Muw&Murrue

 カウント・ゼロ
「あれ?」
 それは、帰宅を急いだり、イベントに参加したりする人の溢れる、大きな通りの、イルミネーションの前だった。
 見知った人の立ち姿を見つけて、ムウはそちらに歩いて行く。内心、ちょっとラッキーかも、なんて思いながら。
「ラーミアースさん。」
 ぽん、と肩を叩くと、紙袋を持った同僚がはっと彼を振り返った。
「あ・・・・・フラガさん・・・・。」
 目を丸くする彼女は、凍える外気から身を護ろうと顎までマフラーに埋まり、寒そうに手袋をはめた両手をにぎにぎしていた。
「何してるんだ?」
「あ、待ち合わせです。」
 ぶるっと身体を震わせて、真っ白な吐息を吐き出す彼女に、ムウはふーん、と目を細めた。
「彼氏?」
「え?」
「だよな〜。」
 ちょっと・・・・いや、かなりがっかりするも、ムウは表に出さずにニコニコ笑う。
「ラミアスさん、美人さんだもんね。」
「あ・・・・。」
「年末年始は恋人と〜、ですか?」
「・・・・・・。」
 ちょっと困ったように笑うマリューが、「そういうフラガさんは?」と聞き返す。
「俺?」
「彼女さん、待ってるんじゃないんですか?」
 外見がいいから、きっと素敵な彼女が居るのだろう。
 そう思って、マリューは笑顔で訊ねた。
「ん〜・・・・・いや、まあ。」
「今日で仕事おさめでしたし。早く帰って差し上げた方がよろしいんじゃないんですか?」
 言葉を濁すムウに、笑顔で告げるマリューをしげしげと見た後、ムウは苦笑した。
「あ・・・・・そう・・・・かな?」
「ええ。」
 と、その時である。一台のタクシーが広場の前に止まり、オレンジのマフラーをした男が一人、こちらに向かって走ってきた。
「ラミアス!」
「あ。」
 ぱっとマリューの顔が輝き、ムウはちらっとその男を確認した。なんというか、陽気な外見の男だ。
「遅いです。」
「すまん。待たせた。」

 ふーん。コイツがマリューさんの彼氏ねぇ・・・・。

 所在無く佇み、嬉しそうに話すマリューを横目に、悔しくて撤退しようかと考える。
 でも、このまま立ち去るのも・・・・。

「すまんな。」
「いえ。いいんです。」
 にっこりと微笑むと、マリューは持っていた紙袋を男に差し出している。
「どーぞ。」
「しかし、デートの最中に邪魔したみたいで・・・・悪かったな。」
「え?」
 寒そうにしながら、二人を見送ろうと考えていたムウは、その言葉に、おや?と顔を上げた。マリューが赤くなっている。
 だが、相手はそんな事にちっとも気付かず、豪快に笑ってマリューの肩をばしばし叩いている。
「なんだ、ラミアス!彼氏が居るなら居ると最初に言えばいいものを。」
「え!?あ・・・・ち、ちが・・・。」
「いや、悪かったな。」
「え?」
 あわあわするマリューになど目もくれず、男がムウのほうに振り返った。
「こんな風に律義者だけどな、コイツ。俺に婚約者なんて居なかったら結婚申し込んでるような良い女だぞ。」
「せ、先輩っ!」
「いや〜、良かった良かった。仕事一筋で彼氏も居ないから心配してたんだが、なんだ、いい男捕まえたな〜。」
 あっはっはっは。
「は、早く行ってください!」
 アイシャさんに宜しく!
 婚約者の名前を出されて、おっと!と男が時計を見て、「じゃあな。」と手を上げた。
「ラミアス、しっかり頑張れよ!」
「何をですか!」
「良いお年を〜〜〜。」
 来た時と同じのりで、男はタクシーに慌てて乗り込み、あっという間に去って行った。
 残されたムウとマリューは知らず知らず顔を見合わせる。
「・・・・・・彼氏じゃないの?」
「大学の先輩で、正月休みに読みたい本があるから、全部貸してくれ、って言われたんです。」
 ショルダーの鞄を持ち直して、マリューはふう、とため息を付いた。
「スイマセン。」
「え?」
 唖然と男が消えた方角を眺めていたムウは、小さな彼女の言葉に振り返った。
「なんか・・・・変な思い込みさせてしまって。」
「え?」
「ちゃんと誤解、解きますから。」
 真剣な眼差しで見上げてくるマリューに、ムウは「あ〜・・・・。」と言葉を濁して空を見た。
 冬の空は透き通って、宇宙かと見紛うほどだ。星が、凍て付いている。
「じゃあ、私はこれで。」
「なあ!」
 さてと、と一息ついて帰ろうとする彼女の腕を、ムウは思わず掴んでいた。
「はい。」
「・・・・・・あの、大晦日、彼氏と過ごすんじゃ・・・・ないのか?」
「彼氏なんて居ませんよ。」
 苦笑するマリューが、思わず下を向いた。
「キャリアウーマンの、寂しいクリスマスとお正月ですよ。」
 自嘲を込めてそういい、あはは〜、なんて笑う彼女に、ムウはどきりとする。腕を掴む手に力を込めた。
「本当に一人?」
「もう!情けなくなるから、そういうこと言わないで下さい!」
「じゃあさ、付き合って。」
 間髪入れずに告げられて、マリューが目を丸くした。
「え?」
「俺も、一人だから。」
「嘘だ。」
 くすくす笑うマリューに、ムウは必死になる。
「ほんとだって。一人も一人。休暇中予定なし!」
「・・・・・・・・。」

 意図的に、そうしたんだけど、という台詞をムウは飲み込む。

「どう?」
 一人で年越すのより、二人で、の方がいいでしょ?
「・・・・・・・でも、あの・・・・迷惑じゃ・・・・。」
「大晦日にさ、年越しカウントダウンやってる居酒屋あるんだ。料理も美味しいしイチオシ。」
「・・・・・・・・。」
「行こうぜ?二人でさ。」
「・・・・・・でも・・・・。」
「俺の驕り。」
 ぐいっと彼女の手を掴んでムウは歩き出す。ともすれば嬉しくてスキップの一つもしたいくらいだ。
「あの・・・・フラガさん!」
 つながれた手に、赤くなりながらマリューは声を荒げた。だが、ムウは頓着せずに彼女の手を引っ張り、強引に腕を絡めさせた。
「ちょ・・・・。」
「いいじゃん。恋人同士に間違われたんだからさ。」
 今夜一晩だけ、恋人同士。
 にこにこ笑って言われて、マリューはぎゅっと捕まっている腕に力を込めると「知りませんからね。」とぽつりと呟いた。
「あにが?」
「彼女とこじれても。」
「だあから。俺フリーなの。」

 信じられない、と疑いの目を向けるも、でも楽しそうに笑うマリューと、まさか彼女が隣にいるとはと浮かれるムウは、はしゃいだ冬の夜を歩いて行った。



 こじんまりとした店内は、人で溢れていた。隅の方の座敷に彼女を連れて行くと、常連さんから声が掛かる。
「フラガさんが女を連れてくるなんて珍しいですなぁ。」
 ビール二つを運んできた、無精ひげの店主が笑い、マリューは軽く目を見張った。
「ムウさんくらいになると、オンナノヒト連れて行くのは高級レストランですよ。」
「キラっ!」
 背中合わせに座っている、年の若い青年をムウは睨んだ。キラの向かいに座っている女性が小さく笑っている。
 にぎやかで、暖かい雰囲気に馴染んでいたマリューは、そのキラの言葉にそりゃあ、そうよねと苦笑する。
「気、悪くした?」
 冷たいビールジョッキを持ち上げてマリューは首を振る。
「そんな事。」
「でも・・・・・その高級レストランの方が良かった?」
「わるかったぁね!こんな店で!」
「誰もそんな事言って無いだろが!」
 店主に怒鳴り返し、二人はグラスを合わせた。
 出てきた料理も、家庭的で、きどってなどいなくて気付くとマリューは美味しそうにあれこれ食べてしまい、すっかり襟元を緩めているムウの視線に気付くと気まずそうに箸を下ろした。
「あきれてます?」
「ん?」
 いいのみっぷりだなぁ、なんて空いたグラスの数を数えていたムウが曇ったマリューの表情に笑みを返した。
「なんで?」
「だって・・・・・。」
「マリューさんってさ、本当に美味しそうに、食べるよね?」
「・・・・・・。」
 恥かしくて赤くなる彼女の手元に、ビールは無い。追加〜、と声を上げるムウに、マリューは慌てた。
「あ・・・・も、もういいですから。」
「いいっていいって。」
「そうですよー、酔わせてとんでもないことしようとしてますからねー、この人ー。」
「キラ・・・・・。」
 あははは、なんて笑いながらキラがムウに絡んでくる。
「あらあら、キラ。お邪魔してはいけませんわよ?」
 連れが笑い、キラを引き剥がしにかかる。
「お前こそ!ラクス酔わせて連れ込もうなんてするなよ?」
「し、しませんよ!そんな事!!」
「まあ、わたくしはそれでも構いませんわよ?」
 にこにこ笑う、おっとりした感じの女性に、ムウが「よっしゃ、キラ!新年早々かましてやれー!」なんて酔った勢いではやし立てる。
 場の視線がキラに集中し、「ムウさん!!」と情け無い声でキラが叫んだ。

 玩具にされているキラを横目に、ムウはくっくと笑うと、マリューの隣にちゃっかり移動した。
「ほい。」
 今度は瓶で頼んだビールを、コップに注いでいる。
「もう。」
 苦笑し、マリューは貸してください、と瓶を取り上げるとムウにお酌する。
「美人にお酌してもらえるとは。」
「褒めても何も出ませんよ。」
「え〜、ちゅーくらいしてよ。」
「バカ。」
 くすくす笑うマリューも、いい感じでお酒が回っていて、気持ちが良くなっている。
 ぱく、と小鉢に乗っている豚の角煮を口にして、ちょっとだけムウに身体を寄せてみた。一瞬肩に手を回そうかと考えて、それからムウはマリューの腰の辺りに手を回す。ぽおっと赤い彼女の頬が可愛くて、柄にもなくムウはどきっとした。
「今年もあと15分、きったな。」
 気付けばもう、そんな時間だ。楽しくてつい時を忘れてしまっていた。
 にぎやかな店は顔なじみの知り合いばかりで、回転は遅い。大体が入ったときに見た顔ぶれで固まっている。
 そんな空気の中、マリューはコップのビールをちょっとだけ飲むと小さく笑った。
「フラガさん。」
「ムウでいいよ。」
「・・・・・・ムウさん。」
「ん?」
「ありがとうございます。」
 もたれかかって、マリューは小さく笑うと彼を見上げた。
「本当に楽しく年、越せそうです。」
「そうか?」
 ラクスの笑い声が上がり、飲まされているキラが、好きだーなんて叫びながら彼女に抱きついている。
「ありゃ、そうとう酔っ払ってるな。」
「酔うと歯止めが切れて、今まで抑制していた物が溢れるそうですよ?」
 くすくす笑うマリューに、ムウは視線を落とした。
「じゃあ、マリューさんも?」
 瞳を覗き込む。
「抑制、取れかかってるの?」
 間近で見る彼の瞳に、吸い寄せられてマリューは微笑んだ。
「そうかも。」
「・・・・・酔ってる?」
「多分。」
 ふう、と目を閉じるマリューが、口付けをねだるように顎を上げる。

 そっと、ムウはその唇に自分の唇を重ねた。

「成り行きでも偶然でも。」
 目を開けたマリューが、くすくす笑う。
「嬉しいです。」
「・・・・・・・・・・・。」
「優しいんですね、フラガさん。」
 少しだけかげるマリューの瞳に、ムウは真剣な眼差しを返した。
「だから、ムウでしょ?」
「あ・・・・・・・・・。」

 今度は深く口付ける。

 そうこうしているうちに、店主が「今年もあと五分!」なんて叫んでいるのが聞こえた。

「マリューさん。」
「・・・・・・・・。」
 抱き寄せて、彼女の身体を閉じ込める。
「あー、ムウさん!一人だけいちゃいちゃと!!」
 ラクスにちゅーをされていたキラが、気付いて声を上げる。マリューをぎゅっとしたまま、「いいだろ〜。」なんて自慢げに叫んでいる。
 どこかから、「見せ付けるな!」だの「自慢か!」だの果ては「何人目だ!?」と野次が飛んだ。
「何人目かは余計だっ!!」
「やっぱり、付き合ってらっしゃる人、いるんじゃ・・・・。」
 身体にマリューの声が響き、ムウは抱き上げると彼女の目を見た。

 時は過ぎ、カウントダウンが始まる。

「居ないよ。」
「嘘。」
「ほんと。」
「・・・・・・・・・。」
「信じられない?」
 揺らいだムウの瞳を見詰めて、それからマリューはゆっくり首をふると、そっとムウの首に腕を回した。
「いいの。」
「ん?」
「貴方に他の人がいても・・・・私、二番目でもいい。」
「バカ!」
 抱きしめる手に、力を込める。
「俺の一番は―――――。」

 カウントがゼロをつげ、わあ、と歓声があがる。あちらこちらからオメデトウの声が響き、ムウの言葉はかき消された。
「何?」
 きょとんとするマリューと、苦く笑うムウの所にも、つぎつぎにお酒を持った人が現われて、困るマリューのグラスや、ムウのコップについでいく。
 飲んだり笑ったり、騒がしい空気に巻かれているうちに、マリューもムウもすっかり先ほどの甘い空気を忘れてしまうのだった。



 新年の挨拶は、やがておやすみなさい、に切り替わりかなり飲まされてふらふらのマリューを抱えてムウはタクシーに乗り込んだ。
「マリューさん、送ってくから住所。」
 だが、すっかり酩酊状態の彼女は、なにやらふにゃふにゃ言うだけで聞き取る事が出来ない。苦笑し、ムウはしばらく考え込んだ後、自分の家の住所を告げた。
 年の明けた元旦の夜。しんとして、車通りが少なくなっていき、人々がそれぞれの場所で思い思いに年を越したんだなと、ムウは小さく笑った。
 寄りかかる彼女を抱きしめ、顔にかかる栗色の髪の毛を払ってやる。

 しん、と静かな自宅付近に着き、ムウはなんとかマリューを立たせるとよろよろとマンションの方へ歩いて行った。
 崩れ落ちるようにソファーに座り込み、「う〜ん。」なんて言いながらマリューは丸くなっている。
 このままソファーで寝かせていいものだろうかと、毛布を取りに行きかけ、ムウは苦く笑った。
「ほら、マリューさん。ここで寝たら身体痛くするから。」
 優しく告げると、こっくり頷いたマリューが手を伸ばしてムウの首にしがみ付いた。
「フラガ・・・・さああん・・・・。」

 一応俺っていう認識はあるのね。

 小さく笑うと、ムウは彼女を抱き上げて自分の寝室へと連行する。コートと上着だけ脱がせて横たえる。だが、目を閉じて、むにゃむにゃ呟くマリューは彼を放そうとしなかった。
「おーい。」
「や・・・・・。」
「・・・・・・。」
 立ち上がろうとするムウにしがみ付き、マリューがベッドから落ちかける。
「こら!」
「やん・・・・・。」

 いいだけ飲ませた責任の一端は、一応ムウにも有る。

 ふにゃふにゃのマリューに、彼は溜息をつくと、マリューと同じようにコートと上着だけ脱ぎ、しがみ付いて離れないマリューの隣に滑り込んだ。
 首にしがみ付いていたマリューが、くふふ、と笑うと手を外してムウのシャツにしがみ付く。ほう、と溜息をついてまどろむ彼女に、ムウはやれやれと笑うと、腕を伸ばしてそっと抱きしめた。

「んぅ・・・・・・。」
 喉が渇いて目を覚ます。ふかふかの布団と敷布が、心地よくマリューを包んでいて、彼女は起きるのが面倒だな、などと考えながらうっすらと目を開いた。
「・・・・・・・・・。」
 キレイな横顔が飛び込んできて、マリューは息を飲んだ。自分の肩の辺りに手を沿えたムウに目を瞬く。
「・・・・・・え?」
 はっと辺りを見渡せば。
「!?」
 見慣れない光景が、閉まっているカーテンの隙間から溢れる光に浮かんでいる。
 思わず自分の身体を確認し、マリューはほっとした。しっかりとスーツを着用している。ふと見れば、ムウもYシャツ姿で、マリューは一気に赤くなった。
「ふ・・・・フラガさん!」
 上半身だけ起こして、マリューは隣のムウを揺すった。
「ん〜。」
 背を丸めて、布団に潜っていくムウを、マリューは先程よりも強く揺する。
「フラガさんっ!」
「な〜に〜〜?」
「・・・・・・・・あの・・・・・。」
「まだ八時じゃん・・・・・。」
 片目で時計を確認すると、ムウが腕を伸ばしてマリューを引き込んだ。
「正月くらい・・・・朝寝させて・・・・・。」
「はい・・・・って、そうじゃありません!」
 強く言って、マリューはムウのほほに手を当てた。
「あの・・・・と、とにかくフラガさん!」
「ん?」
「わ・・・・・私、帰りますから!」
 それに、ぱちっと目を覚ましたムウが「そりゃだめだ。」と間近にあるマリューを見た。
「な・・・・・なんで・・・・・。」
「今日はマリューさんと一緒に、昼まで寝て、お酒飲んでごろごろする予定だから。」
「ちょ・・・・・・。」
 ぎゅーっと抱きしめられて、マリューは真っ赤になって俯いた。
「それとも、何か予定あるの?」
 囁かれて、一瞬マリューは嘘を付こうかと思うが、あきらめて、「ありません。」と呟いた。
「なら、いちゃいちゃしてよう。」
「い・・・・いちゃいちゃって・・・・わ、私・・・・・。」
 そっと彼女の頬に手を当てて、ムウは俯くマリューを覗き込んだ。
「なあ。」
「はい。」
「俺のこと嫌い?」
 躊躇うように視線を逸らし、ふるふるとマリューは首を横に振った。
「じゃあ、好き?」
 眼に見えて真っ赤になると、彼女はこっくりと頷いた。胸が潰れそうになるくらい嬉しくて、ムウは「そっか。」と笑いを噛み殺すとマリューの髪の毛を優しく梳いた。
「俺も、好きだよ。」
「嘘。」
「・・・・・だから、どうしてそういうかな。」
 呆れるムウに、顔を上げたマリューが「だって。」と語を濁した。
「だって・・・・・・あの・・・・。」
「好きだよ、マリュー。」
「・・・・・・・・。」
 空色の双眸に映る自分。マリューは赤くなって、「嘘でも嬉しいです。」とぽつりと答えた。
「マ〜リュ〜さ〜〜ん!」
 咎めるように言う。
「あのな、適当に付き合いたいと思ってるんなら、こんな格好で君の事抱きしめたまんま寝てないよ。」
 とっくにやっちゃってるっての。
「フラガさん!?」
「ムウ、でしょ。」
 あ〜あ〜、マリューさんに嫌われたくない一心で我慢してたのに、そういうこと言うのかよ?
 真っ直ぐに見詰められて、マリューは俯いた。
「本当に、君が好きなんだよ。」
 優しく言って、ムウは彼女の手をとると、自分の胸の辺りに当てた。
「どう?柄にもなくドキドキしてるだろ?」
「・・・・・・・・・。」
「今も君の、全部が欲しくて仕方ないのに。」
 我慢してるんですけど、俺。
「・・・・・・。」
「偉いだろ。」
 抱き寄せるマリューの髪に顔を埋めて、ムウは小さく笑った。
 おずおずとマリューが彼の背中に手を回す。
「フラガさん・・・・・。」
「うん?」
「服、しわしわになっちゃいます。」
「君もね。」
「・・・・・・・・・・あの。」
「ん?」
 ぎゅうっと抱きついて、マリューはムウの胸元に額を押し付けた。
「皺になっちゃうから・・・・・。」
「うん。」
「脱いでもいいですか?」
 小さく息を吸い込み、ムウは彼女を離す。耳まで真っ赤なマリューが見えた。
「・・・・・・だめ。」
「・・・・・・・。」
「俺が脱がすから。」
 顔を上げたマリューに、ムウは深く深く口付けた。


 大晦日の夜から始まった恋は、こうして年明けとともに成就したのでありました。





(2006/01/03)

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