第3話 雨と少女(中編)


アスファルトの道路に水滴が落ちる。

一つ、二つ・・・・、最初は点だった染みは、瞬く間に面となり、激しい雨音と共に水溜りを、方々に形成していく・・・。

 

 

「・・・雨か。」

青年は、ぼんやりと空を見上げた。くすんだ灰色に覆われた空は、徐々にその暗さを増してゆく。

 

青年の名は、信彦。それ以外の事を彼自身は覚えていない。自分の苗字も、年齢さえも・・・。

ただ、妹が一人いたらしいことだけが、彼が唯一所持していた写真からわかっている。

 

 

信彦は、コンビニの外に置かれたベンチに座り込むと、目を閉じた。

彼の思考は、半年前へと飛んでいた。

 

悪夢のような怪物の狂宴、殺戮と共食いの地獄が繰り広げられた洞窟から、彼が外界へと脱出を果たすと、そこには、荒地が広がっていた。

 

降りしきる雨の中、悪路と化した荒野を、背後に乗せた女性を気遣いながら、注意深くバイクを走らせる信彦。

少し進むと焦げ臭い臭いと、オイルの臭いが入り混じったなんともいえない臭気が漂ってきた。

「何だ?」

 

彼がその臭気の元をたどりながらゆっくりと進むと、やがて、前方に何かの残骸が見え始めた。

「・・・何・・・!?・・・これは!!」

 

そこに横たわっていたのは、今現在、彼が跨っているバイクと、色こそ違えど全く同型のバイクだった。

 

「どういうことなんだ?・・・このマシンは一体・・・。」

彼のマシン・ロゥカストは自らの意思でそのバイクへと近づくと、停止した。

信彦は、ロゥカストの背から降りて、その残骸の傍らにかがみ込んだ。

 

「・・・熱ッ!」

急に腹部に熱さを感じた信彦は、いつのまにか、自分の腰に、謎のベルトが出現している事に気づいた。

「また、このベルトか・・・。」

そう呟くのとほぼ同時にベルト中央の宝玉が緑色の光を放つ。同様にロゥカストの両眼も目まぐるしく明滅した。

その様子を、女性・マーラは静かに見守っている。

 

やがて光が消えると、そこには新品同様に復元された、緑色のバッタ型バイクが横たわっていた。

信彦が、そしてマーラとロゥカストが見守る中、バイクは自力で起き上がった、そして、そこに信彦の姿を認めると、脅えたように後ずさりした。いやいやをするように、小刻みにハンドルが揺れる。その様子を見た信彦は、何故かは解らないが、胸に痛みを覚えた。

 

「・・・僕が怖いのか?・・・もしかすると、君をそんなにしてしまったのは僕なのか?・・・教えてくれ、僕は、僕は誰なんだ!」

緑色のそのマシンは、戸惑ったかのように何度か両眼を点滅させた。

その様子を見て、信彦は寂しそうな表情で口を開いた。

 

「・・・すまない。・・・君はどこかに行きたがっているようだね。・・・いいよ。お行き。おそらくは、君を待っているであろうその人の元へ。」

 

バイクは、二、三度両眼を点滅させると、Uターンして走り去っていった。

 


 

「信彦様?」

そう声を掛けられて、信彦は、ハッとして目を開けた。

そこには、ビニール製の買い物袋に食料品などを買い込んだ女性が立っていた。

「マーラ・・・いや、あゆみ。」

あゆみと呼ばれた女性は微笑を浮かべた。

 

彼女は、あの脱出行から半年立った今も、亡き姉との約束を守って信彦に付き添っていた。

各地を転々としながら、過去を探す信彦を支え続けてきたのだ。

信彦は苦笑をしながら立ち上がった。

「すまない。少し居眠りをしてたみたいだ。」

女性は頷くと買い物袋をベンチに下ろした。

「・・・さてと、今日も僕の過去につながる情報はなかったね。・・・そろそろ、この町を去る潮時かな。」

「・・・そうかもしれませんね。」

あゆみは寂しそうに微笑んだ。彼女自身は、信彦の正体についてほとんど正確に把握していた。・・・そう、ある意味彼女はこの半年の間、信彦を欺き続けてきたことになる。

 

しかし、信彦の過去は、今の信彦にとって到底受け入れられないほどの過酷なものである。

ゴルゴムの世紀王として改造され、親友だった、南光太郎=仮面ライダーと死闘を繰り広げた。

そして、操られていたとはいえ、彼の指揮した作戦で多くの人々が不幸になっていったのだ。その中には、彼の妹も含まれている、そして、彼の恋人も・・・。

これらの事実を告げる事はたやすい。だが、それを告げたとき、彼がどれほどの衝撃を受けるだろう。・・・そう思うと、彼女は胸を締め付けられる思いだった。

 

世紀王シャドームーンの侍女怪人となるべく改造された彼女ら姉妹は、主に戦闘よりも、治療や支援が専門の怪人である。

他の怪人達とは、その存在理由が根本的に異なる為に、残虐になりきれなかったのだ。

それどころか、彼女ら姉妹の、そして多くの人の人生を狂わせてきたゴルゴムに対して憤りすら感じ始めていた。

 

そしてまた、それらの感情とは別に、もう一つの感情がこの半年の間に彼女の内に育まれていた。

 

「・・・そろそろアパートに変えろうか。・・・あれ?」

信彦の言葉に現実に引き戻されたあゆみは、信彦の視線の先を追った。

 

コンビニの向かい側にある幼稚園で、一人の園児が玄関で立ったままじっとこちら側を見つめている。

「・・・あの子、僕らがこのコンビニに来た時からずっとああしてるな・・・。」

「そういえば、そうですね・・・。」

 

信彦は、ゆっくりと道路を渡って幼稚園の中へと入っていった。

「!?信彦様!!」

あゆみも慌ててその後を追う。

 


 

「郁子ちゃん。お母さんはもう少ししたら迎えに来てくれるそうよ。」

保母らしい女性が、女の子にそう語りかけている。女の子は寂しそうに無言で頷いた。保母は、にっこり微笑むと、門の方へと歩いてきた。

「あの・・・。」

信彦はその保母を呼び止めた。急に声を掛けられてぎょっとした保母は、訝しそうに信彦を見た。

「何か御用ですか?」

「あ・・・いえ、あの女の子どうしたんですか?」

保母は、信彦を頭のてっぺんからつま先まで眺めてから口を開いた。

「失礼ですが、どちら様ですか?」

「あ・・・その、通りがかりの者なんですけど、あの、怪しいものじゃないです。」

「・・・充分怪しいです。信彦様。」

後ろに追いついた、あゆみが、溜息混じりにそういった。

「そう・・・かな?」

まるで、コントのような二人の様子に、保母は少し警戒を緩めたようだ。

「すみません。警戒させてしまって。・・・あの子、ずいぶん前からああして待っているようで気になったもので。」

保母は、重い溜息を一つつくと口を開いた。

「・・・いつもそうなんです。あの子のお母さん、最近離婚して一人で仕事をしながらあの子を育ててるんですけどね。・・・時間が不規則な職場らしくって、お迎えの時間を過ぎてもなかなか向かえに来なくって・・・。」

「・・・そうだったんですか。」

信彦は相変わらず傘をいじりながら門の方をじっと見ている少女をみた。

「私たちも、園児全員が帰るまでは、残っていないといけないので・・・ホントいうと少し困っているんです。」

 

信彦は、保母たちと共に少女の元に近づいていった。少女は不安そうな瞳で信彦を見上げる。信彦は笑顔を浮かべると少女の横にしゃがみこんだ。

「こんにちは!」

「・・・もう、こんばんはの時間だよ。」

「そっか!じゃあ、こんばんは。」

「・・・こんばんは。」

「僕の名前は信彦。君のお名前は?」

「・・・郁子。」

「郁子ちゃんか。・・・どうだい、お母さんがお迎えに来るまで、お兄ちゃんと遊んでようか?」

少女の顔が明るく輝く。

「ホント?」

信彦は頷いた。

「ホント。何をしようか?積み木かな。それともお絵かきしようか?」

「郁子、お絵かきがいい!」

「ようし!じゃあクレヨンを取りにいこうか!」

「うん!」

信彦は少女と教室の中へと入っていった。

「ちょっと!困ります!!」

保母は慌てた。

「・・・いいじゃないか。」

ギョッとして保母が振り返るとそこには痩せた初老の男が立っていた。

「園長先生・・・。でも・・・。」

園長は微笑んで首を振った。

「長年いろんな人をみてきたからね、その人が悪人かどうかなんてなんとなくわかるもんなんだよ。・・・彼なら心配いらんだろう。」

彼らの視線の先では、大きな画用紙に向かって並んで何かを書いている信彦と少女の姿があった。

「・・・それに、このまま一人で残すとまた一人で帰ってしまうかもしれない。2年前のあの子のようにね。・・・私はもう、あんなつらい事件はゴメンだよ。」

「事件?」

あゆみの問いかけに園長先生は苦笑を返すと、玄関に向かって歩き始めた。

「どれ、私も混ぜてもらうとするかな。」

「園長先生!!」

保母もその後を追った。一人残された形になったあゆみは、園長の言った言葉が、妙に引っかかっていた。

「・・・事件?」

その時、彼女の背筋に悪寒が走った。

咄嗟に振り返った彼女の目に、一瞬黄色いレインコートの裾が写った。

『・・・レインコート?』

思わずその後を追いかけようとした彼女だが、入れ替わりに入ってきた女性とぶつかりそうになり追跡を断念した。

「すみません・・・ぼんやりしていたもので。」

「いえ・・・。」

頭を下げる女性にあいまいな返事を返しながら、周囲に神経を集中させる。

『・・・消えた・・・か。』

彼女が再び園内に目を転じると、先程の女性が信彦に頭を下げているのが見えた。どうやらあの女の子の母親らしい。

しばらくすると、三人が並んで外に出てきた。

女性は、あゆみにまた頭を下げた。

「先程はどうも。・・・うちの娘がお世話になったようで。」

「いえ、わたしは何も・・・。」

「郁子ちゃんの家、どうやら僕たちのアパートの近所らしいんだ。もう暗いし、途中まで送っていこうと思うんだけどいいかな?」

あゆみは微笑んで頷いた。門を出て、四人は歩道を歩き始めた。

・・・と、急に信彦が幼稚園を振り返った。あゆみもその視線を追う。

『・・・あれは!』

彼女は、そこに先程と同じ黄色のレインコートを見た。・・・子供用のレインコートだ。目深にフードをかぶっているためはっきりとは断言できないものの、女の子のようである。

「・・・お兄ちゃん?」

そう声を掛けられた信彦が、あゆみと共に郁子を振り返ってから、再び目を転じると、そのレインコートの少女は姿を消していた。

「・・・どうしたの?」

「・・・いや、何でもない。・・・何でもないんだ。」

「変なの。」

母親に手を引かれた少女は、微笑みながら首をかしげた。

 


 

「・・・本当にありがとうございました。」

「またね!お兄ちゃん!!」

 

母子に手を振りながら信彦たちは、そのマンションを後にした。

しばらくするとあゆみが口を開いた。

「・・・お気付きになられましたか?」

「ああ・・・。あのマンション付近から、なにか・・・こう、形容しがたい雰囲気を感じたよ。」

「・・・一体何なのでしょう?」

「さあね。・・・でも、この町を去るのはもう少し先になりそうだな。」

「はい。・・・それともう一つ・・・。」

「わかってる。・・・尾行されてるな。あの幼稚園から。」

 

信彦は、立ち止まると、背後に声をかけた。

「・・・僕たちに何か御用ですか!」

しばらくすると、安っぽいコンビニの傘を差した、中年の男が姿を現した。その姿を見て、信彦たちは拍子抜けした。彼らが予想していたのは、もっと邪悪なモノの存在だったからだ。中年の男は、空いた手で頭を掻きながら溜息をついた。

「やれやれ、おれも歳をとったもんだ。尾行を気づかれちまうなんてな。」

「・・・僕たちは、少々勘がいいですから。」

信彦は、苦笑した。

「・・・それで、何か?」

「うん・・・まぁ・・・何だ・・・。」

男はしばらく頭を掻いていたが、やがてもう一度溜息をつくと薄汚れた背広の中から手帳を取り出した。

「・・・刑事さん・・・ですか。」

男は頷いた。

「・・・まあ、こんなところで立ち話もなんだ。・・・ちょいとつきあってくれんか?」

信彦たちは顔を見合わせると頷きあった。

「わかりました。」

 


 

「・・・喫茶店・・・ですか?」

「ん?他になんに見えるってんだ?」

「いえ・・・。」

 

刑事は、二人を寂れた感のある一軒の喫茶店へと連れてきた。

 

三人は、思い思いの物を注文すると、早速話し始めた。

「・・・てっきり、派出所か、警察署に連れて行かれるのかと思いました。」

刑事は苦笑した。

「お前サン、何かそんなとこに連れてかれるような心当たりでもあるのかい?」

信彦も苦笑した

「いえ、ありませんよ。」

刑事は、懐からタバコを出そうとして、やっぱりやめたようだ。そして、咳払いを一つつくと用件を切り出した。

「単刀直入に聞かせてもらうぜ。・・・あんたたち、あの親子と知り合いか?」

信彦はその質問に面食らった。

「・・・いえ、さっき知り合ったばかりですが。・・・あの、それが何か。」

刑事は、また頭を掻いた。テーブルの上にフケが落ちる。あゆみは露骨に嫌な顔をした。

「・・・ん、何から話したらいいのか・・・。・・・そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな。」

「木築信彦です。」

信彦は、この半年の間使い続けてきた偽りの苗字を答えていた。

刑事は手帳に書き込み始めた。

「木築・・・信彦っと。そちらのお嬢さんは?」

「木田あゆみです。」

刑事は、書き終えると自分も名乗った。

「おれは、近藤恭二だ。実は、二、三聞きたいんだがいいかな?」

「何です?」

「あの親子とはさっき知り合ったといっていたな?よければその経緯を知りたいんだが?」

信彦は、その質問に戸惑いながらも先程の経緯を話した。

「なるほどな・・・。もう一つ、あの親子の周りで、何か変なものを見かけなかったか?」

「変なもの?」

信彦とあゆみは、咄嗟にあのレインコートの少女を思い出した。

「そう、怪しい男を見かけたとか。あるいは不審な車両が止まっていたとか。」

「いえ・・・そういったものは見かけませんでしたが・・・。」

「そうか・・・。」

近藤はすこしがっかりしたようだ。信彦はその様子を見て思い切って尋ねてみた。

「・・・もしかして、僕たちがその不審人物と思われたわけですか?」

近藤は苦笑すると正直に頷いた。憮然とした表情のあゆみに、素直に頭を下げた中年の刑事は、ウエイターが運んできたコーヒーに口を付けた。

「すまんな。これも仕事柄仕方の無い事なんだ。」

「・・・その割には、今は疑いを抱いていないようですね。・・・何故です?」

刑事は自分の目を指差した。

「目だ。」

「目?」

「長年、刑事なんてやってるとな、そいつの目を見ただけで悪人かどうかなんてすぐわかるようになってしまうものなんだよ。」

あゆみは、先程の幼稚園でも園長先生が似たようなことを言っていたことを思い出した。

信彦は肩をすくめた。

「勘・・・っていう訳ですか。」

刑事はにやりと笑った。

「まあ、そういうなよ。勘は馬鹿にできんよ。・・・自慢じゃないが俺の勘は外れた事が5、6回しかない。」

信彦には、それが果たして多いのか少ないのかの判断ができなかった。刑事はあきれたような視線を向けて来る二人に、お世辞にも上品とは言えない笑みを返していたが、やがてその顔が真面目になった。

「・・・じつはな、最近厄介な事件が起こっていてな。お前さんら聞いた事が無いかい?『連続母子失踪殺人事件』ってのを。」

信彦は肯いた。

「知ってます。・・・ここのところテレビを見ればその話題で持ちきりですからね。」

「・・・確か、この町の高級住宅街で、幼い女の子とその母親が相次いで失踪し、母親だけが後に水死体で発見された事件を皮切りに、同様の事件が3件起こっている事件ですね。」

刑事はにやりと笑った。

「そのとおり。・・・近頃の若いもんにしては珍しくちゃんとニュースを見とるんだな。実は、俺はその事件の捜査をしてるのさ。」

信彦は納得した。

「なるほど、そう言えばこの事件は、被害者がいずれも母一人子一人の二人暮しの人たちばかり。・・・それで、あの親子を・・・。」

刑事はうなずいた。

「犯人がどういうつもりか解らんが、そういう家庭を狙ってるのだけは間違いないだろう。調べてみると、この街には意外とそういう家庭は多いんだ。・・・そんな訳で手すきの刑事が交代でそういった親子を陰ながらガードして、何とか犯人が犯行に及ぶ前にしょっぴきたいと言うのがお偉いさんの本音でな。」

「・・・逆に言うと、今のところ犯人に結びつくような手がかりが無いと。」

「ま、そう言うことだ。」

 

その時、刑事の背広からブザーがなった。刑事はポケットベルを取り出すと席を立った。

「失礼、少し電話をしてくる。」

近藤警部補は、店のマスターに声を掛けると。店内の電話に駆け寄って受話器をとった。

その様子を横目にとらえながら、信彦は小声であゆみに話しかけた。

「どう思う?」

「・・・あの男についてですか?それとも事件についてですか?」

「もちろん両方さ。」

あゆみは、冷めてきた紅茶を一口飲むと答えた。

「・・・少なくとも嘘は言ってないように思います。先程見た警察手帳は紛れも無く本物でしたし・・・。事件の手がかりを得ようとして必死なのでしょう。」

その時、店内に近藤の声が響き渡った。

「なにぃ!?また水死体があがっただとぉ!!」

 


 

ごみごみした路地は、先程から降る雨によってぬかるみ、すえたような異臭を放っている。そこを、派手な身なりをした女が一人走っていく。その顔には恐怖の表情を張り付かせたまま・・・。時折、背後を確認するかのように振り返っている。

「あっ!」

と、壁を這うパイプの一つをかわしきれずに女は転倒する。激痛に顔をしかめながらも、泥だらけになるのも構わず女は這ったまま少しでも先に進もうとする。

と、その足が、唐突につかまれた。

「ヒッ!」

水にぬれた小さな手。恐怖に見開かれた女の瞳孔には、黄色いレインコートを着た少女が写っている。

 

硬直したかのように微動だにしない女の体を、幼児が這い登ってくる。女はもう声を出すこともできない。

『m・・・m・・・。』

その小さな口から何か声が発せられた。と、同時に、女はその幼児の姿が膨れ上がったかのように見えた。

 

それが、彼女の見たこの世での最後の光景となった。

 


 

少し離れた場所で、一人の男が、その一部始終を見ていた。

男は、満足そうに何度も肯くと、音も無く薄暗い路地から歩み去っていった。

 

後には、物言わぬ死体と雨音のみが残されるだけだった・・・。


BACK