第7話 新生する闇(後編)


森の中、ある意識が覚醒しようとしていた。

まどろみの世界から、徐々に現実の世界に立ち戻る意識・・・。

 


 

JR中央線・・・。オレンジ色の車体の列車に異変が起こったのは、ゴルゴムの新生宣言が終了するのとほぼ同時だった。

 

信濃町を出発した直後から、運転士との連絡が途絶え、停車駅であるはずの千駄ヶ谷をノンストップで通過した。

列車の管制センターは、この異常事態にすっかりパニックに陥っていた。

「こちらから停車できんのか!」

「ダメです!緊急停車信号を受け付けません!!」

 


 

「今、代々木を通過しました。間もなく新宿駅です!!」

報道ヘリで上空から取材を続けるレポーターは、そのとき異様な光景を目にした。

「・・・!?・・・アレは何でしょうか?列車の窓から何かが放り出されています。・・キャッ!!」

悲鳴をあげてその女性レポーターは気を失った。次々と放り出される物体は、寸断された人の身体で、その生首を直視してしまったのだ。

無論、テレビカメラを通じて、全国にその模様が放送されてしまった。

レポーターの声が消え、ただ、その凄惨な光景だけが延々と流されていた。

 

「・・・北川さん?・・・北川さん?」

「・・・どうやら、レポーターと連絡が取れないようですね。」

スタジオでは、青ざめた表情をしながらも、司会者が放送を続けていた。

「では、ここでゲストの有村さんにお話を伺いたいと思います。・・・有村さんは、テロリストや過激派などの事件に御詳しいとお聞きしていますが?」

眼鏡をかけた細面の神経質そうな男が肯いて答えた。

「・・・ここ数年、日本でも凶悪犯罪が多発するようになっています。少年犯罪の凶悪化、宗教団体を語る過激派団体等、目にあまるものがあります。」

「つい昨年も、ゴルゴムと名乗るテロリストが大規模な破壊活動を行いましたね?」

「ええ、いつの間にか消滅していたとのことでしたが。・・・先の電波ジャックを見る限りでは再び活動を開始したと見るべきでしょうね。」

その時、急に音声が割り込んできた。

「スタジオの日下さん!!」

「・・・どうやら、現場と連絡が取れたようです。・・・北川さん。」

 

ヘリの上では、失神状態から気が付いた女性レポーターが震えながらレポートを再開していた。

「あ、・・・あれをご覧下さい!!」

 

カメラがズームインする先には、列車の車体に取り付いて蠢く、無数の黒い人影が映し出されていた。

 


 

血みどろの列車内。

ちぎれとんだ四肢が散乱し、つり革には手首だけがぶら下がり、シートには下半身だけが座り続けている。

むせ返るような臭気の中、また一人乗客が肉塊と化す。

「・・・ふぅ。たまんねーな、この感触。」

蜘蛛型戦闘員は陶然とした表情を浮かべながら呟いた。

「全くだぜ。思わずイッちまいそうだぁ。」

今一人がそう返す。

彼らがケラケラと笑うその目前には、背後に幼児をかばう制服姿の少女の姿があった。

蜘蛛型戦闘員の目が細くなる。

「へっへ・・・。お嬢ちゃん、中学生かい?かわいいねぇ。」

「おいおい、お前はロリコンだったのか?」

「バカ言うな。熟女も大好きだぜ。」

少女は、震えながらも、キッとした表情で眼前の怪物を見据える。

「そんなにおっかない顔してないでさぁ。・・・どうせ死ぬんだし俺たちと楽しもうよ。・・・な?」

「来ないで!!」

 

叫ぶ少女。窓の外を高円寺のホームが遠ざかっていく。

少女にしがみつく幼女は、あまりの恐怖の為か、あえぐような息をしている。

蜘蛛型戦闘員は肩をすくめると、目の前のつり革にぶら下がった手首を指で弾き飛ばした。宙を飛んだ手首は、少女のすぐ足元に落ちる。

「うっ!」

少女は、こみ上げてくる嘔吐感を必死にこらえた。

口元にいやらしい笑みを浮かべながら、戦闘員は徐々に少女の下へとにじり寄る。

少女はゆっくりと後ろに下がる。そして背中にドアが当たると、幼女を抱きかかえて、次の車両へと飛び込んでいた。

「鬼ごっこかい?」

「それも楽しいかもなあ」

戦闘員は顔を見合わせるとニヤついた表情のままゆっくりと少女の後を追い始めた。

 


 

列車は、阿佐ヶ谷を過ぎ、間もなく荻窪に到着しようとしていた。事件の事を知った野次馬が、線路沿いにひしめいている。

「来た!!」

誰かが叫ぶ、皆が注視する中、列車がこちらにやってくる。小さくしか見えなかったその姿が、徐々に接近してくる。

そして、そのまま勢いを殺さずにホームを通過していく。車体には相変わらず不気味な影を纏わりつかせながら。

最後尾が、ホームから出て行く。

 

更なる異変が起こったのはそのときだった。

突如、爆音と共に何者かが線路脇の防護フェンスの金網を突き破って線路内に踊りこんだのだ。

 

「なんだ!?」

驚き騒ぎ出す野次馬を尻目に、その「何か」は猛然と列車を追いかけ始めた。

 


 

「あれは何?」

北川は、次から次へと展開する、常識を超えた出来事に意識が飽和状態になろうとしていた。

彼女の目に飛び込んできたのは、列車を追跡する一台のバイク。そしてそれを操るライダーの姿だった。

「・・・馬鹿げてる。」

彼女は一瞬自分が幻覚でも見ているのかと思った。全速で走る列車に追いつけるかのようなスピードを出せる非常識なバイクがあるはずが無かった。ましてやそれを操れる人間がいようはずが無い。

だが、テレビカメラはその非常識な存在を、事実として映し出していたのだ。

 


 

「何でしょうか、あれは?」

スタジオでは、カメラからの画像が途中で途切れた為、数秒ほどしか映し出されなかったものの、何かが列車を追跡する模様が放映された。

司会者が首をひねる隣で、有村が呟いていた。

「・・・奴じゃない。・・・誰だ?」

 


 

少女は最後尾の車両に追い詰められていた。背後の幼女は恐怖に耐え切れずに気を失っている。

 

「さあ、鬼ごっこはここまでだ。」

 

「来ないで・・・。」

先程よりも幾分弱々しく少女が声を上げる。

蜘蛛型戦闘員達は、唇の端から涎を垂れ流しながら少女ににじり寄る。

少女の肩に剛毛の生えた腕がかかる。

 

ゴウン!!

 

突如響き渡る轟音。それに驚く暇もなく少女に手をかけていた蜘蛛型戦闘員が吹き飛ぶ。凄まじい勢いで天井に頭から突き刺さった戦闘員はしばらく痙攣した後、やがて列車の振動に合わせて揺れるだけの物体へと化した。

 

「・・・な・・・何だ貴様は?」

少女は、呆然としながら、自分をかばい蜘蛛の化け物の前に立ちふさがった銀色の背中を見つめた。

目を上方に転じると、髑髏のような頭部が自分を見つめていた。

「・・・!?」

銀色の怪人はその緑の目で少女を優しく見つめていた。少女はその怪人への恐怖感が薄れると同時に安堵の気持ちが湧き上がってきた。力が抜けたかのようにその場にへたり込む。

「大丈夫かい?」

優しい声だ。少女は肯いた。怪人は少女から蜘蛛の化け物へと視線を移した。

少女がゆっくりと振り返ると、列車の後部に穴があき、そこにバッタのような形状のバイクがあるのを見た。赤銅色のバイクは、傷一つなく輝いている。

 

蜘蛛の化け物は、銀の怪人に怯みながらも口から大量の糸を吐き出した。

怪人はその攻撃を手刀で払いのける。その手が緑色の燐光を放っている。

 

蜘蛛型戦闘員はにわかに恐怖を覚えたのか、身を翻すと前方の車両に向けて逃げ出していた。

怪人は少女の側にかがみこんだ。

「怪我はないかい?」

「は・・・はい。」

怪人は了解したように肯くと立ち上がった。

「もう少しだけ待っていて。・・・もうすぐここから出られるからね。」

怪人はそう言うと逃げた戦闘員を追うべく駆け出していた。

 


 

「何?邪魔者じゃと!?」

運転席で、事切れた乗客の女性をもてあそんでいた老人が、眉を吊り上げた。

「はい、古川翁。どうもサイボーグらしいのですが。」

「馬鹿な。」

古川は鼻で笑った。

「我々ゴルゴム以外に、サイボーグが存在するはずがあるまい。」

そういいつつ古川は急にぎくりとした表情を浮かべた。

「・・・まさかブラックサンか!?」

戦闘員は頭を振った。

「いえ。姿は似ているものの、別物かと。体表の色は銀色でした。」

「銀か・・・ならば恐れる事は無い。車内車外の全戦闘員の力でひねり潰してやれ!」

「ははっ!!」

蜘蛛型戦闘員は、仲間をかき集めつつ再び後方へと向かっていく。それを目の端に捕らえながら、醜悪な風貌の老人は口から桁外れの長さの舌を伸ばすと女性の身体を舐り始めた。

 

後部の車両から激しい喧騒が響く。ややあってから、音が小さくなっていき、やがて消えた。

 

「始末したようじゃな。・・・しかし、いったい何者だったのか・・・。」

器用に、舌を休み無く動かしながらしゃべる奇怪な老人は、別の死体に手を伸ばそうとした。・・・が。

「ん?何じゃ??」

 

列車がレールの継ぎ目をかむ音に混じって、何か別の音が聞こえる。

 

「靴音か?・・・馬鹿な。」

結構な騒音の中、靴音など聞こえるはずは無い。だが、老人はただの人間ではない。古川は、体を起こすと運転室から車内へと足を踏み入れた。

靴音は徐々に大きくなっていく。

 

「聞こえる・・・聞こえるぞ!?」

老人が身構える。ほぼ同時に扉が開くと、銀の怪人が姿を現す。その姿を見て、一瞬老人の体が硬直する。

 

「あ・・・あなた様は!?」

無言で立つ怪人を凝視する老人。しかし不意に笑った。

「・・・なんだ。違うか。」

老人はにやけた顔のまま銀の怪人に問いかけた。

「どうやら、戦闘員どもは全滅したようじゃな。」

「・・・そういうことだ。」

怪人が答える。老人は肩をすくめた。

「やれやれ、では、儂が相手するしかないようじゃな。・・・いっておくが、儂を雑魚どもと同じと考えぬことじゃ。」

銀の怪人は、さして感銘も受けなかったかのように無言だった。

「・・・かわいげの無い奴め。最後に名を聞いておいてやろう。」

古川は不機嫌そうな表情で尋ねた。

「仮面ライダー。」

古川の額に青筋が浮かぶ。

「なにぃー?」

「仮面ライダー シャドウ!!」

銀の怪人=シャドウはファイティングポーズをとりつつ叫んだ。

「不愉快な名を名乗りおって!よりによって仮面ライダーじゃと!?」

老人の体が徐々に膨れ上がっていく。

「その名を名乗ったことを地獄で後悔させてやろう!!」

 

古川だったものは巨大な蛙の怪人へとその姿を変身させていた。

「死ね!!」

蛙と化した古川は狭い電車内を驚異的な速度で跳躍し始めた。

床を、天井を、窓をそして座席の上を。

「クックック。どこの組織が改造したのかは知らぬが、このスピードにはついてこれまい。」

そういって哄笑する古川の眼前にシャドウが姿を現す。

「ぬ!?」

そして驚く蛙怪人の顔面に鋭い手刀を叩き込む。

「ギャ!」

のけぞる怪人の膨れた腹に、容赦ない蹴りを叩き込む。

「ゲフゥ!???」

ボールのように吹き飛んだ蛙怪人は、ドアを突き破って次の車両に転げ込んだ。

よろめきながら立ち上がる怪人。口からはおびただしい量の血が溢れている。

「な・・・何故だ??・・・何故儂の動きが・・・。」

脂汗を滴らせながら呻くように呟く怪人の前に、シャドウが壊れたドアをくぐって姿を現す。

「・・・もうすぐ八王子だ。・・・それまでにけりをつけてやろう。」

その台詞に蛙怪人はいきり立った。

「なめるなよ小僧!!」

蛙怪人は、体の至る所にある突起状の器官から粘液質の物体を発射してきた。

「ム!」

シャドウがかわすと、その物体はその背後のつり広告を直撃した。異様な臭気とともに、溶け落ちる広告。怪人は勝ち誇ったように笑った。

「うまくかわしおったな。だが次は避けれぬぞ、見よ!!」

「・・・これは!?」

いつの間にか、足元に伸びてきていた怪人の体液の一部が、シャドウの足を列車の床に接着していた。

「クックック。儂の出す汁が、溶解液だけと思うなよ!・・・今度こそあの世に送ってやるわい!!」

 

その時、怪人が鼻をヒクつかせた。

「む?・・・まだ生き残りがいるのか?・・・しかも、この匂いは・・・女か!!」

蛙怪人の顔が喜悦に歪む。対照的にシャドウは血の気が引くのを感じた。

「クックック、ヒヒヒ。・・・そこで待っているがいい。貴様の始末は後回しじゃ。・・・まずはじっくりと楽しませてもらうとしよう!!」

「ま、待て!!」

シャドウに一瞥をくれると蛙怪人は跳ねながら後方の車両へと消えていく。

「く・・・このっ!」

だが、どんなに力を込めても、ゼリー状になった分泌液から足をはずすことができない。

「このままでは、あの子達が・・・。」

その時、かつてタガメ怪人との屋上での戦いが思い出されてきた。

「そうだ!・・・あのときのように・・・。」

シャドウはベルトの上で両拳を合わせ精神を集中させた。

 

「キングストーンフラッシュ!!」

その叫びとともに眩いばかりの緑の光が車内を照らす。

ゼリー状の物質は徐々に消え去ってゆく。

 

 

少女は、突如前方のドアから入ってきた醜悪な蛙の化け物によって、あっけなく捕らわれてしまった。怪人は、少女の両手を一まとめにして壁に押し付けると、そこにあのゼリー状の物質を噴射した。

「イヤッ!!」

その声に、これ以上ないほど満悦した表情を浮かべた蛙怪人は、その舌を伸ばして、少女の顔を舐め始めた。

「ヒヒヒ。たっぷりと可愛がってやろうねぇ。」

怪人は、少女から少し離れるとまた別の液体を噴射した。その液体がかかったところから、白い煙を上げて少女の衣服が溶け始める。少女は青ざめた。

「い・・・いや・・・イヤぁ!!」

「ククク、もっと。もっとその可愛い声を聞かせておくれ!!」

 

怪人は、徐々に露になる少女の素肌を、丹念に舐め上げる。白い美しい肌の上を、ナメクジが這ったような跡が汚していく。

「さあ・・・もっと・・・」

「この変態が!!」

鋭い声とともに強烈な回し蹴りが蛙怪人の側頭部に炸裂する。

「クキィ!?」

窓ガラスを砕きながら危うく車外に吹き飛ばされかけた蛙怪人は舌を伸ばして網棚の支柱に絡ませ、車内に戻ってきた。

「き、貴様!?どうやって。」

シャドウは、手刀で少女を戒めていたゼリー状の物質を引き裂いた。眩く光り輝く緑の閃光に触れた瞬間、物質は跡形もなく消え去った。

シャドウは間髪要れずに振り返ると、容赦ないパンチ連打を蛙怪人に浴びせる。

「ゲヨゲヨ!!・・・ゲキョ!??」

ぼろ雑巾のようになった蛙怪人に向かってシャドウは跳躍した。

「シャドウパーンチ!!」

腕の半ばまでが蛙怪人の腹部に突き刺さる。

引き抜くと、まるで水の入った袋を引き裂いたような音が響いた。

「・・・グブッ。」

吐血する蛙怪人に更なる攻撃が繰り出される。シャドウの両足が眩い輝きを放つ。シャドウは再び跳躍した。

「シャドウキーック!!」

その稲妻のような蹴りは蛙怪人の体を両断していた。

 

少女に駆け寄るシャドウの背後で、蛙怪人と化した古川が人の姿に戻りつつあった。

「・・・・神二様・・・若ーっ!!」

そう絶叫すると古川は溶け落ちていった。後には腐臭を放つ奇怪な液体だけが残されていた。

 

気を失った少女に駆け寄って、その体に外傷のないことを確かめたシャドウは、比較的汚れていない他の乗客の衣類を選んでそっと少女にかけてやった。

その傍らには少女が守り抜いた幼女も寄り添うように眠っている。シャドウは頷くと立ち上がった。

「・・・後は、この列車を止めないと。」

シャドウは運転室へと駆け出した。

 


 

「・・・古川?」

廃校の校長室では古畠が呟いていた。

「どうされました若?」

鬼堂が怪訝そうな顔でたずねる。古畠は苦笑した。

「いや、なんでもない。・・・それよりも、これより私は、本部に戻る。お前は捕らえた少女らを連れて、例の地下アジトへと先に移動するのだ。」

「は!」

畏まる鬼堂をその場に残し、古畠は今一人の青年とともに部屋を後にした。

「直哉・・・お前は、あの娘を連れて研究所に行け。」

「了解しました神二様。・・・しかし、捕らえた娘たちの中に、まさかこんな拾い物があるとは驚きです。」

その言葉に古畠は肯いた。

「・・・秋月杏子・・・シャドームーン様の妹君か・・・。」

二人は、しばし無言で歩いた後、一つの部屋の前に立っていた。

 


 

鬼堂は大型のトレーラーを運転し廃校の地下に設けられた非常用通路を走行していた。

この通路は、地下2000メートルに設置されており、東京湾の沖に存在する人工島へとつながっている。

トレーラーのコンテナには、バスジャックによって拉致してきた少女たちが囚われていた。

改造手術に適応できるかのチェックを終えた彼女らは、人工島にある改造施設で、サイボーグに生まれ変わるのだ。

 

「ん?何だ?」

鬼堂は前方に人影を確認し速度を落とした。その人影の細部がはっきりわかる距離になると鬼堂はサングラスの奥の目を大きく見開いた。

「あいつは!」

鬼堂はブレーキを踏むとトレーラーのエンジンを切った。天井部のハロゲンライトと、トレーラーのライトに照らし出されているのは、一人の少年だった。

鬼堂はトレーラーから降りるとその少年に歩み寄った。

「貴様・・・生きていたのか。」

「・・・お前は、・・・あの時化け物たちに命令していた・・・・。」

鬼堂はフンと笑った。

「あれだけ蜘蛛型戦闘員に痛めつけられながら、生きていたとはたいしたものだ。・・・だが。」

鬼堂はサングラスを外すとその顔をびっしりとした鱗が覆い始めた。

「のこのこ出てくるとは馬鹿な奴だ。」

奇怪な蜥蜴の化け物へと変身を遂げた鬼堂が少年に飛び掛る。ハンマーのような拳が繰り出される。だが、少年はその攻撃を両腕を交差させて防いだ。

「何だと??」

驚く蜥蜴怪人を、少年は投げ飛ばす。

「バ・・・バカな!」

驚愕に顔をゆがめる怪人の目の前で少年が叫んだ。

 

「変身!!」

 

「な・・・なにぃぃぃぃ!!」

トンネル内のオレンジ色を打ち消すかのように蒼い光が放たれる。

「クッ!」

鬼堂が目を細めながら光源を探ると、少年の腰に、輝く青い宝玉をはめ込んだベルトの存在を認めた。

「あ・・・あれは・・・まさか!!」

 

少年は戦士へと変貌を遂げていた。全身を覆う緑色の外骨格状の装甲。その姿は、鬼堂が良く知る二人の世紀王の姿に酷似していた。

鬼堂はふと気付いた。

「・・・まさか!Eタイプソルジャー??・・・しかし黒い宝玉ではない・・・蒼い?」

鬼堂は頭を振ると戦士につかみかかった。

「貴様・・・再誕手術を受けたのか?・・・一体誰が!!」

「答える必要は無い!!」

戦士の拳が蜥蜴怪人のボディに叩き込まれる。

「ゲフ・・。」

だが蜥蜴怪人は逆にその腕をしっかりと抱え込むと、長大な尻尾を戦士に巻きつけ始めた。

「!!」

「クックック・・・蜥蜴は逃げることにしか使えぬ尻尾でも、人間の知能を持つこの蜥蜴怪人にかかれば、こういった便利な道具に早変わりするわけだ。」

「しまった・・・。」

尻尾は何重にも巻きつく。完全に身動きが取れなくなるぐらいがんじがらめに巻きつくと、蜥蜴怪人は自分から尻尾を切り離した。

本体から離れても戦士を拘束したままの尻尾。そして蜥蜴怪人には、すぐさま尻尾が生え始めていた。

「・・・クックック、面白いサンドバッグだぜ。」

鬼堂は先ほどの礼とばかりに、容赦ない殴打を戦士に加える。

 

「ゲホッ!?」

咳き込みつつ苦鳴をもらす戦士に、なおも攻撃が加えられる。

「ククッ。所詮は戦闘員に毛が生えた程度の能力しかないEタイプの分際で、俺の前に立ちはだかるからこうなるのさ。」

鬼堂は攻撃の手を止めると、トレーラーを振り返った。

「あの中のお嬢様連中も、タイプEになる為に運ばれるんだ。・・・お前もこのまま生け捕りにして再改造してやる。」

「・・・・・・させない。」

戦士の呟きに蜥蜴は顔をゆがめた。

「あーん?何だと?」

戦士の目が光った。

「彩乃を・・・その友達を・・・化け物になんてさせない!!」

戦士の目が光る。そしてそのベルトが高温を発して尻尾を焼き切る。

「何だと!!」

尻尾の残骸を投げ捨てながら、戦士は、驚きのあまり動きが一瞬止まった蜥蜴怪人に飛び蹴りを浴びせる。

「バ・・・バカな・・・この攻撃力・・・。」

戦士は一度間合いを取るとベルトの前で拳を交差させる。その瞬間、戦士の外皮が緑から金色に変化した。

「・・・!!」

そして、蜥蜴怪人に向けて突進しながら拳を突き出す。その拳は黄金の矢となって蜥蜴怪人の胸板を貫いた。

「・・・そんな・・・そんなはずは無い。タイプEの攻撃力が・・・怪人の力を上回るなど・・・。」

蜥蜴怪人は最後の力を振り絞って戦士の首を絞めた。

「・・・き・・・貴様は・・・何なんだ・・・。」

その言葉を大量の血と共に吐き出すと蜥蜴怪人は突如発火炎上した。

 

戦士は怪人の身体が燃え尽きるのを確認すると、トンネルの奥に呼びかけた。

「博士!・・・ターゲットを片付けました。・・・早く女の子たちを。」

その声にトンネルの奥から白衣の人物が駆け寄ってきた。

「解った、この先に地上への非常路がある。・・・さあ鷹志君、君も助手席に早く。」

「はい!」

二人はトレーラーに飛び乗るとトンネルの中を急発進していった。

 


 

「・・・こちら、北館入口・・・現在仮面ライダーと交戦中・・・至急・・・増援を・・・ギェー!!」

内線に取り付いていた蜘蛛型戦闘員はその首筋に手刀を叩き込まれ倒れた。

その腕をひねりあげながら仮面ライダーBLACKは詰問した。

「言え!さらった少女たちは何処にいる。」

「・・・だ、誰が・・・言うものか・・・。」

BLACKはさらにひねる力を強める。

「わ!わかった!!・・・言う・・・言うから離せ・・・ウッ!」

BLACKがハッとしてその怪人を見ると、その首筋に何かが突き刺さっている。BLACKはそれを引き抜いた。

「羽根?」

その時何処からともなく笑い声が響いてきた。

「何者だ!!」

BLACKは声を出所を求めてあたりを見回した。

「・・・!・・・グラウンドの方向か!!」

 

BLACKがグラウンドに向かって走ると、前方からまるでダーツのように羽根が襲い掛かってくる。

「クッ!」

その攻撃を左右のステップでかわしながらBLACKは突き進んだ。

「そこか!!」

BLACKが上方を睨む。

そこには小脇に目隠しをした女性を抱えた鳥の怪人が翼を羽ばたかせて浮遊している。

「・・・ようこそ、仮面ライダー。・・・残念ながらさらってきた少女らはもう既に別の場所に移させてもらったよ。」

「何!!」

「後は・・・この娘を運ぶだけ・・・。・・・蝿型戦闘員!!」

その鳥の怪人の声に騒々しい羽音を立てて左右から醜い化け物が現れた。

「お前たちはこの娘を連れて先を急げ。・・・くれぐれも丁重にな。」

「ハハッ!!」

「お任せを!!」

蝿型戦闘員は、二人がかりで少女をぶら下げると多少よたつきながらも飛び去っていく。

「・・・まだ飛翔能力には改善の余地あり・・・か。」

「ま、待て!!」

BLACKの叫びに、怪人は視線をBLACKへと向ける。

「貴様の相手は俺がしてやるよ。」

怪人は自分の羽根を一枚引き抜いた。

「この、隼怪人がな!!」

 


 

「・・・黒巣様・・・そろそろお時間です。」

黒巣は、不満げに肯いた。

「反応があったのは確かなのだけどね・・・。仕方ない、私は神二様と共に行く。お前たちは引き続き探索を続けるのよ。」

「ははっ!!」

妖女は、もう一度だけ背後の森を振り返ると、そのまま歩み去っていった。

 


 

蝿型戦闘員は、少女を抱えたまま飛行していた。

「ん?」

片割れが、妙な声を発した。

「どうした?」

「・・・いや、今視界に、何か妙なものが」

「妙なもの?」

もう一方が首を回転させて周囲を探る・・・。

「・・・別に何も・・・。」

最後まで言い終える事ができずにその戦闘員の頭が吹き飛ぶ。

「な・・・。」

急にバランスを崩し、片割れは危うく少女を落としそうになりながら、何とか姿勢を立て直すと、地面に着地した。

「・・・一体・・・。・・・うおっ!?」

もう一体と同様に頭部を弾けさせながら、吹き飛ぶ戦闘員。そして支えるものがいなくなって崩れ落ちようとした少女を、何かが支えた・・・。

 


 

「どうした?最強の改造人間の名が泣くぞ!!」

自在に宙を舞い、続けざまに鋭い刃物と化した羽根を飛ばしてくる隼怪人に対し、防戦一方に追い込まれるBLACK。

「くっ・・・!」

反撃を試みて、何度か跳躍するが、その跳躍ですら届かぬ高空に逃げる隼怪人を捉えることができない。

 

『・・・せめて・・・せめてもっと高く飛べれば・・・。』

隼怪人は不敵に笑った。

「そろそろ遊びは終わりだ。・・・貴様の五体を引き裂いて、キングストーンを頂く!」

その言葉が終わると同時に隼怪人は急降下した。

「何!?」

そして凄まじいスピードでBLACKを捕らえると上空高く舞い上がる。

「く・・・!」

「フフフ。いかな貴様とて、この高さから落とされれば、ただではすまんぞ。・・・・サラバだ。ブラックサン!!」

隼怪人は唐突に手を離した。

「!!」

BLACKの体が落下を始める。そのまま徐々にスピードを増しながら・・・。

『・・・この高さでは、落下ダメージを完全に消し去ることはできない・・・。・・・くそっ!!』

 

「ククッ。・・・やったぞ。・・・俺はあのブラックサンを倒したのだ。」

勝ち誇る隼怪人は、BLACKを追いかけて羽ばたいた。

 

その時、緑の風が走った。そして、激突寸前だったBLACKの体が消える。

 

「何・・・あれは!?」

 

隼怪人は我が目を疑った。

BLACKもまた、信じられない面持ちで自分を激突から救いその背に乗せてくれた存在を見つめた。

「・・・バトル・・・ホッパー・・・なのか?」

その擦れる様な言葉に、緑の相棒は両眼を点滅させて答えた。

「バトルホッパー!!・・・生き返ったのか!!」

BLACKは、喜びの感情と共に、体中に力が漲るのを感じた。

「再び、一緒に戦ってくれ!・・・行こう!!」

BLACKはアクセルを吹かすと隼怪人に向け突進を開始した。

 

「・・・そんな・・・そんなはずは無い!!・・・バトルホッパーはシャドームーン様が・・・ハッ!?」

隼怪人が呆然としているうちに、BLACKを背に乗せて、バトルホッパーは高くジャンプしていた。

「しまった!!」

「遅い!!」

バトルホッパーからライダーキックを放つBLACK。その鋭い蹴りは、隼怪人の左右の羽を切り裂いていた。

「ギェェェィ??」

落下し地面に激突する隼怪人。そこに間髪いれずにバトルホッパーが体当たりを加える。

「ヌァッ!?」

地面に叩きつけられ意識が朦朧とする隼怪人に、再びバトルホッパーに跨ったBLACKが迫る。

「ヒィオイィィィイィィ!!」

奇声をあげ逃げようとする怪人に一体となった勇者の一撃が炸裂する。

「た・・・助け!!」

 

「必殺・ダイナミックスマッシュ!!」

 

「ギョヒィーーーー!!」

吹き飛ばされながら直哉の姿に戻り崩壊していく隼怪人。・・・後には大量の羽根だけが残されていた。

 

「・・・バトルホッパー。」

万感の思いを込めて、再び語りかけるBLACKに、バトルホッパーがせわしなく両眼を点滅させる。

「・・・?」

バトルホッパーは急に自分の意思でBLACKを乗せたまま走り出した。

「・・・どこかへ案内しようって言うのか?」

 


 

「・・・今、停車した列車内に機動隊が突入していきます。」

 

八王子駅を少し通過したあたりで、暴走していた列車は停車した。

踏み込んだ警官すら吐き気を催すような惨状の中で、彼らはおびただしい数の被害者と共に、正体不明の生物の死骸を多数発見していた。

 

「・・・酷いな。」

村上は、M.A.S.Kから合同捜査のために八王子に訪れていた。

「おーい翼!・・・こっちに生存者だ!!」

荒木が叫ぶ。

「生存者?」

村上は声のするほうに急いだ。

そこでは、泣きじゃくる幼女と、その背をしっかりと抱きしめた少女が荒木に背広をかけられていた。

「大丈夫かい?・・・怪我はしていないか?」

「はい・・・大丈夫です。」

震えてはいるものの、しっかりした返事が返ってきて村上はホッとした。

「一体何があったか、話してくれるかい?」

「・・・怪物が襲ってきて。・・・皆・・・皆、殺されて・・・・。」

荒木と村上は顔を見合わせた。

「・・・やはりゴルゴムの?」

「多分な。」

二人は厳しい顔でうなずく。

「・・・でも。」

少女の声に二人は少女を覗き込んだ。

「でも?」

「・・・助けてくれたんです。・・・あの銀色の人が。」

二人は、再び顔を見合わせ同時につぶやいた。

「銀色の人?」

 


 

高尾山の某所にトンネルの非常出口は隠されていた。

少年・鷹志は、ようやく解放されて喜び合う少女たちを遠目に眺めると、博士を促して立ち去ろうとした。似合わないサングラスをかけて顔を隠した鷹志は、少女らに背を向けた。

 

「いいのかい?・・・あの子に別れを告げなくても。」

博士に言われて鷹志はもう一度だけ少女らを振り返る。その時、少女・彩乃と目が合った。あわてて目をそらす少年。少女はあっと叫んで駆け寄ってくる。

少年は走り出そうとした。が、東がその手をとって引き止める。

「博士・・・。」

「しばらく、日本を離れるんだ。・・・心残りは無くしておきなさい。」

少女は、少年の元に駆け寄ってきた。それと同時に博士は二人から離れる。

 

「・・・鷹志。」

「無事で・・・無事でよかった・・・。」

少女はぎこちない笑みを浮かべた。

「いろいろ検査みたいなことはされたけど、変なことはされなかったから・・・。」

「そっか・・・。」

しばし沈黙の時が流れる。

少女が口を開いた。

「・・・鷹志が助けてくれたんだね。」

少年はそれには答えずに少女に話しかけた。

「彩乃・・・。俺・・・俺さ、しばらく日本を離れなきゃいけなくなった。」

少女は無言で少年の言葉を聞いている。

「彩乃たちをさらった奴等の重要な拠点のひとつがオーストラリアにあるらしい。・・・俺は・・・そこをつぶしに行く。」

「・・・なんで、・・・なんで鷹志が?」

震える声で少女が問いかける。

「・・・・。」

少年は答えられなかった。そして、そのまま少女に背を向ける。

「・・・もう・・・行かなきゃ。・・・・元気でな。」

少年は歩き出す。

「待って!!」

少年は立ち止まった。少女は少年に駆け寄るとポケットから包みを取り出して少年に手渡した。

「これは・・・?」

「・・・開けてみて。」

少年が包みを開くとそこには・・・。

「・・・風呂敷?」

「馬鹿!!バンダナだよ!!」

「・・・これ・・・俺に?」

少女は答えずに指を突きつけた。

「な、な・・・。」

「あんたへのプレゼント。・・・・お返しは来年のボクの誕生日まででいいから。」

「いや、あのな・・・。」

「いい!絶対にお返ししてよ。・・・ボク・・・待ってるから。・・・勝手にどこかに行ったりしないでよ。・・・絶対に・・・絶対に戻ってきて。」

少年は黙ってうなずいた。

 


 

バトルホッパーに導かれるままに、BLACKは森の中を走った。

やがて一本の木の根元に案内されたBLACKは、そこに一人の少女の姿を見た。

「・・・!・・・さっきの。」

BLACKはバトルホッパーから降りると変身を解き、少女の下へと駆け寄った。

少女にかけられた目隠しをとる。光太郎は硬直した。

「・・・杏子・・・ちゃん。」

その声に、杏子が目を開ける、そしてその顔が驚きの表情を浮かべる。

「光太郎さん・・・。」

「どうして・・・どうして日本に?」

「光太郎さん!!」

杏子は、涙を溢れさせながら、光太郎にしがみついた。

光太郎は、戸惑ったものの、優しい表情を浮かべて杏子の体を抱きしめた。

そんな二人の姿を、バトルホッパーが見守っている。

 

 

戦いの始まり。

出会いと再会。

 

運命の歯車は、若者たちを乗せたまま、高速で回転し始めていた・・・。


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