Muw&Murrue

 流星群
「あ!ムウ!大変!もうこんな時間!!」
 転がるようにベッドから出たマリューが、隣で寝ている彼氏の肩を叩く。
 う〜ん、なんて言いながらマリューの上掛けに包まる彼に、彼女は怒鳴った。
「二人で遅刻なんて出来ないわよ!!」


 朝ごはんもそこそこに、出勤してきたマリューが席に付いたのは、いつもより五分ほど遅い時間。対してムウがやって来たのは、始業数分前だった。

 違和感があるとすれば、マリューが少し遅かったことくらい。

 これだけで二人が付き合っているとばれることはまず無いだろう。
 ほっと溜息を付くマリューの後ろでムウが、大きな欠伸をする。

 本日の業務が開始された。




 お昼休みに、ロッカーでマリューは自分の鞄を開けて中にお弁当が無いことに気付いた。
 朝、作る暇が無かったのだ。
「マリュー?」
 同僚にぽん、と肩を叩かれて、今日は私食堂だわ、というと珍しいわねと笑われた。
「先に行くわよ?」
「うん。」
 鞄を閉めようとして、中に入っている物が目に付く。
 白い封筒が一つ。
「・・・・・・・・・・・・・。」
 昨日一晩一緒に居たのに、誘う機会がなかったのは何故だろう。
 少し頬を赤くしながら鞄を閉じると、マリューはこの後、彼を誘おうと決めて、財布を手に立ち上がった。

 冬の短い日が、斜めに食堂に差し込んでいる。薄曇の空の、所々から、凍るようにつめたい青色が覗いていた。今日の夜は晴れかしら、などとつらつら思いながら、マリューは食堂へと足を踏み入れた。
 にぎやかなそこで、同僚二人の姿を探し、彼女達が男性社員二人の前に座っているのを見つける。
 一人は、マリューの内緒の恋人だ。
「・・・・・・・・・・。」
「あ、マリュー。」
 一瞬、何故か逃げようかと身構えた彼女だが、見咎められ、笑顔で手招きされてしまった手前、彼女たちのところに向かう。
「うん?」
「今日の合コンのことなんだけど、マリューは空いてるのよね?今日。」
「え?」
 どきっとして、向かいに視線を投げれば、営業担当の男性社員が、「ラミアスさんも来るんだろ?」なんて軽く笑うのにぶつかった。続いて何気なく隣の彼に視線を移す。

 笑顔でマリューを見詰めているが。

(・・・・・・・・・・・。)

 まさか参加したりしないよな?と目が訴えていた。

「あ・・・・・・と・・・・・・。」
 今日はちょっと・・・・。
 なんて曖昧に笑って誤魔化すと、「ああ、そうか!」と同僚の一人がぽん、と手を打った。
「彼氏、うるさいんだ。」
「え?」
「そうだ!知ってます?フラガさん!」

 こいつ、最近彼氏できたんですよ〜!

「ちょっと!」
 止める間もなく、彼女が喋りだした。
「何でも彼、南の島の、星のキレイな所で現地ガイドしてるんですって!」
 なんだか最近、様子の変わってきたマリューに、女の勘で彼氏が出来たなと気付いた同僚は、しぶるマリューに詰め寄ってその存在を吐かせたのだ。でも、マリューはその相手がムウだとは流石にいえなくて、詰め寄られ、困った挙句、自分の恋人の事を適当に話したのだ。
 それをまさか、ムウ相手に言われるとは思っていた無かっただけに、彼女はうろたえる。
「・・・・・・・あの・・・・・。」
 なんとか話題を逸らそうと頭を捻るが、いい案は出てこない。その間にもおしゃべり命の彼女の口は、加速して行く。
「なかなか会えないのよね〜?」
 そう、別の同僚に振ると彼女が、マリューを肘で小突く。
「それでほぼ毎日、メールのやり取り!」
「たまに帰ってきた時にはあつ〜い夜を過ごすんでしょ!?」
 羨ましい〜っ!
「ちょっと!」
 辛うじて制止しようとするが。
「しかも、日に焼けたたくましい、アロハなんか似合う男前だって自慢されちゃって!」
 この間なんか写メ見せてもらったんですよー
 その瞬間、マリューが青くなった。それを、『彼女の本当の彼氏』は目ざとく見つける。
 数ミリだけ彼の眉が跳ね上がった。
「ちょっと!もういいで」
「どんな人?」
 マリューの台詞を遮り、にっこり笑って同僚に聞く彼に、彼女は慌てて二人の間に割ってはいった。
「どんな人でもいいでしょう?プライベートな事なんですから!」
「コーヒーカップ、片手にもってましたよ。」
 咎めるように同僚の肩を掴むマリュー越しに、彼女がひらひらと手を降る。
「結構ワイルド系よね〜」
「もう!やめてよね!」
「なんだよー、ラミアスさん、彼氏居るのかー。」
 彼氏の隣に座っている男が天井を仰いだ。
「俺、狙ってたのに・・・・・。」
「だ〜めだめ!ラブラブなんだよね、マリュー?」
 ついに我慢できず、
「ここは会社で、あなたも社会人でしょ!?」
 学生みたいなこと、しないで!
 気付くと真剣に怒鳴っていた。
 そんな、珍しく声を荒げるマリューに、ほんの少し目を見開いた同僚は次の瞬間、けらけらと声を上げて笑い出した。

「やあだ!本気で怒らないでよ〜。」
 見て見て、もう本気の恋愛してますよ、この人は!

 茶化すだけ茶化す相手に、マリューはげんなりする。

 ああもう、なんだろう・・・・泣きたくなってきた・・・・・。

 そんな彼女を可哀相に思ったのか、もう一人が話をまとめにかかった。
「それだけ本気なのよ、マリューはさ。」
 ぽん、と肩を叩かれて、「えっ!?」としどろもどろする。
 だが、そんな彼女など気にも留めずに話は進んでいった。
「ねえ、こんなマリューは放っておいて、どうです?今夜!」
 友達の友達とか、綺麗どころ、集めちゃいますよ?
 うきうきした彼女の声に。
「そうだな。」
 にっこりと彼が笑って告げ、ムウに背中を向けたままのマリューは、びくりと身を強張らせた。

「可愛い子、いるんだろうな?」
「もちろん。」
「・・・・・・・・・・。」
 声に混ざる楽しげな調子に、ぎゅっと、マリューは持っていたお財布を握り締めた。

「明日休みだし、お持ち帰りでもいいわけね?」

 鋭い物が突き刺さるように、マリューの胸が痛む。

 やだー、フラガさん!なんて言いながら笑う同僚に混じり、マリューもなんとか、「ほんとですよ!」なんて相槌を打つが。

 でも。

 予想外に痛んだ胸は、お昼ご飯を食べた後しばらく治りそうもなかった。





 帰りの電車を、いつもとは違う駅で降りる。駅前のバス停から、やって来たそれに乗り込み、なだらかな坂を上っていく。
 窓際に座り、すっかり真っ暗になってしまった空を眺めながら、マリューは小さく溜息を付いた。
 持っていた鞄を開けて、小さな封筒に目を落とす。
 中には、終点にある天文台で今夜行われる、プラネタリウムの鑑賞チケットが入っていた。
「・・・・・・・・・・・。」
 しかも、二枚。
「・・・・・・・・・・。」
 小さく溜息を付いて、マリューは鞄を閉じるとまた、窓の外に目を向けた。

 やっぱり、こんなのに誘うのは、ちょっとつまらないかもな。

 マリューとしては、今夜あるという、の流星群を、忠実に再現した企画は是非見たいものだった。
 都会の灰色の空では、例え雨が降った後でも流れ星は霞んでしまう。
 消えない巨大な灯に、何億光年先に輝く星の光も勝てないのだ。

 プラネタリウムの、都市の灯を消してしまい、うっすらとしか見えなかった星が、一気に全部見通せるようになる瞬間が、マリューは好きだった。
 どこでもない、自分の住んでいる街の上に、こんなにもキレイな夜空があるのかと、見るたびに思い出す。

 街中の灯が消える、などと言うことの無い為、半永久的に失われてしまった夜空を見ることが出来る事が、酷く嬉しかった。

 でも、それはマリューの趣味だ。

 ムウがどう思うのかは、分からない。

「・・・・・・・・・・誘わなくて正解かな。」
 こんな映像でしかない夜空よりも、地上の光溢れるネオンの星の方が、楽しいだろう。

 バスのアナウンスが終点を告げ、カップル数組が立ち上がる。みな、今日の星空を観に来たのだろう。
 乾いた空気の中に降り立ち、マリューはすっかり日も沈んで暗くなった冬の夜空を見上げた。
 薄く雲がかかっているせいか、それとも都市の汚れた空気のせいか、上手く星は見えない。中心街よりは高いところにある建物なのに・・・・とマリューは軽く溜息を付いた。

 ふと視線を転じた坂の下がぼんやりと明るくて、マリューはこっそり息を飲んだ。

 今頃合コンか。

 可愛い女の子が、彼の両隣をキープして。お酌なんかして。彼も悪い気がしなくて、肩なんか抱いちゃって。
 あわよくば電話番号とか、メアドとか・・・・・。

 ふるふると首を振って、マリューは地上の星に背中を向けた。





 天文台のある建物の中は、結構な人で賑わっていた。スクリーンのあるホールのざわめきが伝わってくる。チケットを封筒から出して、一枚しか入っていないことにマリューは驚いた。鞄の中を覗き込み、手で探るがもう一枚は影も形も無い。
(今朝慌てて出てきたから・・・・・。)
 そのまま封筒を引っつかんで鞄に放り込んだのを思い出し、あのなかで落としたのかも、とチケットを切られながら、マリューは溜息をついた。

 なんだ。
 結局、誘っていたらとんだ恥をかくところだったのだ。

(救われた・・・・・のかしらね?)
 苦笑しながら、指定されている席に付く。前売りでほとんど席が占められていて、当日だとムウとバラバラだったかも、なんて考えながら、マリューは空いている隣を何気なく見詰めた。

 自分の隣は空白なのに。
 彼の両隣には・・・・・・。

(なによ・・・・・・。)
 軽く椅子のリクライニングを確かめながら、マリューは背もたれを倒す。
 乳白色の天井が目の前に広がり、オレンジ色の光がスクリーンを明るくしていた。
(・・・・・・俺も彼女居るから、とか言って断ればいいのに・・・・・。)

 でも、先にでっち上げで、ムウではない恋人像の話をしたのはマリューのほうだ。
 なら、ムウが別にフリーだと言ってもおかしくは無い。

 二人とも、自分たちの関係を秘密にしているのだから。


 知っているのは一人の後輩と、課の違う、ちょっとしたことで知り合った人だけ。

 だから、『設定』を作ることは別に、悪い事ではない。

 でも。

(何もほいほい承諾しなくたって・・・・・。)
 自分は私に対して「行くな。」って訴えておきながら。

 沈んでいきそうになる気持ちを切り替えるように、スクリーンを見たまま、マリューは首を振った。

 今は、そんなことより、流星を・・・・・・。

「ここ、空いてます?」
「え?ああ、」
 と、不意に声を掛けられて、マリューは隣を振り返った。


 その瞬間。


 ざわめくホールの中で、隣に腰を下ろした人物が、素早く顔を近づけた。
 軽く触れただけの不意打ちの口付けに、マリューが固まった。
「間に合ったか。」
 ほう、と息を吐いて椅子を倒すムウを、マリューは呆気にとられて見下ろした。
「な・・・・・・・・。」
「マリューったら、誘ってくれないんだもんな。」
「え・・・・・・・。」
 ニッコリ笑って、彼はマリューの手を引く。横になるマリューを見たまま、ムウが人の悪い笑みを浮かべた。
「いつ言ってくれるのか、ずっと楽しみにしてたのにさ、俺。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「マリューさんから、デートに誘われた事なんか無いから。」
「・・・・・・・・・知ってたの?」
 声をひそめるマリューに、ムウはくっくと笑う。
「ん。偶然ね。朝出るとき、廊下に一枚、落ちてたから。」

 日付、今夜だし。きっとマリューさん、俺のこと誘ってくれるんだろうなぁ、なんて。

「なのに、合コンだあ?」
「・・・・・・・・・い、行ったの、貴方じゃない!」
「・・・・・・俺じゃなくて日焼けした彼氏誘うのかと思ったからさ。」

 そんな馬鹿な。

「あ、あれは・・・・・・。」

 その時、ブザーがなり、ゆっくりとホールが暗くなっていく。ざわめきが少しずつ薄れていくそこで、天井に視線を戻したムウが、不意に彼女の手を掴んだ。
 ぎゅうっと握り締める。

「本当に?」
「え?」
「本当に・・・・・俺を誘う気だった?」

 微かに力のこもる、乾いた掌に、マリューはどきっとした。

 やだなあもう。

「・・・・・・当たり前でしょ。」


 でっちあげにまで嫉妬、しないでよ。


「貴方以外、誰を誘うのよ。」
「そ。」
 マリューの手の柔らかさを確かめるように、強く握り締める彼の手。
 暗くなり、ゆっくりとスクリーンに空が映し出されるのを眺めながら、マリューは暗がりに感謝したい気分だった。

 絶対真っ赤になっているはずだから。



 スクリーンに描かれる星空に、今夜見られると言う流星群が映る。
 時間を早め、星の軌跡を残す映像に、マリューは息を飲んだ。

 いくつもの青白い光の帯が、空一杯に描かれていく。

「すっげ・・・・・・・。」
 小さく呟くムウの台詞に、マリューは素直に頷いた。
「これなら、願い事し放題だ。」
 思わず小さく笑う。
「何を願うのよ?」
「内緒。」



 一時間弱のそれを堪能し、天文台の望遠鏡から夜空を眺めて、二人は外に出た。う〜ん、と伸びをして息を吐くと真っ白だった。
「あの・・・・・。」
 手を繋いだままのムウを見上げて、マリューは恐る恐るたずねる。
「こういうの・・・・・平気?」
「え?」
「その・・・・・星とか、空とか・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
 目を瞬いて自分を見下ろす彼に、マリューは慌てて言葉をつなぐ。
「こういうの、退屈で嫌いじゃない?」
「そういう男に見える?」
 逆に聞かれて、マリューはぎゅっとムウの手を握り締めた。
「イメージでは。」
 ぽつりと呟かれた言葉に、ムウは小さく溜息を吐いた。それから、マリューの手を引いて歩き出す。
 いい歳して、とわらわれないかとひやりとするが、見れば天文台から出てくるのはカップルや親子連れで、誰もが寒空の下手をつないでいた。

 恋人の手や、子供の手や。

「楽しかったよ。」
 やって来たバスに乗り込み、狭い椅子に二人並んで座ると、マフラーに顎を埋めたムウがマリューを見て笑う。
「綺麗でさ。あんな空がこの上にあるんだなって思ったよ。」
「ほんと?」
 合コンの方が良かったんじゃない?
「あのね、マリューさん。」
 自分を見詰めてくるマリューの額を、ムウはちょんと小突いた。
「だって可愛い子、いないみたいだったし。」
 明らかに嫌そうな顔をするマリューに、こっそり告げる。
「マリューより可愛い人、居るわけ無いだろ?」
「なんでそうやって簡単に言うんですか。」
 真っ赤になって、視線を逸らすマリューに、ムウは小さく笑うと、まだ繋いでいる手を握り返した。
「それに、あの流れ星。」
「はい。」
「今日の夜なんだろ?」
 見られるの。
 こっくりと頷く彼女に、じゃあさ、とムウはニッコリ笑ってマリューを見た。






「ここからなら、見えそうだよな。」
 都心から離れた、海沿いの温泉街。そこの更に離れた所にある、海を見下ろす旅館の一室で、マリューはぺったりと畳の上に座り込んでいた。
「あれ?」
 窓から身を乗り出し、広がる星空を眺めていたムウは、俯いて深呼吸を繰り返しているマリューに意地悪く笑った。
「何?不満だった?」
 なんならあっちの高台にあるホテルにすればよかったか?
「そうじゃありません!」
 赤くなって自分を睨むマリューに、ムウは小さく笑うと窓際から離れて、座り込んでいる彼女の隣に座った。
「流れ星、実際に見たいだろ?」
「・・・・・・そうです・・・・けど。」
「ここなら街灯も少ないし、いいとおもうんだけど。」
「だからって、いきなりこんな所にまで来なくたって!」
 そう。あの後、電車に乗って帰る予定だったマリューを、強引にムウは反対方向に行く電車に押し込めたのだ。
 そのまま終点まで乗る事二時間。

「二時間でここまで空気が綺麗になるんだから凄いよな。」

 笑顔の恋人とこうして温泉旅館に来る事になるなんて、とマリューは深く深く溜息を付いた。
「だってさ。俺、日焼けしたマリューの恋人に負けたく無いし。」
「ムウ!」
 睨むマリューを、ムウはじとっと見詰める。
「写真。」
 ぎくっとマリューの身体が強張った。
「見せたんだってな。」
「・・・・・・・・ええ。」
「何者?」
 嘘は許さない、と眼差しで告げられて、マリューは視線を泳がせた後、観念したように俯いた。
「知り合いよ。」
「何の?」
「大学の時の先輩で」
「その時の彼氏?」
「違います!」
 むっとして睨めば、胡散臭げな視線を向けられる。ぎゅっとマリューは唇を噛み締めた。
「色々お世話になった先輩で・・・・・今は結婚なさって、南の島で楽しく暮らしてらっしゃいます。」
「なんでそんな奴の写真使うんだよ。」
 いくらかほっとしつつ、それでもまだ咎めるような視線を恋人に向ければ、マリューは「だって・・・・・。」と小さく呟くと膝の上に置いてある両手を握り締めた。
「既婚してる人なら、あとから貴方に変な誤解されないとおもったから。」
 けど無駄だったわね。
 そうつけたし、マリューは顔をあげると、目を瞬くムウに苦笑した。
「どんな人でも貴方、誤解しそう。」
「当たり前だろが。」
 間髪入れずに言われて、マリューがむっと眉を寄せる。
「・・・・・・そんなに信用ないの?私。」
「そうじゃないさ。」
 告げて、ムウは手を伸ばすと彼女を腕の中に閉じ込めた。
「そうじゃない。ただ・・・・・・。」
「うん。」
「君の口から他の男の話題が出るのが我慢できない。」
「・・・・・・・・・・・。」
 正面きってそんな事を言われて、思わずマリューは頬を赤らめた。
「自分の事棚に上げて、よく言えますね、そんなこと。」
「俺はいいんだよ。」
「身勝手。」
「俺は自分の気持ち、自分で分かってるからさ。」
 顔を上げると、真っ直ぐな瞳が、自分を捉えているのにマリューはぶつかった。
「俺はマリューだけでいい。マリューが一番だからさ。」

 でも、君の気持ちは俺には見えないから。

「・・・・・・・・・・・。」
「だから嫌だ。」

 君の口から、別の男の名前が出るのは。

「すっごい我儘。」
 頬を膨らませて睨むマリューの目は、でもどこまでも嬉しそうだった。
「そ。俺って我儘なの。」
 対するムウも、柔らかく彼女を抱き寄せたまま、嬉しそうに告げる。


 そんな俺の願いはな・・・・・・。






 真夜中に、二人は毛布を被ったまま、窓を開ける。遠くから冬の海の唸りが響いてきて、空は突き抜けるように晴れ渡っていた。
 幸い月は出ていなくて、散らばる星が良く見えた。
 吐く息を白く漂わせて、マリューは自分の身体に回された腕の中で空を見上げる。
「そろそろよね?」
「ああ。」
「三回、言うんですよ?」
「練習しようかな。」
 声を上げて、笑う。
 その彼女の首筋に顔を埋めて、ムウは目を閉じた。
「マリューがずっと俺だけの物でありますように。」
「私に言ってどうするんですか。」
 空に言って下さい。
「流れ星に願うより、マリューに頭下げた方が早いと思わないか?」
 お願いですって。
「土下座?」
「そうそう。頼むから俺を捨てないでくれって。」
 振り返った彼女の、寒さに少しだけ赤くなった頬に、手を添える。
「情けないわね。」
「情けない男は嫌い?」

 そのまま、どちらとも無く口付けると、マリューはムウに体を預けて、宇宙を見上げた。

 濃紺の空に、一筋だけ星が流れた。

「ムウがずっと私だけの物でありますように。」
「先に言うなよ。」
 手でマリューの口を塞いで、ムウが空を見上げる。
「流れないな・・・・・・。」



 見上げるムウの瞳に、銀色に光る星が、軌跡を描いて落ちるのが映った。


 二人の胸の内を言葉が飛来する。





 あなたとずっと 一緒に居る事が 出来ますように






 その想いを受けて、星が、一瞬だけ輝いて落ちて行った。


























一周年記念企画作品 パラレル系ふらまりゅ 会社人編

(2005/12/30)

designed by SPICA