Muw&Murrue

 Songs
「マリューさん。」
 キッチンで紅茶を淹れていたマリューは、声を掛けられて振り返った。ラクスがくすくす笑いながら手招きをする。
「どうしたの?」
 手を止めて彼女に続いてリビングにくると、日の光の入る窓際で、ちいさな座布団にちょこんと座ったリューナが左右に身体を揺すっていた。

 しーあー うー とー ♪

「歌ってますの。」
 さっきからずっと。
「あらあら。」

 しーあー うーうー とー ♪

「歌姫様が教えたのかしら?」
 くすくす笑って訊くと、海色の瞳の少女はいいえ、と楽しそうに首を振る。
「わたくしが教えてください、と頼みましたの。」

 顔を見合わせて笑うと、ラクスはリューナの脇に座った。

「リューナちゃん?何のお歌ですの?」

 う?

 ラクスに、空色の瞳がきょとんと向けられる。

 まーま

「まーま・・・・・ですの?」

 まーまぁー

「マリューさんのことですか?」

 うー うー まー うーとー ♪

 再び身体を揺すって歌いだすリューナの元に、お茶を持ったマリューがやってくる。
「リューナは何のお歌を歌ってるのかしら?」
 カップをラクスに差しだし、マリューが顔を覗き込むと、まーまー、と可愛く手を上げる。
「マリューさんのことですか?」
「う〜ん・・・・・」

 まーまー まーまー ♪

 まーまー ぐーぐー ♪

 二人でしばらく彼女を見詰めていると、リューナはちっこい手を振り回して まーまー ぐーぐー と歌いだす。

「お腹がすいてるお歌ですか?」
「そんな歌あったかしら・・・・・。」

 まーまー ぐーう ぐーう

「あ。」

 それに、マリューははたと気が付いた。

「しまうまぐるぐる!」
「え?」

 大分前に、ムウがリューナ相手に変な歌を歌っていて、大笑いした事があったのだが、どうやらそれを歌っているらしい。

「しーましまくまくましまくまー、とかいう歌よ。」

 し〜まうまのしまを〜 ぐ〜るぐるとって〜 ♪

 ワンフレーズ歌って見せて、マリューは手をぐるぐる振り回すリューナに小さく笑った。
「ではそれを一生懸命歌ってるのですわね?」
 お姉ちゃんにも教えてくださいませんか?

 リューナの顔を覗き込むと、「ねー・・・・・た?」と首を傾げる。

「そうですわ。お姉ちゃん。」
「ねー・・・・・・。」
「ラクスと申しますのよ?」
「ら・・・・・しゅ?」
「ラクシュですわ?」
「移ってるわよ、ラクスさん。」
「あら?」

 くすくす笑うマリューと「えーと、ラク・・・・ス、ですわね、ラクス!」となにやら考え込んでいるラクスを、リューナが不思議そうに見上げるのだった。



「ただいま〜。」
 その夜。
 件の歌を教えた本人が帰ってくると、リビングでぬいぐるみをしゃぶっていたリューナがぱっと顔を輝かせて手を差し出した。
「ただいま、リューナvv」
「むー!」
「おー、むーだぞ、むー!!」
「むー!!」

「・・・・・・・・・・。」
 お父さん、とかパパ、とか言う単語よりもムウ、という名前を覚えた娘と、それに相好を崩している夫を眺めて、マリューはやれやれと目元を和ませるのでありました。



(2006/02/05)

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