Muw&Murrue

 プレゼントは耳元に
 日頃から思っていることがある。

 ちょっとくせっ毛の、普通の栗色の髪と、多少赤みがかった、涼しさの欠片も無い、丸いブラウンの瞳。
 それから、致命的な、童顔。

 身長はそれほど低くないし、足もそんなに短くないけれど、身体のラインが丸いから、どうしても小さく見られてしまう。

 だから、思う。

「・・・・・・・・・・・・・。」

 背が高い。ガタイが良い。髪の毛は金髪で、端正な顔立ち。時々鋭くなるが、基本的に優しい、大人の深みが有る青い瞳と、時折見せる子供っぽい表情とのギャップ。
 手足が長く、自分の身体をすっぽり包んでしまうその人と、やっぱり並んで絵になるのは、すらっと背の高く、スタイリッシュなブロンドの髪の女性ではないのだろうか・・・・と。

 実際、黒で正装したロアノーク一佐がエスコートしている、スカンジナビア王国の姫君は、マリュー・ラミアスとは正反対の、気の強さと奔放さがにじみ出ているような美女だった。

 さらさらの金髪ストレートに、思わず目を細めていたマリューは、現在、オーブ迎賓館で行われている、友好国スカンジナビアの姫君の、歓迎パーティーの警護についていた。
 今回の訪問は、先の戦争による被害者の慰問ということで、あちらこちらに姫君が顔を出す予定になっている。
 そしてその隣に、当然のようにマリューの恋人の、ネオ・ロアノーク事、ムウ・ラ・フラガがつきしたがっているのには理由があった。

 姫君の護衛のため、である。

 確かに、彼女のSPも沢山居るのだが、オーブ国内を先頭に立って案内するガイド役兼、護衛も出来る者も必要だろうと、行政府が判断し、ネオ・ロアノーク一佐他数名にに白羽の矢が立った。
 なかでもネオは、姫君の側につき、エスコートする、という任も与えられている。
 曰く、軍内行政府内で彼ほどきちんと女性をエスコートでき、あまつさえ上流階級の知識・礼儀作法を身に着けていて、更に射撃・体術などの訓練が行き届いている人間は、彼以外に居ない、ということだった。

 今だって、首長たちに囲まれて微笑を絶やさない姫の横で、周囲に気を張りながら、尚且つ笑顔を見せる、なんて芸当を披露している。

 そんな和やかな雰囲気の漂う迎賓館には、白羽の矢がたった特別警護の連中の外に、多数、オーブ軍人も配置されている。ドアや正面玄関付近で銃を持つ立ち番から、黒のスーツにインカムでホール内部を警護するもの。それから、館全体を警備し、見回る者など、厳戒態勢がとられている。
 そんな、彼等の統括を任されているのが、待機室でホールをモニターしているマリュー・ラミアスだった。

 彼女は姫のオーブ訪問時からずっと、警備の最高責任者として、ネオとは別口で彼女の側に付いている。インカムから飛び込んでくる、『異常なし』の報告に、リストをチェックしながら、彼女は再び視線をモニターへと移した。
 自然と、一個のモニターを注視してしまう。

 ブロンド色白の姫君と、彼女の側に従うネオが映るモニターを。

「お疲れ様です。」
 そんな風に、特定のモニターを気にしながら、ホール全体を眺め、回転椅子の肘掛を、人差し指でこつこつしていたマリューは、目の前にぬ、と差し出されたカップに視線をあげた。
 ノイマンが笑顔でコーヒーを差し出している。
「バルトフェルド隊長から、差し入れです。」
「あら、ありがとう。」
 ほー、と溜息をつき、マリューは一口それを飲む。程よい酸味と苦味が美味しかった。
「特に問題、なさそうですね。」
 隣に腰を下ろしたノイマンが、カメラの操作パネルに手を伸ばしてのんびりと言う。
「そーねぇー。」
 ことん、とカップを置いたマリューが、妙に間延びした返事をする。そんな彼女をちらっと見た後、ノイマンがうらやましげにモニターを見上げた。
「楽しそうですねぇ、ホール。」
 気の抜けたノイマンの感想に、改めてホール内の人々の明るい笑顔を見渡し、マリューが小さく溜息を付いた。
「・・・・・・・まったく。」
 またまた視線は左上、一番端のモニターに吸い寄せられてしまう。笑顔で仕事をするパートナーの、長い腕が、姫君の腰に回っているのを、彼女はしげしげと眺めた。
「・・・・・・・・一佐、本領発揮って感じですね・・・・・。」
 そんなマリューの視線に気付いたのか、ノイマンが、ぽつりと零す。マリューは勤務中には珍しく、両肘をテーブルについて、手のひらにすっぽりと顔を埋めて、目を眇めてモニターを眺めた。
「出がぶるじょわですからねぇ。」
「フラガ財閥、でしたっけ?」
「腐っても鯛・・・・・。」
「艦長。」
 思わずノイマンに窘められるが、気にせず、マリューはモニターに映る、フォーマルな格好が、しびれるくらいカッコいい恋人に、本当に珍しくぼやいた。
「そもそも、あの人の好みってああいうタイプなのよねぇ。」
 溜息にも似たセリフに、ノイマンは、彼が好んでみていたグラビア雑誌の、妙に折れ線のついた部分を思い出した。
 ああ、確かにブロンドの女性が多かった気がする。
「勝気で・・・・ちょっとわがままで、ないすばでーで。」
「ばでーって。」
「ああいう風に、強気に男したがえようとするオンナノヒトが、かわいく見えるみたいなタイプよねー、ムウって。」
「そうですか?」
 と、ノイマンは何となくムウをフォローしてみた。
「そうよ。」
 だが、彼がムウを援護する発言をする前に、マリューはそれをばっさりと切り捨てた。
「ほら見て?」
 言われて、ノイマンが見上げたモニターには、彼が、姫君に何か囁かれて、かしこまって頷いているのが映っていた。
「ほーらほら、何かウエイターに頼んでる。あ、見てよ、ノイマン君!あの目!きゃー、いやらしい!!!」
「艦長。仮にもご自分の想い人を。」
 酔っ払ってるのだろうかと、思わず差し入れに貰ったコーヒーの香りを嗅いでみる。
 砂漠の虎が変なものブレンドしたのではないかと思ったのだ。
 だが、残念な事に、ポッドの中のコーヒーからは、アルコールの香りはしない。
「・・・・・ねえ、ノイマンくん。ムウってさ、なんか、オンナノヒトその気にさせるオーラ持ってると思わない?」
 かぱ、とボッドの蓋を閉じて、「そうですか?」とノイマンが相槌を打った。
「そうよ。天然でたらしなのよ。」
「艦長。」
「姫君に声を張り上げさせるわけには行かないからって、見て!あんな風に顔寄せちゃってさ。あー、やだやだ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
 ノイマンは壁に掛かっているカレンダーを見た。日数を数えて、なるほど、と頷く。
 ムウとマリューがこの任務についてから、かれこれ一週間が経とうとしていた。
 一週間、マリューは他の女に優しくする恋人を目の前にして、我慢に我慢を重ねて来たのだ。
 マリュー・ラミアス一佐であり、あの、アークエンジェルの艦長でもある、という肩書きが、常に公の場では彼女について回る。
 故に、彼女はいつでも「凛とした艦長」の顔でその場に望まなければならない。
 大体、今回の姫君の来訪に伴う警護の、陣頭指揮を任されたのも、「アークエンジェル艦長」としての肩書きからなのだ。
 そんな状況で、更に、彼女の唯一の甘えどころが、同期間中他の女に掛かりっきりで、尚且つ、そんな二人を、自分が警備しなくてはならないとなると、知らずストレスばかりが溜まっていったのだろう。

 今、このモニター室には、昔馴染みのノイマンと、マリューしか居ない。

 マリューの中に溜まっていた愚痴が、ぼろぼろと零れてくるのも無理は無いのだ。

 そんな彼女を今は受け止めるのが、部下として・・・・いや、戦友として重要な事だと、ノイマンは勝手に決意する。その横で、マリューがモニターをぼんやり見ながら、妙に落ち込んだ声で、「早まったかな。」と呟くのに目を見張った。
「何がですか?」
「ムウとこのまま付き合っていいのかな・・・・・・。」
「艦長。馬鹿なこと言わないで下さい。」
「・・・・・・・・・・・そう?」
「そうです。」
 さらっと流されて、マリューはちらとノイマンを見た。彼は他のモニターを見ながら、色々計器を作動させて、カメラの角度を変えたりしている。
 その横顔に、マリューはふっと笑った。
「ミリアリアさんはどの辺に居るの?」
 思わず咳き込むノイマンに「いいなぁ〜。」なんてマリューが再びぼやきだした。
「初々しいねぇ〜、ノイマンくん。」
「からかわないで下さい、艦長。」
「ムウなんか〜、そういう反応しないから詰まんない。」
「・・・・・・・・・・。」

 確かに、あの人は百戦錬磨だから、突然恋人・・・というかちょっと良い雰囲気の女性について突っ込まれても顔色一つ変えないだろう。
 ムウが女性関係で焦るなんて、想像できない。

「この間もね、デスクの中からえっちな写真集が出てきて・・・・これなに!?って訊いたら、なんでもない顔して、『ああ、今捨てる所』なんていうのよー?慌てもしないし。」
「あー・・・・・言いそうですね、一佐。」
「大体、喧嘩して『嫌い!』っていっても全然取り合わないのよ!?何あの自信!」
「嫌いなんですか?一佐のこと。」
 思わず真顔で尋ねられて、マリューは目を瞬いた。どことなく小動物を思わせるそんな仕草に、ノイマンはどきりとした。

 なるほど。
 こういうのに、一佐は弱いのかもしれない。

「嫌いで一緒に暮らすと思う?」
「失言でした。」
「・・・・・・・・・・嫌いなんじゃないの。ただね・・・・・」
 すっとマリューが背筋を伸ばして、伏目がちに呟く。
「ただ・・・・・なんか、私ばっかりムウのこと追いかけてる気がするのが・・・・・嫌なだけ。」

 そうだろうか。
 ノイマンはモニターの中で、上手に世渡りしていくムウに目を細めた。

 どうにも逆な気がするんだけどな、俺は。

「ムウが慌てるの・・・・・見てみたいわ・・・・・・。」
 はう、と溜息混じりに呟くマリューに、ふとノイマンは思いついた事を口にした。
「なら・・・・・・・・。」





「ロアノーク一佐、明日の打ち合わせをしますからこちらに。」
 姫君の宿泊先である、アスハの別邸まで彼女を送り届け、車から降りて、ホールをエスコートしていると、階段の前で横から声を掛けられた。「はい。」と返事をして、姫の手を解くと、名残惜しそうに彼女の指先が、ムウの腕の内側辺りを撫でた。
「残念だわ。」
「私もですよ、姫。」
「・・・・・・明日も迎えに来てくださるのかしら?」
「お望みと有らば。」
 軽く会釈する長身の男に、姫君は目を細めると小さく笑う。
「気に入ったわ。連れて帰りたいくらいよ。」
 すっと手を差し伸べて、それから彼女は黙って見下ろすムウの頬にゆっくりとキスを落とした。
「来てはくれないのかしら?」
「行きたいのは山々ですが。」
 私にも色々と事情がありますので。
 おやすみなさいませ、と彼女の手を取って、口付ける。「残念」と肩をすくめ、彼女はスリットも眩しい絹のドレスの裾を翻して階段を上っていく。侍女とSPを従えて消える背中を見送り、ムウは回りに誰もいないのをいいことに、渋面で溜息をついた。

(マリューに触りたい・・・・・・・。)

 きちんとセットされた、長めの前髪をくしゃっとして、ムウはぞんざいに溜息をつく。伏せた目の先に、ここ数日、離れた所からアイコンタクトをするくらいしか出来ていない、恋人が映った。
 無理やり家に帰っても、辿り着くのは深夜で、彼女は寝ているし、ムウが出る頃には、彼女は先に仕事場に行ってしまっている。
 このアスハの別邸と自宅の往復はきつく、中間の都市のホテルに帰る日も多かった。

 一週間。
 一週間も、マリューにキスして無いし、抱きしめて無いし、あんなことやこんなこともしていない。

(絶えられない・・・・・・・。)

 思わずがっくりと肩を落とすと、「一佐?」と訝しげな声を掛けられた。

 そうだったそうだった。まだ打ち合わせがあるんだった。

 だが、明日は確か、姫君は公務をお休みして、プライベートで一日を過ごすとかいう予定だった筈。

(なら、俺も休みになるかな・・・・・・?)
 公式な訪問には、オーブの重役が何人も姫君に付き従い、その中で、ムウも一緒に行動をしなくてはならないのだが、私的なものなら、別にオーブ側の人間は要らないだろう。
 ていうか、むしろいないほうが動き易いのでは・・・・・?

「では、明日の日程ですが、一佐は、姫君のたってのご要望ということで、是非、お付き合い願いたいのですが、宜しいですかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ああ・・・・・マリューのところに帰り隊・・・・・・・。

 おかしな部隊を連想しながら、それでもムウは「もちろんです。」と笑顔を返すしかなかったのである。





 電話が鳴った。夜も遅い、深夜零時過ぎ。お風呂から上がったマリューが電話に出ると、「マリューか?」と愛しい人の声が受話器から漏れてきた。
「ムウ・・・・・・。」
「悪い・・・・寝てた?」
「ううん。」
「そか・・・・・・・。」
「・・・・・・・何?」
 すとん、と子機を持ったままソファーに腰を下ろして促すと、ちょっとの間の後、「元気?」と訊かれてしまった。
 思わず微笑んで「元気よ。」と答えると、「ならよかった。」と変な相槌が返ってきた。
「貴方は元気そうだったわね。」
「そう?」
 がしがしと頭を拭きながら、マリューは穏やかに告げる。
「今日、始終モニターさせていただきました。」
「ん・・・・・ま、仕事だからね。」
「あら。」
 それに、マリューは意地の悪い声で答えた。
「ああいう女性、ムウのタイプでしょ?」
 さぞかし楽しいお仕事なんじゃないんですか?
 含まれているものに、思わず苦笑し、ムウは「そういうなって。」とやんわりとがめた。
「とにかく、明日・・・・・てか、今日には帰るから。」
 そんな何気ない一言の後、暫く沈黙が続いた。寝ちゃったかな?と思わず眉を寄せるムウは、続くマリューの「うん。」という掠れた返事に、どきりとした。
「帰って来てね。」

 あらら。
 思わず抱きしめて放したくなくなるような、なんとも可愛いセリフじゃないか。

 どきん、とする胸の中を隠して、「もちろん。」とムウは強く答えた。

「じゃないと私・・・・・・・。」
「え?」
「・・・・・・・・・ねえ、ムウ。」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
 躊躇うような間があり、ムウは受話器の向こうの息遣いさえ聞き逃すまいと息を詰める。
 なかなか彼女は続きを言わない。
「どした?」
 そっと促すと、「なんでもないわ。」と細い吐息が答えた。
「とにかく、帰るから。」
「ええ。」
 待ってるわね、と言う彼女に今すぐ逢いたい気持ちを押さえて、ムウは泣く泣く電話を切った。これ以上長引かせて、彼女が睡眠不足になったら大変だ。

(それに、今日寝といてもらわないと、明日寝かさない予定だし・・・・・・。)

 あー、マリューさんが恋しいよー。

 一人早々と毛布に包まると、余計に恋しさ、愛しさが募って、ムウは「やっぱり他の女のお守なんて引き受けるんじゃなかった。」とぼんやり思うのだった。



 そして、次の日。一日中、姫君に連れまわされ、マリューにもやったこと無いような、馬鹿丁寧なおもてなしの数々をしたムウだったが、解放されたのは、いつもより早い夕方の六時だった。
 これなら、家に帰ることが出来る。
 だが、迎賓館からの帰路、いきなり軍本部のキラから電話がかかってきて、明後日のパレードの警護の打ち合わせがあるから、大至急軍本部まで来てくれ、と『命令』されてしまったのだ。
 行ってみたら最後、パレードの打ち合わせを皮切りに、次から次へとアークエンジェルのクルーがムウの元に押し寄せ、やれあの書類を早急に提出しろだの、アカツキの整備はどうするのだだの、健康診断受けて来いだの、溜まっていた雑務を押し付けられ、疲れ切ってた彼がようやく帰れる目処がついたのは、二十三時を過ぎた辺りだった。

(か・・・・・・・帰らなくちゃ・・・・・・。)
 明日はようやくお休みだ。ふらつく足取りで廊下を行くと、「あれ?」とのんびりした声を掛けられた。
 振り返ると、アークエンジェルの躁舵手がファイルを抱えて立っていた。
「お疲れ様です。」
「おっつかれー。」
 ひらひら手を振るムウを、ノイマンが珍しいものでも見るようにして見詰めている。
「何?」
 つかれたー、とぼやいていたムウは、そんな視線に気付いて首を巡らせる。
「いえ・・・・・・・・。」
 対してノイマンは、ファイルを抱えている腕を持ち上げて、時計の文字盤を見た。
「珍しいですね。」
「何がだよ。」
 そのまま連れ立って廊下を歩く。ノイマンが肩をすくめた。
「こんな時間にこんな所にいるなんて。」
「ここんとこ、毎日だよ。家に帰ってない。」
「今日は帰るんですよね?」
「んー・・・・・・。」
 ロッカーに向かいながら、ムウは乾いた笑みを浮かべた。
「『今日』は無理だな。30分しかねぇし。」
 そういうノイマンくんも残業だろ?
 それ、と指差されて、「ええまあ。」とノイマンは困ったように笑った。
「でも、これが俺からのプレゼントみたいなもんですからね。」
「・・・・・・・・・こんな書類貰って喜ぶ奴居るのか?」
 オフィスとロッカーの丁度分かれ道に差しかかり、曲がろうとしたムウが、思わず笑う。それに、「違いますよ。」と彼は眉間に皺を寄せた。
「この書類がプレゼントじゃなくて、この書類の肩代わりを申し出て、出来た時間がプレゼントなんです。」
「・・・・・・・・・ああ、なるほどね。」
「で、一佐は?何か差し上げたんですか?」
「あ?」
 出来れば俺の仕事を誰か肩代わりしてくれよ、とぼやいていたムウは、ノイマンのセリフに眉を寄せた。
「ですから、プレゼントですよ。」
「何の?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」

 それに、数秒間瞬きを繰り返した後、ノイマンが、「あのー。」と再び腕時計を見ながら遠慮がちに口を開いた。

「今日、何日か判ってます?」
「いや・・・・・ほぼ日付感覚麻痺中。」
 なんせ分刻みのスケジュールだったからさ・・・・・。

 納得できるんだか出来なんだか、な理由を吐いて、ムウがしかめっ面をした。

「時刻だけで精一杯で、日付と曜日にまで気、配ってらんないっての。」
「・・・・・・・・・今日・・・・・といいますか、えー、残りあと15分ですけど。」
「うん。」
「十月十二日ですよ?」
「へー。もうそんな季節かぁ・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
 固まるノイマンを他所に、うーん、とムウが伸びをした。
「オーブに居ると季節感がどうもおかしくなるよな〜。大体さー、10月っていったら、マリューの誕生―――――」


 どきり、と不規則に心臓がなり、腕をあげたまま、ムウはその場に固まった。

 ん?
 今、ノイマンの奴、何て言った?



「今日、何月何日だって?」
 恐る恐る訊いてみる。
「十月十二日です、一佐。」
 あと、残り十三分で終りですけど。

 じゅうがつじゅうににち・・・・・・・って・・・・・ひょっとして・・・・。

「ノイマン一尉・・・・・君は誰に時間のプレゼントをしたんだって?」
「それは、」
 ノイマンが涼しい顔で答えた。
「こんな書類を抱えているのは、アークエンジェル広しと言えども、一人しか居ないと思われます、一佐。」




「まったく・・・・・・・。」
 ダッシュするムウの背中を、彼はあきれたように見送った。
「残り10分じゃ不可能を可能には出来そうも無いな。」




 マリューは何て言っていた?
 何度も何かを言うのを躊躇っていなかったか?

 帰って来てね。

 そんなセリフと声色と、あまつさえ脳内で作り上げたヴィジュアル(うるうるした涙目で、自分を見上げる新妻風味)が何度も何度もリフレインされる。

 そもそも自分が電話をしたのは今日の零時だった。あの時、鳴った電話に、マリューは何を思ったのだろうか。

「嘘だろ・・・・ったく!」
 着替えもせず、制服のまま車に飛び乗り、アクセルを目一杯踏み込む。スピードを上げながら、ムウはぎり、と奥歯を噛み締めた。

 言って欲しかったのではないか?
 零時きっかりに、「お誕生日おめでとう。」って。
 この世に生まれてきてくれて、ありがとう、って。

 なのに、自分は何も言わなかった上に、十二日は残り五分しかない。
 五分じゃ到底辿り着けない距離を、爆走している自分が情けない。

 情けないけど、じゃあ、どうすればいいのだ?


 プレゼントなんて用意してる暇が無い。のっぱらで草花でも積んで帰ろうかと本気で思う。
 いや、それよりなにより、一年で一度しかない彼女の誕生日に、間に合わなくちゃ意味が無いのだ。


 ああ、なのに、絶対に間に合わない。
 絶対に絶対に絶対に間に合いそうに無いのだ。


「マリュー・・・・・・・。」
 振り絞るようにもれた声。

 夜道をただまっすぐ走り続ける車。

 空には、少し欠けた丸い月が、傾いたようにして端っこに引っ掛かっている。


 刻々と時は流れ、五分はあっという間に飛び去り。


 冷たい夜に、くっきりと灯を灯す自宅に辿り着いたのは、午前零時を四十分程回った頃だった。


「マリュー!!!」
 叫んで、玄関から中に飛び込めば、リビングはひっそりと静まり返っていた。
「・・・・・・・・っ」
 続いてキッチンに駆け込む。調理台の上には、八等分されと思われる大きさのケーキが一個と、吹き消された跡の残る蝋燭が、無造作に散らばっていた。
「・・・・・・・・・・・。」
 いたたまれなくて、慌ててそこを飛び出すと、ムウは階段を駆け上がった。廊下の突き当たりの寝室のドアが、細く開いている。そこからもれる、オレンジの光りに、ムウの足が廊下に縫いとめられたようにして動けなくなった。

 そこにいる彼女に、何を言えば良い?

「・・・・・・・・・・・ムウ?」
 しばし立ちすくんでいると、不意に乾いた声が響いてきて、彼はぎくりと肩を強張らせた。

 とりあえず、起きてくれていた。

 その事に安堵しつつ、だが、歯がゆいような物も感じて視線だけが泳いだ。と、そんなムウの様子に気付かず、軽い音を立ててドアが開いた。

「マリュー・・・・・・・・・・・。」
 出てきた彼女は、後ろからの灯火に影になり、俯けた顔の表情が、ムウからはうかがえない。
「お帰りなさい。」
 ぽつりと漏れたセリフに、「うん。」と間抜けな返事をしてしまった。
「お腹すいてない?」
「え?」
 する、と影が動いて、情けなさといたたまれない気持ちから、ちゃんとマリューを見ていなかったムウが、顔を上げた。側に寄って来る恋人を改めて見詰めて、彼はどきりとした。
 キレイな栗色の髪の毛が、いく房か頬に掛かるようにして乱れ、目尻が少し赤いのが、暗がりでもわかった。
 それと、驚いたことに、彼女は夜着ではなく、クリーム色のなシフォンのドレスを着ていたのだ。
 更に、珍しく耳元には、銀色のイヤリングがちりちりと揺れていて、開け放たれた寝室から、もれてくるムードランプの明かりを受けて不規則に輝いている。首もとの広い衣装で、そこを飾るように、薄い緑の、クローバーを模ったペンダントが歩く度に微かに光っていた。
 ちゃんとした、正装。
「今、何か作るわね。」
 だが、それについて何も言わず、マリューはすたすたとムウに近づいてくる。
「あ・・・・・・・・・。」
 何かを言いかけるムウの脇を、彼女はすっと通り過ぎた。
「下で待ってて。着替えてくるから。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」


 こういう時は、どうしたらいいのだろうか。


 そんな疑問が脳裏を掠めるのと同時に、ムウの手が伸びていた。
 自室に向かおうとしていた彼女は、急に抱き寄せられて蹈鞴を踏んだ。
「きゃっ!?」
 よろめいた彼女を、ムウはしっかりと抱きしめる。
「ちょっと・・・・・ムウ?」
 後ろから抱きしめられ、何とか顔を見ようと、マリューが身体を捻った。しかし、ムウはそれを許さず、きつくきつく抱きしめる。
「ちょっと・・・・・ムウ、苦し」
「ごめん・・・・・・・・・。」


 不意にムウの口から零れたのは、どうしようもない謝罪の言葉だった。


「・・・・・・・・何が?」
「・・・・・・・・・キッチンのケーキと蝋燭。」
「・・・・・・・・・・。」
「それから、マリューさんのその格好。」
「・・・・・・・・・・・。」
 胸元に回された腕が、より一層、強くマリューを締め付ける。
「ほんとにゴメ」
「謝らないで。」
 ふと、冷たい声が、腕の中の柔らかな存在から響き、彼女の首筋に顔を埋めていたムウは、ぎくりとして顔を上げた。
「謝らないで。」
 私が惨めになるだけだですから。
「・・・・・・・・・・・。」
 覗きこむようにすると、俯けた白い頬だけが見えた。微かに震える彼女の身体。
「マリュー・・・・・・・。」
「早くご飯作らないと。」
 自分に回されている腕に手を掛けて外しながら、マリューがやんわりという。
「ああでも、何か食べてきたんですか?」
 振り返らず、なんでもない、努めて明るい調子で言い、彼女は自室へと歩いて行く。
「・・・・・・・・・・マリュ」
「軽い物が良いわよね?もう深夜も一時になるし。」
「マリュー・・・」
「サンドイッチでも作ります?それともお茶漬け?」
「マリューっ!」
「そういえば冷蔵庫に、チーズが入ってたような」
「マリューっ!!」
 咎めるような声に、のろのろと振り返った彼女が、小さく苦笑して肩をすくめた。
「大きな声出さなくても聞こえてます。」
「けど・・・・・さ・・・・・でも、俺」
「だから言ってるでしょう?謝らないでって。・・・・・・ムウは仕事だったんだし。今日のこと、何も話さなかった私が悪いわ。」
 貴方が謝る理由がある?
 そう言って笑う彼女の、褐色の瞳が、微かに悲しげに揺れた。それに気付いて、ムウが苛立たしそうに前髪を掻き毟った。
「だから、違うんだってば、マリュー!」
「何が違うの?」
「わかんない!?・・・・・・・俺、情けなくて仕方ないし、腹立ってしょうがないんだよ・・・・なのに、マリューはそうやって言うし・・・・・じゃあ、俺はどうしたら良いんだよ!?」
「どうもしなくていいわ。」
 それに、ふい、とマリューは視線をそらした。
「普通どおりにしてれば良いのよ。」
「違うだろ!!」
 その態度にカッとなって、ムウが声を荒げた。
「だって、俺」
「普通どおりにしてて!!!!」
 そんな彼のセリフを遮るように、マリューが強い口調で言った。
「じゃなきゃ、私が惨めになるって言ったでしょう!?」
「・・・・・・・・・・・・・。」

 彼女が俯き、胸元のペンダントをぎゅっと握り締めた。その仕草に、ムウは心臓を貫かれる。
 そこにあるのは、あの「ペンダント」ではない。
 「ペンダント」ではないが、その仕草は、自分以外の「何か」にすがる、彼女の仕草だった。

 自分から離れていきそうに見える、彼女のサイン。

「別に、大した事じゃないのよ。大した日でも無いし。そもそも、お祝いするような歳でもないの。」

 こんな格好とかケーキとか、無かった事にして?

「・・・・・・・・・・・・・。」
「だからね・・・・・・・・・。」
 開かれる彼女の、紅い唇が震えた。
「忘れて?」

 掠れた一言に、ムウの堪えていた物が、一気に溢れた。

「ヤダ。」
 きっぱりと言い放ち、大股で彼女の元へと近づく。逃げようとする素振りの彼女を、引き寄せて、再びきつくきつく抱きしめた。
「ムウ」
「んなの嫌に決まってるだろ!?」

 カッコ付かないとか、面倒だとか、そんな思いを全部蹴散らして、ただ、彼女を泣かせ、失望させた自分に腹が立つ。
 腹が立って腹が立って。

「嫌だよ・・・・俺は・・・・・・ほんっと・・・・・ごめん・・・・」
「・・・・・・・・・・・。」
 震える彼女に頬を寄せて、ムウは懸命に言葉を捜す。

 建前も冗談も考え付く余裕が無い。出てくるのは、情け無い本音ばかりだ。

「頼むから、言い訳させてくれよ・・・・・土下座でも何でもさせて。俺・・・・・・マリューのこと・・・・マリューに関わる全ての事、もう二度と絶対忘れたくないんだから・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「悲しませた事、全身全霊で謝るから・・・・・・だから・・・・・・・。」
 背中に回した腕をきつく締める。
「だから、そんな悲しいこと言うなよ・・・・・・マリューにだけは・・・・・俺、嫌われたく無いんだ。ほんとに・・・・・嫌われるのが怖くて仕方ないんだから。」

 目を閉じて、すがるようにマリューを抱きしめる。ペンダントを握り締めていたマリューの手が、緩やかに解けて、そっとムウの背中に回された。

「・・・・・・ほんとうに?」
「当たり前だろ。」
「・・・・・・・・・。」
「愛してるんだ。」
「・・・・・・ホント?」
「ああ。」
「・・・・・・・・・・・私に嫌われたら・・・」
「生きて行けない。」
「ムウ・・・・・・・・・・・・・・。」

 そっと身体を離したムウが、真っ直ぐにマリューを見る。俯けていた彼女が顔を上げ、切なげな褐色の瞳が、ムウの青色の瞳と絡んだ。
「マリュー・・・・・俺は本気で」


 瞬間。


「なーんちゃって。」

 ムウのセリフを遮って、マリューがにんまりと笑った。




「うっそ〜。」







 へ?






 嘘?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・何が?



 フリーズするムウを見て、マリューが「引っ掛かったわね〜。」と楽しそうにくすくす笑い始めた。腕の中で身体を震わせる彼女に、ようやく我に返る。
「あ・・・・の・・・・マリューさん?」
 ぎこちなく呟かれたセリフに、ついに我慢できず、マリューが大笑いし始めた。
「き〜ちゃったき〜ちゃったvv」と嬉しそうにムウから身体を離すマリューに、手を伸べたまま、固まるムウ。
 そんな恋人を見ながら、マリューは自分の首から下がっていたペンダントのヘッドを軽く持ち上げてみせた。

「これ、アスランくんに作ってもらった、高性能レコーダーなんです。」


 こうせいのうれこーだー?


 ぽかんとするムウを前に、マリューがくふくふ笑っている。それに、ムウは益々混乱する。
「え?・・・・・ちょっとあの・・・・マリューさん?レコーダーが・・・・何?」
「だからぁ・・・・・今のムウのセリフ、ぜーんぶ録音しちゃった、ってことvvv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「もー、ムウったら、可愛い〜〜〜〜vvv」

 か、可愛い?

「そうかそうか。私ってそんなに想われてたなんて思わなかったvv」
 満足満足。

 きゃあきゃあと楽しそうなマリューを見詰めて、「ああ、楽しそうだな。」などと想う反面、混乱した頭で何とか状況を整理しようとする。

「え?ていうか、まってまって、マリューさん。」
 うふふ、と一人ご満悦のマリューの肩を、がし、と抑えて、ムウがその褐色の瞳を覗き込んだ。
「何が嘘なの?」
「だから、誕生日が。」


 え?


「もー。ムウったら、しっかりして!ほら。」
 そう言って彼女は、自室のドアを開けると、灯をつけて、室内のデジタル時計を指差した。

 時刻 AM01:16 日付 10/12


「ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 つまり・・・・・・・・。

「・・・・・・・今日は十三日じゃないの?」
「違います。」
「あの・・・・つかぬ事をお尋ねしますが、今日は?何日?」
「ですから、今日が、十二日なの。」

 くすくす笑うマリューに、ムウは暫く立ち尽くす。

 えーと・・・・・・。

 そんな混乱真っ只中な彼を励ますように、マリューが下からムウを覗き込んで、イタヅラっぽく微笑んだ。
「ムーウ?今日が何日か、貴方、誰に聞きました?」

 たっぷり三十秒考え込んだ後。

「あんのヤロ――――――――!!!!!」

 静かな二人の家に、怒りの滲んだ大絶叫が響き渡るのだった。





 リビングのテーブルに、隠すようにして戸棚に仕舞われていた大きなケーキが並び、同じくオーブンの中でひっそりと眠っていたチキンが出てくる。調理台の上にあったのは、近くのコンビニから、わざわざムウを騙すために買ってきたショートケーキだと、ドレスアップし、髪の毛をいくらか直したマリューがにこにこ笑いながら言った。
「つまり、私がムウの慌てるところを見たことが無い、って言ったら、ノイマンくんがね、『じゃあ、今度の艦長の誕生日に焦る一佐をプレゼントしますよ』って言ってくれて。」
「・・・・・・・・・それで皆でぐるになって俺を嵌めたって訳か。」
 睨み付けるムウに、マリューは笑いが止まらない。
「貴方、絶対日付感覚狂ってるだろうから、って。」

 今日に限って大した用でもないのに呼びつけたキラや、アカツキの事でくどくど念を押したマードック。こまごました事務処理を持ってきたチャンドラや、その他クルーの「急いでください」「仕事が溜まってますから」などのセリフを思い出して、ムウは歯噛みする。

 なるほど。裏でつるんで笑ってたわけか。
 はっはっは。なんて出来たクルーたちなんだろう。

(ぜってー許すまじ、あいつ等。)

「お蔭で素敵なプレゼント、貰っちゃったvv」
「・・・・・・・・・・。」

 マリューがペンダントを握り締めたのは、レコーダーのスイッチを入れるためだったのだと、ようやく判って、思わずムウは安堵する。だが、それも一瞬で、そのレコーダーに録られてしまったセリフの、あまりに情けない内容と恥かしさに、ソファーに体を埋めたまま、ムウは絶句し頭を抱えた。

「マリュー・・・・・それ、消して。」
 思わず掠れた声で懇願する。
「駄目ー。」
 気付いて彼女が、ぎゅっとペンダントを握り締めた。
「なんでだよ!?」
「MDに落として、寝る前に聴くんだもん。」
「マリュー!!!!!」

 そんなことされたら、一生の恥だ。

「あら?あれは建前でしたの?」
「建前じゃないから恥かしいんだろうが!!!」
「私は嬉しいな。」
「俺は嬉しくないーっ!!!!!」
 ワインのグラスをテーブルに並べる彼女に、ムウは抱きついてソファーに押し倒す。
「ちょっと!」
「あんなセリフ、いっくらでも耳元で言ってやるから、な?」
「やーだ。そんな余裕のセリフは要らないの。」
「・・・・・・マリュ〜。」
 情けなく見詰めてくる彼の鼻に、マリューはちょん、と人差し指を押し当てた。
「今日が誕生日の、マリューからのお願い。」
「・・・・・・・・・・・・。」
 複雑な顔をするムウの首に腕を絡めて、彼女はぎゅっと抱きついた。
「嬉しかったんだから。もう二度と、私の事を忘れたくないって言う、貴方のセリフ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「本当に本当に、嬉しかったんだから・・・・・・。」

 首筋に頬を押し当てる彼女が愛しくて、ムウは彼女をしっかりと抱きしめた。

 すぐに帰ると言っておきながら、待たせた挙句、忘れてしまった前科がムウには有る。
 なら、彼女のご希望を叶えてあげるしかないのではないだろうか。

 諦め半分で、ムウは溜息を零し、そっと耳元に唇を寄せた。

「ごめんな。」
「来年、忘れたら許しませんから。」
「・・・・・・ひょっとして」
「土下座ビデオ撮影です。」
「まじ?」
「まじ。」


 顔を見合わせて、二人で笑い出す。


「っと。」
「え?」
 さ、物凄い遅いですけど、食べましょ?と促し、起き上がるマリューを、同じく起き上がったムウが引き寄せる。ソファーの背もたれに身体を預けて、彼は自身の胸に、恋人を抱きこんだ。
「忘れてた。」
「何?」


 これは、毎年言うセリフだから、録音されては困ると、ムウはマリューの耳に唇を押し当てる。
 軽いイタヅラと一緒に、低く、内緒話のように、囁く。


「誕生日、おめでと。」

 あいしてるよ。


 それに、顔を上げたマリューがにっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。」






次の日、見えないところに紅い華を付けられたマリューの元に、その痕と同じく真っ赤な薔薇の花束が届いた。続いて、数日後、アークエンジェルクルーの下には「誕生日祝いありがとう」と手書きでコメントのされた、これでもかと、マリューを抱きしめて、何故かカメラ目線で自慢げに笑うムウのポストカードが届いたそうな。

 捨てるに捨てられないそれを前に、苦悶する同僚を見ながら、オフィスで机の引き出しにそれを仕舞うノイマンが遠い目をする。


「大人気ないな、一佐・・・・・。」

 と、廊下から、「何配ってるんですか、貴方はーっ!!!」という艦長の悲鳴が響き渡り、「ああ今日も穏やかな一日だ。」と一人うんうん頷くのでありましたとさ。





(2006/10/12)

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