Muw&Murrue
- 10 穢れなきエトワールのように
- 「いつまでやってるの。」
日が落ち、天には星々が散らばりだした。必死に手をのばして、その星を掴もうとしていた二人の子供は、マリューの声に、「ほしとれないよ〜。」とぶーぶー文句を言いだした。
「おとーさん、本当に星とったの?」
起き上がり、髪の毛についた草を払っていたリューナに、「おかしいなぁ。」とムウは答えた。
「あー、父さんが星捕ったのは、流星群の時だったかな。」
「りゅーせい?」
首を傾げるリューナに「流れ星だよ。」とムウは答えた。
「流れ星捕まえたの?」
「ん〜、どうだったかなぁ〜。」
「えー、なにそれー。」
頬を膨らませるリューナに、ムウは肩をすくめて見せた。
「なんせ、一瞬だったからな。」
「そうなの?」
「流れ星は、瞬きしてちゃ見えないのよ。」
窓から身を乗り出したマリューがいい、「そうなの?」とリューナが空を見た。
「いつ流れるの?」
「今日は無理かなぁ。」
「つまんなーい。」
立ち上がり、スカートの草を払っていたリューナは「なんか、痒い。」とマリューに駆け寄った。リビングの明かりの下で、リューナは自分の腕にぽっちりとできた赤いものに、「蚊に刺された〜。」と悲しげな声を上げた。
「やだー、おかーさーん。」
泣きごとをいう娘に、「救急箱に虫刺されのかゆみ止めがあるから。」と笑いながらいう。
「おー、立派な赤い星だな、リューナ。」
「こんなの欲しくない。」
頬を膨らませ、入ってきた父親の脛を蹴飛ばした。
「痛いだろ、リューナっ!」
「うそつきとーさん!!!」
あっかんべー。
それから、さっさと刺された部分にかゆみ止めを塗るリューナに、「父さんが悪いのかよ!?」と突っ込みを入れる。
「だいたいもとはと言えば、アレンが」
そこで、はたとムウは気づいた。
アレンが居ない。
「アレン?」
思わず庭を見れば、小さな男の子はまだ草っぱらに寝っ転がって星に手をのばしていた。
「おい、アレン。晩御飯。」
「うん。」
「うんじゃなくて、もう家に入れ。」
「うん。」
「・・・・・・・。」
天に伸ばした掌をにぎにぎするアレンに、ムウはつかつかと近寄るとひょいっと抱えあげた。
「やー!おとうしゃんっ!!!」
思わず暴れるアレンに「おまえな。」と父親は溜息をついた。
「今日はもう無理だから、諦めろ。」
人生、諦めが肝心だぞ?
「変なこと教えないでください!」
それに、マリューが思わず口をはさむ。それから、やさしくアレンの髪を撫でると「また明日ね?」と笑顔で言った。
「あしたならとれる?」
勢い込んで尋ねるアレンに、両親は顔を見合わせると小さく笑った。
「そうね。でも、明日も無理かもしれないわよ?」
「だったらねー・・・・まいにちみる。」
胸を張るアレンに、「そうかそうか。」とムウは笑う。
「じゃあさ、アレン。あたし宇宙飛行士になるよ。」
「え?」
振り返るマリューに、かゆみ止めを塗ったリューナがにかっと笑った。
「宇宙飛行士になって、お星さまとってくるね。」
「おねいちゃん、ほんとう!?」
目を輝かせるアレンに「まっかせなさい。」とリューナが年長者らしく、胸を張って見せた。
「おねえちゃんに不可能はないのだよ!」
「はいはい、不可能のないお姉ちゃん。いくら不可能なことがなくても、今日は早く寝ないと、明日寝坊するかもしれないでしょう?」
なんせ、明日は劇の本番なんだから。
さっさとご飯を食べる食べる!
「しまった・・・今日、ピザだったよな?」
「ちーず、かたまっちゃった?」
見上げるアレンのセリフに、ムウはマリューを見る。彼女はやれやれと肩をすくめて見せた。
「まだ焼いてる途中です。」
「よかった。」
「よかった。」
「よかったー!」
同じ仕草で同じ反応をする三人を見て、マリューは思わず噴き出した。
「まったくもう。」
わいわい騒ぎながら食卓に着く三人を見送り、マリューはそっと窓を閉めた。
ふわりと夏の香りがして、彼女は思わず空を見上げる。
流星群を、家族で見ようと、穢れ無き星々を見上げて願ったのは、いつだったろうか。
あの星の綺麗な瞬きと同じように、今ここに、自分が護りたい光がある。
黄色い、暖かい光に満ちたリビング。
「マリュー?」
焼けたみたいだけど。
振り返り、両脇に子供を抱えたムウに、マリューは笑った。
「はーい、今行きます。」
エトワール…フランス語。星という意味。(2009/01/19)
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