第9話 記憶の底(中編)


黒い影が走る。

その数が二つに増えると、激突する。

 

四方を特殊な壁で仕切られた広い空間の中央で、その影は攻防を繰り広げている。

黒い特殊服に鮮やかな緑のヘルメット。その同型の戦闘服に身を包んだ二人の男が、その拳を、脚を駆使して、試合を行っているのだ。

 

識別のためだろうか。一方はグローブとブーツを銀に、もう一方は赤く塗り分けられている。それぞれの両肩には『01』『02』とナンバーがふられている。

 


 

その様子を、特殊なガラス越しに観察している男たちがいた。

 

「C・スーツの基本的な部分の調整は、これでほぼ完了といったところだな。悠輝。」

白衣を身にまとった、角刈りで強面の男が笑みを浮かべる。

「ああ、最終的な調整にはまだまだ時間がかかるだろうが、それはこっちで何とかできる。・・・感謝するよ元木。君の研究、粒子転換再構成回路のおかげで、稼働時間と、携行性が飛躍的に向上した。」

悠輝刑事は、そう言って、科学者と言うよりは格闘家といった風体の男に頭を下げた。元木は照れくさそうに笑った。

「よせやい。田所ラボで同じ釜の飯食った仲じゃないか。・・・俺としても、自分の研究が日の目を見ることになったんだ。嬉しい限りだよ。」

二人は顔を見合わせると笑った。

 

そこに、若い研究員が駆け寄ってきた。

「悠輝刑事、『03』の粒子転換実験を行う準備が整いました。」

「解った、すぐにそちらに向かう。」

悠輝はそう答えると、元木を促して別室へと向かった。

 

「しっかし。あのデザイン・・・お前の趣味か?」

元木が、先ほどの『01』『02』を思い出しながら言った。悠輝は苦笑しながら首を振った。

「いや、うちのプロジェクトチームでデザインを決定する際に多数決で決めたんだが、ダントツで一番だったのがあのデザインだったんだ。」

元木は、あきれたように肩をすくめた。

「・・・アレじゃ、まるっきり『仮面ライダー1号』じゃねえか。・・・そりゃあ少しリデザインされているが。・・・プロダクションからクレームが来ないか?」

悠輝は苦笑を返した。

「いやあ、何でも警視正とプロダクションの誰だかが親友らしくって、わざわざ了解を取ったらしい。」

「・・・呆れた話だな。」

二人は、やがて『第7実験室』と銘打たれた部屋へと入っていった。

 


 

実験室内では、風杜刑事が、研究員から渡されたブレスレット型の機械を腕に装着していた。

「よう!準備はできてるようだね。装着手順の説明は受けたかい?」

悠輝の問いかけに、風杜は怪訝そうな表情を浮かべた。

「悠輝。ほんとにこんなのの中にC・スーツが収納されているのか?」

「ああ。専門的な説明は省くが、ようは細かい粒子状に形態を変化させたスーツを、収納している。・・・そいつはまだ試作品だが、要望があれば転換機をブレスレット型以外にもペンダント型、ベルトのバックル型なんかにもできるが?」

それでも首をかしげる風杜に、元木が笑いかけた。

「ま、四の五の言わずやってみろって。」

 

風杜は、釈然としない顔でブレスレットに向かって叫んだ。

「変身!!」

 

その瞬間、風杜は瞬時にC・スーツを身にまとっていた。

「・・・す、すごい。」

絶句する風杜。満足そうな悠輝。そして・・・。

「お?・・・『03』は、V3じゃないのか?」

その言葉に悠輝は苦笑した。

「おいおい、いくらなんでもまんま仮面ライダーと同じように10号まで作れないって。外見はほぼ同じ、機能とカラーリングがそれぞれ異なるだけだよ。」

「なるほどなぁ・・・。」

元木は腕を組みながら『03』を観察した。

デザインは『01』と同じで、ボディカラーが黄緑色、ヘルメットとブーツが明るい赤。グローブは白いカラーで塗られている。

「・・・着心地は?」

「この間試着した時と変わらん。・・・しかし、これがあの小さなブレスレット内に収まるとは・・・。」

「ま、これも天才のなせる業ってやつよ。」

元木はそう言って胸をそらせた。

 


 

あゆみは、走り去った信彦を探して、当ても無く町を駆け回っていた。

「・・・まさか、郊外に出てしまったの?」

気がつくと、手入れもされずに雑草が茂り放題になっている公園へと足を踏み入れていた。

腕時計に目をやると、時間は午後10時を過ぎている。

「・・・信彦様。」

あゆみはため息をつくと薄汚れたベンチに腰を下ろした。しかし、即座にそこから飛び退いた。

「これは・・・!」

薄暗がりで解らなかったが、ベンチの影で、サラリーマン風の男が冷たい骸をさらしている。

「・・・ひどい。・・・ん?」

顔を半分がたこそぎ取られた無残な死体から目を転じて上空を見る。

闇の中、何かが近づいてくる。すさまじい殺気が迫って来る。羽ばたきの音と共にそれが舞い降りてきた。

「ゴルゴムの怪人!・・・いえ、戦闘員!」

あゆみは、即座に目前の殺気の主が自分でも抗しきれる存在であることを見抜いた。

彼女は、右腕を顔の前にかざすと、次の瞬間に銀色の怪人マーラの姿へと変身していた。

 

猛り狂って鋭い爪をつきたてようと迫る戦闘員。変身したマーラの目には、暗闇でありながらもその姿がはっきりと見て取れた。

「蝙蝠型の戦闘員・・・。」

マーラは、縦横に空中を舞いながら襲いくる戦闘員に冷静に対処しつつ、反撃の機会をうかがっていた。

『・・・飛ぶ能力があるだけで、蝙蝠特有の超音波を使用した攻撃はできないようね。・・・おそらくは人間に近すぎる頭部形状のせいね。』

 

マーラは飛び掛ってきた蝙蝠型戦闘員の腕を取って捻り上げる。

「グェェッェ!!」

苦悶の叫びを浮かべる蝙蝠怪人の首筋に、長く、また鋭く伸びたマーラの爪が突きたてられる。

「・・・消えなさい。」

マーラは突きたてた爪を横に薙ぐと戦闘員の首を引き裂いた。

空気が漏れるような音と共に鮮血が吹き上がる。マーラは痙攣を続ける戦闘員をその場にうち捨てると、さらに目を凝らして上空を見つめる。

そこには、徐々に数を増しながらこちらに向かって飛んでくる、蝙蝠型戦闘員の姿があった。

4人、5人・・・。徐々にその数を増してくる蝙蝠型戦闘員を睨み付けると、マーラは両手の爪を再び構えなおした。

 


 

どれぐらい、戦ったのだろう。

マーラの足元には、蝙蝠型戦闘員の死骸が転がっている。その数実に十六体。

ようやく、増員はなくなったものの、頭上には、まだ十体の戦闘員が飛翔している。

マーラは、大きく肩で息をしながら、また一人戦闘員を斬り捨てた。

「あと・・・九体。」

気合の声と共に、戦闘員と相対するマーラだったが、明らかにスタミナが尽きかけている。

『・・・くっ。・・・信彦様と会えないまま。・・・こんな所で負けるわけには・・。』

 

だが、一斉に襲い掛かってきた戦闘員によって、マーラは地面に押さえ込まれてしまった。

「くっ!・・・は、放しなさい!!」

しかし、戦闘員たちは金属がこすれ合うような耳障りな声を上げながら、マーラに打撃を加えてくる。

「・・・・。」

徐々に朦朧としてくる意識を何とかはっきりさせようともがくマーラ。

 

その目前で、一体の戦闘員が吹き飛んだ。

「ギ・・・ギ!?」

新たな闖入者に驚きながらも敵意をむき出しにする蝙蝠型戦闘員たち。

 

もはや、戦闘能力の無いマーラを捨て置いて、戦闘員たちは新たな標的へと襲いかかった。

『・・・あ、あれは!!』

そこで戦闘員と戦闘を繰り広げ・・・いや、一方的な虐殺を繰り広げていたのは、マーラと同型の金色の怪人だった。

 

「姉さん!?」

思わず叫ぶマーラ。・・・しかし。

『ちがう!・・・あれはカーラだけど・・・姉さんじゃない??』

マーラは、疲労からその変身が解け人間の姿へと戻ってしまった。

 

 

金色の怪人カーラは、戦闘員を残らず切り裂くと、ゆっくりとあゆみを見た。

そして、その変身を解く。そこにはあゆみには見覚えの無い若い女性の姿があった。

『・・・やはり・・・姉さんじゃない・・・。』

再び、意識が闇へと沈んでゆく。その刹那、あゆみは見知らぬ女性の背後に、スーツ姿の男の姿を見た様な気がした。

 


 

「やはりな。生きていたのかこの娘。」

気を失ったあゆみを見下ろすスーツ姿の男。その傍らの女性が問いかける。

「・・・いかがいたしましょうか。」

男は、しばし考えた後、あゆみを抱き起こすと静かに背負った。そして、傍らの女性を促して歩き始める。

 

と、不意にその足を止める。

「ギ・・・ギ・・・。」

彼の足元には、まだ死んでいない蝙蝠型戦闘員がもがいていた。

「・・・悲しいものだな。・・・中途半端な力しか持たぬものは。」

男は、そうさらりと言ってのけると、軽く戦闘員の頭を蹴飛ばした。別に力をこめた様子は無いのにも関わらず、胴体から離れた首はすさまじい勢いで吹き飛び、壊れかけた公衆トイレの壁に当たってつぶれた。つぶれる際のなんともいえぬ残響が消えた時、男たちの姿もこの場から消え失せていた。

 

だが、少し離れた場所でその一部始終を見つめていた異形の姿があったことを、誰も気づいていなかった・・・。

 


 

陽は再び昇る。

警視庁内の特殊部隊「M.A.S.K」では、メンバーが集まって早朝から会議が行われていた。

橘警視正が、ホワイトボードに写真を貼り付けながら、説明をしていく。

「昨日の夕方から、今朝未明にかけて、都内のいたるところで殺人事件が頻発した。その数、実に508件。このうち、既に犯人が逮捕されたもの、また、目撃情報等から、犯人が『人間』であるものを除外した残りの429件が、我々が追うゴルゴムの引き起こした殺人事件である可能性が高い。」

 

橘警視正は、ホワイトボードに張った、いくつかの写真を指し示した。

「多すぎてとても全部は張り出せんが、事件があったのは全て公園。同じ公園内で複数発生したものもあれば、公園とは名ばかりの空き地同様の場所でも発生している。・・・手元の資料を見てくれ。」

 

全員が資料をめくり始めるのを待って、警視正は続けた。

「被害者の多くは、公園をねぐらにするホームレスで、429件のうち、4件を除く全てがホームレスだ。残る4件は、会社員が2人、風俗店のゲイが1人、およびその客が1人。」

 

本条刑事が口を開いた。

「警視正。・・・この事件を例の組織と関連づける決め手は何です?」

「資料の25ページを開いてくれ。現場の一つで、奇怪な生物の頭部が発見されている。・・・残念なことに、残されたのはこの砕けた頭部と、発見場所の近くで見つかった、人間ではありえないものの血痕だけだが、事件をゴルゴムが起こした可能性は高いと私は考えている。」

 

「怪生物の死体があったと言うことは、今回も例の『仮面ライダー』が怪生物と戦ったということでしょうか?」

村上刑事はそう言って橘の顔を見た。

「・・・断定はできんが、おそらく。・・・その現場では、サラリーマン風の男が殺害されていたのだが、どう考えても被害者が怪生物と相打ちになったとは考えにくい。・・・アレは、一般人の手に負える代物ではないからな。」

 

その言葉に、実際に蜘蛛型戦闘員、そして蜘蛛怪人と戦った経験のある本条と大門寺が頷いた。

 

「ともかく、我々は、この連続殺人事件を、ゴルゴムの大規模テロ事件と捉え、本日只今より捜査を開始する。なお、商店街大量虐殺事件と中央線ジャック事件も、引き続いて捜査を続行する。・・・本条!大門寺!」

「「はい」」

「両名は、商店街大量虐殺事件を続けて捜査してくれ。」

「「了解」」

 

「荒木、村上の両名も中央線ジャック事件を追え」

「「了解」」

 

「残るメンバーは、今回の連続殺人事件を捜査する。すぐにかかってくれ。」

全員が起立すると、敬礼をする。橘も敬礼を返しながら口を開いた。

 

「もう間もなく、M.A.S.Kも増員される予定だ。それまでは、諸君に負担をかけるが、頑張ってくれ。」

メンバーたちは、それぞれ決意のこもった笑みを警視正へと返した。

 


 

山中を歩く一組の男女の姿があった。

「・・・本当にここなの?」

不安そうに尋ねる少女に、先を歩く青年が頷く。

「間違いないと思う。・・・やつらの気配が、・・・邪悪な思念のようなものを感じるんだ。」

そう言ってから、青年は立ち止まった。

「・・・できれば、麓で待っていてほしかったんだけど。」

そう呟くように言う青年に少女は笑いかけた。

「ここまで来たんだもん。・・・いまさら言いっこなしよ、光太郎さん!」

青年、南光太郎はため息をついた。二人の目前に古ぼけた建物が現れた。二人はその建物の玄関までやってきた。

「解ったよ。・・・ただし、ここからは僕一人で行く。・・・バトルホッパー!」

光太郎が、短くそして小声で呼びかける。・・・ややあって、かすかな駆動音を響かせながら、木立を縫う様にして一台のバイクが現れた。

二人の前に停車する緑のマシンに軽く手を置きながら、光太郎は少女、秋月杏子に念を押した。

「杏子ちゃんはここで、バトルホッパーと共に待っていてくれ。・・・もし何か見つけても、絶対に一人で行動しないこと。・・・いいね?」

「わかったわ。」

そう答える杏子に頷きかけると、光太郎はボトルホッパーをポンと叩いた。

「バトルホッパー、杏子ちゃんを頼む。」

バトルホッパーは了解したと言いたげに両眼を点滅させた。

 

光太郎は、足音を忍ばせながら、ゆっくりと扉に近づくと静かにノブに手をかける。

鍵はかかっておらずに、ドアは音も無くゆっくりと開いた。

 

光太郎は、一度だけ杏子たちを振り返ると、建物内に身体を滑り込ませていた。

 


 

「・・・教会に偽装されているが・・・この空気に混じったなんともいえぬ不快な思念。・・・ゴルゴムの施設であるのは間違いないな。」

光太郎は、全神経を集中させた。

「・・・建物内部に人の気配はない。同様に改造人間の気配も・・・。」

光太郎は、注意深く辺りを観察した。

「掃除されている様子から、少し前まで人がいたのは間違いないはずだ。一昨日・・・あるいはつい昨日・・・か。」

装飾の施された少し大きめのドアを開ける。

「礼拝堂・・・?」

光太郎は礼拝堂の中を調べ始めた。

 


 

「・・・じっと待っているだけなんて。」

杏子は、教会の周囲を調べ始めていた。その横について進みながらバトルホッパーが非難するかのようにハンドルを左右に振る。杏子はいたずらっぽく微笑んだ。

「心配しないでバトルホッパー。危険なことはしないから。」

バトルホッパーの両眼がめまぐるしく点滅する。

『もう既に危険なことをしてますよ!!』

そう語りかけているように杏子は感じられた。しかし、構わずに杏子は進む、と、急にバトルホッパーが杏子の前に飛び出す。

「な・・・何?」

まるで杏子を何者かから守らんと立つバトルホッパー。緊張しながら様子を伺う杏子。その視界の隅で何かが動いた。

「キャッ!」

思わず出そうになった悲鳴を飲み込む。

納屋と思しき建物の影から這い出してきたのは、煙を上げて溶けかけている一体の蝙蝠型戦闘員だった。戦闘員は杏子が見ている前で完全に動きを止めると、徐々に煙の量を増しながらやがて完全に溶け落ちて地面に吸い込まれてしまった。

 


 

「?・・・今気配が??」

光太郎は、わずかな気配が屋外で動いたように感じたが、すぐにその気配は消え失せたため再び礼拝堂を調査し始めた。

しばらく調度品やら壁やら床を調べていた光太郎は、礼拝堂の隅においてある燭台がスイッチになっていることを突き止めた。

「これか・・・。」

光太郎がスイッチを入れると、礼拝堂の床の一部が開いて地下への階段が顔を現した。

「地下室とは。」

光太郎が地下へと足を踏み入れると、そこには一面の赤い絨毯の上に様々な用途不明の器具が散乱し、可動式の器具台と、いくつかの手術台らしきものが並んでいた。

ただ、もっと大掛かりな機械が置いてあったと思われる場所には何もなく、色落ちしていない絨毯が、確かにその場に何かがあったことを示しているに過ぎなかった。

 

「・・・ここは、改造人間を生み出す手術室だというのか?・・・だが、このありさまは。・・・アジトを移したのか?・・・だとしたら一体どこに??」

光太郎は、一通り手術室内を探したが、手がかりになるようなものは書類一枚たりとも見つからなかった。

「これ以上、手がかりはなさそうだ。・・・麓に戻ってもう一度奴らの影を探すしかないか。

光太郎はそう呟くと階段を上りかけた。

「ん?」

光太郎は、地下への階段と礼拝堂の絨毯のちょうど境目に、何かが挟まっているのを見つけた。階段を上りきって礼拝堂の床に膝をつき、隙間に挟まった何かを注意深く取り出した。

「古い写真??」

セピア色の古ぼけた写真には、神父と思しき一人の若い男が写っていた、その傍らには、シスターの服装をした美しい女性が寄り添っている。

「・・・何かの手がかりになるかもしれない。」

光太郎は胸ポケットに写真をしまうと礼拝堂を後にした。

 


 

秋月信彦は、町を彷徨っていた。

 

一夜明けたことで、少し落ち着いた信彦だったが、まだ葛藤が完全に無くなった訳ではない。

記憶が戻りそうで戻らないもどかしさを抱えながらアパートに戻った信彦は、あゆみが戻っていないことを知った。

「無我夢中で逃げてしまった僕を、探しているのかもしれない。」

信彦は、罪悪感覚えながら部屋で待っていたものの、昼を過ぎてもあゆみは戻ってこなかった。

信彦は、『帰ってきたら部屋で待っていてほしい』という内容の書置きを残すと、あゆみを探すため町へとくりだした。

 

あゆみを探して町を彷徨う信彦だが、一向に見つけ出すことができずに時間だけが過ぎていった。

 

「・・・あゆみ。」

途方にくれていた信彦の肩を誰かが叩いた。驚いて振り返る信彦の目の前に風杜が立っていた。

「風杜・・・さん?」

風杜は微笑んだ。

「やっぱり君か。まさか東京で君と再会するとはね。」

信彦は少しだけ笑顔を見せた。

「どうして東京に?」

「本庁に異動になったんだ。・・・それよりどうしたんだ、元気がないようだが。」

「ええ・・・。」

風杜は辺りを見てから信彦に話しかけた。

「いつもの彼女がいないようだね。・・・喧嘩でもしたのか?」

「・・・まあ、そんなようなもんです。・・・いま、探している所で・・・」

信彦はさびしそうに微笑んだ。風杜は苦笑すると信彦の肩を叩いた。

「仕事中にそれとなく探してあげよう。連絡先を教えておいてくれないか?」

信彦は現在の住所と電話番号を伝えた。風杜は手帳を取り出すとすばやくメモをした

「・・・っと。じゃあ何かわかったら連絡してあげよう。」

「すみません、風杜さん。」

「なあに。・・・そうだ、それより夜は気を付けたほうがいい。ニュースでもやっているが、連続殺人がおこっていて物騒だからね。」

「なら、なおのこと彼女を探さないと・・・。」

そう呟くように言う信彦に風杜は微笑んだ。

「・・・まあ、あまり無理はするなよ。君に万一があれば、彼女も悲しむぞ。危険な時には近くの交番を頼るんだ。いいね?」

信彦はあいまいに頷いてみせた。片手を軽く挙げて去っていく風杜を見送ると、信彦はあゆみを探すべく再び駆け出していた。

 


 

「先ほどの青年は知り合いか?」

悠輝は、隣を歩く風杜に尋ねた。

「ああ、以前ある事件で知り合ってね・・・。」

風杜は答えながら、無精ひげのかつての上司を思い出していた。

『・・・近藤警部補は元気にやっているだろうか。』

風杜は缶入り汁粉を片手に笑う近藤の姿を思い出して思わず笑みをもらした。その風杜に、怪訝そうな表情を向ける悠輝。その視線に気づいて風杜は咳払いをした。

「すまん。つい思い出し笑いを・・・。」

そう言う風杜に悠輝は肩をすくめて見せた。

「まあいいが。・・・それより、このまま闇雲に探し回っても埒があかないとは思わないか?」

「・・・確かにな。」

「そこで提案なんだが、昨日事件が起きた公園以外で張り込んでみないか。」

風杜はその言葉を聞きながら考え込んだ。

「・・・悪くないとは思うが、昨日の現場を除外する根拠は何なんだ?」

「現場には、まだ警官や鑑識が捜査をしているところが多い。・・・やるならば、それ以外じゃないかと思うんだが。」

「だが、お構いなしに奴らが動くとしたら?」

悠輝は苦笑した。

「その場合はお手上げだが、最悪その場合は連絡が入るはずだ。・・・なら、あまりマークされていない公園に張り込むほうが良いかと思うんだ。」

「なるほどな・・・。まあ、やってみる価値はあるかもしれん。」

「だめもとでね。」

風杜と悠輝は頷き合うと、張り込むべき公園を探すべく足を速めていた。

 


 

日が長くなっている初夏とはいえ、午後7時が近くなると薄暗くなってくる。

信彦は、あゆみを探すうちにどんどんと郊外へとやってきていた。一度、バイクを取りにアパートに戻ったときにもあゆみは帰宅していなかった。

『・・・まさかと思うけど、ゴルゴムの手に・・。』

そんな風に不安を感じ始めていたときに、急に女性の悲鳴が聞こえてきた。

「!!」

信彦は、アクセルを吹かすと悲鳴の聞こえた方向へと急行した。

 

夕方というのは、一種不思議な時間である。夜よりも物の識別が曖昧になったり、不意に人の流れが途切れたり。幻想的かつ非現実的な、ある意味異空間を現出させる。

 

信彦が駆けつけた先、その閑静な公園もそんな場所の一つだった。少し先にマンションらしき建物の群れが見えるにもかかわらず、そこには悲鳴の主以外「人間」はいなかった。

 

女性を羽交い絞めにしている「異形」は、疾走してくる信彦に気づいて威嚇のうなり声を上げた。信彦は意に介さずに、そのままのスピードで「異形」に迫る。

「異形」は舌打ちすると、女性を解放して羽ばたいた。

信彦は、バイクを急停車させると、ヘルメットを脱ぎ捨て女性に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!」

女性は、震えながらも頷いた。信彦は女の手を取って立ち上がらせると、上空の「異形」に鋭い視線を向ける。

「・・・早く、逃げるんだ!」

信彦は「異形」から視線をそらさずに女性に向かって叫ぶ。女性がよろめきながらも走り去る気配を背後に感じながら、信彦は神経を「敵」へと集中させる。

「・・・蝙蝠の改造人間。・・・ゴルゴムだな。」

蝙蝠型戦闘員は、奇声を上げると、急降下して信彦に襲い掛かった。

素早く前転してその攻撃をかわした信彦に、近くの茂みから現れたもう一体の戦闘員が組み付いた。

「・・・!!・・・もう一体いたのか!?」

こちらの戦闘員は完全にその気配を絶っていた。どうやら能力の個体差が大きいようだ。

信彦は、素早く戦闘員の足を払うと、背負い投げの要領で投げ飛ばす。それがちょうど前方から攻撃を仕掛けようと迫っていたもう一体に叩きつけられる形となって、二体がもつれるようにして転倒した。

 

信彦は素早く戦闘員たちから間合いを取ると腕を構えた。

「変・・・身!!」

信彦の腰に出現したベルトから眩い緑光が溢れ出す。飛蝗型の怪人体を経て、全身を銀の装甲が覆っていく。

 

戦闘員たちが起き上がったときには、すでに変身は完了していた。

 

「仮面ライダー・・・シャドウ!!」

シャドウは名乗りをあげると、怒りの咆哮をあげ襲い掛かる蝙蝠型戦闘員に対して身構えた。

 


 

同じころ、風杜と悠輝は、周りを戦闘員たちに囲まれていた。

「・・・奴らと出くわすことができたな。会った以上は退治するしかないな、悠輝。」

苦笑交じりにそうもらした風杜に、悠輝は冷静に答える。

「だが、数が多い。・・・アレの出番だな。」

二人は背中あわせになりながら、それぞれ右腕に装着したブレスレットに手をやる。一瞬だけ顔を見合わせて頷き合うと、それぞれ同時に叫んだ。

「「変身」」

瞬時にC・スーツを身にまとう風杜と悠輝。その様を見た戦闘員たちが僅かに怯む。

その隙を逃さずに悠輝は腰の小型バックから特殊なディスクを取り出すと、C・スーツ右腕にあるディスクドライブに挿入した。

その瞬間右腕の形状がアサルトライフルへと変化した。戦闘員たちにさらに動揺が走る。

「そいつが『04』の特殊機能か?」

風杜が尋ねる。悠輝は頷いた。

「粒子転換再構成回路の応用だ。・・・まだ試作品だからいちいちディスクの換装が必要だがな。」

その言葉が終わらぬ内に、戦闘員が一斉に飛び掛ってきた。

風杜は逆に相手の中に飛び込み鋭い手刀を叩き込む。その打撃をまともに食らった戦闘員が額を割られてのけぞる。間髪要れずに蹴り上げられた右足が、別の戦闘員の胸部を抉り取っていた。

 

悠輝は、アサルトライフルのモードをフルオートにチェンジさせると、戦闘員に向け引き金を引き絞った。秒間16発で打ち出される弾丸が、戦闘員たちの体表に幾つもの孔を穿っていく。C・スーツでの運用を前提に開発されたこの特殊なライフルは、別オプションのサブマシンガンよりもばら撒く弾数は少ないものの、一発あたりの威力が格段に大きい。

おそらくは、怪人クラスの敵と相対した場合でもそれなりに効果があると予想されている。

 

仲間を倒されることで、怯む戦闘員もいたが、大部分は怒りを剥き出しにして、より激しく襲い掛かってくる。そして、新たに上空より戦闘員たちが舞い降りてくる。

 

風杜も悠輝も、予想以上に集まりつつある戦闘員に、軽い驚きを感じながらも、新型スーツの予想以上の出来上がりに、勝利を疑っていなかった。

 


 

「・・・何だ?」

異変は唐突に起こった。それまで果敢に攻撃を仕掛けていた戦闘員たちの攻撃が、不意に止んだのだ。

そして、二人が訝しむ間も無く、一斉に飛翔するとどこかへと飛び去っていく。

「逃げるのか?」

そのいきなりの展開に唖然とする風杜。悠輝は鋭く叫んだ。

「風杜!追跡装置だ!!」

「何?」

悠輝は、風杜のスーツの腰を指し示した。

「腰についている、その筒状のパーツを外して投げるんだ、早く!!」

風杜は言われるままに左腰についた筒状の金属塊を取り外すと、勢いよく投げつけた。風杜の手を離れた瞬間、金属塊は形状を変化させ、先端からローター状のパーツを展開して勢いよく回転させながら戦闘員の後を追い始めた。

 

二人は駆け出すと、あらかじめ近くに停車させていた特殊白バイ「ルドラ」に打ちまたがる。そのカウル部の内側には、先ほどの追跡装置からの情報が随時送られていた。

「なるほど・・・・、こいつは便利だな。」

「感心していないで追いかけるぞ!」

風杜と悠輝は、ルドラを始動させると、戦闘員が向かう先へと追跡を開始した。

 


 

「シャドウ・・・パーーーンチ!!」

シャドウは、また一人、蝙蝠型戦闘員の顔面を吹き飛ばす。

地面に転倒する戦闘員の脇をすり抜けるように別の戦闘員が迫る。その戦闘員の首をつかむと強烈な膝蹴りを叩き込む。もんどりうって倒れる戦闘員。

シャドウの周囲には、すでに20を越す戦闘員の死骸が転がっている。

 

「・・・きりが無いな。」

戦闘員の一人に回し蹴りを放ちながら、シャドウは思わず呟いた。

『それにしても、ゴルゴムは一体どこでこれほどの数の戦闘員を・・・。ムッ!?』

 

シャドウは、闇が深まる空から新たな戦闘員の接近を感じ取っていた。と同時にそれとは別にこの公園へと迫る何者かの存在も感知していた。

「何だ・・・これは。」

 


 

「あそこか!」

風杜たちは、一つの公園へとたどり着いた。

「風杜!!アレを!!!」

悠輝が指し示すまでも無く、そこに立つ銀色の戦士を風杜は見間違うはずが無かった。

戦闘員たちの死骸の中心に立つ戦士・シャドウは、風杜たちを見ていた。

「桜の紋・・・警察なのか・・・。」

シャドウはそう呟いた後、周囲の戦闘員との戦いを再開した。正体こそわからないものの、警察ならば敵ではないだろうと判断したのだ。なにより、彼らの闘志は自分よりも周囲の戦闘員へと向けられていた。

事実、その強化服の戦士たちは、戦闘員と戦い始めていた。

 


 

星が瞬き始め、周囲が完全に夜の帳に包まれたころ、激烈な戦闘は幕を下ろした。細かい肉片と化した死骸の外は、溶け落ちて消えていく戦闘員たち。その只中で、シャドウと風杜たちは向き合っていた。

両者とも無言で相手の様子をうかがっている。

 

やがて、シャドウは二人に背を向けて歩き始めた。

「ま、待て!」

風杜の呼びかけにシャドウは歩みを止める。

「・・・シャドウとかいったな、・・・以前。」

その声にシャドウは驚いた。

「この声・・・風杜さん・・・か?」

しかし銀の仮面に隠された表情は決して表に表れることは無い。

「お前は一体何者なんだ。」

シャドウは僅かに振り返って風杜たちを見た後、素早く夜の闇に消えていった。

しばし、その後姿を見送っていた風杜と悠輝だが、ややあってから悠輝が口を開いた。

「・・・どうする、追うか?」

その言葉に風杜は首を振った。

「いや、またすぐに会うことになるはずだ。俺たちがゴルゴムを追い続ける限り・・・な。」

風杜はそう言うとスーツをブレスレットの中に収納した。悠輝も頷いてそれに倣う。

 

二人の頭上には、細い刃のような三日月が神秘的な光を投げかけていた。


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