Muw&Murrue

 それは大事な場所
 セシリーが持っていたのは、金色のアクセサリーだった。興味津々でそれを見せてもらったリューナは、彼女が「お母さんから貰ったの。」と誇らしげに胸を張るのに少しだけ嫌な感じがした。
 彼女はクラスで一番もてるし、可愛い子で勉強も出来る。
 キレイな黒髪をポニーテールにして、廊下を歩くとき、彼女はテレビのモデルのように背筋をしゃっきり伸ばすのだ。
「なんだよ、つんけんしちゃって。」
 よく男の子と一緒に校庭で鬼ごっこをするリューナは、友人のセトがそう言って隅っこに向かって小石を蹴るのを目撃した。

 その時は特に何も思わなかったのだが、彼女のああいう態度がセトには面白くなく写るんだなと、あとから妙に感心したのだ。

「ないしょよ?」
 そんな彼女とリューナはそれほど親しくない。リューナがいつも一緒に遊ぶアカネは今は当番の仕事で居ない。校庭に行こうとして声を掛けられて、そんなものを見せられて、正直、リューナはどう反応して良いか困っていた。
 困っていたところに、更に「ないしょよ?」と言われてもっと戸惑う。
 だが、誰からも好かれている自信のあるセシリーはお構い無しで、リューナに向かって、その金色のアクセサリーのある部分をぱかっと開いて見せた。
「あ・・・・・・。」
「可愛いでしょ。」

 ロケットペンダントっていうの。

 金色の鎖の先に、草の模様が刻まれた丸い卵のような飾りが付いていて、それを開けると中に写真が入っていたのだ。

 そんなものを観た事が無かったリューナは掌に乗せてもらった、小さく口を開けた卵の中を覗き込み、「あれ?」と首を捻った。

「これ・・・・・セト?」
 そこにはこの間の学芸会の時のだろうか。勇者役のリューナの側近で魔法使いの役を演じた彼が、小さく切り取られて中に張ってあった。
「なんで?」
 顔を上げるリューナに、セシリーはぱっとほほを赤くした。
「内緒ね。」
「え?」
 くす、と笑ってセシリーはそっとリューナの耳元に口を近づけると、「私、セトのことがすきなんだ。」とあっさり言って、身を翻した。

 好き?
 ・・・・・・好きって、なんだ?

 ぽかん、とするリューナにセシリーはまだくすくす笑っている。

「だからリューナちゃん、とったら駄目だからね!」

 取る?
 何を???

 ぽけ、と教室に取り残されたリューナをみて、華やかに笑いながらセシリーが廊下に飛び出した。
 そのまま彼女は優雅に、踊るような足取りで図書室へと向かっていく。

「リューナごめん、いま終わった!」
「え?あ、うん。」
 唖然とその様子を見送っていたリューナは飛び込んできた、茶色のショートヘアーに、半ズボンから覗く膝に絆創膏を張ったアカネにてて、と駆け寄った。
「あのさ、アカネちゃん。」
「何?」
「好きって・・・・・なんだとおもう?」
「へ?」

 意外と天然炸裂のリューナに、アカネは困ったように笑って見せた。




 特別な男の子。
 好きな男の子。
 なんだか気になってしかたのない男の子。

 そういうのが出来たら好きなんだって、漫画に描いてあったよ。


(その好きなひとっていうのが、セトなんだぁ。)
 帰り道、家に続く坂道を一人で歩きながら、リューナは首を捻った。
(でも、なんで私に言ったんだろ・・・・・。)
「リューナ!」
 その時、ぼん、と背中に鞄をぶつけられて、つんのめったリューナが振り返った。
「へへ〜、ダメージ五!」
「煩いっ!」
 たた、とリューナを追い越してセトが走っていく。ぶん、と鞄をぶつけようとして、ち、とリューナは舌打ちした。
「勇者リューナよ、俺の攻撃を受けてみよ!」
「黙れ!悪魔の使い手がーっ!!!」

 きゃあきゃあ言いながらセトとリューナは坂道をふざけて登っていく。

 家が近所だから、二人は結構仲良しだった。
 ちょっとませているセシリーから見たら、牽制を掛けたくなるくらい。

 だが、例の人を父親にもっている割にはリューナは色恋に物凄く疎かった。そういうところが・・・母親に似てるのかもしれない。

「ねえ、セト!」
 一通り「ごっこあそび」を終えて、リューナがセトの顔を覗き込んだ。
 キレイな空色の瞳と、ちょっとくせっ毛の肩まで金髪が、さらさらと風に揺れている。
 ふい、とセトがリューナから目を逸らした。
「なに。」
「・・・・・・・・・・。」

 セシリーがセトを好きだというのは内緒だ。

「セトは誰が好き?」
「はあ?」
 ぼん、と真っ赤になったセトに気付かず、うーん、とリューナが腕を組んだ。
「私はね、セトのこと好きだよ。」
「へ?」
 またまたもっと、セトが真っ赤になるが、リューナは見ても居ない。
「だからって・・・・・何がどうなるんだとおもう?」
「・・・・・・・・。」
 真剣な眼差しで見詰められて、セトが口ごもった。
「さあ・・・・・お、俺に聞くなよ。」
「セトは私のこと好き?」

 ・・・・・・・・・・・えと・・・・・・。

 どきどきしながら、セトは「うん。」と一個頷いた。
「・・・・・・・・・・・で?」
 そのまま、物凄い真剣に見詰められて、彼は困惑する。
「で、ってなんだよ!?」
「いや・・・・・それでどうなるのかなぁ、とか思ったから。」
「・・・・・・・・・。」

 やっぱりわかんないなぁ。

 青い青い空を見上げて、うーんと首を捻りながらリューナは歩き出した。その背中をセトが慌てて追いかける。
「リューナは!」
「うん?」
「リューナは・・・・・・俺のこと・・・・・特別好き?」

 特別?

「特別って」

 ロケットに入っていた写真。
 あんな風にしたくなるくらいって事だろうか。

 考え込むが、特に答えが出ない。
 だからリューナは率直に答えた。

「いや、ふつー。」

 じゃあね、ばいばーい!


 道端にぽつんと残されたセトに、全開の笑顔を見せて手を振ると、リューナはててて〜、と走り出して自分の家の門をくぐるのでありました。




「ただいま!」
 鞄を持ったままどたどたと階段を上がる。下からマリューが叫ぶのが聞こえた。
「冷蔵庫におやつあるから、手を洗って食べなさいね〜。」
「りょーかいであります!」

 そうだ。

 ぼん、と机の上に鞄を置いてリューナは身を翻すと思いつく。

 お母さんにも聞いてみよう。
 お父さんのこと、特別に好きなのか。

「おやつ〜♪三時のおやつ〜♪」

 歌いながら部屋を出て廊下を行きかけ、ふと、リューナは開いている両親の寝室に目が行った。

 キレイなアクセサリーを自慢されたのを思い出し、急に面白くない思いが膨らんできた。

「・・・・・・・・・・。」

 こそ、と階段のほうを確認して、リューナはきい、とドアを開けて両親の寝室に忍び込んだ。
(私だって・・・・お母さんから貰いたいもん!)
 窓際に置いてある鏡台の、鏡の部分を開けると、そこに化粧道具やらと混じって、マリューのアクセサリー類が入っているのを、リューナは知っていた。
(いっこちょうだいって言おう・・・・・。)
 そう思いながら先に物色し、リューナはそこにあるものを眺めるが、イヤリングや指輪ばかりでネックレスのようなものは見当たらない。
(・・・・・・・・・・。)
 金色のやつ、無いかなぁ・・・・・。
 ぱたん、と鏡を閉じて、それから引き出しを開く。ごちゃごちゃと色んな物が入っているそこを眺めていると、ふと、奥にハンカチのようなもので包まれた小さな包みを見つけた。
「・・・・・・・・・大事なものかな?」

 怒られるかな・・・・・?

 どきん、と心臓が跳ねて、リューナは入り口のほうを振り返った。耳を澄ましても、階段を上ってくる気配はしない。

 ちょっとだけ・・・・・。

 お母さんが大事にしてるもの。
 こんな風に奥に、ハンカチに包んでしまってあるもの。
 それがなにか、ちょっとだけ・・・・・・・。

 ちまい指先でもたもたと包みを解くと、そこには。

「あ・・・・・・・・・・。」

 銀色の鎖に、薔薇のレリーフが付いたペンダントヘッド。窓から差し込む日の光に、ぴかぴかと光るネックレスが現れた。

 これってもしかして・・・・・・。

 卵型ではないが、それは今日セシリーに見せてもらった「ロケットペンダント」というのとそっくりだった。

 お母さんの大事な物は、大事な人の写真を入れておくもの。

 急にリューナはくすぐったくなって、ぱか、とそれを開けてみた。

(きっとお父さんだ。)

 お母さんの大事な人はお父さんだと言う話は、沢山沢山聞いた。

 ヘリオポリスに砂漠にジョシュア!宇宙にベルリンにそれから・・・・。

 大事な大事なお母さんを護ったアカツキのお話は、リューナがそらで言えるほど好きな話だ。



 だから。



「え・・・・・・・・?」


 大切な人を入れるのだと教えられたペンダントの中に。


 全く知らない人の笑顔を見つけて、リューナはその場に凍り付いた。

 心臓がドキドキしてくる。

「・・・・・・・・・・・・。」


 おかあさん?


 大慌てでそれを閉じ、元の位置に戻すと、大急ぎでリューナは両親の寝室を飛び出した。どきどきする心臓を宥めようと、彼女は大きく息を吸い、それからゆっくりと吐き出す。


 あれ・・・・・・誰だろう・・・・・・。

 急に不安になって来る。

 だって、お母さんの大事な人はお父さんで・・・・それは当たり前のことなのに。
 そうじゃない人の写真が入っていたのだ・・・・。

 大事な人の、居場所には。

「・・・・・・・・・・・。」
「おねーちゃん?」

 階段の下から呼ばれて、はっとリューナが顔を上げた。

「おやちゅ、いらにゃいの?」
「い、いるわよ!」
 階段を下りて、スプーンを咥えている弟のアレンの横を通り過ぎ、そっとリューナはリビングを見やった。
「ほーら、アレン、カッコいいわよ〜。」
 とたん、くる、とマリューが振り返り、リューナは慌てて冷蔵庫にすっ飛んでいく。
「くまー!」
「そうよ、くまのあっぷりけ。」
 くすくす笑って、ズボンのポケットについているアップリケを息子に見せて笑うマリューは、ふと娘のほうを見た。
「プリン、入ってるでしょう?」
「・・・・・・うん。」
「嫌だったの?」
「ち、ちがうもん!」
 それを持って、リューナはマリューの側に近寄ると、ソファーに乱暴に腰掛けた。
「・・・・・・どうしたの?」
「なにがぁ?」
 彼女の様子がおかしいことに、直ぐ気付く。
「頬っぺた、膨らんでるわよ?」
「・・・・・・・・・。」
 はむ、とプリンを口にして、それからリューナはぎゅ、とマリューに抱きついた。
「・・・・・・お母さん。」
「なあに?」
「・・・・・・・・・・・お父さんのこと、好きだよね?」
「え?」
 ぎゅううう、と、マリューの洋服を掴む手に力がこもる。
「ええ。大好きよ?」
 その手に気付いたマリューが、娘の金髪に指を滑らせて笑った。
「本当?」
 顔を上げた娘の、空色の瞳が誰かのすがるような目にそっくりで、マリューは柔らかく笑って見せた。
(あらあら。今日のリューナは甘えんぼさんだわ。)
 ふわり、と娘の頬に手を当てて、マリューはゆっくり告げた。
「そうよ。世界で一番、お父さんが大好きよ?」

 それに、ようやくリューナはほうっと息を吐くのだった。



 だが、翌日。


「おかーさんは?」
「お!おはよ、リューナ。」
 眠い目をこすって出てきたパジャマのリューナに、リビングのソファーで新聞を読んでいたムウが振り返る。
「お母さん、今日はちょっと用事でな。」
「え・・・・・。」
 途端、リューナの顔が曇った。
「・・・・・・お父さんは一緒じゃないの?」
「ん〜?」
 アークエンジェルのことで、マリューは度々モルゲンレーテに呼ばれることがある。今日の呼び出しもそれで、朝のやり取りを思い出しながらムウは何気なく答えた。
「お父さん、付いていこうとしたら駄目だって断られちゃってさぁ。」

 瞬間、リューナが真っ青になった。だが、新聞を読んでいるムウはその様子に気付かない。

「まったく、酷いよなぁ、リューナ。お母さん、俺なんか要らないって、うわあっ!?」
 どん、と娘に突撃をかまされて、ムウはようやく新聞から顔を上げた。

「あ・・・・・・・・。」

 瞳をまん丸にしたリューナが、目の淵に涙を溜めてムウを見上げている。

「お母さん、どこ!?」
「え?や・・・・だからちょっと出かけて」
「どこ!?どこいったの!?」
「リューナ?ど、どうし」
「ヤダよ・・・・・・。」

 ぶわああああ、とリューナの目から涙が溢れ、止める間もなく零れ落ちる。ムウはただまじまじと娘の顔を見下ろすしか出来なかった。

「やだぁ・・・・・・おかあさんいなくなったらやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ふわあわあああああああああああああん。

「りゅ・・・・・リューナ!?な、ど、どうした!?何泣いてるんだよ!?ああ・・・・え〜と、泣くな〜!」

 マリュー以上に、泣かれると困る女性がリューナだ。

 いつもは元気で、転んでも泣かない事が自慢の娘が、朝っぱらから大声で泣いている。起きてきたアレンは、その様子だけで既に涙ぐんでいた。

「おねいちゃん・・・・・どうしたの?」
「あ、アレン、いや・・・・とーちゃんにもよく」
「やだ〜〜〜〜〜〜〜 お母さ〜〜〜〜〜〜ん」
「おかあしゃん、どうかしたの?いにゃいの?いにゃくにゃるの?」
「アレン?な、なんだ!?お、お前まで」
「ふにゃああああああああああああ」

 びえええええ、と泣き出す弟と、相変わらず「お母さん、居なくなるのやだ〜〜」と泣く娘に、ムウは。

「しゃあねぇなぁ!」

 呟くとがっしり二人の子供をその腕で抱きしめた。



 しばらくして、パジャマ姿の二人が泣き止み、ふえっふえっ、と嗚咽を繰り返していたが、それも収まってくる。問答無用で抱きしめていた父親の、温かい腕の中で、ようやくリューナがもぞ、と動いた。
「・・・・・・・。」
「リューナ。」
 柔らかい塊を抱きしめたまま、そっとムウが視線を落とす。金髪の娘がムウの胸元で顔を上げた。
「まず、お母さんはモルゲンレーテにお仕事に行ったんだ。」
「・・・・・・・。」
「だから、居なくなるわけじゃない。」
 それに、そういうこと、今までにもあっただろ?

 泣いた跡がくっきり残るリューナの頬を、乾いた大きな手が撫でて、ようやくこっくりと彼女が頷いた。

「じゃあ、なんで居なくなると思ったんだ?」
 変な夢でも見たのか?
 こつん、と額を娘の額に押し当てて訊くと、最初はまごまごしていたリューナだが、あのね、と重い口を開いた。

「大好きな人を入れておく、ロケットペンダントって知ってる?」
「え?」

 どきり、とムウの心臓が跳ね上がった。
 それに気付かずにリューナが先を続ける。

「あのね・・・・・見ちゃったの。」
「・・・・・・・・・。」
「鏡のところでね・・・・大事にしまってあった・・・・お母さんの・・・・・。」


 銀色の鎖。薔薇のレリーフが入ったロケット。

 お父さんの写真じゃ無かったよ?

 その一言を言えずにまごまごするリューナに、ムウは困ったように笑った。

「ん・・・・・そっ・・・・・か。」
「だから・・・・・お母さん・・・・居なくなっちゃったのかと思ったの・・・・・。」
 大事な人のところに、いるものなんでしょう?ふうふ、って。
「そういう所だけはきっちり押さえてるのね。」
「?」
「いや・・・・・。」
 きょとん、とするリューナに、ごほん、とムウは咳払いすると、やわらかい娘の髪の毛に手をやった。優しく梳いてあげる。
「・・・・・確かに、その人はお母さんの大事な人だよ?」
「・・・・・・・・・・。」
 慎重に、ムウは言葉を選んだ。
「お父さんと、同じくらい大事な人なんだ。」
「同じ?」
「・・・・・・・・・・うん。でも・・・・・な。」

 その人は、もうこの世に居ない。

「・・・・・・・・・その人は、もう会えない人なんだよ?」
「あえ・・・・ない?」
「そう。写真でしか、会えない人なんだ。」
「・・・・・・・・・死んだの?」
 そっと訊ねる娘に、「そうだね。」とムウは一つ頷いた。
「だから、写真でしか、あえないから・・・・だから、ああやって大事にしまって有るんだよ?」

 ほら、お父さんはここに居て、こうやって。

 ぎゅ、とリューナの手を、ムウは握り締める。

「リューナに触れたり、アレンを抱っこしたり、お母さんとキスしたり出来るだろ?」
「・・・・・・・うん。」
「でも・・・・・・死んでしまった彼は、それがもう出来ない。」
 だから・・・・・・あそこだけがお母さんと彼の触れ合える場所なんだよ?

 自分と同じ青い瞳が、まっすぐにムウを見た。

「お父さんはそれでいいの?」
「え?」
「だって・・・・・・・。」

 上手く言えない、変な感情がリューナの胸の中を渦巻いていて、彼女は口ごもると、ぱふ、とムウの胸元に頬っぺたを押し当てた。

 その彼女を、ぎゅうっとムウは抱きしめた。

「いいんだよ、お父さんは。」
「・・・・・・・・・。」
「お父さんはね、いつでもマリューとキスが出来るし、マリューもキスしてくれるから。」

 ふに、とリューナの頬っぺたを突っついて、ムウはニッコリと笑った。

「それに、そんなお母さんが、お父さんは一番大好きなんだよ?」




「で、気付いたらアレンはすやすや眠ってるし、リューナも泣いて暴れてつかれたのかそのまんま寝ちまって、それで・・・・・。」
「昼過ぎまで爆睡ですか。」
 午前中で仕事を片付けて、いそいそと帰ってきたマリューが見たのは、窮屈なソファーで折り重なって寝ている父と娘息子の姿だった。
 しかも、リューナとアレンはパジャマ姿。
 たたき起こされて、経緯を話したムウを、マリューがじとっと睨んでいる。
「それで?なんで二人とも泣き出したんですか?」
「え?」
「なんでもないのー!!」
 ずい、と詰め寄ったマリューに、着替えを終え、階段を飛び降りてきたリューナがぎゅっと抱きつく。
「お母さん、お帰りなさい!」
「・・・・・・・・ただいま。」
 ぎゅーっとお腹に抱きつく娘に、マリューが首を傾げてムウを見やった。
 何?と目で問うと肩を竦められる。
「どうしたのかしら?リューナちゃん?」
「あのね・・・・・・・。」

 ぱっと顔を上げて、リューナは真っ直ぐにマリューを見た。

「お母さん、絶対お父さんから離れたら駄目だからね!!!」
「へ?」
「お父さんの側に、ずっとずっとずーっと居てね!!」
「・・・・・・・?」
「お母さんの・・・・・。」
 ぴょん、とジャンプして。
「うわっ!?」
 マリューの首筋にしがみ付く。久々に娘を抱っこして、マリューは目を丸くした。
「リューナ?」
「お母さんの・・・・・一番はお父さんだもんね!!!」
「・・・・・・・・・。」

 す、とムウが立ち上がって、笑顔でマリューに顔を近づける。
 リューナの目の前で、キスをねだられて、眉を寄せるが、当のリューナが真剣そのものだったので、マリューは困惑しながら目を閉じた。

 ちうちう、と軽いキスをされる。

「な?」
 片目をつぶる父親に、リューナは「うん!」と頷くとぱふ、と母親の首筋に顔を埋めた。
「????」
「さ、リューナ、お昼にしようぜ?」
「うん!」
 娘をマリューから受け取り、久々に抱き上げると、二人はキッチンに行ってしまう。

「何?」

 首を傾げるマリューを他所に、リューナとムウは一緒に昼食の準備を始め、降りてきたアレンが、母親の姿にホッとして抱きつく。

「アレンまで、どうしたの?」
「おかあしゃん、いにゃくにゃらにゃいよね?」
「え?」
「アーレン!!!それはもういいのっ!!!」
「え?」

 お父さんの一番はお母さんで、お母さんの一番はお父さんだ、ていうのは絶対だから。

 だから、ロケットペンダントの居場所は、お父さんじゃなくてもいいや。

 そう、少しだけ大人になったリューナでありました。





(2006/03/02)

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