手段




 カタカタカタカタカタカタカタカタ

 沈黙を破る、換気口で回るファンの音。その音の中で、彼は脱ぎ捨ててあった上着を拾う。自分で包帯を取り替えるのも楽じゃない。だが、極端に人員の少ないアークエンジェルでは、なるべく自分の事は自分でするようにしなくてはならない。薬箱にぽいっと包帯を捨て、肩の方のガーゼを取り替えて、ちょっと身体を動かしてみる。
 うん。悪くない。
 医者にはあと二日寝てろ、と言われたが、そろそろモビルスーツの戦闘シミュレートを開始しても問題ないように思える。
 そんな事をぼんやり考えながら、座り込んでいると、彼の部屋の呼び出し音が響いた。
「はい?」
 開いてるよ。
 上着をはおった所で、ドアが開く。そこに立つ人物に、彼は目を丸くした。
「へぇ、珍しいな。」
 おずおずと中に入ってきた彼女に、彼は笑みを返す。
「俺がマリューんトコに行くのは多いけど、俺の部屋に来たのは初めてじゃないか?」
 立ち上がり、コーヒーメーカーに作り置きしてあるコーヒーをそそぐ。
「何かあったのか?」
 矢継ぎ早に彼が質問をしているが、珍しく、彼女は一言も返さない。ふと、振り返ると、俯いた彼女が、胸の辺りで手を握り締めて立ちすくんでいた。
「艦長?」
 不審気な恋人の問いかけに、彼女は俯いたまま、ぼそっと呟く。
「・・・・・・・て。」
「ん?」
「シャワー・・・・・貸して・・・・・・・。」


 カタカタカタカタカタカタカタカタ


 換気口のファンの音が、沈黙を打ち破る。
 頬を染めて俯く、彼女の身体の柔らかい曲線に、彼は目を細めた。
 しばらく、二人は沈黙の虜になった。
 二人の鼓動が、同じ速さの気がした。
 落ちる沈黙を破るように、彼が冗談めいて言う。
「自室のシャワーが壊れた」
 彼女がふるふると頭を振る。
「じゃねぇよな、やっぱり・・・・・・。」
 頭を掻いて、それから彼はほうっと溜息を付く。
「わかった。」




 ドライヤーの音。ぱたぱたという、軽い足音。扉が開き、ふと顔をあげた彼の前にたった彼女は、やはり、というか、バスタオルを身にまとっただけだった。
 白い肌が、ほんのり桜色に染まっている。
「艦長、その格好じゃ、廊下歩けないぜ?」
 からかうように言うが、彼女は俯いて押し黙ったままだ。微かに、彼女の身体が震えている。
 一体どうして。
 彼女が彼の部屋を訪ねてきたのか。訪ねて来たと思ったら、いきなりこんな格好をしているのか。
 今のムウには皆目見当も付かない。
 こんこん、と机を中指で叩きながら、彼は頬杖をついたまま彼女を眺める。女は、自分から動かず、ただ、そこに立ち尽くしていた。
「帰れ、って言ったら、素直に自室に戻るのかな?マリューさん?」
 少し意地悪く訊けば、びくっと彼女の身体が強張り、不安げな表情で彼を見詰める。眼を細めて、そんな女を眺める。その視線に耐えるように、彼女はきゅうっと手を握り締めた。
「・・・・・・・・・来いよ。」
 立ち上がり、上着を脱いでベッドに腰掛ける。
「欲しいんだろ?」
「・・・・・・・・。」
 何も答えず、側による彼女を、男は手を伸ばして抱き寄せると、仰向けに押し倒した。首筋に顔を埋うずめ、耳元で囁く。
「俺、手加減しないからな。」






 バスタオルを剥ぎ取り、現われる柔らかな肢体に、彼は舌を滑らせる。ゆっくり、ゆっくり、キスを繰り返し、赤く染まる胸に口付ける。
「っ・・・・・んっ・・・・・・。」
 少し強く噛めば、思った以上に彼女の身体が強張るのが分かった。そのまま舌を絡めて、吸い付き、太ももの、濡れて熱くなったそこに、指を滑らせる。
「ああっ」
 彼女の身体が跳ね上がる。唇を離し、足を広げて、そこに舌を這わせる。水音が、荒く呼吸をする彼女の耳に、やけに大きく響いた。
「あっ・・・・あっ、ああ」
 敏感な部分を擦られるたびに訪れる、快楽。
「っ・・・・んぅ・・・あっ・・・あああっ」
 脳天を貫く痺れにも似ためまいに、身体全体が熱を帯び、震える。はあはあと息も荒く、口元に手を添えて、求めそうになる声を抑える彼女に、彼の中の意地の悪い部分が起き上がる。
 もどかしそうに服を脱ぎ、くたり、とする彼女の腰を掴んで立たせる。
「ん・・・・・。」
 彼女をうつ伏せにする。意図に気付いた彼女の頬が、ぱあっと赤く染まり、男は、そんな小さなことにすら欲情しながら、伏せる。
 ゆっくりと、身体に入ってくるそれは、快楽を伴い。
 彼の欲求に相まって、彼女を容赦なく追い詰める。
 音を立てて後ろから攻められ、突き動かされるそれに、彼女は耐えられなくなって声を上げる。その声に、彼は更に加速する。
 止まらない、欲望という名の行為。
 女を追い詰めながら、彼は、ぼんやりする頭で考える。一体、彼女はどうしてしまったのだろう。自分からこんなことをするような女じゃないのは、彼女を何度も抱いた身として、十分理解しているつもりだ。それが、どうして?
「ん・・・・・はぁんっ」
 彼女が、細い喉を逸らして、喘ぐ。走る衝撃に、彼の思考も飛ぶ。ただただ、意地悪く追い詰めるのが楽しくて。がくがくと揺れる彼女の体に、男はもっと先を見たくて、止まらなくなる。
 びくん、と彼女の身体が強張った。
「あ・・・・・ああっ・・・・・んっ」
 耳まで真っ赤になる彼女にかぶさり、耳元で問う。
「どうした?もう、終わりか?」
 手を伸ばして、柔らかい両の胸を掴めば、切ない啼き声が返ってくる。
 強く、激しく攻められて、女に限界が来る。
「だ・・・・・め・・・・・・もう・・・・・・。」
 そのセリフが、最後に彼を煽る。ぐっと強く押し込まれたそれに。
「ん・・・・・あ、あああああっ―――」
 震える体。そして、途切れる嬌声。くたっとなる彼女の中に、快楽と一緒に熱を放って、彼はほっと息を付いた。
 だが。
 しばしの間ののち、ふと、呼吸を整えた彼女が、くるっと振り返り、男の首に腕を絡めた。
「マリュー?」
 濡れて、溢れているそこに構わず、女は彼の首筋に舌を絡め、キスを繰り返す。
「もっと・・・・・・欲し・・・・・。」
 耳元で囁かれ、ぞくっと男の身体を戦慄が走った。強引に濡れた唇を塞ぎ、今度は仰向けに組み伏せる。
「あ・・・・んっ・・・・。」
 身体を滑っていく舌の感触に、女が身体をよじった。そのまま、足を割って、そこに舌を絡めれば、すでに濡れて熱くなっているそこが、艶かしく動いた。楽に入ってしまう指でかき回し、敏感な部分をいじれば、甘い吐息が答える。
「は・・・・・あ・・・・・ん・・・・。」
 かき回される音に、耳まで赤く、ぼおっとなりながら彼女は懇願するように男を見た。
「欲しい?」
 かぶさり、涙が溜まる彼女の目元を舐めれば、こっくりと彼女が頷いた。
「ちゃんと、言ってみろよ?」
 低く言えば、恥かしそうに顔を逸らした女が、男の首にしがみ付く。
「下さい・・・・。」
 呟く彼女に、男は意地悪く笑った。
「なぁにを?」
「ムウ!」
 情けない顔をする恋人の唇を舐め、受け入れようと開くそこに、舌を絡める。
「・・・・・ふ・・・・・。」
 う・・・・んっ・・・・・。
 彼女の足を持ち上げ、濡れて熱くなっているそこに、強く押し込む。
「あ・・・・あっあっあっ」
 音をたて、それを飲み込んでいく。快楽に、彼女は背を逸らす。その背に、彼は指を這わせ、口を塞ぎ、太ももを押さえ込む。声が出せない彼女の頬を、つっと涙が伝った。口の端からこぼれた唾液が、汗と混ざる。それでも、彼はキスを止めない。目を細めて、苦しそうに顔を赤らめる女を、見下ろしている。
 その瞳が、彼女を更に追い詰めた。
「ん・・・・・・んんっ」
 唇を離し、荒く息をする彼女を、突き動かす。水音をたてて動かされ、だんだん彼女の息が上がってくる。
「はっ・・・・・あん・・・んんっ・・・・んッ」
 切れ切れの喘ぎ声に、男が激しく腰を打ちつける。強く動かされ、女の身体が強張った。
「あ・・・・・ああっ」
 あと、一歩。
 そこで、彼はふっと動くのをやめ、びくん、と身体を強張らせた女が、懇願するように彼を見上げた。
「いやぁ」
「なぁ、マリュー。」
 息の荒い恋人に、彼は真剣な表情で呟いた。
「どうしたんだ、一体・・・・。」
「ん・・・・・お願い、やめないで・・・・・。」
「教えろよ。」
 つくん、と一回だけ突かれる。
「やぁん・・・・お願い・・・・もっと・・・・。」
「マリュー。」
「ちゃんと・・・・・最後まで・・・・。」
「答えたらな。」
 冷たい、瞳。
 愛し合っている最中とは思えないくらいの、その、鋭い眼差しに、女の眼が、別の涙で潤んだ。
「ん・・・・・・。」
 差し込まれたまま、彼女は恋人の首に腕を絡めると、自らの唇で、彼の唇を塞ぐ。押し込まれてくる舌に、絡まる気持ちと、快楽。音をたててキスをし、離れた彼女が、唾液が二人を繋いだままに囁いた。
「あい・・・・してるから・・・・貴方のこと・・・・・。」
 違う。
 そう、男は直感した。
「愛してる。」
 違うだろ?
「愛してます・・・・・ムウ。」
 でも。
 ちゃんと言われた事の無いそのセリフは、どんなに嘘であろうとも、男の心に突き刺さり、涙目の彼女は、更に彼の欲望を加速させ。
(卑怯・・・・・・・。)
 答えが違っていると分かっていても、堪えられなくなる。
「んあっ・・・・・あっ・・・・あああ」
 再び動かされ、濡れて熱いそこが、彼の意識すら白濁色の世界へと誘っていく。
 もう、どうでもいい。ここにある、彼女の柔らかい肢体と、それを堪能する自分が居るのなら。それを彼女が求めるのなら・・・・・。
 奥を何度も貫き、強く強く、女を突き動かす。
 損な風に攻め上げられ。高みにまで登り詰め。快楽に、女の意識が追いつかなくなる。
「あ・・・・・ああっ」
 迎える、絶頂点。
「――――っ!」
 悲鳴のような、それでいて妙に艶かしい声と共に、彼女のそこが強張り、締め上げられて、彼も女の中に解き放った。








 くたり、と腕の中に横たわる存在を、彼は柔らかく抱きしめている。涙の後が残る頬を、丁寧に拭ってやり、上気して真っ赤な頬に口付ける。腰に腕を回し、すべすべの背中とさらさらの髪を撫でる。
 何度も懇願され、何度も答えて。
 それでも、満足そうに眠っているようには、彼には見えなかった。
 一体彼女は、自分に何を求めたのだろう。
 誘われるままに、彼女を追い詰め、結果、彼女は確かに彼の腕の中でまどろんでいる。
 だが、本当に彼女はそれを望んでいたのだろうか?

 愛しているからだと、彼女は言った。

 その言葉を、真正面から信じ込めるほど、彼は純情ではない。色んな女性と身体を繋ぎ、結果、良いも悪いも見てきた男だ。
 女性があんなふうになる時は。
 何かに、不安を感じている時。
 それしかないだろう。寂しかったり、捌け口的に相手を求めることも、あるかもしれない。だが、そんな行為を彼女が望むとは思えなかった。
 では、彼女をこの部屋に駆り立てて、ここまで求めさせたものの正体とは?
(考えたくも無い・・・・・・)
 きゅうっと彼女を抱きしめて、彼は深いため息を付いた。

 不安にさせている。

 その自覚は、ある。
 最近彼は、自分の怪我を理由に、彼女を遠ざけていた。彼女になるべく会わないように。彼女を医務室に、自室に入れないように。そう、細心の注意を払っていた。
 何故か。
 理由は簡単だ。
 彼女を巻き込んではいけない・・・・・・そう、思ったからだ。
 自分には罪と、義務がある。
 あんな悲しい化け物を作り出してしまった血を、継ぐ者として。
 その者に、安息を与えるために。
 そのためになら、命を賭けても、かまわない。
「・・・・・・・・。」
 彼は、そっと彼女の髪に顔を埋めてキスをする。
 その覚悟を、彼女は知っている。
 恐らく。

 柔らかな寝息が途切れ、微かに、女の身体が動いた。はっと身を引けば、腕の中で彼女が目を覚ました。
「私・・・・・・。」
 目をゆっくりと瞬いて、それからおずおずと彼女が恋人を見上げた。
「落ちて・・・・た?」
 恥かしげに言われ、優しい笑みで、彼がこくりと頷いた。
「・・・・・・いけた?」
 不安そうに訊くから、彼は破顔する。
「ん。まーね。ぎりぎり?」
 てか、待って、って言ったら、待ってくれた?
 意地悪く訊かれ、こつん、と額を彼の胸に押し当てて、女が呟く。
「待てないけど・・・・・いけるまでしてもいい。」
 そう言って、背中に腕を回し、自分から抱きついた。
「今、欲しい、って言ってもさせてくれるの?」
「いいわ・・・・・貴方が望むなら、いくらでも。」
 一晩でも、二晩でも。
 あまりにあまりな返答に、ははっと声を上げて男が笑った。
「本気にするぞ?」
 だが、その軽い彼の言葉を真に受け、彼女はつと顔をあげると、真っ直ぐすぎる瞳で彼を見詰め返した。
「いいわ。」
 それには、流石に男も驚いた。
「え?」
 目を丸くする彼に、しかし女は痛いくらい真剣な瞳で切り返す。
「貴方が、そう、望むなら。」
「・・・・・・・・・・・。」
 貴方が、そう、望むなら。
 それは。
 あまりに重い一言だった。
「・・・・・・・どういうことだ?」
 彼女は腕を伸ばし、彼の首に絡めると、きゅうっと抱きつく。頬に口付ける。
「私の身体、貴方にあげる、ってコト。」
「バカ言うなよ。」
 窘めるように言えば、きかない子供のように、彼女がふるふると首を振った。
「いいの。全部あげるわ。好きにして。」
「・・・・・・・・・。」
「無理やりでも、なんでもいい。・・・・・・好きに、抱いて。」
 その言い方に、怒りが込み上げた。なんだ、それ。
「馬鹿にしてるのか?俺を。」
 怒気を孕んで低く言えば、怒気を孕んだマリューの、鋭すぎる瞳が返って来た。
「馬鹿にしてるのは貴方でしょう?」
 声が、上ずっている。
「?」
 せきを切ったように、マリューが怒鳴り散らした。
「帰ってこない気のくせに。全てを捨てて、行こうとしてるくせに。私の気持ち・・・・掻き乱して、引っ掻き回して、ぐちゃぐちゃにして、とっとと持っていったくせに、残して逝こうとしてる。私は・・・・・そんなに頼りない?貴方の宿命の、半分以下も背負わせることが出来ないくらい、頼りない?なら、どうして私の構うの?どうして私の気持ちを持って行ったのよ?私のこと・・・・捌け口でもなく抱くのはどうして!?優しくキスするのはどうして?!追い詰めるのはどうして!?」
 高ぶった感情は、マリューの頬に涙を落とす。腕の中の恋人の激しい口調に、ムウはあっけにとられ、息を飲む。それに気付かず、更にマリューがまくし立てた。
「身体だけ欲しかったのなら、そう抱いて!キスなんかしないで!構わないで!壊れていく私を、バカな女だって、遠くから笑って見ていればいいじゃない!なのに・・・・・あんなに優しくされて。大切に抱いてくれて。気遣うように笑って・・・・・そうしたら・・・・・・私・・・・・・愛されたくなる。愛したくなる。離れるなんて・・・・・出来ない・・・・・・見送るなんて・・・・・・・飛ばせるなんて・・・・・・・。」

 艦長じゃ、なくなる。
 貴方が生きて、ここにいてくれるのなら、それでもいいとさえ、思っているのに。


 貴方は、そんな私の気持ちすら、無視できるのですか?


 震える肩。こぼれる涙。堪えきれず溢れた激情と、嗚咽。
 泣きじゃくるマリューを胸に押し抱いたまま、ムウは自分の愚かさを心底呪った。
 どうか、している。
 愛する人に、不安を与え、どうかどうか行かないでと、ただそれだけで身体を差し出させ、その理由にさえ気付けずにいた、自分。
 まったく、どうかしている。
 ムウはふっと笑うと、マリューの顎を掴んで上げさせ、震える彼女の唇をそっと塞いだ。
「また・・・・そうやって私を弄ぶの?・・・・なら、私は貴方の腕の中で死ぬわ。」
「・・・・・・やり殺されたい?」
 言って、ムウがくっくと笑う。
「何がおかしいのよ。」
 喚く彼女を組み伏せ、瞳を見たまま、呟く。
「どうせなら、俺の子供、産んで?」
「!」
 目を丸くする彼女の頬にそっと触れ、柔らかく微笑む。
「止めたよ。君を不安にするの。」
 ぼろっと、マリューの眼から、大粒の涙がこぼれる。
「不安にさせて、悪かった。確かに、俺は帰らない気だった。・・・・でも、どうかしてた。」
 マリューにキスをして、優しく促せば、ん、と息を漏らして口を開く。
「ん・・・・・んんっ」
 手を伸ばして、優しく身体に触れる。びくん、と彼女の身体に衝撃が走る。キスを繰り返しながら、ゆっくりと全身を愛していく。はあっと溜息を零すマリューの耳朶を甘く噛みながら、低く囁いた。
「愛してるから、恐かった。君を巻き込んで、この身体に傷がつくのが。」
 愛しそうに指を滑らせ、彼女の指を絡ませた右手に、力を込める。
「でも・・・・・その俺が、マリューを傷つけてたんじゃ、本末転倒だろ?」
 だから、止めた。
「ムウ・・・・・・。」
 見上げるマリューに、ムウは笑う。
「ゴメン。妙な決意、させて。なのに、全然気付かずに、マリューのことむちゃくちゃに抱いて・・・・。」
 許してくれるか?
「ん・・・・・・。」
 眼を細めて、マリューはちらっと笑う。その笑みが、驚くほど可愛くて・
 すべすべの肌を彷徨っていた指が、そおっと太ももに滑っていく。
「ん。」
 ムウは愛しさのままに、彼女の身体を愛していく。
 激しさだけでなく、愛しさと、大切な思いを込めて。
「愛・・・・・してるわ・・・・・・。」
 途切れる吐息に混ぜて、マリューが囁くので、顔を上げて、ムウは眼を細める。
「愛してるよ。」
 圧し掛かり、唇を塞ぐ。しばらく口付けを堪能した後、足を割って持ち上げる。押し入ってくるそれに、マリューは眩暈を覚えた。
 身体全体を駆巡る、不思議な感情。
 細い喉から漏れる声に、ムウはふと笑った。
「ホントに、気持ちよさそうに喘ぐよな、マリューって。」
 潤んだ眼で、睨まれた。でも、その目尻は優しくて。
 動かし、追い詰めるムウの思考も、優しく変わっていく。
 ただ、追い詰めたいのではなく。
 マリューと一緒に、辿り着いてみたい。
 その場所が、どこかなんて、分からないが。
 見えるのなら、見てみたい。
 辿り、着いてみたい。

 きゅうっと締め上げる感触に、びくり、と身体を強張らせ、それでも、突き動かすから。
 二人に、限界が来る。
「は・・・・・・あ・・・・・あっ」

 解き放たれる何かを感じ取り、それが不快じゃなく、むしろ暖かく感じるのは、マリューがムウの全てを受け入れたからなのかもしれない。

 一晩でも、二晩でも。
 確かめ合った愛。
 それが、いつか、形を変えてマリューとムウの前に現れるとき、人の生命が、どれほどの愛を受けて生まれるものなのか、知ることになるだろう。

 二人は間違わない。
 この空の果てで。
 正しい命が、どういうものなのか、ということを。







(2005/02/01)









※再UP 20100517※
記念すべき、人生初(大笑)裏小説です!
温い&微妙なのは・・・・・2010年の今でも変わって無いというオチw
サルベージ希望を出してくださったaさま、ありがとうございますv