第9章 オーガヒル
帝国軍と海賊軍との初めての海戦から2日後、ベレノス率いる船団は、シレジア王国へと到着した。
途中で遭遇した、海賊軍との小競り合いでも、帝国軍は、さしたる被害も無く、常に勝利を続けた。
ベレノスは、上陸するとすぐに部隊の編成を整え、シレジア王国西海岸に点在する海賊軍の拠点に強襲をかけた。そして、わずか4日ほどでその半数以上を壊滅してしまったのである。
エイル達ペガサスナイトの先導と、途中合流を果たしたシレジア解放同盟の助けはあったものの、地理に暗い異郷の地での作戦展開であったことを考えれば、これは異例の快進撃といえるだろう。
かつてベレノスは、エイルらに対してシレジアでロートリッター隊の力を見せると言ったことがあるが、まさに赤き騎士団の実力を十二分に見せ付けることとなったのだ。
連勝によって沸くベレノスの陣に、アグストリアよりの使者が到着したのは、彼がノーザンプトンを出航してから、丁度10日目の早朝であった。
そしてその内容は、ベレノスの顔から笑顔を奪い去っていった。
「・・・確かなのだな。」
ベレノスは鋭い眼光で使者を見据えた。使者はその眼光にたじろぎながらも答えた。
「はい。・・・残念ながら。」
ベレノスは沈痛な表情で溜め息をついた。
「シルベールを攻囲していたバイゲリッターは敗走。パトリック将軍は行方不明・・・。」
「はい。ロモス卿、メッツェ卿ら、バイゲリッター隊の数名が付近の捜索を進めていますが、自分がアグストリアを発つまでにパトリック将軍発見の報を聞くことはできませんでした。」
「・・・そうか。」
ベレノスはふと気付き使者に尋ねた。
「それで、シルベールを占領したハインライン軍は、その後どうしているのだ?使者である君がここに無事到着したということは、アグスティに攻め寄せてはいないようだが?」
「ハインライン軍はシルベールに入城してから、これという動きをしておりません。やっていることといえば、占領したシルベール城の補修ぐらいのものです。まあ、タラニス副司令官率いるゲルプリッター隊が素早く陣を構えたため身動きが取れないということもあるのでしょう。」
ベレノスは曖昧に肯くと、使者にねぎらいの言葉をかけて下がらせた。
そして、しばらく何事かを考えた後に傍らの老騎士に問い掛けた。
「どう思うルゴス?」
老騎士は苦笑しながら答えた。
「どう思うも何も、これはあきらかにタラニス卿のシナリオどおりの展開でしょうな。」
「やはりそう思うか?」
「はい。我々ロートリッターをシレジアに派遣。そして代わりにパトリック卿のバイゲリッターをシルベールの攻囲に配置。ハインライン残党軍の奇襲。タラニス揮下のゲルプリッターの不自然に早い到着。・・・怪しむべき要因は多々ありますな。」
ベレノスは老騎士の返答に深く肯いた。
「・・・私は、今回のシレジア出兵はロートリッター隊を壊滅させる・・・いや私を抹殺するための罠ではないかと考えていたのだ。」
「なんと!?」
「じつは、ガレスフ卿もそのための刺客だと考えていた。」
「一体何故です!・・・何故ベレノス閣下を?」
ベレノスは疲れた表情で答えた。
「奴が私のことをよく思っていないのは感じていた。・・・はっきりとは断言できないが、かなり以前より殺意めいたものを感じていた。」
ルゴスは息を呑んで若き主君の言葉を聞いた
「今回の出陣に際して、奴がガレスフ卿とアミッド卿の部隊を同行させると言ったときに、最初に感じたのが私とアミッド卿を殺害するつもりではないかということだ。」
「それは、どのような理由で・・・フリージの狐めにとって、一体どういう益があるというのです。」
ベレノスは老騎士を手招きすると小声で答えた。
「アミッド卿たちについては、こういう理由だ。彼らは元々、北トラキア地方の小国アルスターの王族だ。帝国が北トラキアを占領した際に、まだ幼かった二人は、人質としてブルーム王のもとに送られたと聞く。・・・だが、先ごろイザーク・レンスターの両反乱軍によってブルーム王は討たれ、アルスターも解放された。・・・帝国内部では見せしめのために彼らを処刑せよという声も上がった。」
ルゴスは肯いた。
「存じております。・・・ですが、あの狐は、閣下と共にアミッド卿らの助命を嘆願なさったとか?」
「そのとおりだ。私も意外だったがな。」
ベレノスは苦笑を漏らした。そして表情を引き締めると言葉を継いだ。
「しかし、奴が本当に助命したかったのはリンダ卿だけではないかというのが私の考えだ。」
「うーむ。この老人には少々難しいですな。リンダ卿を助命することが意味のあることなのですか?」
「それが、あるのさ。アミッド卿らの母君、すなわちアルスター王国のエスニャ王妃はブルーム王の妹君だ。・・・つまりは聖戦士トードの血族だ。」
ルゴスはハッとして主君を見た。
「気付いたようだな。そう、リンダ卿を妻として迎えればタラニスはフリージの一門に連なることができる。タラニスはゲルプリッター隊のエリートではあるが、一貴族の当主に過ぎない。彼にとってリンダ卿以上に魅力的な女性はそうはいまい。・・・まあ、アミッド卿が首を縦に振るはずが無いがね。」
「・・・つまりは、邪魔者であるベレノス閣下とアミッド卿を、戦闘中に亡き者にしようと企んだ・・・閣下はそう見ているわけですな?」
「最初はね。・・・だが奴の狙いは別にあるようだな。」
「別?」
ベレノスは溜め息をついた。
「すまないが、まだ完全に奴の真意が読めないんだ。ただ・・・。」
「ただ?」
ベレノスはフッと笑った。
「ただ、アグストリアへの帰還は急がねばなるまい。海賊共にいつまでもてこずっていると、タラニスがどんな手を打ってくるか解らないからな。海賊の本拠であるオーガヒルへの道は開けたのだ。シレジア内部の小規模な砦は解放同盟の連中に任せ、我々は準備が整い次第に出航、オーガヒル城攻略戦を開始する。」
各砦を攻略中だった部隊が、解放同盟の部隊と交代し、本陣へ集結したのは2日後だった。
ベレノスが驚いたのは、解放同盟の盟主であるブリンディ公も本陣を訪れたからだ。
「これは、ブリンディ公。よくおいでくだされました。」
「いやいや、堅苦しい挨拶は抜きにいたそう。」
ブリンディはいつも以上に上機嫌だった。
「いやはや、ベレノス卿の手腕は実にお見事。我らがあれほどてこずった海賊共の砦のほとんどをわずか一週間足らずで壊滅させてしまうとは。」
「いえ、解放同盟のご協力あればこそです。」
ベレノスの世辞に気分を良くしたブリンディは、相好を崩した。
「ところで、ブリンディ公。我等はこれより海賊共の本拠地オーガヒル城に向かいます。」
ブリンディは肯いた。
「いよいよですな。・・・シレジア、グランベル両国の繁栄の為にあの海賊どもはなんとしても除かねばならぬ。」
ブリンディはベレノスに握手を求めた。
「シレジア国内の海賊は我ら解放同盟が抑える。ベレノス卿、オーガヒル攻略はお任せいたしますぞ。」
「心得ております。」
両者は固い握手を交わした。
翌朝、帝国軍は再び船に乗ってオーガヒルへと向かった。前回同様、シレジア解放同盟からも増援が送られた。前回は20名程度の小規模の部隊だったが、今回はレイヤ将軍率いる天馬騎士団の中隊およそ200名が同行することとなった。更にはブリンディ配下の貴族、ヴェゴ卿率いるウインドマージ部隊も参加し、解放同盟の総数は300名を超えた。
風魔法の使い手である彼らが同行することで、炎・雷・風と、バランスよくマジックユーザーが揃うこととなった。
海流を味方につけた帝国艦隊は、その日の夕刻にはオーガヒルの東海岸に到着した。
ベレノスは、主だった将を招集すると、すぐさま軍議を開いた。
「さて諸君、これよりオーガヒル城攻略戦を開始するのだが、具体的にどういう戦略をもって挑むか、それを検討したい。」
「副司令官。このオーガヒルには、もはや本城であるオーガヒル城しか敵拠点が存在しません。全力を持って正面から挑むのがよいかと。」
「アミッド卿。それはいささか短慮というものだろう。」
ガレスフはアミッドの提案に対して反論を返した。
「敵本城なればこそ、その防御力も他の砦の比ではあるまい。ましてや、ここオーガヒルは奴らがその特性を一番心得ている戦場だ。いくら海戦に比べ陸戦が不得意といわれる海賊どもとて、容易ならぬ敵と見ねばなるまい。」
アミッドは納得した様子で、問い掛けた。
「では、ガレスフ将軍はどのような戦略が良いとお考えですか。」
「そうだな・・・。」
ガレスフはベレノスを横目で見てから、言葉を継いだ。
「・・・ここまでの戦いが、あまりにも早期決着が多かったために、我が軍はいささか焦り気味であるように思われます。当初、このシレジア遠征は2ヶ月ないし3ヶ月での予定で計画されていたはず。ここは、持久戦の構えを取り、敵が篭城に疲れた頃を見計らって一気に攻勢をかけるのが良策かと。」
ベレノスは肯いた。当初、ベレノスもガレスフと同じように持久戦を考えていた。しかし、アグストリア国内での、タラニスの不審な行動を聞くにおよんで、少しでも早くオーガヒル攻略戦を終え、アグストリアに帰還するべきではないかと考え始めていたのだ。
ベレノスは、しばし無言のまま、交わされる様々な意見を聞いていたが、諸将の意見は大半がガレスフの主張に賛同するものだった。
「・・・この軍議の続きは明日としよう。各自、部隊に戻っていつでも出撃できるように態勢を整えておいて欲しい。・・・では、解散。」
仮設の天幕の中には、ベレノスとガレスフのみが残った。
「・・・常に即決されることが多い、ベレノス閣下が今回はいかがなさったのです?」
ガレスフの問いに苦笑を見せながらベレノスが答えた。
「いささか、気になっていることがあってな。」
「気になっていること?」
ベレノスは、フリージの将軍であるガレスフにタラニスのことを話すわけにいかず、もう一点気にかかっていることを話し始めた。
「将軍。この地図を見てくれ。」
「・・・これは、オーガヒルの地図ですな。これがなにか?」
「敵本城は、海辺に近いとはいえ、決して海沿いに建っているわけではない。・・・やつら、海賊船まで、何で移動しているのか疑問に思ってな。」
「??・・・それは、徒歩や馬でありますまいか?」
ベレノスは肯いた。
「確かにそうだろうな。・・・では、この海岸にたどり着くまでに将軍は海賊船を見かけたか?」
「いえ。・・・そういえばさしたる抵抗も無く到着しましたな。」
ガレスフは首をひねった。が、気を取り直すと口を開いた。
「おそらく、今までの戦いで大部分の船を沈められたのでは?」
「そうかな?・・・私はそうは思わない。少なくとも、帝国草創期の戦いから10数年もの間、オーガヒルとアグストリア北部海岸地域を支配してきた奴らだ。先日までの海賊船が戦力の全てとは思えない。」
ベレノスは足を組替えると宙を見つめながら言った。
「・・・陸戦用の兵力とは別に、まだ我々が遭遇していない海賊船が温存されているのでは無いか・・・そう思えるのだ。」
「いささか考えすぎではありませんか?第一・・・」
ガレスフが反論しかけたそのとき、兵士の一人が天幕へと現れた。
「失礼致します。」
「何だ!」
ガレスフは、話の腰を折られる形となってむっとしながら尋ねた。
「はっ!・・・アリシア嬢が副司令官殿に話したいことがあるとの事でお連れ致しました。」
「アリシア?誰だそれは?」
ガレスフは怪訝そうな顔で訊いた。ベレノスもしばし考えていたがふと思い出した。
「・・・ああ!海賊にとらわれていた娘だな。確かノーザンプトンの商人の娘とか。」
ベレノスは、兵士にアリシアを通すように命じた。兵士が促すとアリシアは天幕の中へと入ってきた。そして、ベレノスに向かって深々と頭を下げた。
「突然にお邪魔して申し訳ありません。」
「いえ。疲れてはおられませんか?・・・本来なら、すぐにでもご家族のもとに送って差し上げたいのですが、なにぶん作戦行動中ですのでご容赦願いたい。」
ベレノスは軽く頭を下げた。
「とんでもございません!命を救っていただいたうえに、こうして保護して頂いて感謝いたしております。」
恐縮するアリシアにベレノスは笑みを返した。
「ところで、私に何か?」
アリシアはそこで、驚くべきことを告げた。そのアリシアの言葉にベレノスとガレスフは絶句した。
「・・・確かなのですね?」
アリシアは力強く肯いた。
「ベレノス閣下。・・・これが事実なら・・・。」
ベレノスは肯いた。
「ガレスフ将軍、明日早朝の軍議で皆にも告げよう。・・・もしかするとオーガヒル攻略戦は3日・・・いや、早ければ1日で決着がつくかもしれぬ。」
翌朝の軍議は、開始早々驚きの声で満たされた。
昨晩アリシアがもたらした情報によれば、オーガヒル城の地下は天然の洞窟を利用した海賊船用の港になっているとの事だった。その洞窟は、そのまま水路となって、オーガヒル北東の崖にまでつながっているという。
「・・・その話、信用できるのですか?」
アミッドの発言はその場のほとんどのものたちの考えを代弁していた。
「私は、かなり信頼できると思っている。」
ベレノスの発言にその場からざわめきの声が漏れた。
「では、閣下はその洞窟内にまだ温存されている海賊船があるとお考えなのですか?」
「その通りだ。」
ベレノスは肯いた。ガレスフが副司令に代わって口を開いた。
「このまま当初の予定どおり持久戦の構えを取った場合、敵海賊船がまだ残っているのならば、その戦力をもって我等の補給路を断つことで、城を攻囲している我々を、逆に孤立させることも可能だろう。前大戦の折、オーガヒルとマディノを結ぶ海峡の大橋は破壊されたままだ。このため、補給を唯一海路にてまかなっている我等にとって、これは命取りになりかねない。」
ガレスフは、そう言うとベレノスを見た。ベレノスはテーブルの上に地図を広げた。
「ガレスフ将軍の言うとおり、我々がこのことを知らなければ、脅威になったかもしれない。だが、我々は幸運にもこのことを知ることができた。そして、おそらく敵は我々が何も知らないと思い込んでいる。」
「では、まずはその洞窟の出入り口を破壊するのですね。」
アミッドの発言にガレスフはやれやれといった表情を見せた。
「・・・違うのですか?」
「アミッド卿。そのようなことは誰でも考え付く。もう一歩進めて考えねば立派な将とは言えぬぞ。」
「・・・もしや、ベレノス閣下は、この洞窟を逆にたどって内部から攻撃しようとお考えなのですか?」
レイヤの問いにベレノスは微笑を返した。
「その通りです。」
「・・・いささか無謀なのではありませんか?」
賢者であるヴェゴは低い声で異を唱えた。
「その作戦が成功すれば、確かにオーガヒル城は短期間のうちに制圧できるでしょう。されど、どのようになっているかも解らぬ洞窟を逆行するのは、決して容易なことではありますまい。・・・ましてや、帝国軍の艦隊は発足して間もないとか。無謀としか思えませんな。」
「ヴェゴ殿!無礼ではありませんか!!」
いささか馬鹿にしたようなヴェゴの発言にアミッドは食って掛かった。
「構わない、アミッド卿。」
ベレノスは微笑を浮かべたままで答えた。
「ヴェゴ卿がおっしゃるとおり、我々の操船技術は、海賊よりも未熟であるのは認めます。ですから、水路を逆行するのは選りすぐりの二隻のみで行います。」
再び地図を指差しながらベレノスは説明した。
「突入するのは、「ナーガ」と「ヘイム」の二隻、それぞれ私とガレスフ将軍が指揮する。
この間残った艦のうち、攻撃能力のある艦は、オーガヒル城に一番近い海岸より威嚇をしてもらう。・・・特に長射程攻撃が可能なバーハラ級戦艦である「アズムール」には、特に間断なく攻撃を仕掛けてもらいたい。指揮はリンダ卿、君に任せる。」
一同がざわめく。リンダ卿はこの軍議に参加している者たちの中でも最年少の部類に入るのだ。
「やれるね?」
ベレノスの問いかけにリンダは毅然として答えた
「了解しました。」
ベレノスはその答えに肯くと作戦の説明を続けた。
「次に、水路突入に参加しないロートリッター、及びゲルプリッターだが、シレジア解放同盟の部隊と共にオーガヒル城を攻囲してもらいたい。・・・無論、陽動だが、水路の突入を悟られないために、時折城に対して攻め込むそぶりを見せて欲しい。」
居並ぶ諸将が作戦について理解しているかを確認しながらベレノスは言葉を継いだ。
「なお、ロートリッター隊の指揮はルゴス卿。ゲルプリッター隊の指揮はアミッド卿に任せる。ヴェゴ卿のウインドマージ隊、レイヤ卿の天馬騎士団と連携をとりながら戦ってくれ。」
「はっ!!」
「くれぐれも、我々の突入を悟られないように気をつけてもらいたい。・・・だがあくまで陽動であるということも忘れるな。・・・ここで大きな被害を出すようでは意味が無いからな。」
「心得ております。」
老騎士は神妙な表情で肯いた。
「突入に成功した場合は合図を送る。合図があれば、各部隊共に一斉に全面攻勢をかけて欲しい。」
ベレノスが立ち上がると同時に、全員が立ち上がった。
居並ぶ諸将の顔を眺めながらベレノスが叫んだ。
「作戦は明日の日の出と同時に行う。必ず成功すると信じるのだ。・・・我々に聖戦士の加護があらんことを!!」
ベレノスは、軍議の後、ガレスフ、ルゴス、アミッドと共に攻囲戦を行う部隊との打ち合わせを行っていた。一通りの打ち合わせが終わった後、アミッドが発言を求めた。
「しかし閣下。今回の作戦で一つ気になっていることがあるのですが。」
「何か?アミッド卿?」
「はい、城を攻囲する部隊の中にベレノス閣下の姿が無いことを奴らが不審がるのではないでしょうか?」
ガレスフはニヤリと笑った。
「ほう。アミッド卿も少しは戦術というものがわかってきたようだな。」
アミッドはむっとしながら答えた。
「私とて、必死に戦術・戦略というものを学んでいるのです。」
「フム、感心なことだな。」
ガレスフは皮肉たっぷりにそう言ってからベレノスを見た。
「冗談はさておき、アミッド卿の危惧ももっともだと思われますな。私がゲルプリッター隊と共におらずとも不審に思うものはいないでしょうが、いかんせん閣下は海賊たちにまで名が知れ渡っておりますからな。」
ベレノスは苦笑した。
「シルベールではいささか目立ってしまったからな。・・・そこで今回、私は影武者を用意することにした。」
「影武者?」
「・・・入ってきなさい。」
ベレノスが天幕の外に呼びかけると、一人の騎士が中に入ってきた。
「こ、これは!!」
ガレスフとアミッドは目を見開いた。そこにはベレノスより二周りほど小柄ながら、本物そっくりの騎士の姿があったのだ。だが、ルゴス卿はさすがに気がついた。
「ひ、姫様!?」
影武者は微笑んだ。そう、この影武者はベレノスの妹、アルティオの変装だったのだ。
「何と!?アルティオ殿か?」
ガレスフは改めて二人を見比べた。なるほど、目を凝らさねばわからぬほどこの兄妹はよく似ている。
「どうだろう。これならば遠目で見れば私と見えないこともあるまい?」
「確かに・・・。」
あまりに皆から見つめられるのでアルティオは照れた。
「さあ、これで準備は整った。後は突き進むまでだ。」
オーガヒル。古くから魔物が棲むと恐れられたこの地だが、今この地には魔物と比べても遜色の無い残忍な海賊どもが巣食っていた。
かつて、アグストリアに駐留していた英雄シグルドによって、一度は壊滅した海賊達だが、戦乱の世は、彼らを育む格好の温床となった。
海賊の生き残り、傭兵崩れの野盗、祖国を失った兵士、追放された貴族・・・。以前よりも、より雑多な人々の集まりとなった現在のオーガヒルパイレーツを、たった一人で統率している男がいる。
ファルク。
その名前、そして他の大陸から流れてきたという事以外、一切が謎に包まれている男である。
彼は、城外に布陣した帝国軍及びシレジア解放同盟の軍勢を眼下に見下ろしながら不敵な笑みを浮かべ続けていた。
「フン。帝国の赤毛の坊やもなかなかやってくれる。・・・だが、やがてその顔を恐怖で覆い尽くしてくれる。」
ファルクは部下に水路から海賊船を出撃させるように指示した。
走り去る部下を眺めながら、彼は自分たちの勝利を微塵も疑っていなかった。
「・・・姫様!もう少しお下がりください。あまり前に出られては危険です!!」
心配顔のルゴスに微笑みかけながら、アルティオはきっぱりと首を横に振った。
「ルゴス、お兄様は常に先陣に身を置かれておりました。・・・私が陣の後方にいては敵が不審に思います。」
「されど・・・。」
「大丈夫。こうやって馬に跨っているだけならば幼子でもできます。・・・今回の戦における私の役目は、こうして飾りを演じること。」
「アルティオ様・・・。」
「そんなに心配しないで、いざ戦闘になればルゴスの言う事に従います。私にはお兄様のように戦闘指揮などできないのですから。」
アルティオは老臣への笑みを絶やすことなくそう言った。
攻囲部隊は、巧みに海賊を翻弄し続けていた。中でも意外な活躍をしたのがリンダ卿である。彼女は命じられていた長射程攻撃に更に独自の戦法を付加して戦っていた。
バーハラ級の戦艦が、いかに長射程攻撃に長けているとはいえ、海岸線から内陸の城まで届く攻撃は船体正面のロングアーチしかない。通常巨大な矢を打ち出すこの装置を使って、彼女は特別に調合した火薬玉を発射したのだ。
魔法に比べ、火薬の調合の歴史は浅く、最近になってようやく実験が行われるようになってきた程で、当然ながら殺傷能力のある火薬兵器など存在しない。
リンダが用いたのは、内部に調理用の香辛料を詰め込んだ小型の火薬球である。ロングアーチを用いて発射されたこの火薬球は、城に届くと小さな爆発と共に爆ぜ割れ、中身の香辛料を煙と共にばら撒く。この煙を吸い込んだものは、激しいくしゃみとのどの痛みを覚え戦闘力が低下するわけである。
この攻撃は、特に胸壁上に陣取っていた海賊軍の弓兵部隊に効果的で、弓による攻撃が大幅に減少した。
この機を逃さずに波状攻撃を行ったのがレイヤ将軍率いる天馬騎士団だった。彼女らは戦闘能力の低下した弓兵を、確実に倒して完全に無力化すると、上空から手槍による攻撃を行った。その中には、果敢に戦うフノスの姿もあった。すぐ上の姉であるエイルと協力しながら、熟練のペガサスナイトにも引けを取らない活躍をしていた。
また、ロートリッター、ゲルプリッター、そしてウインドマージ部隊といった魔法戦士たちも、強力な魔法で、城内の海賊たちに揺さぶりをかけていた。
轟音と共に、火炎が、電光が、そして竜巻が次々に城壁に炸裂するのである。
無論それぐらいで城壁が破壊されたりはしないが、海賊たちへの脅しには充分であった。
「うろたえるな馬鹿ども!!・・・そう簡単にこの城は落ちん!!」
士気が低下し右往左往する手下を怒鳴りつけながら、ファルクにはまだ余裕があった。
『・・・そろそろ、水路から出た部隊が帝国軍の後方に出現するはずだ。そうすれば一気に状況は変わる・・・。』
と、城内が今まで以上に騒がしくなってきた。
「何事だ!!」
怒鳴りつつファルクは海賊の一人を捕まえた。
「わ、解りません。」
「お頭!!大変です!!」
ファルクは捕まえていた男を放すと、駆け寄ってきた男の方に振り返った。
「どうした!?」
「敵が・・・敵が城内に侵入してきました。」
ファルクは我が耳を疑った。
「何だと?」
「ですから、敵が城の中に入ってきたんでさあ。」
「馬鹿なことを言うな!!どこから入ってこれたというんだ。」
「地下の海賊船用桟橋からです!!」
ファルクは愕然とした。
「・・・地下、だと?」
その時になって、ファルクは初めて自分の策略が破られたことを悟った。
おそらく差し向かわせた海賊船団も撃破されてしまったのだろう。
「・・・なぜだ?奴らがどうして地下洞窟の事を・・・。」
ファルクは慌てて考えを振り払うと、手近な部下に命令を下した。
「生き残った奴らを正門前に集めろ!!・・・どうせ捕まったら殺されるんだ。ならば、一人でも多く地獄への道連れにしてやる!!」
突如、正門が開くとすさまじい勢いで海賊が攻囲部隊に襲い掛かった。その攻撃は苛烈を極め、前線に立つ兵士が一人また一人と倒れていく。
「慌てるな!臆するな!奴らの猛攻は一時的なものだ!!長続きはせん。落ち着いてしのぎきるのだ。さすれば勝機が見える!!アーマー部隊はわしに続け!!」
ルゴス将軍は、マントを翻しながらそう呼びかけると、間近に迫っていた海賊数名を炎の上位魔法ボルガノンによって薙ぎ払いつつ前進した。その後ろを彼が指揮するアーマーナイト部隊が続く。彼らは自らの身体を文字通り鉄壁とし、海賊軍の猛攻を受け止め出したのだ。
激突する肉体と肉体。打ち交わされる鋼と鋼。その奔流の間隙を縫って、アルティオのもとに肉薄する戦士の姿があった。
「しまった!!」
ルゴスは、その戦士に気付いたものの、海賊に邪魔されて援護に行くことができない。
「アルティオ様!!」
ベレノスの姿に変装しているアルティオは、迫り来る戦士に気圧されることなく、ファイアーの魔法を唱えた。戦士はその炎をかわそうともせずになおもアルティオに迫る。
「赤毛の小僧!!せめて貴様の命をもらう!!」
振り下ろされるファルクの斧を、間一髪自らの剣で受け止めたものの、アルティオの剣技のうでは、実戦で通用するレベルではない。
続く二撃目、三撃目を防げたのは奇跡に近かった。だが、三撃目を防ぐと同時にその細身の剣は砕け散った。
「もらった!」
落馬し、硬直したように座り込んだアルティオにファルクの斧が迫る。だが、その斧を疾風のように舞い降りた天馬騎士の槍が弾いた。
驚き見上げるファルクはその天馬の額に美しい一本の角があることに気付いた。
『ファルコンナイトだと!?』
歯軋りしながら斧を拾い上げようとするファルクの目前でアルティオの身体が宙に浮いた。
「何!!」
いま一人の天馬騎士によってアルティオは死地より救い出されていたのだ。
「!!・・・逃がすものか!!」
ファルクは渾身の力を込めて斧を投じた。だがその斧はアルティオを乗せたペガサスに届くことは無く、また別のペガサスナイトによってあっけなく弾かれてしまっていた。弾かれて戻ってきた斧を掴むとファルクは吼えた。
「邪魔をするな小娘!!」
アルティオは既に小柄な天馬騎士の手で安全圏へと脱出していた。風圧で髪が流れ、アルティオの顔があらわになった。
「!!・・・女?」
その時になって、ファルクはようやく自分が影武者と戦っていたことを知った。
「・・・クックック・・・完全にしてやられたというのか・・・あの赤毛の小僧に・・・。」
彼の目前には、槍を構えたペガサスナイトの姿があった。
「どうやら、俺もここまでのようだな。・・・小娘!!貴様では役不足だが地獄への道連れになってもらうぞ!!」
「海賊の頭目か?」
「そうだ俺がファルクだ!!」
「では、その命、この天馬騎士エイルが貰い受ける!」
エイルは叫ぶと鋭く槍を繰り出した。ファルクはそれを斧でさばくと、逆に斧を繰り出す。
両者の攻防は果てしなく続くかのように思われた。だが、終焉は唐突に訪れた。攻撃を受け損ねて態勢を崩しかけたエイルにファルクの斧が迫ろうとしたとき、同時に飛来した二本の槍がファルクの身体を貫いたのだ。ほぼ同時に相打ち気味に突き出されたエイルの槍もファルクの胸板を貫いていた。
ファルクは声も無く絶命した。10数年に渡って近隣の人々を脅かしてきた海賊の頭目のあっけない最後だった。
エイルは、自分の命を救った槍を見た。それは彼女の姉妹の槍だった。空を見上げれば、一角の天馬・ファルコンに跨った姉と、自らの天馬にアルティオを乗せて空を舞う妹の姿があった。エイルは微笑みながら手を振った。
ファルクが倒されたことと前後するように、海賊たちはほぼ掃討されていた。大部分の海賊は戦場に倒れ、降伏した少数のものたちは、捕らえられて裁かれる事となる。
こうして、悪名高いオーガヒルの海賊たちはついに滅ぼされたのである。
この出来事は、悪名高き帝国が行った数少ない善行として歴史に刻まれることとなる。
だが、それはずっと未来の話である。
完全に事後処理を終え、シレジアの地に戻ってきた帝国軍は、再びブリンディらシレジア解放同盟との合流を果たした。
喜色満面でベレノスを迎えたブリンディは、自分たちもシレジア革命軍との大きな戦闘で勝利を収めたことを告げた。そして、ベレノス以下主だった将を自らの天幕に招くと。改めて感謝の言葉を述べた。
「感謝いたしますぞベレノス卿、それに諸将方。・・・何しろ貴公らが海賊と戦っていてくれたお陰で、我等は後ろを気にすることなく革命軍との戦いに専念できたのですからな。」
その後も、双方の間で情報の交換が行われた
「・・・では、革命軍のムーサーはシレジアに戻ってきたのですね?」
「左様。トラキアにおいてイザーク・レンスターの反乱軍を後方から強襲したそうだが、いやはや相手の方が何枚も上手だったようでほうほうの体で逃げ帰ったとか。・・・まあ、いい気味ですな。・・・奴が留守の間に我々解放同盟も、革命軍の重要な砦を二つばかり落とすことができました。その点ではあなた方帝国軍同様、反乱軍の連中にも礼を言いたいぐらいですな。」
ブリンディはベレノスが無言で顎に手をやっているのに気付き慌てた。
「いや、これは失言だった。許されよ。」
「・・・いえ、気にしてはおりません。それよりも反乱軍はそれ程までに強力になっているのですか?」
「と、申されると?」
「万全を期して強襲した一軍を、逆に撃退できるほどの戦力が反乱軍にあるのだとするといささか問題ですので。」
「確かにそうですな・・・。いや、申し訳ないが私自身が戦った訳ではないのでなんとも・・・。」
「・・・そうですね。」
ベレノスは苦笑した。
「何はともあれ、今宵は宴を催させていただく。帝国軍と、シレジア解放同盟の勝利を祝ってな。」
ブリンディは呵呵大笑した。
戦勝の宴は夜半近くまで続けられた。仮設の陣で行われたとは思えないほど豪華な食事と酒が振舞われ、皆そのひと時だけは戦いを忘れて浮かれていた。
宴の席上でガレスフ将軍が剣舞を披露し、拍手喝采を浴びた。
剣舞の後、ガレスフ将軍は顔色一つ変えずに大樽の酒を飲み干し、再び歓声が上がった。
ベレノスは、天幕の隅で苦笑しながらその様子を眺めていた。
「楽しんでいらっしゃいますか、ベレノス閣下。」
気がつくとレイヤ達三姉妹がすぐそばに立っていた。
「ええ、充分に。・・・そうだ、先日は妹を助けていただきありがとうございます。忙しさにかまけて、お礼を言うのが遅くなってしまい申し訳ありません。」
そのベレノスの台詞にレイヤとエイルは吹きだしていた。
「?」
エイルは何とか笑いを収めると怪訝そうな顔をしているベレノスに言った。
「閣下。その台詞は以前閣下に姉と私が言った台詞ですよ?」
「あっ!」
ベレノスもそのことに気付き苦笑いを浮かべた。
「そうでしたね・・・。」
「ええ、ですからお気になさらないでください。閣下の妹君を救えたことは私たちにとっても光栄なことなのですから。」
レイヤは微笑を浮かべながら言った。
「ありがとうございます。・・・ブリンディ公は?先程からお姿が見えませんが?」
「・・・一足先に本陣へと戻られました。ベレノス閣下にくれぐれもよろしくと。」
レイヤの言葉に軽く肯いたベレノスは、エイルが不思議そうな表情で覗き込んでいるのに気付いた。
「何か?」
「あ、いえ。・・・そのグラスの中身、ただの果汁ですよね?」
ベレノスは苦笑した。
「ええ、実は下戸なもので・・・。」
「あら?閣下にも苦手なものがあるのですね?」
再び軽やかな笑い声が響く。ベレノスも随分とくつろいだ表情になっていた。
やがて、レイヤとエイルはフノスを残して宴の只中に戻っていった。去り際にフノスへ意味深な目配せを残して。その意味がわからずキョトンとした顔のベレノスと対照にフノスの顔は赤く染まっていた。そして、フノスはためらいつつもベレノスに話し掛けた。
「あ、あの・・・。」
「はい?」
微笑を浮かべるベレノスを見て、ますます頬を染めながらフノスは消え入るような声で言った。
「・・・ベレノス様は、・・・もうすぐアグスティにお帰りになられるのですね。」
ベレノスは肯いた。
「ええ、準備が整えば明日中にでも発とうと思っています。」
「・・・そう・・・ですか。」
再び沈黙がその場を包む。宴もそろそろ終わりに近づいているようだ。
「・・・フノス殿とも、もうすぐお別れですね。」
ベレノスの何気ない言葉がフノスの胸を締め付けていた。何かを話そうとするのだが、言葉が胸につかえて出てこない。不審に思ったベレノスが尋ねた。
「どうしました?・・・ご気分でも・・・。」
「ベレノス様!」
「は、はい?」
突然大きな声を出したフノスにベレノスは驚いた。
「・・・あの、・・・また・・・またお会いできるといいですね。」
フノスはそう言うのが精一杯だった。ベレノスは微笑むと肯いた。
「そうですね。・・・きっとまたお会いできますよ。」
フノスも微笑を浮かべた。
「ベレノス卿。昨日はお先に失礼させていただき申し訳ない。」
「いえ、盛大な宴を催していただき、このベレノス、帝国軍将兵を代表して感謝いたします。」
宴の翌日、ベレノスはブリンディの呼ばれ彼の天幕を訪れた。
「ベレノス卿にお越し願ったのは他でもない、此度の貴公らの援助に対する褒賞なのだが・・・。」
ブリンディはそう言って懐より一枚の書類を取り出した。ベレノスはその書類を受け取ると軽く目を通した。そこには、遠征にかかった費用の大部分を負担することと、援軍としてアグストリアに部隊を派遣する旨が明記されていた。
「ブリンディ公・・・!」
ブリンディは微笑みながら肯いた。
「本来であれば、もっときちんとした形でお礼をしたかったのだが、なにぶんこちらもまだ革命軍との戦いの最中。・・・今はこれで精一杯なのだ。すまぬな。」
「いえ!充分であります。公のお心遣い、感謝いたします。」
「何の、感謝するのは私の方だ。・・・全てが片付いたときには再び盛大な宴を開こうではないか!」
ベレノスはさわやかに微笑んだ。
「はい。そのときを楽しみにしております。」
シレジア解放同盟から、アグストリア派遣部隊へと送られた援軍は、先のオーガヒル攻城戦の折にも同行した、ヴェゴ卿率いる魔道部隊と、レイヤ将軍の率いる天馬騎士団に決定した。それは、特に深い理由は無く、強いて言うなら、シレジア解放同盟の中で最も多い兵力が天馬騎士とウインドマージなのである。彼らを派遣しても、そのさらに十倍強の天馬騎士とウインドマージが存在するわけである。
つまり、シレジア解放同盟にとってこれらの兵士を派遣することは、それほど負担にはならないというわけだ
ベレノスは早々に帰還の準備を整えるとアグストリアに向けて行軍を開始した。
シレジアの地を発つ船団の先頭を進む、戦艦「ナーガ」。
帆を一杯に広げて海上を飛ぶように進むその白い船体は、その名の由来となった伝説の光の龍に見えた。
再び船上の人となったベレノス。デッキに立つ彼のもとに、連絡役を務める天馬騎士の少女の姿があった。
ベレノスは、少女を振り返ると微笑を浮かべながら言った。
「やっぱり、また会えましたね。」
少女も微笑みながら言った。
「はい・・。」
「今度は、フノス殿たちに助けてもらうことになる。・・・よろしく頼むよ?」
「もちろんです!全力で頑張ります!!」
少女の弾むような返事を聞きながらベレノスは肯いた。
視線を前方に移したベレノスは表情を引き締めながら遥か先を見つめた。今は水平線しか見えないその先に、彼を再び迎える戦乱の大地アグストリアがある。
多くの敵がベレノスを待ち受けるであろう。
アグストリア解放軍、ハインライン残党軍・・・。
それらの敵とは別に、本来なら味方である筈の騎士が牙を光らせているであろうことを、ベレノスは半ば確信していた。
そう、紫電を纏いし妖狐の姿が、鮮明な輪郭をもってベレノスの内に刻まれつつあった・・・。