Muw&Murrue

 大空少年
「おんや?」
 野外模擬戦闘を終了し、教官からMSをハンガーに戻すように指示された、まだ歳若い士官候補生は、ひょこひょこグラウンドを歩いて行く存在に目を丸くした。
「どうしたーっ!?」
 同じ班の仲間の一人が、そんな友人に叫ぶ。だが、そんな呼びかけに「ちょっとな。」と答えた彼は、コックピットのモニターを切り替えた。大きく写る、ひょこひょこ歩く小さな存在が、ちょっと前に自分たちの指導をしていた教官の息子だと、彼は気付いた。
「一時の方向に、フラガ教官の息子さん発見〜!」
「ええ!?」
 その場に居た友人二名が、その彼の声に、慌てて一時の方向を確認する。
 青いリュックを背負った小さな子供が、一生懸命歩いていた。
「・・・・・・あっちに何の様だ?」
 ラダーを使って下りて来た彼に、一人が振り返る。
「さあ。」

 向こうは海岸訓練用の砂浜がある。

「ていうか、保護者どうした、保護者。」
「いい加減だよな〜、フラガ一佐。」
「つかさ、ほっといていいわけ?」

 のんびりひょこひょこ歩いて行く子供を見送っていた3人は、MSをハンガーに戻すのを後回しにして、そちらに向かって一気に駆け出した。


 アレン・フラガは今にも泣きそうな顔をしていた。ひょい、と後ろから抱き上げられて、驚いて眼を丸くしていたが、その淵から涙が零れ落ちるのは時間の問題のような気がした。

 思わず成り行きで抱え上げてしまった、先ほどのパイロットが、その様子にひるむ。
 こういう存在に対する接し方を、彼は知らなかったからだ。
「えと・・・・・・ど、どうしたの?」
 上ずった声に、仲間二人が懸命に笑いを堪えている。それを睨んで、彼はとす、とアレンを地面に降ろした。
 突然のお兄ちゃんの出現に、目をまん丸にしていたアレンは、ぎゅ、と手を握り締めて俯く。
「おとうしゃん、いにゃくなった。」
「・・・・・・・・・・どうして?」
「わかんにゃい。」
「・・・・・・・・・・。」
 三人で顔を見合わせて溜息をつく。

 ど〜せフラガ一佐の事だ。大して説明もせずに(彼は面倒がってもろもろをはしょる癖があった)小さな子を控え室か応接室に置き去りにしたのだろう。

「しゃいしょは・・・・まってたの・・・・けど、かえってこにゃくて・・・・・。」

 ど〜〜〜〜〜〜せどっかで誰かに捕まって、溜まってる雑務を片付けるようにでも言われたのだろう。
 恐らく、マードック整備士辺りに。

「それで探しに来たのか?」
「あれん、にゃかにゃいよ。」
 既に泣いている。

 おかしくて仕方ないが、3人は顔を見合わせると「どうしようか。」とひそひそと話し合った。

「フラガ教官のことだからさ、ぜって〜、忘れてるよな。」
「忘れてる忘れてる。」
「ああごめんごめん、なんて言いながらこの子回収しそうだよな。」

 ぐす、と鼻をすするアレンが、急にかわいそうになって、何気なく彼らはぽんぽん、とアレンの頭を叩いてあげた。

「とりあえずさ、こっちには教官、いないから、戻ろうぜ。」
「だな。」
「多分、君が待ってたところに来るはずだから。」

 小さな手を引いて、3人は歩き出し、ふとアレンがぽかんとした表情で何かを見上げているのに気付いた。
「?」
 彼らはその視線を辿り、「ああ。」と気付いた。


 聳えるように立つ、ムラサメ。


「きょじんだ・・・・・・。」


 ぱ、と手を離してダッシュするアレンを、彼らは慌てて捕まえた。
「ダメダメダメダメ。」
「どうして?」
「触っちゃダメーっ!危ないから!」
「・・・・・・・・・。」

 ぶわあああ、とアレンの瞳に涙が溜まり、掠れた声で「ごめんなしゃい」と小さく謝った。

 ああもう、このこ本当に一佐の息子か!?

「・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」

 ふえ、と息を飲むアレンをしばし眺めた後、3人は苦笑した。

「ちょっと待ってろ。」
「え?」



 ハンガーに片付けるように言われているが、ちょっとくらいなら、と最初に乗っていた青年が、ムラサメを動かす。
 跪いたMSが、アレンに向かって手を差し伸べる。
 目をキラキラさせてそれを見ていたアレンは、ぱっと駆け寄ると、巨大なムラサメのマニピュレイターを両腕で抱え込んだ。

「あくしゅ!あくしゅ!!!」
 振り返って、全開の笑顔を見せるアレンに、残っていた二人はちょっと照れたように顔を見合わせた。
 きゃっきゃとはしゃぐアレンは、ひとしきりムラサメの指を眺めた後、とてて、と二人に近づいた。
「ありがとうごじゃーます!」
 ぺこん、と頭を下げるアレンは、褐色の瞳で真っ直ぐに二人を見た後、思い出したように背負っていたリュックを下ろした。
「おれいでしゅ。」

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「何?」
 下りて来た一人が、後ろからアレンを覗き込む。ぱっくり開いた鞄からは、なんと、立派なサツマイモが顔を覗かせていた。

「・・・・・・・・。」

 残りの二人と同じように、彼は絶句した。

「いっこはおとーしゃんのだから、にこしかにゃいの。」

 ごそごそとリュックからお芋を出したアレンは「はい。」と佇む三人にサツマイモを差し出した。

「きょじんとあくしゅさせてもらったおれい。」



 本当に本当に本当にこれがあの、ムウ・ラ・フラガ一佐のお子さんか!?!?!?!


 にこにこ笑う彼からサツマイモを受け取り、一個しか入っていないリュックを満足げに背負うアレンに、はっと一人が気付いた。

「って、これもらっちゃったら、アレンの分は?」
 ちゃんとあるのか?

 それに、アレンはにこお、と笑った。

「いいにょ。」

「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」






「ま〜たふらふら居なくなって・・・・。」
 マードックにどやされて、アカツキのデータをROMに落とし、彼に渡して戻ってきた応接室に、自分の息子が居なかった。それで、ムウはこうして、感覚を頼りにアレンを探していた。

 何の因果か知らないが、ムウはどことなくアレンの居場所をキャッチする事が出来る。
 同様にリューナの居場所もだ。
 うらやましい、と一度マリューに言われたが、確かにこういう時に役に立つことを考えると、いいのかもしれない。

 そんな事をつらつら考えながら、迷いなく、感覚が指し示す方向に歩いていく。
 と。

「・・・・・・・・・・・。」
 官舎の中庭で、三人の士官候補生に囲まれたアレンを見つけることができた。
 ムウが声を掛けるより先に、ぱ、とアレンが顔を上げて、ぶんぶんと凄い勢いで手を振った。

 片手には、ホイルで包んだサツマイモが握られている。

 口の周りがサツマイモだらけなところをみると、どうやら焼き芋でもしていたらしい。
「お前らな・・・・・・。」
「あ、一佐。」
 二個のお芋を仲良く半分ずつにして、頬張っていた彼らがのんびりと言う。
「俺達もう、上がりですから。」
「焼き芋かよ・・・・・。」
 甘くて良い匂いがする。
 ひょい、と息子を抱き上げると、こちらからも甘い匂いがした。
「遅いですよ、一佐。」
「アレンくん置いて、どこ行ってたんです。」
 非難の視線で見られて、う、と言葉に詰まる。
「や・・・・・ちょ〜と、アカツキのことで・・・・。」

 やっぱりな。

 顔を見合わせる三人に、む、とムウは眉を寄せた。

「で?」
「はい?」
「・・・・・俺の分は?」
「無いですよ。」
「!?」
 もぐもぐと口を動かしたままの三人を見渡し、ふるふるとムウは肩を震わせた。
「お前らな・・・・。」
「おとーしゃんのぶんあるよ。」
「お?ホントか、アレン。」
 抱き上げた息子が、リュックを指差す。
「ここにはいってゆ。」
「・・・・・・・焼けてないの?」
 こっくりする息子に、ムウはがっくりと肩を落とした。
「なあなあ、アレン、一口。」
「や。」
「いいじゃん〜、上手そうだしさ。」
「これ、おにいちゃんたちにもらったの。」
 だから上げられない。

 はむ、と焼き芋にかじりつく息子を、うんうん、と眺めた後、ムウは三人に笑顔を見せた。

「お前ら・・・・・俺のも焼け。」




 横暴だ!職権乱用だ!くそー、一佐のあほー!



 背後に響く罵声を無視して、焼けたお芋をぱくつきながら、ムウはアレンの手を引いて歩いて行く。
「そっか。ムラサメと握手したのか。」
 それに、アレンはこっくりと頷く。
「お礼にお芋、上げたのか?」
「うん。」
「そっかそっか。」
 小さな足で、歩幅の広い父親について歩きながら、アレンは背の高いムウを見上げた。
「おとうしゃん。」
「ん〜。」
「あれん・・・・・きょじんちゅくるね。」
「・・・・・・・・・。」
 視線を落とすと、嬉しそうに息子が笑った。
「技術者になりたいのか?」
「ぎじ・・・・ぎ・・・・???」
「技術者!・・・・ああいう巨人を作る人だよ。」
 弾かれたように、アレンが頷く。
「ぎじゅになる!」
「ぎじゅって・・・・・・。」


 ふ〜ん・・・・・そういうのって、マリューの血かなぁ・・・・。


 少しずつ暮れて行く夕日の中、二人は官舎を後にする。駐車場に向かいながら、ムウはアレンを肩車した。
「なあ、アレン。」
「ん〜?」
「帰りにたこ焼きでも食べてくか。」
 ぱっとアレンの顔が輝やいた。
「うん!」
「母さんとリューナにはナイショな。」
「うん!!!」
 でもにゃんで?
 ムウの頬っぺたに、小さな手をくっつけて覗き込むアレンに、ムウは笑う。
「アレンの将来への第一歩記念に。」
「???」
「いいじゃん、男同士の秘密な。」

 それに、ひみつひみつと喜ぶアレンに、ムウは嬉しそうにするのだった。



(2005)

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