Muw&Murrue
- 勝利の夜に
- 崩れ落ちて泣いていた。
自分とおなじくらいの、その女性に、マリューは何も言えなかった。
戦えば、死ぬのだ。
それも仕方ないと、そう、リーダーは言った。
虎の意見に従い、ザフトの支配下に入れば、少なくとも、平和は得られる。でも、それすらも犠牲にして、戦うと、サイーブは言った。
戦わなければ、変わらないから。
永遠と、支配され続ける。
「戦い続ける・・・・・か。」
死者を悼む空砲が、砂漠の夜を震わせ、涙と歓喜が入り混じった空気に、沈黙が訪れた。呟かれた、隣に立つ男のセリフに、マリューは手を握り締めた。
あちこちで、泣いている。
昨日まで、そこで笑っていた存在が、今日は居ない。
何故?
「・・・・・・・・どうして、なんでしょうね。」
「え?」
死者の頑張りに、敬礼をするナタルに聞こえないように、マリューはそっと呟いた。
「どうして、平和に生きるために、死ななきゃならないんでしょうね・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
それに、ムウは言葉を返せなかった。仕方ないと、そういう世の中だと、そういわれると思っていたマリューは顔を前に向けたまま、そっとムウを見た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・艦長は。」
長い沈黙に、もう答えないと思っていたマリューは、ふと呟かれた彼の言葉に、顔を上げる。
「はい。」
「・・・・・・・・・・俺が死んだら、泣いてくれるか?」
「え?」
いつもの飄々としている筈の彼が、両手をきつく握り締めて、歯を食いしばっていた。
「泣いてくれるか?」
重ねて小声で聞かれ、マリューは咄嗟にうなづいた。
それに、ムウは真っ直ぐ前を見たまま、呟く。
「なら、いい。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
マリューは慌ててうつむいた。少し飲んだお酒が作用して、感情が緩くなっていた。だから、目頭が熱くなり、涙が競りあがってきたのだ。
切なくて。切なくて。
泣いてもらうために、生きている。
大切な人を護って、その人に平和と平穏を与えて、そして泣いてもらえれば、それだけで価値がある。
それだけで、生きた意味がある。
「私が・・・・・・。」
再び空砲が天を貫き、ようやく涙を堪えきったマリューが、そっと訊ねた。
「私が、死んだら。・・・・・少佐は泣いてくれますか?」
堅い声の質問に、ムウは迷う事無く告げる。
「そうはさせない。」
はっと顔をあげると、真っ青な空色の瞳が、自分をしっかりと見詰めていた。
「そうは、させない。」
「・・・・・・・・・・・。」
「絶対に。」
「少佐・・・・・。」
声が、掠れた。それに、ふっとムウは表情を緩め、死者の追悼を追え、人々が戻りだす波に乗りながら、ぽんぽんとマリューの背中を叩いた。
「俺、ジョシュアに着いたら、艦長とゆっくりお酒でも飲みたいんですけど。」
それに、ほうっとマリューは脱力する。
「嫌?」
振り返ったムウが、にやっと笑う。
「少佐には、お世話になってますから、一軒ぐらいは付き合いますよ?」
「何で?艦長お酒、強そうじゃん。」
「・・・・まぁ普通、ですけど・・・・。」
「なら朝まで飲もうよ〜。」
それにマリューが呆れる。
「お歳を考えてください。」
「・・・・・・それを言う?」
再び勝利の酒宴に向かおうとするムウが、アークエンジェルの方に戻ろうとするマリューに目を丸くした。
「行かないのか?」
それに、彼女は微笑を返した。
「ええ。少佐も、あまり飲まないで下さいね?」
「俺より、君の方が飲んだ方がいいと思うけど?」
ストレス発散になるし。
「止めておきます。お酒、好きですから。」
「?」
腑に落ちない顔をするムウに、マリューは
「ストレスの無い時に、飲みます。好きだから、感情の捌け口にはしたくないの。」
そう告げて、にっこり笑うと彼女は艦内に戻って行った。
「ストレスの無い時・・・・・・・ね。」
肩を竦めて、ムウは幕屋に向かう。ふと、空を見れば月が静かに輝いていた。
「・・・・・・・・・・・・。」
勝利の夜。
なのに、どこか空虚なのは、何故なのか。
「出来れば俺も、艦長を泣かしたくないんだけどね。」
誰に言うでもなく呟くと、彼は明るいそこに向かって行った。
(2005/01/27)
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