かもしか!
(村枝賢一/小学館)
村枝先生の代表作の一つです。
この作品こそが、私が村枝作品を好きになるきっかけとなりました。
主人公の桃栗三平は、高校を卒業して坂上市役所に勤務することになりました。
夢だった市役所の職員。その配属先は「特別機動課」。
そこは、大仰な名前とは裏腹に何もやることが無い役所内の孤島だった・・・。
そこでも諦めずに、自分の信念を貫いて行動していく三平に、次第に周りの人が感化されて行く・・・。
やがて、市長の提案で「特別機動課」は「かもし課」へと名前を変更され、何でも屋的な部署へと変化していきます。
この辺の経緯は、実際にコミックを読んでいただけたらと思います。
三平は、見た目もぱっとしなければ、ずば抜けて優秀といった人間でもありません。
ですが、曲がったことが嫌いで、間違ったと思うことなら、例えそれが上司であろうと「国」であろうと屈しません。
「自分の事しか考えない」「他の事には無関心」といった人が増えている昨今においては、「ダサい」人なのでしょう。不器用な人でしょう。
でも、あくまで「誰かの為に」「悲しむ人が少しでも少なくなる為に」行動する彼は、「ダサい」だけではくくれない魅力があるのです。
「守る為の行動」
それに大小の区別はありません。
それが、「ペットの亀が逃げて困っている子供」であろうと、
「無くなったおじいさんとの思い出の店を守ろうとする駄菓子屋のおばあさん」でも、
「大手スーパーの影響で、やる気をなくした商店街」でも、
そして「悪い役人の手によって、消滅しようとしている自然」であっても・・・
彼の行動の原点は「何かを守りたい」ということ。
それって、ヒーローと同じだと思いませんか?
村枝先生は、先にも紹介した「仮面ライダー SPIRITS」の作者でもあります。
規模の大小はあるにせよ、三平の精神はライダー達になんら劣ることは無いと思っています。
「宇宙船サジタリアス」の主人公たちも庶民です。
三平もまた、どこにでも居そうなただの公務員です。
その、普通の人々が、本来であれば至極当たり前の感情に従って努力する。
結果として、多くの人が彼らの行動に触発される形で希望を見出したり、幸せになったりする。
私は、こういう話がたまらなく好きです。
「かもしか!」のラストエピソード、「白鷺沼」の話は、何度読み返しても涙が出てきます。
一人の青年の行動が、そのささやかな行動の積み重ねが、最後には多くの人々をも動かす程の大きな力となったのです。
庶民の物語、一人の青年の日常の物語、小さいけども大きな感動を与えてくれる名作だと思います。