第20話 海魔と乙女(前編)


「ギギーッ!!」

畳を蹴って、魚人が躍りかかる。その鋭い爪を難なくかわし、那須美月は強烈な肘撃ちを魚人の鳩尾に叩き込む。

長い髪を優雅になびかせながら、次の敵へと闘気のこもった視線を叩きつける。

 

その向こうでは、C・スーツに身を包んだ速水が魚人の体に手刀を喰らわす。魚人が仰け反った隙に、腰のベルトから何かを引抜く。それは、鋭く尖った切っ先を持つレイピア状の武器だった。

「・・・屋内じゃ、長い棍は邪魔だからな。今回はこれでいかせてもらうぜ。」

速水は、その刃を素早く振るって瞬く間に数人の魚人から血飛沫をあげさせた。

 

「・・・おとなしく投降すればよし。・・・あくまでも戦うというのであれば・・・。」

岡崎の言葉を無視して2体の魚人がその腕を振り上げる。

「・・・やはり無駄か。」

岡崎は、振り下ろされるその腕を掻い潜るとC・スーツの光学迷彩機能を作動させた。

「ギ?」

完全にその姿を消し去った岡崎に魚人たちが戸惑う。

そして、その不思議そうな表情を浮かべたまま、魚人たちの首が胴を離れて宙を飛ぶ。

数秒遅れてその切断面から鮮血が吹き上がる。

再び、その姿を現した岡崎は両腕に装着された鋸状の刃を一振りした。だが、その一振りでは、ずべての血を払うことは出来ない。岡崎は朱に染まったその刃を見て呟く。

「この6号スーツの主武装がこのブレードのみでは・・・このような場合には家を汚してしまうので困り物だな。」

岡崎は、一瞬虚空を眺めて顔を顰めると、再び魚人に向き直る。

『・・・そんなに陰気な顔で見つめられてもな。』

 

眼前で繰り広げられる戦闘を、沙代子はただ震えながら見続けるしかなかった。

魚人たちは、何度か沙代子を狙ってくるものの、その度に、美月やC・スーツの二人に阻まれ、撃退される。

しかし、いくら危害が及ばないとはいえ、現実離れした恐怖に、沙代子の精神は崩壊する寸前にまで追い込まれていた。

『・・・何なの・・・なんで私なの?・・・列車のときといい、何で私ばかりがこんな目に遭うの!!・・・・・・・・・・・もうイヤ・・・・・このまま、全部のことから解放されたい・・・・もうイヤなの!!!!!!!!』

 

沙代子の精神が、現世から遊離しようとしていたとき、不意に少女の体を何かが暖かく包み込んだ。

『・・・お祖母ちゃん?』

確かに、沙代子の体は祖母によって庇われている。その温もりはずっと感じていた。

だが、今感じるのは、全く別の温もりだった。

『・・・何だろう・・・心そのものを包み込んでくれるような・・・』

沙代子は心そのものを抱きしめられているようなそんな感覚に戸惑っていた。

『・・・この感じは・・・前にも・・・・・・・・そう、ずっと昔に』

 

「ギギッ???」

魚人たちの目に怯えの色が浮かぶ。魚人たちには沙代子を包み込むような淡い燐光と、その暖かさの中に潜む、一条の光線のような、先鋭的な攻撃性を感じとり恐怖したのだ。

 

「???何だこいつら急に。まさか、ビビっているのか?」

魚人たちの態度の急変に戸惑う速水。

 

「・・・!!・・・やはりな、儚げなだけではないと思っていたが、こんな攻撃性を秘めていたのか。・・・しかし、あの少女を守ろうとしているのは何故だ?」

岡崎は悪寒が益々強まるのを感じていた。

 

「そう、・・・あなたもここに来たのね。・・・心だけの存在となって・・・。」

二人よりも、より明確に魚人たちの急変の理由を理解している美月は、悲しげな笑みを浮かべた。

 


 

明らかに士気が低下した魚人たちだが、それでも最後の一人が倒れるまでその攻撃が止む事は無かった。

魚人たちの残骸が散乱するなかで、速水と岡崎は変身を解き沙代子の下に歩み寄る。美月は沙代子の側にしゃがみこんだ姿勢のままで、近づいてくる二人の男を見上げた。

「・・・敵ではないようだけど。何者なの、あなたたち。」

速水が口を開く。

「・・・警視庁のゴルゴム対策部隊『M.A.S.K』の速水と岡崎と申します。・・・先ほどの怪物を追っていました。」

「・・・警察か・・・。まさか警察に怪人と渡り合えるような部隊があったとは思わなかったわ。」

速水は苦笑すると同僚に肩をすくめてみせた、だが岡崎の表情を見て驚いた。

「どうしたんだ岡崎。」

顔面蒼白となり、冷や汗を流している岡崎。その体は小刻みに震えている。

「しっかりしろ岡崎!大丈夫か!!」

 

「・・・・来る。」

「何だって?」

 

「・・・来るんだ、あの娘が。」

「娘?」

 

同時に美月が呟く。

「・・・確かに現れようとしてるみたいね。」

 

速水だけが蚊帳の外のような状態で首をかしげる。だが、その速水の目にも何かが見え始めていた。

「・・・おいおい、これは・・・!?」

 

空気が渦を巻きながら密度を増していく。その現象が最高潮に達したとき、渦巻く空気が何かの像を結ぼうとしている。

 

「・・・いろいろな『ヤツ』を見てきたが、こんなにも鮮明で、ここまで強烈な思念の持ち主は初めてだ。」

岡崎は立っていることが出来ずに片ひざを着いた。

 

空気の渦が霧散した後には、奇妙な衣服を見に纏った少女が出現していた。

その服装に速水は覚えがあった。

『・・・たしか平安時代以前の貴人の服装じゃなかったか?』

 

岡崎の悪寒は一時的に弱まった。

『・・・はっきりと結像した事で、逆に精神への影響が弱まったのか?』

 

美月は懐かしそうな表情を浮かべた後で目を伏せた。

『・・・あなたも・・・苦しみ続けているのね』

 

沙代子は、気を失った祖母を横たえると少女を見つめた。

『・・・さっき・・・私を包んでくれてたのはこの人なの?』

 

少女は閉じていた瞳を開いた。そしてゆっくりと語り始めた。

「・・・災厄が始まろうとしています・・・私にはそれを止めることが出来ません・・・。お願いです・・・あなたたちの手で・・・災厄を止めてください。」

 

「災厄??」

首をかしげる速水の傍らを少女は素通りし、美月の前に立った。

美月はその少女に一礼した。

「・・・お久しぶりです、錦野の姫君。」

「・・・・。」

少女は無言のまま、細くしなやかな腕を伸ばした。そしてゆっくりとその手を美月にかざした。そして、しばらくそうしていたかと思うと、ため息をついてから口を開く。

「・・・美月さん・・・その身体は・・・。」

美月はうなずいた。少女もまたうなずく。

「・・・あの人の暴走を、・・・あの人の狂気を止めてください。あなたはその身体を得て、再び実界に干渉する手段をお持ちになった。」

少女はそういうと沙代子に視線をやった。驚く沙代子に微かに笑いかけると再び美月に向き直る。

「どうか、あの子を守ってあげて・・・。」

美月は肯いた。

 

速水は肩をすくめると二人に話しかけた。

「・・・すみませんが、ちょいと事情を説明してもらえませんか?・・・怪人だとか、仮面ライダーだとか、いい加減に非常識なものには慣れていたつもりだったんだが、今、俺の目の前で起こっていることは、いささか理解不能なんでね。」

 

少女は、速水、岡崎、沙代子の順に見やった後、静かに肯くとその眼を閉じた。

「・・・解りました。我が名は咲夜。・・・はるかなる昔、4人の乙女が巻き込まれた数奇な物語をお聞かせいたします。・・・はるかなる昔・・・されども・・・今に続く物語を。」

 


 

「エレクトロファイヤー!!」

荒木のC・スーツ、『7号スーツ』から放たれた電撃が地を走り、逃走しようとした魚人の身体を駆け上る。絶叫をあげ黒コゲとなる魚人を見ようともせずに、荒木は次の敵に対峙する。

掴みかかろうとする魚人の腕を逆に絡めとって地面に投げつける。その身体に電撃を纏った拳を叩きつける。

「・・・次はどいつが相手になってくれるんだ?」

嘲笑混じりにそう言い放つ荒木に、魚人たちは気圧されていた。

 

「ギギィーッ!」

魚人の繰り出す蹴りを素早く避けると、村上は地面を蹴って跳躍する。

そして通常では考えられないほどの高度まで一息で到達した村上は驚嘆した。

『テスト装着の時とは、まるで別物だ。・・・跳躍力。・・・そして。』

村上の身体は、重力の鎖から解き放たれたかのように宙を自在に滑空する。そして、にわかに速度を増し、その勢いのまま魚人に鋭い蹴りを炸裂させる。

もんどりうって吹っ飛んだ魚人は、病院の壁に激突し、ピクリとも動かなくなる。

「・・・これが、これが8号スーツの重力低減装置の力なのか!」

「村上!」

荒木の叫びにハッとした村上は、一体だけ体色の異なる魚人が仲間を盾にしつつ逃げようとしているのを見た。

「逃げるのか?」

「残りの雑魚どもは、俺が片付ける。・・・お前はひとっ飛びしてあの色違いを追ってくれ!」

荒木がまた一体の魚人に電撃を叩き込みながら叫ぶ。

「解りました!追います!!」

村上は阻止しようとする魚人に正拳突きを叩き込むと跳躍した。

その姿を目の端に捉えて、荒木は両拳を突き合わせて放電する。

「・・・さあ、そろそろ片付けさせてもらうぜ。・・・来な!!」

猛り狂ったように殺到する魚人達をものともぜず、縦横無尽に拳を振るう荒木。

その拳が魚人に炸裂するたびに、眩いまでのスパークが巻き起こる。

魚人は、一体、また一体とその屍を積み重ねていった。

 


 

「・・・ギッギ・・・コレハ、ヨソウガイダ・・・・、イチドアジトニモドッテ、アノカタニシジヲアオガネバ・・・。」

逃走中の魚人はそう呟くと、路地裏に駆け込む。そこには大型のバイクが隠されていた。

魚人は、素早く人間の姿に変化すると、バイクに跨り素早くエンジンを始動させた。

 

「・・・あんなものを用意していたのか!?」

爆走を開始する逃走者を上空から追っていた村上は、滑空するスピードを上げようとした。

だが・・・。

「・・・??・・・なんだ?」

急にスピードが落ちると共に、下降を開始したC・スーツに戸惑いを感じた村上は腰の装置に目をやった。

「・・・しまった、パワーダウン!?・・・初めての実戦で無理をさせすぎたか。」

村上は、すぐさま無線を飛ばした。

『間に合うか?』

そう思った村上だが、すぐさま聞こえてきた爆音とサイレンの音に笑みを浮かべる。

「来たか!」

下降しつつも滑空を続ける村上に併走するように、サイレンを響かせつつ、また、赤色回転灯を光らせ一台のバイクが出現した。

「・・・たいしたもんだ、この『ルドラ』は!」

村上は下降の速度を上げてそのまま専用追跡車両『ルドラ』に跨りアクセルを吹かす。

弾丸の勢いで再び追跡を開始した村上は、程なく逃走者の姿を視認した。

「絶対に逃がさんぞ!」

 


 

「・・・どうやらお前さんが最後の一人らしいな。」

荒木は、それまでの魚人よりも一回りほど巨大な体躯の魚人と向き合っていた。スーツの手袋を直すしぐさをしてから、魚人に指を突きつける。

「さくっと、片付けさせてもらうぜ。・・・いい加減飽きてきたんでな。」

魚人が唸り声を上げる。

「・・・イイキニナルナヨ、ソンナオモチャデ、ブソウシヨウトモ、キサマラハ、ショセンハ“ニンゲン”ニスギンノダ。・・・アタラシキセカイノジュウニンデアル、ワレラ“ゴルゴムノタミ”ノ、シンノチカラニハ、オヨブベクモナイノダ!!」

 

「真の力だと?」

「・・・ワレラハ、イワバゾウヒョウダ。・・・“カイジン”サマニ、キサマラノチカラガ、ツウヨウスルトオモウナヨ!!」

「ヘッ!・・・その怪人とやらが、お前らの真の力って訳か?・・・余計な御託はいいからさっさとかかって来いよ。・・・なあに、その怪人とやらも、取って置きの必殺技でぶちのめしてやるぜ!」

「ニンゲンフゼイガ!!」

「ケリをつけるぜ!・・・パワー全開!!・・・トゥ!」

荒木は、力強く地を蹴って高く跳んだ。

「ギギギ!!」

7号スーツの脚部に電撃が集中する。その輝きが白き光となって魚人の目を射る。

「ググ???」

その光に荒木の叫びが重なる。

「電―――――――――キーーーーーーーック!!!!!」

10000ボルト近い電撃を纏った蹴りが魚人の身体に突き刺さる。

魚人は、絶鳴をあげる間もなく炭と化した。

「・・・一丁あがり。」

荒木はC・スーツを収納すると髪をかきあげた。

「・・・さて、翼のやつはうまくやっているかな?」

 


 

逃走中の魚人は、町外れの廃倉庫に駆け込んでいた。

「・・・ワレラガアルジヨ。ソノオスガタヲアラワシクダサイマセ!!」

その言葉に答えるかのように、そこに姿を現したのは仲嶋だった。

「ずいぶんやられたようだな。・・・たかが人間ごときに。」

恐縮しひれ伏す魚人を一瞥すると、仲嶋は口を開いた。

「・・・まあいい。死にぞこないの老いぼれ一人ぐらい捨て置け。・・・どうせあのような話、常人が聞いたところで、妄想と思い込むのがオチだ。」

「ギギギ。」

「貴様たちは、残る3名の乙女の確保に全力をあげろ・・・以上だ。」

仲嶋は再び姿を消しながら命じた。魚人は肯くと、再びその姿を怪物然とした姿へと変化させた。と、その時。

 

ガシャーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!

 

突如、廃倉庫の壁を突き破って、ルドラを駆る村上が飛び込んできた。

「ギギッギギイギ???」

そして、その勢いのまま、驚愕した表情の魚人に体当たりをする。

絶叫を上げて吹き飛んだ魚人は、廃工場内のガラクタにぶつかりながら地を転がる。

「バ・・・バカナ???」

激突した箇所から鮮血を吹き上げる魚人に、村上が近寄る。

「観念しろ。・・・貴様達の企みを残らず話してもらうぞ。」

地に這い蹲り、痙攣していた魚人だったが、その顔を奇妙に歪めると声を出して笑い始めた。

「・・・何だ?」

「キサマノオモイドオリニイクトオモウナ。・・・オマエモ・・・ココデ・・・」

不穏な空気を感じて身構える村上に、突如として魚人がしがみつく。

「貴様!?」

瀕死の怪物とは思えぬほどの力でしがみつく魚人が笑う

「・・・グッグッグ・・・。トモニシネ。」

 

・・・町外れの倉庫が轟音と共に爆発したのはその直後だった。

 


 

「・・・雑魚にしては上出来か。」

モニタに映った、炎上する廃倉庫を見てニヤリと笑った仲嶋は、席を立った。

「・・・戦闘員クラスの力では、警察のC・スーツには歯が立たないか・・・。新生怪人もようやく数がそろってきたことだし、もう一段強い怪人の創造が必要なのかもしれないな。」

「・・・その為のZIET計画でありましょう。」

不意にかけられた言葉に仲嶋は楽しそうに振り返った。

「目覚めたのか込山。」

「はい。正成様。」

「・・・数百年ぶりの現世はどうだ。」

「左様ですな・・・。率直に申し上げれば、人間どもの技術も進歩したものですな。我等の尖兵と渡り合えるとは。」

その言葉に仲嶋は苦笑した。

「人間の技術なものか。アレはそうじゃないのさ。」

「と、申されますと?」

「なあに、たかが参入して500年にも満たない新参の神官殿が暗躍している。・・・そういうことさ。」

「は・・・?」

「そのうち解るさ。・・・さあ、新たな身体を得て早々で悪いが、私の花嫁たちを迎えに行ってくれないか。・・・便利だが愚か過ぎる使用人たちは、どうも花嫁を迎えに行ったまま手間取っているようだからね。」

「御意!」

込山と呼ばれた男は深く肯くと、その身体を闇に同化させていった。

仲嶋は男の気配が消えたのを確認すると、モニタの明かりしかない薄暗い室内を歩き、奥まった場所に設置された奇妙な水槽の前で立ち止まった。

その表情が緩む。

「・・・寂しかっただろう?・・・もうすぐ、“あの時”の皆がここに集えるよ。」

仲嶋は、普段からは想像も出来ないような穏やかな表情を浮かべた。

「その時こそ、長き時を経たこの儀式の最終段階が始まるんだ。・・・君たちは、永遠を生きる花嫁となる。老いもせず、また死の恐怖からも解き放たれた存在に・・・。」

仲嶋はそっと水槽に手を触れた。

「そして、新世界の母となるんだ。」

 


 

炎上する廃工場。

崩れ落ちた残骸の只中に、その残骸を跳ね除けて起き上がる人影があった。

8号スーツを身に纏った村上だ。

「・・・自爆するとは・・・。」

村上はC・スーツの耐熱機能と耐衝撃性能の高さを実感しながら周囲を探索した。

「・・・わざわざ、ここに逃げてきたんだ。何か理由があるはず・・・。」

スーツに備えられた各種探査機能を駆使して探したものの、有力な手がかりとなりそうなものは、何一つとして残されていなかった。

「・・・駄目か。・・・ここまで壊されていては・・・。」

 

その時、村上のスーツに通信が入った。

「翼!・・・聞こえるか?」

「荒木さん!?・・・聞こえます!」

「こっちは片付いた、そっちはどうだ?」

「・・・倒しはしたのですが、自爆されてしまって・・・。」

「そいつは残念だな。・・・とりあえず、こちらに戻って来い。例の老人が意識を取り戻した。」

「本当ですか!」

「・・・取戻しはしたんだが・・・。」

「どうしたんです?・・・まさか、浦田氏になにかあったんですか?」

「いや、爺さんの身体自体は順調に回復するだろうとの事なんだがな・・・。」

村上の問いかけに荒木がいささか複雑そうな声色で答えた。

「・・・コイツはどうにも、俺には対処しかねるぜ。あまりに爺さんの話が突拍子も無くってな・・・。」

「突拍子も無い?」

「とにかく戻ってきてくれ。」

「解りました、すぐに戻ります。」

村上は、スーツ同様無傷だったルドラに跨ると、浦田老人が入院している病院へと走り始めた。

 


 

「何度も言わせるな!・・・早くあの魔女を、魔女を捕まえるんじゃ。・・・お前さんら、警察じゃろうが!?」

「・・・あのな、爺さん、魔女ってなぁなんだ?」

「海魔の女王・・・、災厄の姫巫女だ・・・永劫の時を生きる化け物だ。」

荒木は思わず頭を抱えた。その荒木に畳み掛けるように老人が金切り声を上げる。

「儂の鞄じゃ、アレさえあればお前さんらも信じるはずなんじゃよ!!」

「鞄かぁ・・・。」

「この鞄ですか?」

ドアを開いて病室に入ってきたのは村上だった。その手には、薄汚れた鞄を抱えている。

「翼!」

「おおっ!・・・は、早くその鞄を儂に!」

村上からひったくるように鞄を受け取った浦田老人は、その中を探り始めた。

「どこじゃ・・・どこじゃ・・・。」

その様子を眺めながら、荒木は村上に小声で話しかけた。

「助かったぜ。あの爺さん、さっきから『海魔』だとか『魔女』だとか、言っていることがチンプンカンプンなんだ。・・・錯乱しているわけではなさそうなんだけどなぁ・・・。まあ、『怪人』だとか、『ゴルゴム』だとかが出てきてるんだ、いまさら『魔女』ぐらいと思わなくも無いんだが、・・・う〜ん。」

村上は苦笑しつつ荒木を見やると老人に視線を移した。

「『魔女』か・・・。」

 


 

「魚人どもめ・・・正成様の偉大なる計画を遅滞させるとはけしからん。」

込山と呼ばれていた男は、浜辺に立ち、周囲を見渡して目を細めた。

「・・・しかし、小浜の海も変わってしまった・・・。時の流れは弛みなく・・・。」

しゃがみこんだ込山は、そっと海水に触れた。

『・・・かつて、あのお方によって助けていただいた。その恩はいまだこの心に刻まれております。・・・幾たび蘇ろうとも決して消えることはありません。』

込山は立ち上がると呟いた。

「必ずや、正成様の大望を実現させてみせますぞ。」

 


 

「・・・まさかね。直接ここを攻めてくるとは思わなかったな。」

別荘の前に累々と転がった魚人たちの死骸を眺めやって、デルフィムは苦笑した。

突然の闖入者たちは、デルフィムの放った閃光にその身を焼かれ、ものの数秒で無残な屍と化したのだ。

「ナシュラムが、こんなに頭の悪いことをするはずは無いからなぁ。おそらくは仲嶋くんあたりが暴走したか・・・。」

「いかがいたしますかな?」

デルフィムの背後で跪いていた初老の男が問いかける。デルフィムは腕組みすると逆に問いかけた。

「黒松教授、今この場にいるタイプEは何人だったかね。」

「実戦に耐えうるだけの調整が完了したものは、順次、『戦場』に送り出しておりますので・・・、たしか6人ほどが残っているかと。」

「・・・フム。・・・織田君はいたかな?」

「・・・おりますが。・・・デルフィム様はずいぶんとNo.11をお気に入りのようですが、一体何故なのです。」

デルフィムはこの男には珍しく優しげな表情を見せた。

「私の描こうとする作品には、不可欠な男だからかな。・・・私は、予想を裏切られるというのが好きでね。・・・無論いい意味での裏切りだが。」

黒松は首をかしげた。

「と、おっしゃられると、デルフィム様はNo.11がそうなると?」

「さてね。」

黒松は困惑した表情を浮かべた。

『・・・はて?No.11は、それほどずば抜けた能力ではなかったと記憶しているが?』

「黒松教授。」

主の声に黒松は考えを中断して顔を上げた。

「は!」

「どうやら、第二派が来た様だ。タイプEに迎撃させるんだ。」

「ははっ。」

デルフィムは窓から浜辺を見下ろした。

「・・・さて、今回は少し気色の違うのが混じっているみたいだが、・・・仲嶋くんの秘蔵っ子かい?・・・フフ、だが・・・。」

デルフィムは楽しそうに笑った。

「こっちも私の秘蔵っ子の織田君だ。さて、どちらが勝つかな?」

 


 

「・・・来たな。」

織田は、背後のタイプE戦闘員に攻撃の命を下した。

次々に異形へと“変貌”しながら地を蹴る男たち。

彼らの前方には、こちらもまた異形の魚人たちが突進してくる。

その魚人たちの背後に、威圧感を漂わせる一人の男がいる。込山だ。

「あいつが隊長格か・・・?」

織田は、地を蹴ると魚人の頭を蹴りつけながら込山に迫った。

「・・・フン!戦闘員ごときがいきがるものよ。」

込山はそういうと織田に向かって駆け出す。

ひときわ高く跳躍した織田が鋭い蹴りを込山にみまう。が、その攻撃を込山は右手で払いのけた。

「!?」

身を翻しながら着地した織田に、込山の拳が迫る。

「くっ!?」

織田はその突きを、込山の腕ごと左腕で挟みつけるようにして受け止めた。

「・・・ホゥ!?雑魚にしてはよくやるな。」

「雑魚呼ばわりとはたいした自信だな。」

「フン、違うのか?戦闘員。」

込山はそういうと、挟みこまれた腕を強引に振るった。宙に投げ出される織田に再び強烈な拳が叩き込まれる。

その攻撃を両腕を交差して受け止めた織田は、吹き飛びつつも態勢を立て直して着地した。

「・・・なるほど。言うだけの事はある。ならば・・・!」

織田は込山に向かってダッシュしながら叫んだ。

「変身!!」

瞬時にその身体が昆虫然とした外骨格に覆われる。

「戦闘員ごときが神聖なる飛蝗の意匠の改造を受けるなど・・・数百年前までなら考えられないことだ。」

「・・・。」

織田は無言で鋭い手刀を込山の首筋に打ち下ろす。

予想をはるかに超える速度で炸裂したその攻撃に込山の顔が怒りに歪んだ。

「おのれ!」

込山の身体が一回り膨れ上がる。衣服が千切れ飛び、全身を鋭く長い刺状の突起で武装した、不気味な怪物へと変貌した。

「この姿になるのも、数百年ぶりだ!暴れさせてもらうぞ!!」

織田は、攻撃姿勢のまま冷静に眼前の怪人を観察した。

「・・・ただの魚人型戦闘員とは少し違うな。あの刺・・・ハリセンボンの改造人間か?」

込山は口の端を歪めて笑うと身を丸めた。

「!!・・・これは!!」

織田の呟きと同時に、込山の身体から弾丸の勢いで刺が撒き散らされた。

織田は、とっさに手近にいた魚人を盾にしてその攻撃をしのぐ。

「ククク、我が刺の威力を見よ!!」

その味方をも巻き込む攻撃によって魚人の半数は犠牲となり、タイプEもまた、2体が手傷を負った。

 

「やってくれる。・・・お前たちは、魚人に攻撃を集中させろ、あの河豚もどきは、私が相手をする。」

織田は、他のタイプEにそう命じると、なおも身体を揺らして笑い続ける込山に素早く肉薄すると、渾身の力を込めたパンチを胴に叩き込む。

「・・・今、何かしたか?」

「何?!」

織田のパンチは、厚い脂肪に阻まれて、その威力を減衰され、無力化されてしまった。

「バカな!?」

「所詮は、戦闘員ごときが、我等怪人に挑もうというのが間違いなのだ。・・・死ぬ前にそのことが解ってよかったな。」

「・・・。」

織田は無言でさらに拳を繰り出す。

「無駄無駄。」

「・・・。」

さらに拳を叩き込む。

「おい、いい加減に・・・。」

「・・・。」

織田はさらに拳のスピードを上げつつ叩き込み続ける。

「・むむむ?????」

「・・・・侮るなよ。」

織田のひと際凄まじい力を込めた一撃が込山の胴に突き刺さる。

「グェ??」

前のめりになった込山の顎に狙い済ましたアッパーが打ち上げられる。

その身体が吹き飛び、砂浜の上を転がる。

「き・・貴様!?」

織田は拳を鳴らして歩み寄り、込山を見下ろす。

「・・・お前がどれだけのものかは知らない。だが、我が主・デルフィム様の眼前で無礼を働いた以上、生きて帰れると思うなよ。」

「チィ!・・・戦闘員風情が!」

飛び起きざま刺を飛ばす込山。その攻撃をかわしつつ、間合いを詰める織田。

浜辺に、轟音が鳴り響いた・・・。


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