Muw&Murrue

 単純なる父親
「おとうさん今日誕生日だよねぇ。」
 庭先で遊んでいたリューナに言われて、ムウは読んでいた新聞から顔を上げた。
「おう!」
 にたっと笑う。
「何?父ちゃんのことお祝いしてくれるのか?」
 スコップを持って庭いじりをしていたリューナは、しばし思案した後、こっくりと頷いた。
「いいよ!お祝いね!」

 ああ、いいのさ別にー・・・・例え恩着せがましい口調だろうが、娘から祝ってもらえるなら本望さー

 多少リューナの口調に傷つきながら、ムウはそわそわしながらリビングのソファーに座って待つ。

 やがて、窓枠からフレームアウトしていたリューナが、ててて、とやってくると、後ろ手に何か持ったまま、もどかしそうに靴を脱いで(フラガさん家は珍しく日本風の建物なのである)上がってきた。

「お父さん、お誕生日おめでとう!」
「ほい、ありがとう。」

 膝の上によじ登ってきたリューナが、じゃ〜ん、という効果音つきでムウに何かを差し出した。

 庭に咲いていたシロツメクサで編んだ花輪だった。

「器用だな、リューナ。」
 結構立派なそれを頭に乗せて、ムウは感心したように彼女を見た。
 自分と同じ色合いの瞳の娘が、「えへへ」と嬉しそうに笑う。

「おかーさんに教えてもらった。」
「ふ〜ん。」
 頭から降ろして繁々と眺める。

 十一月にシロツメクサか・・・・・。

(常夏の島じゃなきゃ出来ないよな。)

「ありがとな、リューナ。」
 くしゃっと頭を撫でると、くすぐったそうにリューナが笑い、ねえねえ、と甘えたように声を上げた。
「おとーさんが誕生日に貰ったものって何があるの?」
「ん?」
「他の人に貰ったもの。」
「今までか?」

 こっくりする娘の前で、ムウはう〜んと首を捻る。

「そうだな・・・・・結構色々もらったぜ?手編みの何がしとか・・・・時計とか、観葉植物とか。」
 そうそう、前にオーディオセット貰ったりしたな。
「それっておかーさんから?」
「ん?・・・・・母さんからは・・・・巨大な雪のケーキをもらったことがあったな・・・・。」
「じゃあ、誰がくれたのー?」
 おとーさんのおかーさん?
「え?・・・・・えと・・・・そのだな。」
 急に歯切れの悪くなる父親に、リューナが首を傾げる。
「誰?誰誰誰!?リューナの知ってる人?」
「や・・・・・そうじゃなくて・・・・・。」
「キラ?アスラン?それともラクスさん?カガリ?あ、わかったマードックおじちゃんだ!」
「違う違う・・・・まあ、確かにあいつらにお祝いしてもらったこともあるけど。」
「じゃあだれ?」



 過去に付き合った女性です、とは流石のムウも愛娘相手に口が裂けても言えるはずも無い。


 そうこうしているうちに、ムウの誕生日にと、料理の買出しに出ていたマリューとアレンが帰ってきた。
「ただいま〜。」
「おか〜〜〜〜さ〜〜〜ん!」
 途端、リューナが転げるようにムウの膝から降りると、母親に向かってダッシュした。
「おとーさん、昔お誕生日に手編みのものとか、おーでぃおとか貰った事があるんだって!」
 おかーさんじゃないんでしょ?あげたの。
「・・・・・・・・・・・。」
「ばっ・・・・・・リューナ!?」
 ムウの声が裏返る。
「すごいよねー、お父さん人気者だね!」
「そうねぇ、リューナ。」
 にこお、っと笑ったマリューが、冷ややかな眼差しでムウを観る。

 ざああああ、とムウの血が足元まで叩き落された。

 娘よ、頼むからこれ以上地雷を踏まんでくれ・・・・・。

 彼女から貰った花輪を頭に乗せて青ざめるムウを横目に、マリューはリューナににこりと笑う。

「そうね。お父さん、モテモテね。」
「モテモテ?」
 それに、リューナが不思議そうな顔をした。ちょこっと首を傾げる仕草は、マリューそっくりだ。
「なんで?だっておとーさん、おかーさんがいるのに?」
「だよな、だよな、そうだよな、リューナ!!!」
 ここぞとばかりにムウが彼女に近寄った。
「そうだよな〜、お父さんが愛してるのはお母さん一人だもんな!」
「うん。キラがね、おとーさんはおかーさん馬鹿だからもてないって言ってたよ。」



 あの野郎・・・・・・・・・。



 ひきいっと固まるムウに、マリューが必死で笑いを噛み殺す。
「そうね、リューナ。お父さん、もてなかったわね。」
 お母さん、間違ってた。ごめんなさい。
 それに、ふふん、と得意そうにリューナが胸を張る。
「だからおかーさん、仕方なくおとーさんと結婚したんでしょ?」

 我慢できなくなってマリューは大笑いした。
 きょとんとするリューナに、マリューは言う。

「そうよ。あんまりなさけな〜く、結婚してください!っていうから仕方なくお受けしたのよ?」
「マ〜〜〜〜リュ〜〜〜!!!!」
「おとーさん、かわいそう〜。」
 げらげら笑うリューナに、ムウはがっくりと肩を落とし、最愛の妻と娘を睨み付けた。

「そうだよ、悪いか文句あるか、俺はど〜〜〜せ母さんに拾われたんだよ!」

 まあ、あながち間違ってはいない。

「さ、そんな哀れなお父さんのために、誕生日の準備しましょう?」

 ぼろかすだ。

「ちくしょー、覚えてろよ、マリュー。」
 むくれ、ソファーにどっかりと腰を下ろすムウに、ぽかんと三人を見守っていた、フラガ家で一番マイペースなアレンが、とてて、とムウの側によると、よっこらしょ、と膝によじ登り、茶色の瞳でムウを見上げた。
「なんだ?どうした、アレン。」
「おとうしゃん、どこにおちてたの?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「かわ?うみ?おそらからおちてきたの?」



 興味津々の彼の台詞に、大爆笑したマリューが、その腹痛から立ち直るまで有に15分はかかったそうな。



 父親の威厳について、改めて考えるムウの誕生日なのでした。

(2005/12/02)

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