ていうか、まさか、あんた帰る方法って・・・・!?!?!?」
「なあに、一発首都圏に核ミサイルでも発射して、それにつかまっていけば問題なかろう。」
「大有りだああああああああ!!!!」
「む、そろそろ発射だぞ?飛ぶぞ、ヤコ!」
「やめ、ちょっと・・・ネウロ!?ああああ、あんた、日本を滅ぼす気じゃ」


 その時、上空に警視庁のヘリが飛来し、電人HAL・・・・・いや、春川英輔がネットを介して流したワクチンプログラムが警視庁に届き、間一髪助けが来たのだと知ったのである。


「ち。進化しそびれたな、ヤコ。」
「もうね、突っ込む気力もないよ・・・・・・。」


 でもほんの少し、私はネウロに歩み寄れた気がした。

 まあ、本当に、ほんの、ミクロくらいなんだけど。


(2007/11/11)

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