吸血鬼とは?


皆さんは、吸血鬼と言うとどういったものを想像するでしょうか?

タキシードにマント、髪型をオールバックにした貴族風のいでたちの男?

それとも、最近のコナミの悪魔城ドラキュラ、キャッスルヴァニアシリーズに登場するような、宝塚と見まがう耽美系の男?

日の光を嫌う。ニンニクを嫌う。十字架を恐れる。

蝙蝠を使役し、自らも蝙蝠へとその身を変化させる。

霧に変化し、どの様な隙間からも自由に出入りする。しかし犠牲者が招き入れない限り、生活感のある館には侵入することが出来ない。

流水の上を渡ることも出来ない。

そして、鋭い牙で、処女の血を啜り、永劫の時を生きる不死者・・・。

実は、すぐ想像できるこれらの吸血鬼像は、吸血鬼と言うカテゴリの中では、極少数の部類に入ります。


吸血鬼に分類される存在は、世界中に分布しています。

その姿もじつに様々で、化け物然としたものから、美しい女性の姿をしたもの、確かな実体を持たないものまでいます。

同様に、その吸血方法も様々です。


吸血鬼として、筆頭に上げられる事の多い「ドラキュラ伯爵」。ブラムストーカーが書いた怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」における敵役であるこの魔物は、吸血鬼と言う存在を文学の題材に昇格させ、独特の吸血鬼像を植え付ける働きをしました。・・・実際にはこの「吸血鬼ドラキュラ」以前にも「吸血鬼カーミラ」等の吸血鬼文学は存在したのですが、先にもあげた、吸血鬼の特性、及び弱点を作り上げたことを考えると、この「吸血鬼ドラキュラ」が今日の吸血鬼像の始祖であるとする事ができるでしょう。


そして、この吸血鬼像の始祖、ドラキュラ伯爵に、今日我々が持つ「ドラキュラ像」を植え付けたのが、かの名優ベラ・ルゴシです。

舞台俳優であった、ベラ・ルゴシは、ブラムストーカーの原作を元にした、舞台劇「吸血鬼ドラキュラ」でドラキュラ伯爵を演じ、その名演ぶりから、後に制作された映画「吸血鬼ドラキュラ」においても、見事なドラキュラ伯爵を演じてくれました。

タキシード、マント、オールバック・・・。彼の名演無くして、今日のドラキュラはありえなかったと言っても、決して過言ではないでしょう。


それまでの東欧における吸血鬼像が、墓場から甦った不浄なる魂の死者が、夜道で背後から襲い掛かり、斧で背中を切り裂いて犠牲者の血を啜る醜い怪物というものだっただけに、正反対の容姿で、堂々と立ち振る舞い、甘い口付けのごとく美女の首筋から優雅に鮮血を啜るドラキュラ伯爵の姿は、官能的な魅力を持って当時の人々を魅了し、今日の私たちも魅了し続けています。

現在も、「吸血鬼」、あるいは「吸血」をモチーフにした小説、コミック、ゲームは数多く作られています。

「吸血鬼」というテーマは、それほど魅力的なものなのです。


太古の昔から、「血」の持つ神秘性、また生命の雫としての側面を、我々の先祖は実体験を持って感じていました。

血が失われる事が、即ち死につながることから、その存在を特別な物として捉えていたとしてなんら不思議はありません。

世界の多くの地域において、「吸血」と言う行為は他者の生命そのものを、自らの体内に取り込むという意味合いとして捉えられています。

それは、より強靭な生命力を得る事であったり、より強大な魔力を得る為であったり、あるいは生命力を吸収する事による自らの生命力の延長・・・即ち不死を得る事である訳です。

これは、生命体であり、死を恐れる人間にとって根源的な望みであるとも言えるわけです。


「吸血」そして「吸血鬼」・・・それは人間の心に闇の部分に根ざすもの。

それは即ち、「吸血鬼」と言うものが人間の願望の産物であると捉える事が出来ないでしょうか?

だからこそ、「吸血鬼」が人々を魅了して尽きない存在であり続けるのでしょう。


「吸血鬼」はあなたの心にも潜む存在なのかも知れません。

お互い、その「闇」を解き放つ事のないようにしたいものですね。


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