序章
見渡す限りの闇。
その中で二つの意思が交錯していた。
「ゲッシュ?・・・竜の盟約か・・・」
「左様。我と盟約をかわせば、そなたを再び肉体に戻らせてやろう。」
「・・・。」
「無論、強制はせぬ。このまま死の国に赴くのもそなたの自由。」
「・・・一つ尋ねたい。」
「何か?」
「何故私を選んだのです、・・・何故あの方ではなく、私を・・・。」
「・・・あの者を盟約でしばるか、否かは別のものが決めること。私がそなたを選んだのは、そなたの強き心に興味を持ったため。・・・それにそなたに流れる微かな血の輝きゆえだ。」
「血?」
「私と同じ血だ。」
「私に!?・・・あなたと同じ血が!!」
闇の中、二つの意思が、徐々に輪郭を確かなものにしてきた。
一つは鎧をまとった青年。もう一つは・・・人のようにも、巨大な別の生き物のようにも見える、神聖なる意思。
「選ぶがよい。我と盟約を結ぶならば、この剣を取れ!!」
輪郭が定まらぬ意思が、選択を迫る。青年の前にはいつのまにか一振りの剣が出現していた。それは、青年とともに常に戦場にあり、愛用してきた彼の剣だった。
青年は、一瞬の躊躇もなくその柄に手をかけた。
神聖なる意思は厳かに告げた
「盟約はなされた。・・・よって目的が達成されるまで、そなたは代償として最愛の人物との再会はかなわぬと知れ。」
青年は頷いた。
「もとより覚悟のうえだ。」
その答えに神聖なる意思は満足げに微笑んだようだ
「ならば行くがよい。紅の鎧をまといし騎士よ。」
闇の中、遠ざかる二つの意思。
やがて、闇は、再び静寂を取り戻していった・・・。