Muw&Murrue

 凍れる夜の物語 01
 それはある寒い冬の出来事です。街から少し離れた小さな森に、一匹のウサギが暮らしていました。

 名前はマリュー。
 長い耳が自慢の、アイボリー色のウサギです。
 彼女は一人で、森の中心にある大きな樫の木の根元に住んでいます。
 入り口は小さな赤いドア。
 そこをくぐると、木の下に住み心地のいいつちかべの家が広がっています。

 マリューは夏の間にせっせと集めた野いちごのつるでかごを編みます。
 そのかごを、街で売って暮らしていました。
 マリューのかごは、ちいさくてもおおきくても丈夫で街中で評判でした。

 そして、持ち手の所についている、真っ赤な野いちごが、けしてひからびたりしおれたりしないのが自慢でした。

 街の若いきつねの娘(こうまんちきな娘さんです)も、マリューのかごが大のお気に入りでした。

 優しくて明るくて気立てのいい彼女に、街の人たちはよくしてくれます。
 マリューも街の人たちが大好きでした。

 でも、靴屋の鹿のご主人がすすめても、洋服屋のくまのおばさんがすすめても、キャンディー売りの白鳥のお兄さんがすすめても、マリューは決して森から出て暮らそうとはしませんでした。

「マリューちゃん、もうそろそろ街の誰かのところにお嫁にいかないのかい?」

 そう、誰もが可愛くてきれいな彼女にそういうのですが、彼女はちょっと悲しく笑うだけで首を振るのです。
 そして決まってこう言うのでした。
「私はここでは暮らせないんです・・・・・。」
 小さなその声に、町の人は顔を見合わせてう〜ん、とうなるのでした。



 そんなマリューは、今日もいつもと同じように、夏の間に集めて、秋の間に乾かした野いちごのつるでかごを編んでいました。
 今日はとても寒くて、北風がびゅうびゅうと音を立てながら樫の木の周りをうろうろしてます。
 天井についている小さな窓が、かたかたいうのをマリューは不安げな表情で見上げました。
 暖炉には小さく火が灯っています。

 もう少し薪を取ってこようかしら・・・・・・。

 手にしていた、決して枯れない真っ赤な苺を脇のツボに戻して、マリューはスカートとエプロンをはたいて立ち上がりました。
 ハシゴの横に掛けてある、赤くてごわごわしたフェルトのコートを羽織ります。
 これは昨日、仕立物屋の娘さんの結婚祝いに上げた、小さなバスケットのお礼に貰ったものです。
 真鍮のボタンがぴかぴかと暖炉の灯に煌きました。
 それをきちんと着て、マリューは暖炉の火に灰を被せると、はしごを上ってドアを開けました。

 途端、北風がびゅうーとマリューに近寄り、けたたましい笑い声を上げました。

「こら!邪魔しないの!」
 一睨みすると、北風は肩をすくめ、笑いさざめきながら遠ざかっていきます。
「まったくもう・・・・・・。」
 よいしょ、と彼女は家から出ると、冷たい空気にぶる、と身体を震わせました。それから凍っている木々を踏みしめて、森の北のほうへと歩いていきます。
 そっちには、乾いた小枝がたくさん落ちているのです。
 ついでに来年も野いちごが、たくさん生るようにと、自分の苺の茂みに手をのせてなにやら呟きそれから、マリューはさくさくと森の中を歩いていきました。

 森の真ん中に、ぽっかりと現れた小さな広場。切り株が少し並ぶそこに、ありました。
 北風が遊んで落とした小枝がたくさん。

 マリューは背負っていた、自分で作ったかごを下ろすと、そこにせっせと小枝を放り込み始めました。

 夢中になって放り込んでいるうちに、ふと、柔らかい小枝を掴んでマリューはびっくりしました。

 柔らかくて、ふさふさしてる小枝。

「違う違う。尻尾だわ!」
 ぱ、とマリューはふさふさした尻尾を離して、恐る恐る切り株の周りを回ってみました。


 そこに、一匹のオオカミが倒れていました。


 マリューはどきりとしました。


 だって、オオカミといえば乱暴者で、皆から嫌われているのだと教えられていたからです。

 どうしよう。

 マリューは小枝を握り締めて、じ、とオオカミを見詰めました。
 冷たい風が吹いて、オオカミのふさふさした尻尾と、ぴん、と立った耳を撫でていきます。
 と、倒れているオオカミがぶる、と身震いをしてゆっくりと眼を開けました。

 青い目でした。

 吸い込まれそうなくらい綺麗な青い目です。

「これはこれは・・・・・また偉くかわいいウサギが迎えに来たもんだ。」
 かすれた声がそう呟くのを聞いて、マリューは我に返りました。
「どうやらここは天国らしい。」
 そのままオオカミはくすくす笑い出しました。

 びゅう、と風が吹き、マリューは顔をしかめます。

「ちょっと邪魔しないで!」
 彼女は北風に向かって怒鳴ると、青いスカートをはためかせて彼の側に近寄りました。
「ここは天国じゃありませんよ。」
 そ、と手を出して、マリューは冷たくなったオオカミの手を握りました。
「じゃあ、地獄?」
 真っ直ぐに見詰める青い瞳が、マリューは気になって仕方ありません。

 こんな目をする生き物が、悪いものなんだろうか・・・・・・。

 北風が何か囁くのに、マリューは腹を立てました。

「黙りなさい!それ以上悪く言ったら、瓶に閉じ込めて湖に沈めちゃうんだから!」

 風と会話をするマリューに、オオカミの目が微かに大きくなりました。

「風と話ができるのか?」
「・・・・・私は耳がいいんです。」
 ちょっと困ったようにそういうと、マリューはオオカミの身体に手を入れて起こしました。
「・・・・・・・俺は死んだんじゃないのか?」
「何を馬鹿なこと言ってるんです。」
 オオカミは足を怪我しているようです。彼が倒れていた枯れ草の上に、黒い血の染みが出来ていました。
「風と話が出来るウサギなんて見たこと無い。」
「ここにいます。」
「だから君は天使なんだろう?」

 それに、マリューはまじまじとオオカミを見ました。

 冬曇の空が、強い風を受けて少しだけ晴れました。
 透明で、ちっとも暖かくない光が降り注いできます。

「・・・・・私も初めてみました。」
「え?」
「金色のオオカミなんて。」


 冬の日差しの下で、オオカミの金色の尻尾が、微かに、嬉しそうに揺れました。




 マリューは自分の家にオオカミを連れて行きました。
 オオカミの左足には、鉄の罠が突き刺さっていました。
 足を引きずる彼を、何とか樫の木の根元の家に押し込み、マリューは暖炉に火を入れて、若草で編んだクッションをいくつか置くと、そこにオオカミを座らせました。
 いくらか暖かくて、ほっとオオカミが息を付きます。
 その彼の側によると、マリューは彼の足に刺さっている罠をはずそうと引っ張ってみました。
 けれど、マリューがどんなに強く引っ張っても、突き刺さった歯は抜けてくれません。
「外すには鍵がいるんだ。」
 痛みに顔をしかめるオオカミに、マリューはしょんぼりと耳をたらしました。
 どんどん溢れてくる血に、悲しくなって、マリューは小物入れから大切にしまってあった、たった一枚のハンカチを取り出すと、細長く切って、彼の足に巻いて上げました。
「・・・・・・・・ありがとう。」
 顔をあげて、ちょっと困ったように笑うオオカミに、マリューは考えます。
「知り合いに金物師がいるんです。」
 彼女は脱ぎかけていたコートをもう一度着ました。それからくるりとオオカミに背を向けます。
「彼に頼めば、鍵をつくってくれるかもしれません。」
「でも・・・・・どうして?」
 困ったように訊ねるオオカミに、マリューはニッコリと笑いました。
「困ってるのに・・・・放ってなどおけないでしょう?」
 とんとん、とハシゴを上っていく彼女を見上げて、慌ててオオカミはいいました。
「俺・・・・・・・。」
「はい。」
「俺は・・・・・・ネオっていうんだ。」
 にこりとマリューが笑いました。
「私はマリューです。」



 ぱたん、とドアがしまり、暖かい土の家に、ネオは一人取り残されました。しばらく閉まったドアを眺めた後、彼は自分の左足を見ました。
「・・・・・・・・・・・・。」

 キレイな藍色のハンカチが、赤く染まるのが見えて、ネオはマリューに悪い事をしたなと小さく溜息を付きました。




「まあまあ、このようなお時間にどうなさったのですか?」
 冬の太陽は凄い早さで山の彼方に沈み、小さな灯を手にして現れたマリューに、真っ白なウサギのラクスがにこにこ笑ってドアを開けました。
 彼女は金物師の奥さんです。左耳の下に、小さな月の形をした飾りをつけています。
 それは旦那さんが作ったものでした。
「・・・・・・・・ニンゲンの作った罠について聞きたいの。」
 ぶる、と身体を震わせて、小さな声で、しかも早口に彼女は言います。さっとラクスの顔が曇りました。
「どこかにニンゲンが現れたのですか?」
 それに、彼女は慌てて首を振り、更に小さな声で言います。
「大嫌いなニンゲンが・・・・・側に居たらすぐに知らせるわ。」
 すると奥から、真っ黒なエプロンをした、マリューと同じアイボリー色のウサギが出てきました。
「どうかしたんですか?」
「キラ。」
 奥さんの隣に立った彼こそが、金物師のキラです。
「あの・・・・・ニンゲンの作った罠について聞きたいの。」
 マリューはネオの足に刺さっていた罠について、丁寧に説明しました。
「鍵が無くては・・・・・外れない・・・・・のよね?」
 う〜ん、と考え込んだ後、キラは家の奥にある工房に引き返し、小さな罠を持って戻ってきました。
「これですか?」
「あ・・・・・・・・。」
 それはネオの足に刺さっていたのとそっくり同じでした。
「森の南の方にあるお城の領主が使っているものです。」
 キラは淡々と説明します。
「そこの領主は意地が悪くて、自分で捕った獲物を誰にもとられないように、自分が持っている鍵でしか罠が外れないようにしてるんです。」
「その鍵を、キラくんは持ってないかしら?」
 それに、キラは詰まらなさそうに首を振りました。
「興味があったから一つ、なんとかして手に入れることが出来ました。でも鍵だけは酷く特別なもので、領主が首から提げているんだそうです。」
 僕には作ることも出来ません。
「・・・・・・・・・そう。」

 これではネオを助ける事が出来ません。

「ところでマリューさん。どうしてそんな事聞くんですか?」
 それに、「え?」とマリューは困ったように視線を彷徨わせました。
「それは・・・・・あの・・・・・・・。」
 その様子に、何か気付いたラクスがおっとりと笑いました。
「森の奥で同じ物を見つけたんだそうですわ。」
「・・・・・・・・・・。」
 ラクスはマリューを見ました。
「マリューさんは森にすんでらっしゃるでしょう?お一人ですから、用心に聞かれたのですわ。」
 では、約束の物です。

 ラクスは側にあった、マリューの作ったかごからクッキーを一包み、マリューに手渡しました。
「これを受け取ってもらおうと思って、お呼びしたんです。」
 わざわざごめんなさい。
 ふんわり笑うラクスの知恵に、マリューは感謝しました。まだちょっと不満そうな顔をするキラに、マリューは「ありがとう」と何とか笑って告げると、コートのポケットにクッキーを入れて、キラの家を出ました。

 見上げた空には銀色の星が凍っています。

「領主の・・・・・・・・。」
 ぎゅ、とマリューは顔をしかめました。端から昇ってくる月は、もう、明日には満月になりそうです。
「・・・・・・・・・・・・・。」
 小さく溜息を付くと、マリューは真っ暗な小道を大急ぎで家に戻りました。





 いい匂いがします。

 スープのような、シチューのような・・・・・・。

 は、と目を覚ましたネオは、ぴょこぴょこ動いているウサギの耳を見ました。身体を起こすと、ずきり、と左足が痛んで、彼は思わずうめき声を上げてしまいました。
 は、とマリューが振り返ります。
「気付きました?」
「寝てたの、俺?」
「はい。」
 くすくす笑うマリューに、ネオはふう、とため息を付きました。
「なあ、マリューさん。」
「はい。」
 彼女はかまどの上にある小さな木の棚から胡椒を取り出して、大事そうに使っています。
「・・・・・・・・・・・・ハンカチ。」
「え?」
 そ、とネオはマリューを見上げて、言いにくそうに言いました。
「キレイな色のハンカチ・・・・・・悪かったな。」

 それはそれは見事な藍色で、しかも銀色の糸で刺繍が入っていたのです。それはもう、ネオの血で黒ずんでしまっていました。
「・・・・・・いいんです。」
 しまってあっただけですから。

 大切なものだから、しまっておいたのじゃないのだろうか。

「足、痛いですか?」
「え?・・・・・あ・・・・いや・・・・・全然。」
「しっぽ。」
「うん?」
「緊張してます。」
 彼は慌てて、自分に正直な金色の尻尾を抱え込みました。
 それを見て、マリューがくすくす笑っています。
「金物屋さんに聞いたら、ちゃんと鍵の事を教えてくれました。」
 野菜のスープを持って、彼女はネオの寝ている暖炉の前にやってきました。おわんを一つ、彼に差しだします。
「明日の夜には鍵が出来上がるそうなので、取りに行きますね。」
「・・・・・・・・・・・。」
 にこにこ笑うマリューに、ネオはちょっと俯くと、スプーンに浸したスープを一口飲みました。

 暖炉の前で、二人は温かい食事をして、それからマリューは、自分の毛布をネオに貸してあげました。
 足の怪我の所為で、ネオはちょっと熱があります。
 炎の前に居ながら、すこし寒そうにするネオに、マリューは自分の枕と上掛けをもってくると背中を寄せて横になりました。
 ぴん、とネオの尻尾がまっすぐになります。
 くすくす笑うマリューにネオはばつが悪そうに言いました。
「マリューさん。」
「はい。」
「あんまりくっ付くと、俺、食べちゃうかも。」
 それに、マリューはなおも笑い続けました。
「食べる気なら、お腹が酷くすいていた、出会った時に食べてると思いますけど?」
「・・・・・・・・・。」
 小さく溜息を付くと、ネオはちょっとだけ寝返りをうって、まるっこいアイボリーウサギをちょっとだけ抱きしめてみました。
 ふんふん、と彼女はネオの匂いをかいですりよると、耳をぺたん、とたらしてすやすやと寝てしまいました。

 甘くていい香りがするウサギです。

 でも、ネオは食べたい気にはなりませんでした。

 ただただ暖かくて。

「ハンカチ・・・・・ごめんな。」

 ただただ、すまなくて。

 ぎゅ、とマリューを抱きしめて、ネオはとろとろ眠っていきました。







 朝からマリューはくるくると働いています。
 働き者のウサギです。
 クッションに埋もれて、火の番をしながら、ネオはそんなマリューをじっと見ていました。
 彼女は時々振り返って、にこ、と笑うと冷たい水をくれたり、干してあった柿をくれたり、しまいには甘いクッキーをくれたりしました。
「何で食べ物なの?」
 嬉しそうにしっぽをぱたぱたするネオに、お茶を出したマリューは意地悪く笑います。
「食べられないためにです。」
「マリューさん酷い・・・・・。」

 食べる気なんか全然有りません。

 ちょっと甘いお茶を飲んで、それから椅子に座ってかごを編み始めるマリューを、ネオは珍しそうに見上げました。
 彼の鼻先に、小さなツボがあります。
 つぼの中には水が張ってあって、そこに色鮮やかな野いちごが沈んでいました。

 宝石のように、きらきら光るそれを見て、ふとネオは白いそのつぼの横に書いてある模様に、首を捻りました。

 どこかで見たことがあるような気がしたのです。

 どこでみたのだろう・・・・・?

「さあ、出来た!」
 マリューが椅子から立ち上がり、ネオはそちらを見ました。彼女は手に、小さなバスケットを持っています。真っ赤な野いちごの飾りが可愛い、なかなか素敵なバスケットです。
「あのね、ネオ。」
 マリューは昨日から用意していた台詞を、心の中で呟きながら告げました。
「これから私は、このかごを売りに街に行ってきます。」
 ふんふんとネオが首を振ります。
「そのあと、金物屋さんで貴方の足の鍵を受け取ってきます。」
「・・・・・・・遅くなるのか?」
 微かに、ネオの顔に何かが過ぎりました。マリューはそれに気づかずに笑みを返します。
「ご飯はそこにおいておきます。少し遅くなりますけど、ちゃんと明け方には戻りますから。」
「そんなに?」
 昨日の暖かいマリューを思い出して、ネオは寂しくなりました。
「・・・・・・・なるたけ早く戻ります。」
 そういうと、マリューは赤いコートを着て、かごを持って静かにはしごを登り始めました。
「なあ、マリューさん!」
 その彼女を、動けないネオは見上げる事しかできません。
「・・・・・・・・・・・・気をつけろよ。」
「・・・・・・・・・・。」

 出かける時、そう言ってくれるものに、マリューは出会ったことがありませんでした。

 嬉しそうに笑うと、マリューは「はい。」とだけ答えて家から出て行きました。



 かごは順調に売れました。持ち手の長いそのかごを、花屋のネコや、鏡屋のタヌキの娘が買っていきます。
 マリューはお礼にもらったお芋や、どんぐりや、にんじん、だいこん、カブ、とうきびなどを次々に自分のかごに入れて、ずっしり重くなったそれを背負いました。
 丁度その時、角からやって来た黒いウサギに、マリューは声を掛けられました。

 他愛の無い話をしていると、ふいに黒ウサギが、真っ黒な目でマリューを見詰めました。

「あの・・・・・・。」
「はい。」
「・・・・・・・街には下りてこないんですか?」
「・・・・・・・・・・。」
 真剣に聞かれて、マリューは悲しそうに首を振りました。
「一人であんな暗い森に住んで、寂しくないのですか?」
 彼は重ねて聞きます。彼はマリューと結婚したかったのです。

 寂しくない、と言おうとして、マリューは不意に金色のオオカミの事を思い出しました。

 心配そうに自分を見上げていた、青い瞳。

 彼は、足の怪我が治ったら出て行ってしまうのか・・・・・・。

 ぶる、と寒くなってマリューは身震いすると、弱々しく笑いました。
「寂しくても、私はあそこで暮らすんです。」
 さようなら、と早口でいうと、マリューは重たい籠を背負って森への道を引き返して行きました。

 彼女は「金物屋」にはよりませんでした。背負っていたかごを、自分の家の入り口に置くと、樫の木の根元を、ドアとは反対方向に歩いていきました。木の根のくぼ地に、枯葉が溜まっています。それを払うと、小さな扉が姿を現しました。
「・・・・・・・・・。」
 彼女は、首から掛けていた鍵を差し込んで扉を開けました。



 そこには、ネオにあげたハンカチと、同じ色の布のような物が入っていました。それから、小さくて銀色の何かも。



 それを抱えると、マリューは森の奥、ネオと出会った小さな広場へと歩いていきました。




 暖炉の薪のはぜる音で、は、とネオは目を覚ましました。慌てて暖炉をのぞけば、すでに薪はおき火になっています。
「大変だ・・・・。」
 彼はだるい身体を何とか引きずって、ちょっと先にある箱から小枝を少し取り出すと、慌ててそこに放り込んで、ふーっと吹きました。

 しばらくして、火が再び元の大きさを取り戻します。

 ほ、と胸を撫で下ろし、ネオはまた、自分の足にくっ付いたままの銀色の金具と、丁寧に巻かれた藍色のハンカチに目を落としました。

 キレイな刺繍がまたまた目に飛び込んできます。

「・・・・・・・・・・・・。」

 黒ずんでしまったそれ。

 しょんぼりしてみていると、どうやらその刺繍は何かを描いているらしい事に、ネオは気付きました。
 よく目を凝らし、彼ははっとします。

 寝ている自分の頭のほうに、先ほどマリューが作業をしていた椅子があり、その足元にあの、小さなツボがありました。

 真っ白なツボに、銀色の模様が入っています。
 それと、自分の足首に巻かれている藍色のハンカチの模様はそっくりでした。

 そしてその模様を、ネオはどこかで確かに見たことがあったのです。

「・・・・・・・・・・・・。」
 それは酷く重要な事のような気がして。
 ネオはふかふかのクッションにあごをうずめてうんうんうなるのでした。


(2005/11/17)

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